読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

雲英末雄『芭蕉の孤高 蕪村の自在 ― ひとすじの思念と多彩な表象』(2005)

題名のとおり芭蕉と蕪村を対比させて描き出している一冊。 芭蕉の「高く心を悟りて俗に帰るべし」(『三冊子』)は、「風雅の誠」などの理想を高くもって、日常卑近なものにあたることを説いたものである。一方、蕪村は日常卑近な俗を用いながら、それを超越…

堀江貴文『99%の会社はいらない』(2016)

滅入ったときには、元気な人の本を読んでみるのも吉。 下手に頭を使って考えて動けなくなるよりも、とりあえずはじめて続けた方が結果はついてくる。続けていることで能力が下がることなんて、世の中にはほとんど存在しないのだから。(第3章「だから「遊び…

萱野稔人『リベラリズムの終わり その限界と未来』(2019)

滅入る。リベラリズムの限界を厳密に考察するのは有益なことだとは思うが、リベラリズムがうまく機能しない理由として、再分配されるパイが縮小しているという現実がどうにもならない条件としてあると繰り返し述べられていると、やはり気持ちは沈んでいく。…

佐藤優『国家のエゴ』(2015)

佐藤氏の論考と姜尚中氏によるロングインタビューの二部構成。 Ⅰ いま、戦争を正面から考える ―私が若い読者に伝えたい、いくつかのこと気になったところは、無限や永遠を思考の対象とするには注意が必要であるという指摘。 死者との連帯に成功した思想は著…

佐々木敦 + 東浩紀 編著 『再起動する批評 ゲンロン批評再生塾第一期全記録』(2017)

批評家養成塾の課題と模範解答がメインの一冊。講師に立った人で知らない人の方が多いという現状が一般的に批評が読まれていないということを物語っていると思う。批評の対象や関心領域が広すぎてフットワークの良い人以外なかなかついていけないという事情…

三菱総合研究所編『ビジュアル解説 IoT入門』(2016)

IoTの動向を一通り概観できる入門書。見開き2頁で1テーマを紹介。情報が圧縮されていて意外と広範囲に情報を取得できる。個人的にはp46-47の拡張現実(AR)の記事がインパクトが強かった。ARでダイエットとは… 感覚器官とその先にある脳は意外に騙されやす…

藤田真一『蕪村』(2000)

蕪村の味読を勧める岩波新書の一冊。ゆっくりと、古典文芸にも目を向けながら、蕪村の句に親しみましょうという誘いがある。 白梅や誰が昔より垣の外 この句は、すべて和歌ことばからできている。俳諧的語彙(俳言 はいごん)が皆無で、和歌的表現で尽くされ…

雲英末雄 監修『カラー版 芭蕉、蕪村、一茶の世界 近世俳諧、俳画の美』(2007)

300点の図版と解説文で近世俳諧を紹介。句の内容だけではなく、俳画や各俳諧師の書跡も含めて総合的に賞味されてきたのが俳諧の世界なのだなということがわかる。蕪村の文人画はこれまでにもみる機会があったが、芭蕉の書や絵を意識してみたことはなかった。…

府中市美術館編『歌川国芳 ― 奇と笑いの木版画』(2015)

2010年春、府中市美術館で開催された展覧会の図録を再編集した書籍。収録図版212点。国芳といえばまず猫だが、人間の顔をした魚介系の作品(34,64など)も笑えて楽しい( ´∀` )。 古くから日本の絵は繊細であったが、それは、対象の再現とはまた別なものだっ…

府中市美術館編『かわいい江戸絵画 Cute Edo Paintings』(2013)

「応挙の子犬」と「国芳の猫」を柱に江戸期に開花したかわいい絵を紹介。一般的な美術本ではなかなか見られない作品がたくさん取り上げられていて、楽しく眺められる一冊。若冲の新発見作品も収録されていてお得。2013年春、府中市美術館で開催された展覧会…

野矢茂樹『無限論の教室』(1998)

カバー表: 「無限は数でも量でもありません」とその先生は言った。ぼくが出会った軽くて深い哲学講義の話 著者の友人の哲学者、田島正樹をモデルにした無限論ゼミ風物語。カント―ル、ラッセル、ゲーデルの業績をベースに物語は展開する。 私が一番興味を持…

吉川幸次郎・三好達治『新唐詩選』(1952,1965)

学者と詩人それぞれからの唐詩紹介。新書だがとても密度が濃い。 吉川幸次郎:杜甫の絶句(江は碧にして鳥は逾よ白く)をめぐって この短い詩の底には、中国の詩に常に有力な、二つの感情が流れている。ひとつは、さっきのべた推移の感覚である。推移する万…

尾形仂 校注『蕪村俳句集』

蕪村復習。今回ひろったのは以下のような句。 これきりに径(こみち)尽(つき)たり芹の中かんこどり可もなく不可もなくね哉かなしさや釣の糸吹(ふく)あきの風雉子(きじ)うちてもどる家路の日は高し池と川とひとつになりぬ春の雨 www.iwanami.co.jp 与…

小学館 『新編 日本古典文学全集61 連歌集・俳諧集』(2001)

はじめての連歌、俳諧。 感想:日本の詩歌のサイズは百韻が基本独吟よりも複数の連歌師、俳諧師の手になるものの方が変化があって読みごたえがある。意外とみやび。連歌後期・俳諧初期の俗に向かった作品よりも、連歌初期、俳諧後期のかどのとれた味わいの作…

エリク・アクセル・カールフェルトの詩

エリク・アクセル・カールフェルトスウェーデン 1864 - 19311931年ノーベル文学賞受賞 大地に近い詩、そんな印象。 小宇宙(ミクロコスモス) ー農民暦の主題(モティーフ)による 私は土でできている、ひんやりと重々しく年のわりにはのっそりと老人ふう。…

ジョズエ・カルドゥッチの詩

ジョズエ・カルドゥッチイタリア 1835 -19071906年ノーベル文学賞受賞 ソネットに優れている。 朝と夜 雨に洗われた朝 たちまちに清らかな青さに空はかがやき、五月の太陽から 神の微笑はにこやかに地上に降りてくる。 沈んだ魂はよみがえり わたしの思いは…

宮栄二『文人書譜6 良寛』(1979 淡交社)

良寛の遺墨八十一点を白黒写真の図版で紹介。解説付き。 良寛は本来、思想や文学を表現する実用の書を真に近代的芸術として展開させた稀有の人であった。良寛以前にあらわれた書の名手・名蹟は数多い。三筆・三蹟はじめ、中世の墨跡、寛永の三筆など、それぞ…

仲正昌樹 「ハイデガー哲学入門 ― 『存在と時間』を読む」(2015)

新書のハイデガー入門書。『存在と時間』の要点が簡潔にまとめられていて助かる。また個別概念の解説が的確でしかもみずみずしい。 流行という現象について ハイデガーは更に、「空談」が「好奇心 Neugier」と結び付いていることを指摘する。「好奇心」とい…

仲正昌樹『カール・シュミット入門講義』(2013)

作品社の現代思想入門講義シリーズ。仲正昌樹は一般向きの教育者としてかなりすぐれていると思う。講義では対象に対しての思い入れが強く出ることはあまりなく、原典の言葉に沿って、適切に語っている印象がある。 シュミットが語る「決断」について シュミ…

安村敏信『絵師別 江戸絵画入門』(2005, 2015)

2005年刊行の『すぐわかる画家別近世日本絵画の見かた』を解題改訂したもの。見開き二頁で一人分、四十八人の絵師を紹介。今回は田中一村のことを思いつつ読んでいたので、文人画についての情報が参考になった。 文人画は元来、実景を写すリアルな写実よりも…

守屋正彦『すぐわかる日本の絵画 【改訂版】』(2012)

大人の日本画入門教科書。コンパクトに良くまとまっているという印象をもった。 日本絵画は余白が多い。背景や添え物を入れることを嫌い、単純化を志向する。余白は私たちにとって必要な「間(ま)」であり、空間そのものに意味があるのである。このことは切…

島尾新監修『すぐわかる水墨画の見かた』(2005)

初心者向けに語られた水墨の大事な特徴。 「描かれたもの」と「墨」とのあいだを、見る人が行きつ戻りつするのが水墨の特徴である(「水墨画の主題(1)山水 風景画を超えた世界」p90) いまはあまり表舞台に登場することのない水墨画の作品。この水墨画の…

大矢鞆音『もっと知りたい田中一村 生涯と作品』(2010)

「日本のゴーギャン」などとも呼ばれる田中一村だが、どちらかというと「日本のアンリ・ルソー」といった方が私にはしっくりくる。理由は画風。技術のある日本画のアンリ・ルソー。著者で日本画家の大矢鞆音は「南の琳派」という呼び方をしていて、こちらの…

白川静『甲骨文の世界 古代殷王朝の構造』(1972)

金文から時代をさらにさかのぼる甲骨文の世界。 甲骨文には、金文のように時期的な推移のうちに社会史的な展開をみるということは困難であり、甲骨文の世界は、古代王朝の性格そのものをつねに全体的に示すというところがあるので、甲骨文一般という立場から…

白川静『金文の世界 殷周社会史』(1971)

金文は青銅器に記された文字のこと。内容については作者が序章に「この書の主題は、金文資料による西周史の再構成と、断代編年の問題である」と書いている。 周人の創造するところは、この多くの異族を含む新しい国家形態の支配原理として、天の思想を生み出…

白川静『中国古代の民俗』(1980)

古代歌謡を通して民族の問題を思考する一冊。おそれ多く繋がりづらいもろもろの神霊をコントロールするために、祈り、卜い、文字化して永続化させる、という原初への考察がとても印象深い。 文字が作られた契機のうち、もっとも重要なことは、ことばのもつ呪…

高田眞治訳注 集英社漢詩体系1・2『詩経(上・下)』

詩経の詩篇をとりあえず通読。現代人の等身大スケールで理解できる作品がやはり読み取りやすい。 兔爰(とゑん) 兔(と)有り 爰爰(えんえん)たり 雉羅(ちら)に離(かか)る我が生の初め 尚(こひねがは)くば為(な)す無(な)けんど我が生の後 此(…

白川静『詩経 中国の古代歌謡』(1970)

『万葉集』と『詩経』を共に読むことを人生の中心に据えた白川静の『詩経』側の著作。 『万葉』が早く創作詩として個人の世界、心情の内面に沈潜していったのは、わが国の文学において古くから社会性の欠如がその特質をなす傾向のあったことを示している。詩…

揖斐高訳注『頼山陽詩選』(2012)岩波文庫

江戸後期の代表的漢詩人、頼山陽の120篇の詩。歴史を題材にとった作品が多いが、それよりも生活をうたった作品の方に興味を持った。幕末を用意した時代の貧乏儒学者の生活の雰囲気がなんとなく伝わってくる。 読書八首(其三) 今朝(こんちょう)風日(ふう…

尹学準(訳詩・田中明)『朝鮮の詩ごころ 「時調」の世界』(1978, 1992)

「時調(ジジョ)」は高麗王朝末期に生まれた約800年の歴史を持つ朝鮮個有の定型詩。基本形態は三章六句からなる四十三音から四十七音程度の短い歌。ハングルをベースに詠われ、民族の心を一番よく汲み上げている詩形と考えられる。 ハングルと日本語訳が両…