2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧
吉本隆明(1924 - 2012)の1986年、62歳までの詩作品から自選した詩選集。全570ページに125編が収められている。代表作と言われる「固有時との対話」(1952)や「転位のための十篇」(1952)よりも初期の「エリアンの手記と詩」(1946/47)のストレートな…
摸倣論とは一線を画する美学。 現実の模写のみを事とする人達は聡明な人。卓れた観察者ならば彼を俟たずとも知つてゐるもの以外に何ひとつ教へはしない。彼等は疾うに芸術の言葉で語られたことを繰返す観念論者と大差はない。両者に生存の権利を与へるのもの…
美学におけるイデアの位置と神学における神の位置の歴史的な並行性を感じさせてくれた作品。パノフスキーの『イデア』は美と芸術の側のイデアの位置の描出をしているだけで、神学側の神の位置の歴史的変遷を語っているわけではないのだが、私がよく読ませて…
思惟と認識の無限を語るヘーゲルの論理学はなんだか心強さを与えてくれる。 モーゼの伝説には、神は人間をエデンの園から追放し、もって人間が生命の木の実をも食べないようにした、と言われているが、この意味は、人間は自然的側面からすれば、有限で死すべ…
先の連休中に読んで感銘を受けた優れた教科書、導入書。特に簡明を絵にかいたような黒板書きみたいな掲載図には心打たれるものがある。実際の大学の授業で説明の言葉とともに掲載図と同質の黒板書きに出会ったら、より深くお教えを乞いたいと思わずにはいら…
中島隆博は千葉雅也の師であり松浦寿輝の弟子の位置にいる変わった感じの優秀な哲学者。東洋哲学、特に中国哲学を専門としている。老子とヘーゲルの組み合わせに憩っている感じのある2021年夏の私には、荘子とドゥルーズという組み合せや、孔子とドゥル…
16時前、思わぬ架電。出て見るとクレームの通知。身に覚えはないが、自分自身以外の共同行動者の振舞いを考えてみると該当者と問題行動がほんのり浮かび上がってくる。確認のため、こちらから連絡。先方の守秘義務以外の苦情に関わる情報をなるべくお聞か…
変則的な訳者訳書構成ではあるがジョイスの『ユリシーズ』の通読完了。ひさびさに「全体小説」©ジャン=ポール・サルトルということばが思い浮かんできた。「全体小説」は、サルトルがジョイスの『ユリシーズ』などの先行作品を想定して作り上げた概念(自作…
本読みは本を読みながらその途中で人生を終える。作家は本を読み本を書きながらその途中で人生を終える。翻訳家は本を読み翻訳をしながらその途中で人生を終える。区切りのよいところで人生を終えるということは自然の摂理にしたがってる限りそうそうあるも…
昨年の夏の4連休(2020.07.23~2020.07.26)では、柳瀬尚紀訳でジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を読んだ。今年は基本的に柳瀬尚紀訳でジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』を読んでみたい。「基本的に」というのは、訳者柳瀬尚紀が12…
写真と夢と記憶をめぐる散文詩。 輪郭も存在感もあいまいでありながら執拗に再現してはまとわりつく幻影をいくつも長時間にわたって見せられたかのような読後感を残す作品。でも、まあ、それほど悪いものではない。 思考の明暗の中で、世界のイメージはその…
技術に駆り立てられるようにして人間も自然も搾取されながら、破局と破局のあいだを生きる近代以降の人間のありようが描かれている二冊。「積み重ねられ、彷徨する七〇億の存在」(ジャン=リュック・ナンシー)が、技術の集積を使い、純粋な自然からの贈与で…
批判哲学以前のカントの小品。観察、分類、列挙からなるエッセイ風の砕けた文章で、『判断力批判』の崇高論のようなものを期待すると肩透かしをくらう。 男性が崇高で、女性が美。 イタリア、フランスが美で、イギリス、スペイン、ドイツが崇高。 翻訳ははじ…
スケールが大きすぎて読み終わった後に少し萎えたくらい圧倒的な力量の詩人。40代での代表作『大いなる歌』ではアメリカの南北大陸、国でいえばアメリカからチリ、アルゼンチン、さらに南極まで歌ってしまう大きさ。神話の時代から現代の工場や鉱山での搾…
ソマティック・マーカー仮説(somatic marker hypothesis)のアントニオ・ダマシオ。脳だけじゃない脳科学。身体(遺伝子)―情動―感情。科学―哲学―心理学。デカルト、スピノザのほかにウィリアム・ジェームズも大きな存在感を示している。苦が生に対してもつ…
『定家八代抄』を読んでいて特に気になった四名の歌人を比較的新しい研究者による注釈と解説とともに読みすすめてみた。歌人ひとり50首弱の小さなアンソロジーだが、導入書としてはちょうどいい分量と選歌になっているような気がする。笠間書院のサイトで…
カッシーラー生前最後の著作(『国家の神話』は没後出版)。広範囲な文化現象についてこれまでの自身の思索を総括していくように綴られた一冊。人間をanimal symbolicum(シンボルを操る動物)と定義して、シンボル的宇宙を生みそこに生きる人間の姿を描きあ…
■ヘーゲル『歴史哲学講義』 『歴史哲学講義』はヘーゲル晩年の講義録。アジアにはじまり西欧ゲルマン民族のゲルマン世界にいたる発展史観は『美学講義』とも同じ流れ。二十一世紀に生きるアジアの端の日本人読者としては、すべてをはいそうですかと拝読する…
イタリア・ルネサンスのキリスト教的ユマニスムの主唱者ペトラルカが、同時代のスコラ文化圏のアリストテレス派知識人から受けた「善良だが無知」という批判に対する論駁の書。アリストテレスの自然哲学思想にも通じているペトラルカ自身の学識もやんわりと…
ヤスパースの講演録とラジオ講演録。宗教で説かれてきた神と区別するために、主観‐客観の分裂を超えた存在として「包括者」という概念をヤスパースは用いて存在を根底付けようとしているが、「超越者」、「神」といった言い換えも多く、特に『哲学入門』では…
他言語に訳されて日本の20世紀詩人にこういった人がいましたよと読んでもらいたいところまではいかないけれども、日本人であるならばちょっとは気にしておいてもいい詩人三名の三冊。 堀口大學は1925年出版の訳詩集『月下の一群』が何より重要。この訳詩集…
『定家八代抄』は、定家54歳の時、1215年から翌1216年にかけて選歌編纂された『二四代和歌集』の収録歌に、訳と注をつけて文庫化した手頃な王朝秀歌アンソロジー。全1809首。『百人秀歌』(1235)、『百人一首』を生むにいたる前になされた、定家の批…
藤原定家の私歌集『拾遺愚草』正篇2791首に収まらなかった、定家の詩歌作品1840首を読み継ぐ。 uho360.hatenablog.com 全歌集下巻としてまとめられた本書、自選私家集『拾遺愚草』に収まらなかったところの歌の全体的傾向としての印象は、物質的な抵…
「摸倣」という武器一本で物理・生命現象から社会現象まで語りきる途方もない著作。データ検証からではなく推論ベースの展開で、ほんとかねと疑いたくなるようなところもままあるのだけど、ドゥルーズが称賛していて、それに乗る形で蓮實重彦も推薦している…