読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

秋山稔編『泉鏡花俳句集』(紅書房 2020)

和暦でいうと明治後期から昭和初期、西暦でいうと19世紀末から20世紀前半に活躍した幻想耽美文学の作家泉鏡花(1873-1939)の俳句544句を集めた一冊。私生活での行動と、感情や感覚の動きが、当時の日本の風物とともに、じんわり伝わってくる。 姥巫女…

八木雄二『「神」と「わたし」の哲学 キリスト教とギリシア哲学が織りなす中世』(春秋社 2021)

神学中心の中世哲学を専門的に研究してきたことから見えてきた現代の思想の偏向性を相対化し批判的な視点を提供する八木雄二の近作。大著『天使はなぜ堕落するのか』(2009)で明らかにされた古代から中世、中世から近代への思想の展開の道筋は、分量的には半…

八木雄二『天使はなぜ堕落するのか 中世哲学の興亡』(春秋社 2009)

中世哲学の勃興から衰滅までの流れと、時代ごと哲学者ごとの思想内容を、難易度の高そうな部分も含めて、初学者にもじっくり丁寧に伝えてくれる頼れる書物。著者のしっかりした研究の成果がみごとに整理されているうえに、中世哲学を読むときに気を付けてお…

山内志朗『新版 天使の記号学 小さな中世哲学入門』(単行本 岩波書店 2001, 加筆修正新版 岩波現代文庫 2019)

ドゥルーズの内在の哲学とドゥンス・スコトゥスの存在の一義性への傾倒に関心を持ったことで中世哲学関連本を最近よく読んでいる。日本人の研究者で入手しやすいのは八木雄二と山内志朗の著作で、並行して読んだりすると、書き方にも原典の読み方にも違いが…

トーマス・トランストロンメル『悲しみのゴンドラ 増補版』(原著 1996, 思潮社 エイコ・デューク訳 2011)

2011年にノーベル賞も受賞したスウェーデンの詩人の唯一の日本語訳詩集。俳句、ことに正岡子規に影響を受けている様子で、自身も俳句詩という形式で多くの作品を作り上げているだけに、もっと多くの翻訳があってもいいと感じる詩人。 『悲しみのゴンドラ』は…

折り取れば窃盗罪か花さくら

風流もなにもないような世の中ですが、イライラはたくさんあり、しかも洩れなく気づいてほしいようで、厄介です。

アラン・バディウ『推移的存在論』(原著 1998, 水声社 近藤和敬+松井久訳 2018) 数学と数学の裂け目からの哲学的思考(文芸要素多め)

本書『推移的存在論』は、バディウの主著『存在と出来事』(1988)と『存在と出来事 第二巻 世界の論理』(2006)を繋ぐ位置において書かれた中継点的著作で、『存在と出来事』のエッセンスと『世界の論理』へと展開していく変換点が記されている。訳注解説含め…

アラン・バディウ『ラカン 反哲学3 セミネール 1994-1995』(原著 2013, 法政大学出版局 原和之訳 2019)

哲学者アラン・バディウがいうところの「反哲学」とは、知的な至福の可能性と真理をめぐる思考である哲学の信用を失墜させるような仕方で同定した上で、哲学とは異なった思考の布置の到来であるような「行為」を引き受ける思考のスタイルを指していて、バデ…

ジャック・デリダ『散種』(原著 1972, 法政大学出版局 2013)

仲正昌樹の『モデルネの葛藤』のなかに、ノヴァーリスの『花粉』からデリダの『散種』へという案内があったので、『花粉』につづいて『散種』も読んでみた。 ノヴァーリスの唱えた聖書に連なる百科全書的な世界で一冊の書物から、マラルメの書物を経由して、…

北川省一『良寛、法華経を説く』(恒文社 1985)

在野の良寛研究家北川省一の著作のうち良寛の法華経研究および法華経信仰を記した漢詩文『法華讃』『法華転』を読み説きながら良寛の法華観を考察した書物。大学に在籍する研究者とは異なり、資料の処理考察における厳密性に関する信頼度についての危うさ、…

近藤和敬『ドゥルーズとガタリの『哲学とは何か』を精読する 〈内在〉の哲学試論』講談社選書メチエ 2020)

ドゥルーズとガタリによる最後の共著『哲学とは何か』の詳細な読解。思考の「三大形式」である「哲学」と「科学」と「芸術」を「超越」を拒否する「内在」と「カオス」の概念との関係性からそれぞれ見極めていくスリリングな書物となっている。注を含めて6…

『日々はひとつの響き ヴァルザー=クレー詩画集』ローベルト・ヴァルザー 詩 + パウル・クレー 画(平凡社 2018 編:柿沼万里江 訳:若林恵,松鵜功記)

2012年、スイスで開催された東日本大震災の一周年追悼式で、クレー作品を映写しながらのローベルト・ヴァルザーの詩の朗読会が行われたことがきっかけとなってつくられた詩画集。日本語とドイツ語で行われた朗読会での聴衆の反響が大きかったことから、…

サミュエル・ベケット『ベケット戯曲全集1 ゴドーを待ちながら/エンドゲーム』(白水社 岡室美奈子訳 2018)

ベケットの作品は小説も戯曲も基本的に目的も到達点もない。戯曲については、プラトンの対話篇と並べて読んだりすると、その違いに呆然となる。プラトンの対話篇は遠回りしているかに見えても中心主題に向けて求心的に進んでいくが、ベケットの対話はきっか…

ノヴァーリス『青い花』(原著 1802, 岩波文庫 青山隆夫訳 1989)

未完ながら初期ドイツロマン派の良心が結晶したような詩的な小説作品。夢みる詩人が旅をする中で出会った人たちに関係しながら精神的に成長し世界の奥行きを覗き見るようになっていくとともに、運命の女性との出会い成就するまでが完成された第一部「期待」…

吉見昭德訳 「クレーバー第4版対訳 古英語叙事詩『ベーオウルフ』」(春風社 2018)

7世紀から9世紀のあいだに写本が成立したとする説が有力な古英語で書かれた全3182行の英雄叙事詩の最新対訳本。古英語がどんなものかということと古典注入という関心から手に取ってみた。個人的に西脇順三郎対策という意味もある日本で8世紀といえば『古…

ハンス・K・レーテル『 KANDINSKY カンディンスキー』(原著 1977, 美術出版社 世界の巨匠シリーズ 千足伸行訳 1980)

カラー図版48点に著者ハンス・K・レーテルによる図版解説と序文がついた大判の画集。油彩だけでなく木版画やリトグラフなどの作品にも目配せがされているカンディンスキーの画業全般の概要を知ることができる一冊。全油彩点数1180点から見れば、参照用の…

カンディンスキー+フランツ・マルク編『青騎士』(初版 1912 ミュンヘン, 白水社 岡田素之+相澤正己訳 新装版 2020)芸術あるいは造形物のフォルムの内的必然性

創刊号だけに終わってしまったが後の世に大きな影響を与えた美術年刊誌『青騎士』の日本語訳復刻本。第一次世界大戦の勃発と主筆の位置にいたカンディンスキーの頑張りすぎが祟って第二巻以降は発行されずにグループとしての青騎士自体も離散消滅してしまっ…

ノヴァーリス『夜の讃歌・サイスの弟子たち 他一篇』(岩波文庫 今泉文子訳 2015)

ノヴァーリスの『花粉』からデリダの『散種』へという仲正昌樹の『モデルネの葛藤』のなかにでてきた案内を読んで、実際にノヴァーリスの『花粉』が収録されている本書を手に取ってみた。 シュレーゲルの反省と否定による無限超出に比べて、ノヴァーリスには…

山内志朗『ドゥルーズ 内在性の形而上学』(講談社選書メチエ シリーズ極限の思想 2021)

ドゥンス・スコトゥスを中心に中世スコラ哲学に関する論考が多い哲学者山内志朗が自身のドゥルーズ体験を交えながら、中世スコラ哲学の核心部分を受け継いだ者としてのドゥルーズを描く一冊。どちらかといえばマイナーなたとえによる解説と独特な賛嘆の表現…

アラン・バディウ『ベケット 果てしなき欲望』(原著 1995, 水声社 西村和泉訳 2008)

自身も小説や戯曲を書くフランス現代思想の重鎮アラン・バディウのベケットへのオマージュ。豊富でこれぞというめざましいベケットの作品からの引用は、バディウの愛あふれる案内によって、輝きと光沢をます。ベケットの灰黒の暗鬱とした絶望的に危機的な状…

八木雄二 訳著『カントが中世から学んだ「直観認識」 スコトゥスの「想起説」読解』(ヨハネス・ドゥンス・スコトゥス 1265-1308 『オルディナチオ:神と世界の秩序についての論考』第45章の翻訳と注釈 知泉書館 2017)

身体を離れた霊魂のうち罰をまぬがれ神にまみえることが許された至福者の至福、このキリスト教の世界での至福直観を理論づけるために、身体という「個別」質料に関わる感性と、「普遍」形相に関わる知性を結びつけるものとして、はじめて「直観」という概念…

アイヴァー・A・リチャーズ『レトリックの哲学』(原講演 1936, 原著 1936, 未来社 転換期を読む29 村山淳彦訳 2021)

本書のもとになる講演では、レトリック、修辞学。言語による表現技法を研究する学問。主に弁論と文芸における言語表現を扱い、言語操作による人間的世界創出活動を考察している。人間にとって言葉は考えるための融通無礙かつ桎梏にもなる道具であり、材料で…

近藤和敬『〈内在の哲学〉へ カヴァイエス・ドゥルーズ・スピノザ』(青土社 2019)確率0と確率1の賭けの肯定

熱い探究心から出た過激な肯定の書物。「宇宙人であるかのごとく〈現在〉を見る異邦人」であることの追求の過程をめざましい17篇の論考を通して提示してくれている。 フーコーやスピノザのようにあたかも宇宙人であるかのごとく〈現在〉を見る異邦人の眼差…

八木雄二『古代哲学への招待 パルメニデスとソクラテスから始めよう』(平凡社新書 2002)

宇宙の理解に数学を用いたピュタゴラスがヨーロッパ哲学の最大の源泉であるという主張に目を洗われた。対話と政治倫理あるいは正義や徳についての議論に重きを置いたソクラテスではなく、数学ベースの真理究明と美的探究に重きを置いた知性と技術優位のピュ…

仲正昌樹『増補新版 モデルネの葛藤』(作品社 2019, 御茶の水書房 2001, 修士論文 1994)

仲正昌樹、30歳を越えて提出した長大な修士論文をベースにした著作。院試失敗や統一教会への入信脱会など起伏が大きい経歴を経ての著述。自身のこだわりをあまり表面には出してこないが、研究対象に対して妥協することなく調査している姿勢がうかがえて、…

プラトン『ティマイオス』(岩波書店 プラトン全集12 1975)

プラトンの後期対話篇に於けるソクラテスは、語り手でも対話者でもなく、もっぱら聴き手の位置にいる、日本の能の構成上でいえばワキの位置に控えながら、全体を無意識的に統括する主宰者の位置にある。主宰者は迎えいれた主賓を称え、主賓の最高の精神活動…

ジョン・アシュベリー『凸面鏡の自画像』(原詩 1975, 左右社 飯野友幸訳 2021)

マニエリスム初期のイタリアの画家パルミジャニーノ(1503-1540)の「凸面鏡の自画像」(1524)をめぐって書かれた20世紀後半の代表的アメリカ詩人ジョン・アシュベリーの代表的長編詩の新訳。上智大学を退職する年度に行った大学院のセミナーをもとに30年ぶ…

梅原猛+柳田聖山『仏教の思想 7 無の探求<中国禅>』(初版 角川書店 1969年, 角川ソフィア文庫 1977年) インド仏教の世界から離れたところの中国禅の世界の概観と日本での受容の歴史

出家の僧侶の高慢を突いた『維摩経』の在家信者維摩居士の正しさを、出家したところの禅僧が日常に還る体で反復改革していこうとするのが、中国禅さらには日本の禅の営みの真にあるものだと確認することを主眼に置いた一冊。 解脱による世間超越を良しとする…