19世紀末から20世紀にかけて活動したデンマーク人画家、ヴィルヘルム・ハマスホイ。本書には、同時代の交流のあった画家たちの作品がわりと沢山紹介されていて、時代の風潮としてほかの画家たちと似かよっているところと、誰にも似ないハマスホイならではの味わいとが両方よく伝わる造りとなっている。主要作品86点を掲載している瀟洒な画集。
ハマスホイと親交があり、影響を与え合ったと考えられるカール・ホルスーウの作品で、モチーフとしてよく描かれた背を向けた女性のいる室内画は、ハマスホイと多くの類似を持つがゆえに、画面を満たす光と事物の絶対的な質感の違いを教えてくれる。
ハマスホイの作品は、いずれもある種の幻想性、静まりかえった非日常性が画面を支配していて、現実を経験しえない天使的な視線から事物を霊的にとらえているようなところがある。生活感や生命力といったものが脱色されたうえで、それでもなお残る幽玄な気配が、彩度の低い空間に横溢しているのがハマスホイの絵だ。時間が止まってしまっているような静けさが室内画にも風景画にも人物画にも共通していて、画風に揺るぎがない。国も時代も技法も異なるが、長谷川等伯の松林図屏風と地続きの世界がハマスホイによってひたすらに創造されているような印象を受けた。
目次:
はじめに「一枚のハマスホイ」
灰色と白のパレット
Ⅰ 1885‐1991
灰色の革命
フィアンセの肖像
Ⅱ 1891‐1898
模索と展開
最初にして最大のコレクター
ハマスホイと同時代のデンマーク絵画①
スケーイン派とP. S. クロイア
Ⅲ 1898‐1908
風景、建築、人物
隣国に渡った最大の意欲作
ハマスホイを知る ヴィルヘルムと家族の物語
Ⅲ 1898‐1908
ストランゲーゼ30番地
誰も知らなかった代表作
ハマスホイと同時代のデンマーク絵画②
19世紀末コペンハーゲンの室内画
Ⅳ 1908‐1916
古い部屋を求めて
未完成の自画像
ハマスホイを知る イギリスの友人