読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ピエール=フランソワ・モロー『スピノザ入門[改定新版]』(原著 2003, 2019, 白水社文庫クセジュ 訳:松田克進+樋口義郎 2021)

訳者によりスピノザ思想の入門書的性格をもつと判断されたために書名に「入門」の語を付けられてはいるが、スピノザの思想の根幹部分に容赦なく斬り込んでくる挑戦的な書物。もったいをつけずスマートに核心に斬り込みながら、淡々とすすむスタイルが爽快。…

ジョルジュ・バタイユ『魔法使いの弟子』(初出「新フランス評論」1938.07, 景文館書店 酒井健訳 2015)とキリンジ「スイートソウル」のPV(2003)の市川実和子

装丁は大事。 バタイユの論文の新訳の装丁に、キリンジの「スイートソウル」のプロモーションビデオの五つのシーンが使われていたので、どんな関連性があるのか気になって、はじめてキリンジのCDを聞き、ネット上でPVの動画を探して視聴してもみた。 は…

ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ『神話の力』(原著 1988, 早川書房 飛田茂雄訳 1992)

『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスが大きな影響を受けたアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルに、ホワイトハウス報道官も務めたことのある先鋭博学のジャーナリストビル・モイヤーズが問いかける、知的興奮に満ちた対談集。生の冷酷な前提条件…

ディディエ・ダヴァン『『無門関』の出世双六 帰化した禅の聖典』(平凡社 ブックレット〈書物をひらく〉23 2020)

日本における「無門関」受容の歴史を、残された頼りない資料群を丁寧にたどり、現代にいたるまで描き出そうとしたフランス出身の在日仏教研究者ディディエ・ダヴァンのコンパクトな著作。『碧巌録』『臨済録』と異なり、中国本土ではほとんど顧みられない『…

ひろさちや『超訳 無門関』(中央公論新社 2018)

題に超訳と付いているが、よくある意訳抜粋本とは趣向が異なる。 本書は、中国南宋時代の無門慧開(1183年-1260年)によって編まれた公案集『無門関』を、現代語訳、読み下し文、解説で紹介したあとに、公案本則についての著者の自由訳である超訳を付け加え…

塚原史+後藤美和子 編訳『ダダ・シュルレアリスム新訳詩集』(思潮社 2016)

チューリッヒ・ダダ100周年、アンドレ・ブルトン没後50年の年に刊行されたダダ・シュルレアリスム新訳新編アンソロジー。上下二段組み、236ページ。詩人32名、199篇という満足感が得られるラインナップであった。刊行の意図としては、美術の世界のダダ・シュ…

エティエンヌ・バリバール『スピノザと政治』(原著 1985 追加論文 1989, 1993, 水声社 叢書言語の政治 17 水嶋一憲訳 2011)

スピノザの主要三著作『神学・政治論』『エチカ』『政治論』(邦訳『国家論』)から、大衆各個人の情動を根底に構成される国家体制について思考する政治論を分析している。ホッブスとの自然権の譲渡と契約をめぐる差異、マルクスとの理論構築においての外的…

浅野俊哉『スピノザ 〈触発の思考〉』(明石書店 2019)

政治哲学・社会思想史を専門とする哲学者浅野俊哉のスピノザ論。主として第二次世界大戦前後にかけてスピノザの思想を語った思想家6名について検討しながら、スピノザの現実的かつ根源的な思考の射程を浮かび上がらせる精緻な論考。20世紀の思想家の政治…

黒木祥子+小林賢章+芹澤剛+福井淳子 編『現代語訳付 説経かるかや』(和泉書院 2015)

中世末から江戸時代初期、下層の庶民階級を相手の芸能としてはやった説経節の代表曲「かるかや(苅萱)」のテキストに校注と現代語訳を付けた一冊。能や浄瑠璃などに比べてより簡素な語り芸であることが想像できる作品。話は信濃善光寺付近に祀られている親…

鈴木大拙『禅八講 鈴木大拙最終講義』(編:常盤義伸、訳:酒井懋 角川選書 2013 )

遺構の中から鈴木大拙晩年の講演用英文タイプ原稿を翻訳編集した一冊。文化の異なるアメリカ聴衆向けに書かれた論考は、仏教文化や仏教的教養から離れたところにいる現代日本人にとっても分かりやすく刺激的な内容にあふれている。そこに的確な訳注と編者に…

鈴木大拙+古田紹欽 編著『盤珪禅師説法』(大東出版社 1943, 1990)

不生禅の盤珪の重要性を見出し道元観照禅と臨済看話禅との違いを説いた鈴木大拙の手になる盤珪禅への導入書。先行して出版されている岩波文庫の鈴木大拙編校『盤珪禅師語録』(1941, 1993)をベースに、よりコンパクトにまとまった原典紹介がなされている。1…

柏倉康夫訳 ステファヌ・マラルメ『賽の一振り』( 発表 「コスモポリス」1897年5月号, 月曜社 叢書・エクリチュールの冒険 2022 )

ステファヌ・マラルメの最後の作品「賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう」の最新日本語訳。柏倉康夫によるマラルメ翻訳は、晦渋さが極力排除された理解しやすくイメージを得やすいものとなっている。さらに、先行する研究や翻訳への目配りが届…

秋月龍珉『禅門の異流 盤珪・正三・良寛・一休』(筑摩書房 1967, 筑摩叢書 1992) 抵抗者の真っ当かつ奇っ怪な姿

曹洞宗の黙照禅、臨済宗の看話禅、臨済系の寺から出た盤珪の不生禅、武士から曹洞宗の僧侶となった鈴木正三の二王禅、日本の禅の主だったところの流派の孤峰をたどることができる一冊。禅の「大死一番、絶後蘇生」の悟りとその後の生き様の四者四様を、多く…

有馬賴底『『臨済録』を読む』(聞き手:エディシオン・アルシーヴ 西川照子 講談社現代新書 2015)

臨済宗相国寺派管長に聞く禅語録『臨済録』の世界への参入の仕方。岩波文庫の『臨済録』を素人が読むと、問答に分別知が紛れ込む余地がでたら瞬時に否定されるという枠組みぐらいしか感じ取ることができないので、実際のところ何をめぐって対話がなされてい…

紀野一義『名僧列伝(二) 良寛・盤珪・鈴木正三・白隠』(文芸春秋 1975, 講談社学術文庫 1999)

著者の好みが鮮明に打ち出されている名僧案内。江戸期の四名の禅僧が著者ならではの視点から描かれているために、各僧のあまり触れられない新鮮な情報も含まれていて、ほかの書物と比べながら多角的に各人物を捉えるきっかけを与えてくれるような、記憶にも…

竹村牧男『唯識・華厳・空海・西田 東洋哲学の精華を読み解く』(青土社 2021)

現在のグローバリゼーションの時代において、異質な他者との共存を考えるための知恵として、古代から営まれてきた東洋哲学の清華を見直していこうという意図をもって書かれた著作。大乗仏教の根幹をなす唯識思想から、華厳の事事無礙法界を経て、空海の曼荼…

加藤精一 編『空海「般若心経秘鍵」』(原著 834, ビギナーズ 日本の思想 角川ソフィア文庫 2011)

空海の最晩年、入定前年61歳の時の著作。主著『秘密曼荼羅十住心論』や『秘蔵宝鑰』で展開された顕教から密教へと至る仏の教えの階梯を、「般若心経」270字のなかに読み解く、空海の天才的思考が凝集された見事な果実。加藤精一による現代語訳と解説に…

訳: 加藤精一『空海「弁顕密二教論」』(ビギナーズ 日本の思想 角川ソフィア文庫 2014)

顕教と密教の違いを説く空海の書。仏陀を法身、応身、化身の三身に分けたときに、法身の大日如来が直接説かれた教えを密教、法身大日如来から派生的に現じた応身化身の諸仏が、教える相手によってさまざまに説き分けた教えを顕教とした、空海独自の教論。大…

谷川敏朗『校注 良寛全詩集』(春秋社 2005, 新装版 2014)

谷川敏朗の良寛校注三部作のうちではいちばんの力作。良寛自身も俳句や歌に比べれば、漢詩に傾けた時間やもろもろの思いはもっとも大きいのではないかと考えさせられる一冊。寺子屋や学塾に通った時代から、世俗的世渡りの要求に応えられずに出家したあとの…

谷川敏朗『校注 良寛全歌集』(春秋社 2003, 新装版 2014)

1350首もの歌を残した良寛には歌人という意識はなかったものと見える。漢詩においては禅僧の活動としての偈頌が含まれていたり、50歳を過ぎてから10年ごとに遺偈(禅僧としての最後の感懐)を残したりと、かなり形式的なものを踏まえて詩作していた…

谷川敏朗『校注 良寛全句集』(春秋社 2014)

良寛は曹洞宗の僧というよりもやはり歌人であり詩人としての存在が大きい。詩や歌の内容に仏の道が入ることが多くても僧としての偉大さよりも詩人としての輝きが先にきらめく。「法華讃」「法華転」という法華経讃歌の漢詩群はあっても、仏教の教えを説いた…