読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

チャールズ・ジャレット『知の教科書 スピノザ』(原書2007, 講談社選書メチエ2015)

アメリカのスピノザ研究者による入門書。エチカを中心に情報をたくさん盛り込んだ書籍だが、入門書の一冊目として推薦できるかといえば、かなり難しい。著者がスピノザの思想に距離をとっており、興味付けという点では、むしろ逆効果となる懸念もある。岩波…

泉谷周三郎『人と思想 80 ヒューム』(清水書院 1988)

ヒューム関係の本は高くてなかなか手が出ないことが多いのだが、清水書院の「人と思想」シリーズのヒュームは手ごろな値段で内容も充実していてとてもありがたい。解説文も偏りがなく、ポイントを手際よく押さえてくれているので、入門書として文句なしの出…

デイヴィッド・ヒューム『自然宗教をめぐる対話』(原書1779, 岩波文庫2020)

ヒューム(1711~1776)の遺稿。友人のアダム・スミス(1723~1790、『国富論』『道徳感情論』)に遺言で出版を依頼したものの、アダム・スミスがその内容に躊躇して出版をためらったいわくつきの作品。生前ヒュームは無神論者・不信心者と非難され、職につ…

山鳩よみればまわりに雪がふる 高屋窓秋(1910-1999)の言語への嫉妬 安井浩司「高屋窓秋論への試み」(1976)

個人的には安井浩司は現代俳人の中でトップの人と思っている。たとえばこんな句を作ってしまう人だ。 今日もきて厠を知れる黒揚羽 (『霊果』1982) その気になる俳人が、高屋窓秋の句作を芭蕉が驚愕するだろうものとして取り上げている。普通に考えればとて…

羽生善治+NHKスペシャル取材班『人工知能の核心』(2017 NHK出版新書)

一流の棋士である羽生善治は、人工知能についても専門家と話ができるほど造詣が深い。凄すぎる。 人工知能のロボットが社会に導入されていくとき、本当に問題がないのか、人間に危害を加えないのか、などを検証するにあたって、人工知能の苦手なことや特異な…

池上彰+佐藤優『宗教の現在地 資本主義、暴力、生命、国家』(角川新書 2020)

池上彰に情報量でも読解力でも発想力でもまさっている佐藤優という存在はやはりすごい。本書は宗教という専門分野ということもあってより迫力がある。語られている内容はいつもの池上彰と佐藤優なのだが、漆の重ね塗りの仕上げの塗りに出会っているような印…

ジル・ドゥルーズ『スピノザと表現の問題』(原書1968, 訳書1991)

プロテスタント(長老派)で神学者の佐藤優さんは哲学者とくにスピノザが嫌い。マルクスはよくてスピノザはダメ。ライプニッツはよく引用しているので比較的好ましい哲学者に入りそう。どうしてなのかいまひとつ分からないが、スピノザを神学者としての第一…

R.A.ダール『現代政治分析』(原書 初版1963. 5版1991, 訳書1999, 2012)

正統性を得た者の政治的活動コストは安くなる。 政治システムの指導者は、紛争の処理にあたって政府の諸手段を用いるとき、つねにその決定が暴力、刑罰あるいは強制への恐怖からだけではなく、倫理的に見て正しくかつ適切であるという信念からも、広く容認さ…

ショーペンハウアー『意志と表象としての世界』(原書1819, 中央公論社 西尾幹二訳1978)

ショーペンハウアー三十一歳の時に刊行された主著。とりあえず通読完了。厭世哲学といわれることも多いが、実作の印象はだいぶ異なる。外部なき世界を思索の対象としている哲学者ショーペンハウアーの根本は、ペシミズムもオプティミズムも超えて「世界はた…

咳をしても一人 尾崎放哉の自由律俳句からの変奏 五句

咳をしなくても一人 みんな家にいて重くなっている郊外 何というYouTubeのYou 今日もお日様のしたで量子論よんでる 何も買わずに三食たべて空の野菜室

T・S・エリオット(1888~1965)の詩と散文 読書資料:出版年代順

日本語で読めるエリオットの詩と散文を出版年代順に一覧化した資料。 彌生書房のエリオット選集(1~3巻)と思潮社のエリオット詩集をベースに表形式で一覧化。劇詩(キャッツ、カクテル・パーティー、寺院の殺人)はとりあえず除外。詩の翻訳(特に「荒地…

T・S・エリオット(1888~1965)の詩と散文 読書資料(CSV形式)

彌生書房のエリオット選集(1~3巻)と思潮社のエリオット詩集をベースにエリオットを読みすすめるための資料。CSV形式で保存後利用できるように加工。項目は邦訳題,原題,出版年,訳者,収録書籍,作品区分,資料通番の七つ。劇詩(キャッツ、カクテル・パーテ…

T・S・エリオット(1888~1965)の詩と散文 読書資料:翻訳書籍別

彌生書房のエリオット選集(1~3巻)と思潮社のエリオット詩集をベースにエリオットを読みすすめるための資料。原題、出版年、訳者等のデータを表形式で一覧化。劇詩(キャッツ、カクテル・パーティー、寺院の殺人)はとりあえず除外。訳詩はいろいろ出て…

粛(肅)の字の解説 白川静『常用字解』(平凡社 2003)より

自粛と要請の語の組み合わせは気持ち悪い。曖昧で陰性な外圧で内面を操作されている印象があるから。繰り返し見聞きしなければならないのであれば、行動制限要請とか自重要請のほうが気が楽だ。同じトーンで「控え居ろう!」といわれているにしても、「頭が…

エルンスト・トゥーゲンハット+ウルズラ・ヴォルフ『論理哲学入門』(原書1983,1986 訳書1993, 2016)

ドイツの大学での初級ゼミナール用の教科書。論理学の教科書というよりも「論理的・意味論的観点からの哲学入門」の書ということで、分析哲学の枠組みから哲学史をふりかえっている哲学入門書として大変おもしろい。このテキストを使って講義してもらえたら…

上村忠男編訳 アントニオ・グラムシ『革命論集』(講談社学術文庫 2017)

一九二六年十一月に国家防衛法違反の容疑で逮捕・収監されるまでの二十四歳から三十六歳までの文章を集めた日本独自のアンソロジー。若きグラムシがファシズムに対抗する思考を練り上げていく軌跡を追うことができる。 ユートピアの本質は、歴史を自由な発展…

片山薫編『グラムシ・セレクション』(平凡社ライブラリー 3刷 2019)

グラムシはイタリア共産党創設者の一人で、ムッソリーニ政権に危険視され投獄された思想家。ロシア革命以後の共産主義を思考し、現在でも思考の原石としてさかんに参照されている。本書は獄中ノートの文章を中心に、テーマごとに再構成したもの。断片を読む…

ロナルド・H・コース『企業・市場・法』(原書1988、訳書1992, 2020)

自然言語で書かれた人文系の研究者の論文は、門外漢の一般読者であっても、読もうと思えば読めてしまう。そして、専門家の間で高い評価を受けていることについても、それって普通じゃないのかな、などと思ってしまう。取引を成立させるには様々な費用がある…

ジル・ドゥルーズ+アンドレ・クレソン『ヒューム』(1952)

ドゥルーズとアンドレ・クレソンによるヒューム哲学の簡便な紹介。因果性批判と習慣の力の哲学者、ヒューム。アンドレ・クレソンの紹介文のほうが平明。 物質的実体についてわれわれが云々する原因は究極的にはひとつしかない。それは、いつも一緒に与えられ…

レーニン『帝国主義』(1917)

プルードン、マルクス、レーニンなどによる資本主義に関する研究は、労働者層よりも資本家層の学習により役に立つ。万国の労働者階級が資本主義の不可避性に抗って共闘するよりも、資本主義の必然性の流れに乗って、その流れを加速させるほうに参入するほう…

空間(ラウム)の思想家 カール・シュミット『パルチザンの理論 政治的なものの概念についての中間所見』(1963)

リアル空間のウィルス感染経路は活動自粛要請によって減少している(はず)。その反面、サイバー空間の活動量は増え、こちらのウィルス感染経路は増えている。身を守るという意味では、サイバー空間での活動もより慎重になるべき状況ではある。命にはかかわ…

マルセル・モース『国民論』(1953-54)

死後出版されたモースの遺稿。「国民はみずからの言語を信仰している」という洞察が身に沁みてくる。 けれども、風変わりで、古拙で、あるいは純化された言語に付与されたこのような優越性は、エリートの畏敬の対象でしかなかった。脇に置かれた人民は、そん…

マルセル・モース「文明 要素と形態」(1930)

身体的な欲求も社会的な欲望も他なるものを取り込みながら同化変容していく。活動領域や交換法則は整備されながら拡大していく。同質化の動きは避けられない。 確実なのは以下のことどもです。現在までの未曽有の相互浸透がもはや定着していること。個々の国…

マルセル・モース「ボリシェヴィズムの社会学的評価」(1924)

『贈与論』のマルセル・モースのもう一つの顔は社会主義の思想家。設立間もないソヴィエトを批判しながら展開されるモースの社会主義の思想は、彼にとっての希望の原理。 結論を述べよう。ロシアであろうとこちら(引用者注:「わたしたちの西欧諸社会」)で…

ピエール=ジョゼフ・プルードン『貧困の哲学』(1846) 平凡社ライブラリー下巻(2014)

アナーキストのプルードンが国家や企業に代わる組織として掲げたのが、アソシエーション(協同組合)。しかし現実の世界ではアソシエーションは必ず企業や国家に敗れる。競争力も権力ももっていないから。しかし、だからといってその理念をなくしてしまうと…

ピエール=ジョゼフ・プルードン『貧困の哲学』(1846) 平凡社ライブラリー上巻(2014)

1809年生まれのプルードンは、島津斉彬、E・A・ポー、ゴーゴリ、リンカーン、ダーウィンと同い年。37歳の時に書かれた『貧困の哲学』は、174年前の著作であるにもかかわらず、訳業が最近のものということも手伝って、今読んでも古さを感じさせない。今新たに…

アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド「象徴作用」(1927)その3

象徴作用によって存在しているものは実際には存在していないがゆえに誤謬と仲が良い。けれども存在していないからといってすべてを取り払うことも出来ない。事物に働きかける外的な強制力もある。 象徴作用と直接的知識とのあいだには、一つの大きい相違があ…

ホラーティウス『書簡詩』(2017 講談社学術文庫)

『書簡詩』全二巻、文庫版として初の全訳(第1巻全20歌、第2巻全3歌)。ネット上での訳の評判は上々。電子版もあるようなので読めなくなるということはないだろうが、紙の本が好みの方は手に入れられるうちに購入しておいたほうがよいかと思われる。 伝統的…

はてなブログのsitemap.xml内のサイトマップのURLパターンが変更された?

Google Search Consoleを利用させてもらっているのだが、3/20の記事からクローラが拾ってくれなくなっていた。なんか変だと思って、今日sitemap.xmlの中身を見てみたら、サイトマップのURLパターンが変更されているようだった。 【従来パターン】https://xxx…

ピーター・J・マクミラン『英語で味わう万葉集』(2019 文春新書)

アイルランド生まれの日本文学研究者で詩人の著者マクミランが万葉集から百首選んで英訳、現代語訳、解説を書いている。解説のレベルが高いので、高校や大学教養課程の講義用テキストとしても有効なのではないかと思いながら読んだ。言葉に対する感覚の鋭さ…