読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

ドナルド・バーセルミ『パラダイス』(原著 1986, 渓流社 現代アメリカ文学叢書④ 三浦玲一訳 1990)

アメリカのポストモダンを代表するバーセルミの第三長篇。主人公の年齢と近いこともあってか世間や出来事や自分の考えに対しての距離感に親近感を覚えた。 本書『パラダイス』は、53歳の建築家サイモンが、妻と大学生の娘が出ていったあとの部屋で、仕事に…

ひろさちや『親鸞を生きる』(佼成出版社 2021)

ひろさちやの魅力は、自分が何度も仏典を読み込んで掴んだこれぞというものを、通念を超えたところで開示してくれるところにある。三桁にもなる全著作のうちのほんの数冊を読んだけではあるが、いままで読んだものにはすべて生き生きとしていて芯の通った独…

ひろさちや『法然を生きる』(佼成出版社 2022)

南無阿弥陀仏。 称名念仏、口称念仏、専修念仏の教えを拓いた法然の存在意義を単刀直入に語った著作。 既存宗派から激しい非難を浴びることになる念仏他力の思想は、国家体制を司る貴族や高級武士達のものではなく、一般庶民層の救済を念頭に置いた革命的な…

ひろさちや『空海を生きる』(佼成出版社 2021)

『空海入門』(祥伝社 1984, 中公文庫 1998)から37年、ひろさちや晩年の空海語り。空海の著作自体に言及することが多くなっているところ以外で語られる基本的な内容はほとんど変わりはない。空海像がより柔軟になり、超人色がすこし世俗的な光の下に見直され…

荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』(書肆侃侃房 現代歌人シリーズ29 2020)

ニューウェーブ短歌を牽引していた荻原裕幸の第六歌集。前歌集が第五歌集『永遠青天症』を含む全歌集『デジタル・ビスケット』で2001年刊行ということで、本作は19年ぶりの歌集となる。塚本邦雄門下で前衛短歌の影響を受けた歌風で、実作だけでなく歌…

喜連川優+野城智也 編『東大塾IoT講義』(東京大学出版会 2020)

繋がらないことの優位なんてほとんどないが、あまり繋がっていたくもないというのが私の本心。 Windows95と先頃公式には引退されたieの組み合わせから広まったwebアプリケーションの世界で、開発および保守運用に携わり、生活の資を得てきた人間ではあるのだ…

ハンス・ヨーナス『生命の哲学 有機体と自由』(原著 1994, 法政大学出版局 細見和之+吉本陵 訳 2008)

生命が必要としている物質交代の仕組みのうち、殊に動きをもって捕食する必要が出てきた動物の個体の様相を哲学的に分析し、人間にいたっては自己が芽生える個体性と自己以外の外的な世界との隔たりが生命活動の自由を生むと解き明かす。 植物の生命が眠って…

ひろさちや『空海入門』(祥伝社 1984, 中公文庫 1998)

学問的入門書というよりも、司馬遼太郎の『空海の風景』と同じく、資料を調べながら著者の想像の肉付けを加えていった小説風人物伝といった味わいの一冊。空海は平安時代に唐から密教を日本に持ち帰ったのではなく、密教系経典を持ち帰ったうえで密教そのも…

ひろさちや『一遍を生きる』(佼成出版社 2022)

踊念仏を興し、被差別民や芸能とも深いかかわりを持った鎌倉期の流浪の捨聖、一遍。その一遍の生涯と思想を『播州法語集』や『一遍聖絵』(『一遍上人絵伝』)に依りながら語り起こした、ひろさちや最晩年の著作。日本仏教の祖師たちのひとりである一遍の教…

1990年の英国祭(UK90)にあたって国立西洋美術館で開催された展覧会のカタログ『ウィリアム・ブレイク William Blake 1990』の第二版(日本経済新聞社 1990)

ニーチェに先立って従来のキリスト教的価値観を超える善悪の彼岸を、自身の詩作と版画と水彩画によって切り拓こうとしたイギリスの芸術家ブレイクの、画家としての業績を、基本的に年代順に紹介した作品展のカタログ。ブレイクは銅版画家、挿絵画家が生計を…

ウィリアム・ブレイク『ブレイク詩集』(彌生書房 世界の詩55 寿岳文章訳 1968)

ブレイクの創作全期間のなかから選ばれた詩篇によるアンソロジー。前期の代表的詩集『無心の歌 The Songs of Innocence』(1789)、『有心の歌 The Songs of Experience』(1794)の詩篇におおきく偏ることなく、全体的な業績が想像できるような編集がされている…

ユセフ・イシャグプール『現代芸術の出発 バタイユのマネ論をめぐって』(原著 1989, 法政大学出版局 川俣晃自訳 1993) 付録「スーラ―分光色素(スペクトラール)の純粋性」(1991)

テヘラン出身パリ在住の哲学者による現代絵画論二本。 マネ論「現代芸術の出発」は、バタイユのマネ論を主軸に、油彩技法の革新者であるファン・エイクから、現代絵画をはからずも切り拓いたマネの絵画技法に至る流れを、より俯瞰的に示したエッセイ。マネの…

ジョルジュ・バタイユ『沈黙の絵画 ―マネ論―』(二見書房 ジョルジュ・バタイユ著作集第10巻 宮川淳訳 1972)

1955年刊行のマネ論を中心に、バタイユの絵画論を集めた一冊。マネ論のほかは印象主義論、ゴヤ論、ダ・ヴィンチ論が収められている。共通するのは、ある種の痛ましさに直結するような、絵画作品の恍惚のたたずまいを産みだした画家たちを論じているところ。…

ジョルジュ・バタイユ『マネ』(原著 1955, 月曜社 芸術論叢書 江澤健一郎訳 2016)

バタイユ晩年(といっても58歳の時)のエドゥアール・マネ論。西洋絵画の世界にブルジョワ的日常空間と色彩の平面性を導入することで、本人の意図しない数々のスキャンダルをひきおこし、印象派をじはじめとした近代絵画の道を切り拓くことになったエドゥ…

ジョルジュ・バタイユ三冊『内的体験』『有罪者』『純然たる幸福』

無神学大全として生前刊行された第一巻『内的体験』(1943)、第二巻『有罪者』(1944)と、刊行が予定されていたが未刊に終わった第四巻をバタイユ研究者の酒井健が編集した日本オリジナルの『純然たる幸福』をここ二週間くらいかけてちょこちょこ通して読んで…

ラビンドラナート・タゴール『タゴール詩集』(彌生書房 世界の詩39 山室静訳 1966)

『ギタンジャリ(英語版)』ただ一冊の功績によって1913年にアジア初のノーベル文学賞を受賞したラビンドラナート・タゴールの日本版詩選集。基本的にはベンガル語の詩人であるが、本人による英訳、というよりも英語による改作した作品のほうが広く読まれて…

シャルル・ボードレール『小散文詩 パリの憂愁』(原著 1869, 思潮社 訳・解説:山田兼士 2018)

2022年現在一番新しい翻訳かと思って調べたら、2021年はボードレール生誕200年ということもあってかもうひとつ新しい翻訳が出ていた。なんにせよ研究と読解の成果が新しく出てくることは、ボードレールに触れる機会が増えるということだけ見ても、いいことだ…

ウィリアム・ブレイク『ブレイク詩集』(平凡社ライブラリー 土居光知訳 1995)

角川文庫のブレイク詩集の訳者である寿岳文章(1900-1992)より十四歳年長の英文学者土居光知(1886-1979)によるブレイク初期の三詩集の翻訳アンソロジー。 無心の歌(The Songs of Innocence、1789年)経験の歌(The Songs of Innocence and of Experience…

CD付き絵本『けろけろ ころろ Kerokero Kororo - A Summer Festival at Frogs-Pond』(絵:富山妙子 文・音楽:高橋悠治 福音館書店 2004 )

ピアノ奏者としての高橋悠治のCDよりはお目にかかることの少ない作曲家としての高橋悠治の自演ピアノ曲が付いた絵本。長年にわたり共同制作を行ってきた画家富山妙子との共作絵本でもある。政治色が強い一般層向けの作品とは違い、読み聞かせ対象年齢が3…

戸谷洋志『スマートな悪 技術と暴力について』(講談社 2022)

非効率を退け最適化を追求するなかで、利便性と同時に発展進行する冷たい無思考の世界が、高度技術化社会のなかで非人間的な振舞いを誘発容認する悪をも同時に生み出しているのではないかということを、20世紀の歴史を振り返りつつ問題提起し、著者なりの…

ジョーゼフ・キャンベル『神話のイメージ』(原著 1974, 大修館書店 訳:青木義孝+中名生登美子+山下主一郎 1991)

古代から脈々と連なる世界各地の神話を広く繊細な視点から重層的に扱い、霊的世界と物質的現世世界の合一を主テーマとする各神話を貫くイメージを421点の図版を通じて解き明かしていく。全世界に広がる同系のイメージを、同時発生的なものと考えるより、なん…

小林一枝『『アラビアン・ナイト』の国の美術史 【増補版】イスラーム美術入門』(八坂書房 2004, 2011)

イスラムの世界では「礼拝の対象としての聖像・聖画さらに宗教儀礼用の聖具を持たない」。建築以外には宗教の美を持たないとされ、「神の創造行為につながる生物の造形表現」に対する禁忌の念が、イスラム美術といわれる表現の領域において独特の基底を形作…

柳田聖山『禅の語録1 達摩の語録―二入四行論―』(筑摩書房 1969)

禅宗初祖の菩提達摩と初期禅宗の僧たちの思想を達摩の語録という体でまとめられたもの。本文、読み下し文、現代語訳、注釈の四部構成。注釈が充実していて、本文に関係なくこちらだけをつまんで読んでいてもとても参考になる。また、読み下し文もどことなく…

末木文美士『『碧巌録』を読む』(岩波書店 1998, 岩波現代文庫 2018)

岩波文庫の『碧巌録』全三巻は1990年代の最新研究を取り入れた画期的な新釈でおくる文庫本として広く受け入れられたらしいが、実際に手にとってみると、読み下し文と注から読み解くべきもので、現代語訳がなくなかなかハードルが高い。図書館で取り寄せやす…