2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧
「フロイトに還れ」を旗印に20世紀以降の精神分析学の一大潮流を作ったラカンの20年にもおよぶ講義の11年目の講義録。精神分析の四つの基本概念である「無意識」「反復」「転移」「欲動」について、分析家の養成を目標に置きながら講義がすすめられて…
世阿弥の「九位」における位に次いで「撫民体」のように「~体」で分類されているその元となる体系は、藤原定家の「定家十体」といわれるもの。定家の著作「毎月抄」には出てこない「遠白体」などが含まれているので、藤原定家作に仮託された歌論書という鵜…
妙花風をはじめ『歌舞髄脳記』に現われる「~風」の概念は、世阿弥が『九位』の中で説いた芸の位をあらわすことば。上・ 中・下の三つに分けられ、能にたずさわる者が身につけるための稽古の順は「中初・上中・下後」とすべきとされている。芸道の順位として…
金春禅竹という一流の能楽実践者による歌舞論。各曲の姿かたちを、先行する和歌に込められている心と取り合わせるとともにカテゴリー分けして伝えようとしている。『歌舞髄脳記』は、基本的に謡曲一曲につき和歌一首が召喚されることだけが芯にあるシンプル…
『精霊の王』は、著作の位置としては『日本文学の大地』『フィロソフィア・ヤポニカ』のあと、カイエ・ソバージュシリーズの執筆を行なっていた時期の作品。この後、『アースダイバー』『芸術人類学』とつづいている。『日本文学の大地』で能の理論家として…
歴史に残る偉人というものは、凡人からみればみな変態で、消化しきれないところがあるからこそ意味がある。異物感、異質感。複雑すぎて味わいきれないニュアンス、踏み入ることのできない単独性を帯びた感受性の領域を持つ人間の観ている世界。おそらく消化…
日本の文芸の歴史の中で俳句形式がもつ意味合いを探る一冊。書き方講座というよりも読み方講座として重要性を持っている。 私たちがいま俳句とは何かを考えることは、俳句を生んだわが国文芸、とりわけ和歌の長い歴史、和歌の自覚を生んだ海外先進異国文芸と…
2021年3月23日、一部Android端末不具合(メール使えない、ブラウザ使えない)と即時対応(半日かかったけど対応版Chrome更新で私のケースでは復旧)の対象となった人間で、短詩形に少しでも関心を持っている変わり者は、まあ何かしら気の利いた詩句がこの機…
語り口は穏やかだが、内容はかなりシビアな状況論。寛容な精神が重要と言っている一方で、付加価値を生みだせる人材を育てていかなければ生き延びるのは困難になってきているという主張が目を引く。成長が当たり前だった時代が過ぎ、停滞から衰退に向かう状…
自然科学的構造分析を用いるソシュール系の言語理論に対して、時枝誠記は言語は主体的な表現活動そのものであるとする「言語過程説」という立場に立つ。発話者と聴取者が必ず出て来るウィトゲンシュタインの言語ゲームの理論とも親和性があるようにも思える…
写真家であり現代美術作家である杉本博司の第一著作。固定したカメラで長時間露光した作品や模造品の写真作品を作成してきた作家のコンセプト部分がうかがえる一冊。写真図版も多く含まれているので杉本博司入門にもなる。 私が写真という装置を使って示そう…
蘇軾。中国北宋の人。政治家としては守旧派、詩人としてはどの地域のどの主題にも対応できる万能の人。書家、画家としても優れ、音楽も能くする。革新派との政治的な勢力争いの中で、左遷と地位回復を繰り返した人生の中での詩作。66年の生涯で、2714…
鳥獣戯画を中心に、伊藤若冲、歌川国芳、河鍋暁齋、曽我蕭白、森狙仙など、小さな動物や虫たちが躍動する日本画の世界に案内してくれる一冊。優美で瀟洒な線と淡くて品の良い彩色が心を和ませてくれる。兔と蛙と雀と金魚。猫と鼠と猿と亀。祭りと遊興に励む…
普遍経済学三部作の第一作。断片的エッセイが多いバタイユの作品にあって、珍しく体系的な構造をもった作品。前日の見田宗介『現代社会の理論』や、ロジェ・カイヨワ『聖なるものの社会学』など、生産と消費のサイクルについて論じられる場合によく参照引用…
『自我の起源』(1993年)につづく仕事。未来に残したいと著者が願っている七作品のうちの一作。見田宗介(真木悠介)は人に何と言われようとつねに希望のある書物を書こうとしていると決めているところがあるのだなと、複数作品を読みすすめるうちに感じる…
『文選 詩篇 (五)』で李陵と蘇武の作とされる漢詩を読んで、中島敦の「李陵」が気になりだしたので、典拠として挙げられている中国の古典とともに久しぶりに読んでみた。高校以来だろうか。「李陵」の主要な登場人物は前漢第七代皇帝武帝が北方の匈奴と攻…
日本美術の本を二冊。 矢島新『日本の素朴絵』は、先日読んだ金子信久『日本おとぼけ絵画史 たのしい日本美術』の流れで、精緻さや厳密さにはに向かわない趣味嗜好にもとづく絵画表現の紹介本として参照してみた。第一章の作者が誰かよくわからない「絵巻と…
ロールズのマルクス講義では、マルクスが考えていた理想社会を、『資本論』のなかでよく使われる呼称から「自由に連合した生産者の社会」と呼び、その実現段階としては「社会主義」と「共産主義」があるとし、このふたつの段階の差異として、『ゴータ綱領批…
副題は「教化と覚醒のためのキリスト教的、心理学的論述」。『キリスト教の修練』と併せて当時のデンマーク国教会(キリスト教プロテスタントのルター派の教会)の批判の書として書かれている。時代が異なる異教徒が読む必要があるかどうかという視点では、…
もとは1990年代後半『新編日本古典文学全集』の月報に連載されたエッセイ。オウム真理教地下鉄サリン事件などの影響で仕事がなくなっていた時期の著述。同時期の作品に『フィロソフィア・ヤポニカ』(2001)がある。神秘主義的でいかがわしいところもある…
宮下規久朗の著作を読むに関しては、不純な動機が働いている。予期せぬ時期に、突然準備なしに愛する娘さんを失って、中年にいたるまで本人を突き動かして来たであろう人生や仕事に対する価値観が、一変に崩れてしまった一表現者の仕事。現代の日本美術界に…
世界同時的に古代の思想家があらわれた紀元前500年前後を枢軸時代という観点で提示した著作。枢軸時代の観点は著作全体におよんでいるが、特に第一部で重点的に取り上げられている。枢軸時代ははじめて「人間の生存が歴史として反省の対象となる」時代で…
第六巻は最終巻、引き続き雑詩、雑擬と、先行作品を参照した模擬詩を中心に、さまざまな詩形と内容の詩が収録されている。雑擬は文選のなかに摸倣詩によるアンソロジーが組み込まれているような感じ。 江淹(444-505) 阮步兵 詠懷 籍 靑鳥海上遊鸒斯蒿下飛…
第五巻は楽府、挽歌、雑歌、雑詩を収録。雑歌、雑詩に於いて詩に詠われるもののバリエーションが増え、具体的な日常の様子が詠いこまれるものも現われる。1800年前の事務職従事者の憂いと詠嘆は、今の時代と何ら変わらない。変わってもよさそうなものだ…
第四巻は贈答、行旅、軍戎、郊廟、楽府の詩を収録。左遷や離別などの憂愁を詠ったものが多く、身近に感じることのできる詩が多い。特に民間の歌謡とそれを模した歌謡詩を収めた「楽府」の詩は繰り返し読める。 傷歌行 昭昭素明月輝光燭我牀憂人不能寐耿耿夜…
第三巻は贈答の詩。詠い手は皇帝と高級官僚とその取巻き。詩句の後ろに政治的駆け引きや利害関係が隠されているものもあって、注釈などと読み合わせると非常に生臭いものであったりもする。アドルノは「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」と…
マルクス、二十三での哲学博士取得論文。たんに自己意識の平静を目的としており実証的に観察し考察された学説ではないと批判されてきたエピクロスの自然哲学を、原子概念における形式と質量あるいは本質と現存在との無矛盾性という視点から哲学的に再評価す…
ロールズのミルの講義は、自身の考えとの近さゆえにほかの思想家よりも分量も多く自身の見解を深く織り交ぜながら展開されている。目指しているのはともに最大幸福の実現で、ミルの場合は効用原理、ロールズの場合は格差原理からのアプローチと、ことばは違…
美の中心地域の美の中心をはずれたところに存在する日本独自の美のすがた。ゆるい、あまい、にがい、変態。正統と正面から闘う必要がないところで棲み分けができた日本の懐の深さというかだらしなさ。柄谷行人が『帝国の構造 - 中心・周辺・亜周辺』で示した…