読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

戸谷洋志『ハンス・ヨナスを読む』(堀之内出版 2018)

日本初のハンス・ヨナスの入門書。1988年生まれの若手の研究者が「未来への責任」という哲学的テーゼを、ヨナスの著作からの引用を豊富にちりばめながら、理解しやすく展開してくれた著作。非常に丁寧に、興味を持てるように、目配りをきかせながらヨナ…

エルンスト・カッシーラー『アインシュタインの相対性理論』(原書 1921, 山本義隆訳 河出書房新社 1976, 1996 )

私は、にわかではあるが、カッシーラーのファンである。今年の正月に『シンボル形式の哲学』を読んで以来、この人は本物だと思っている。相対性理論や量子論の意味を、文系読者にもきちんと伝えてくれる、かけがえのない人物なのではないかと思っている。記…

ジェイムズ・ジョイスの詩 出口泰生訳『室内楽 ジョイス抒情詩集』(白凰社 1972)

ジェイムズ・ジョイスの二つの詩集を完全訳出。かなり無防備な抒情詩作品。刊行時は原詩の分冊と組で販売されていたようだが、近所の図書館で借り出せたのは日本語訳分冊のみ。原詩も掲載しているネット上の紹介サイトを検索して見てみると、『フィネガンズ…

滝口清榮『ヘーゲル哲学入門』(社会評論社 2016)

マルクスの思想にもつながるだろうヘーゲルのことばがちょこちょこ顔を出してきてなかなか楽しい。 「国家は終焉しなければならない」 「コルポラツィオーン(職業団体)」 「ポリツァイ(内務ー福祉行政)」 「中間階級」 「中間身分」 「市民社会」 などな…

【読了本四冊】白川静+梅原猛『呪の思想 神と人との間』(平凡社ライブラリー)、ドニ・ユイスマン『美学』(白水社文庫クセジュ)、斉藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)、鈴木大拙『華厳の研究』(角川ソフィア文庫)

白川静+梅原猛『呪の思想 神と人との間』(平凡社ライブラリー 2011, 平凡社 2002) 日本が誇る変人師弟対談。白川静が師、梅原猛が弟子という、異次元を垣間見させてくれるような組合せ。 独自の思想を抱いてしまった思想家の語りが日常の思考を揺さぶらず…

藤原定家『拾遺愚草』を読む 冷えた光と風のある世界

藤原定家の私歌集『拾遺愚草』正篇2791首をちくま文庫の『藤原定家全歌集 上』(2017)ではじめて通読。本文庫が出る前は図書館でもなかなか出会うことが難しかった歌集であったので、ありがたい。久保田淳による注釈、現代語訳ははりとあっさりしている…

ヘーゲル『美学講義』(長谷川宏訳 作品社 全三冊 1996) 複製技術時代以前のゆったりたっぷりの芸術論

ヘーゲルは1770年の生まれ。美学の講義がなされたのは主に1820年代。同年生まれのヘルダーリンやベートーベンへの言及がないことが、読み手としてとても残念に感じられるくらいに充実していて安定感のある魅力的な講義録。序論部分に他の哲学部門と…

古田亮『高橋由一 日本洋画の父』(中公新書 2012)「鮭」の画家であり且つ「洋画道の志士」である人の評伝

明治初期に初めて日本人として本格的に油彩を受容導入した高橋由一についての人物評伝。著者のあとがきから小説風の体裁をとりたかった意向を感じ取ることができる。章立ても第何話というようになっていて、高橋由一の人物像が感覚的によく伝わる。武士の気…

【雑記】BOOKOFFにて『字統』に出会う ヘーゲルと白川静

引越後4週間、はじめての大作、作品社の長谷川宏訳のヘーゲル『美学講義』全三巻を読み終えた。満足感を持った状態で、運動不足解消も兼ねて数駅先のBOOKOFFまではじめて自転車で遠出。店舗滞在時間30分込みで1時間半コース。小型店舗だったのであまり期…

ウェルギリウス『牧歌・農耕詩』(河津千代訳 未来社 1981)

『アエネーイス』のほかでウェルギリウス(B.C.70 - B.C.19)の代表作とされる二作の日本語訳。訳者である河津千代は本来は児童文学作家で、著作『詩人と皇帝』(アリス館 1975 未読)で初代皇帝アウグストゥス=オクタヴィアヌスと詩人ウェルギリウスとの関…

【読了本三冊】加藤郁乎編『吉田一穂詩集』(岩波文庫)、廣松渉+加藤尚武編訳『ヘーゲル・セレクション』(平凡社ライブラリー)、ティル=ヘルガー・ボルヒェルト『ヒエロニムス・ボスの世界 大まじめな風景のおかしな楽園へようこそ』(PIE International)

書くより読む優先の時間配分が続く生活のなかで、読後感想をまとめる時間に向きあうために超えなくてはならないハードルが高い。しかし、書かないと読んだことの定着が落ちる。消えてもったいないかもしれないと思うことはとりあえず記録しておく。 加藤郁乎…

岩崎宗治編訳『ペトラルカ恋愛詩選』とダンテの詩作

ダンテは9歳の時に同い年のベアトリーチェに出会い、以後の美と聖なるものの方向性が決定した。22歳のペトラルカは1327年4月6日、永遠の愛の対象となるラウラに出会い、以後の詩作の核となるものが刻印された。ダンテとペトラルカは愛すべき対象を…