読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

鈴木修次『人と思想 38 荘子』(清水書院 1973, 2016)

為政者側の論理を整えるための思想としての儒家に対し、無為自然の優位を説く老荘の思想は、被征服者たちが追いやられた南部の土地で形成されていったという指摘にはじまり、墨子の社会主義的思想や揚朱の個人主義をともども採り入れ老子の哲学的側面を広く…

E・M・シオラン『四つ裂きの刑』(原著 1979, 法政大学出版局 金井裕訳 1986)

現世を拒否し世俗を厭うシオランの老年期の断片・アフォリズム集。この世を厭い、自殺が唯一の解決策であると何度も明言しながら、折々の自殺であるような文章を際限なく書き出していくことで、死からも逃れ、どこでもない場所を切り拓いていくようなところ…

堀田彰『人と思想 6 アリストテレス』(清水書院 1968, 2015)

先日読んだ『人と思想 83 エピクロスとストア』が良かったので、同じ著者の『人と思想 6 アリストテレス』にも手を出してみた。対象がアリストテレスという大きな存在であるために、思想全般を扱おうとすると凝集度についてはやや落ちている印象があるが、そ…

ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー『神 第一版・第二版 スピノザをめぐる対話』(原著 1787, 1803, 法政大学出版局 吉田達訳 2018)

ヤコービ(1743-1819)を相手にした「汎神論論争」において、当時言論界で無神論者として忌避されていたスピノザの思想をはじめて擁護し、肯定的に読み解く方向性を与えた対話篇。人格神でも目的や意志を持った創造神でもない無限の実体としての神即自然のスピ…

シオラン『敗者の祈禱書』(原著 ルーマニア語1940-44, フランス語訳 1993, 法政大学出版局 金井裕訳 1996, 2020)

独軍占領下のパリでシオランが綴った母語ルーマニア語での最後の著作。本書以降はフランス語での著述に切り替わる。生まれたことへの呪詛と、生きることの苦痛、倦怠、嫌悪を一貫して書きつづけたシオラン。本書は章題を持たない70の断章からなっていて、…

柄谷行人『力と交換様式』(岩波書店 2022) 初読

柄谷行人81歳での最新作は、枯れたという印象はまったくないが、焦りのようなものが消えた円熟した語りのスタイルによる思考の到達点を見せてくれている。 共同体による贈与と返礼、国家による略取と再分配、資本による貨幣と商品の交換、国家や資本を揚棄…

北園克衛『現代詩文庫1023 北園克衛詩集』(思潮社 1981)

エズラ・パウンドなどとも交流のあったモダニスト詩人の詩選集。行替えの激しい『黒い火』あたりの作風がもっとも個性が出ているような印象だった。E.E.カミングスや高柳重信などの詩型が類想される。言語自体のイメージを梃子にして創られた作品は、元…

大木実『現代詩文庫1041 大木実詩集』(思潮社 1989)

大木実(1923 - 2009)は大正生まれで太平洋戦争期に招集を受け帰還した後も詩を書き続けた詩人。思潮社の選集の巻末エッセイには、尾崎一雄、三好達治、高村光太郎、丸山薫、川崎洋といった錚々たる面々の讚が集められていることからも、ただごとではない詩…

竹村牧男『禅のこころ その詩と哲学』(ちくま学芸文庫 2010)

仏教学者竹村牧男の思想の根幹は臨済禅で、系譜としては釈宗演‐鈴木大拙‐秋月龍珉‐竹村牧男となる。著作における特色としては禅が大乗仏教であることを強く押し出しているところが挙げられる。本書の第七章「大悲に遊戯して<大乗>」のなかの小題のひとつに…

竹村牧男『華厳とは何か』(春秋社 2004, 新装版 2017)

Eテレ「こころの時代」2002年度のテキストをもとにした華厳入門書。比較的手に入りやすい華厳思想の入門書のなかでは、もっとも詳しい思想解説と経典読解ではないかと感じた。特に第二部は華厳思想入門から実際の経典への導きとしての道を示していて貴…

堀田彰『人と思想 83 エピクロスとストア』(清水書院 1989, 2014)

清水書院の「人と思想」シリーズは伝記と思想案内を同時に行っている質が良く効率も良い入門書であるが、本書『エピクロスとストア』は入門書の域を超えるくらいの本格的な思想案内書となっている。 エピクロス派もストア派もともに世界は物質から構成されて…

アリエル・シュアミ&アリア・ダヴァル『スピノザと動物たち』(原著 2008, 大津真作訳 法政大学出版局 2017)

スピノザの主要テクストや書簡から動物や虫やキマイラなどに関する言及を切り出して、多くのイラストとともに編集構成しながら、スピノザ思想の核心的部分を軽快にめぐっているユニークな著作。スピノザ思想の入門書の体裁をとっているが別世界案内のムック…

シオランをまとめて読んでみた

無感動状態であるというわけではないと思っているのだが、シオランのアフォリズムには、本当のところ心が動かない、現時点での私には響いてこない。断章形式ということもあって、それほどストレスなく、いくらでも読もうと思えば読めてしまうのだが、不思議…

上野修『哲学者たちのワンダーランド 様相の十七世紀』(講談社 2013)

講談社の月間PR誌『本』に25回にわたって連載されていた十七世紀哲学史エッセイを一冊にまとめたもので、内容的にはだいぶくだけた感じの思想紹介になっている。取り上げられているのはデカルト、スピノザ、ホッブズ、ライプニッツの四人で、上野修の著…

上野修『デカルト、ホッブズ、スピノザ 哲学する十七世紀』(講談社学術文庫 2011, 原本『精神の眼は論証そのもの』学樹書院 1999)

講談社現代新書の『スピノザの世界 神あるいは自然』(2005)に先行する上野修のはじめての単著。80年代から90年代にかけて学術誌に発表された論文を集めたもので、内容的には学問的。参考になる注も付いている。論述対象の配分はスピノザが70%程度で圧…

上野修『スピノザの世界 神あるいは自然』(講談社現代新書 2005)

講談社現代新書にはスピノザを扱ったものが三作品あり、本書はその中でいちばん最初に刊行されたもの。 スピノザの初期の作品『知性改造論』と死後刊行の主著『エチカ』(正確には『幾何学的秩序で証明されたエチカ』)とを扱った解説書で、真理と倫理の次元…

吉岡実句集『奴草』(書肆山田 2003)

戦後詩を代表する詩人吉岡実が残したほぼすべての句作を集めたもの。詩の作風はシュルレアリスム的なモダニズム詩であり、言語自体の喚起力と虚構をベースにした幻想的世界が展開されるため、時代感覚は薄いほうといっていいと思うが、主に戦時下の若き日に…

栗原康『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波現代文庫 2020, 岩波書店 2016)

欲望全開の人が数多く出てくる評伝。はじめのパートナーはダダイストの辻潤、二番目のパートナーはアナキストの大杉栄、いずれも反体制派の強烈な個性の持ち主だが、本書を読むと伊藤野枝は二人を上回る個性的な言動を生み出した人物であることがわかる。伊…

神塚淑子「『老子』 <道>への回帰」(岩波書店 2009, シリーズ:書物誕生 あたらしい古典入門)

『老子』テクストの誕生と受容の歴史を概観する第一部と、『老子』テクストを五つのテーマに分けて代表的な章の読み解きを行なった第二部の二段構成。 第一部では残存する複数テクスト間の差異と歴代の『老子』注釈書の変遷から、成立の経緯と儒教との関係を…

國分功一郎『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』(講談社現代新書 2020)

國分功一郎の良いところでもありもの足りないところは紛うかたなき優等生であるところ。嫉妬も込めて、ちょっとだけ刺激不足といいたくなる研究者であり、破綻しない正統派の市民政治の実践家であると、今現在、個人的には捉えている。学究の面でも行政の面…

吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』(講談社現代新書 2022)

スピノザを読むことで大きいのは、人間という種の基本スペックを確認できるところ。『神学・政治論』における「自然権」、『エチカ』における「コナトゥス」から、個人としての存在の構造と社会や国家のあり方の必然的枠組みを、がっちり描き出してくれてい…

竹村牧男『親鸞と一遍 日本浄土教とは何か』(講談社学術文庫 2017, 法蔵館 1999)

他力浄土門の対照的な祖師の二人である親鸞と一遍を主に教学的側面から対比しつつ、日本浄土教の救いの理路を描き出した一冊。「信心の親鸞」に対し「名号の一遍」と言われる二人の念仏の思想を、特に三信(さんじん)の問題と還相(げんそう)の問題に焦点…

五味文彦「『一遍聖絵』の世界」(吉川弘文館 2021)

『絵巻で歩む宮廷世界の歴史』や『絵巻で読む中世』を書いた国文学者五味文彦が、鎌倉時代の名品、国宝『一遍聖絵』(1299)を単独で取り上げ解説した作品。主立った場面を図版で提示しながら、そこに描き込まれた社会や人々の様子やものの名を言語化して、視…

栗原康『死してなお踊れ 一遍上人伝』(河出書房新社 2017, 河出文庫 2019 )

一遍かっこいい!と思ったアナキズム研究者栗原康が書いた憑依型評伝。栗原康の文体は研究者が対象を扱うというよりも自分の経験と体感を溢れさせるようにしたもので、研究者というよりも作家と思って接した方が良い。すべてを棄てて念仏を広めるために日本…

ルイス・ホワイト・ベック『6人の世俗哲学者たち ―スピノザ・ヒューム・カント・ニーチェ・ジェイズム・サンタヤナ―』(原書 1960, 藤田昇吾訳 晃洋書房 2017)

教会と対立していると考えられる世界を世俗と定義したうえで、世俗的関心から宗教的問題に深くアプローチした哲学者について考察したコンパクトな書物。取り上げられた哲学者のラインナップが魅力的で、特に日本ではほとんど触れられることもないサンタヤナ…

冨田恭彦『バークリの『原理』を読む ―「物質否定論」の論理と批判』(勁草書房 2019)

バークリは、物質を否定し人間の知覚する精神と神の存在のみを実体であるとした18世紀アイルランドの哲学者で聖職者。主著『人知原理論』は1710年の刊行。 バークリの物質否定を強く打ち出した観念論は、ニュートンの自然科学的考えが力を持っていた当…