読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

松長有慶『空海』(岩波新書 2022)

新書で手に入りやすい空海最新入門書。真言宗僧侶で全日本仏教会会長も務めた高僧による、空海の著作をベースにした思想伝授に重きを置いた解説書。近作には、『訳註 秘蔵宝鑰』(春秋社 2018)、『訳注 般若心経秘鍵』(春秋社 2018)、『訳注 即身成仏義』…

ガストン・バシュラール『ロートレアモンの世界』(原著 1939, 平井照敏訳 思潮社 1970)

つい最近、蓮實重彦がジャン=ピエール・リシャールのテーマ批評にからめてバシュラールからの影響ということを語っていたネット記事に影響されて手に取ってみた一冊。 理性に先行するイマージュという視点からロートレアモンの詩を論じている。 想定外に破…

思潮社現代詩文庫200『岡井隆詩集』(思潮社 2013)

日本の詩歌は長歌と短歌からはじまって日記文学や各種物語文学そして芭蕉の紀行文へとひろがりを見せたのち西洋近代詩の影響を受けた口語自由律をも併存させるようになっているのであるから、昭和平成期歌人の岡井隆が現代的に短歌形式を取り込んだ実験的詩…

岡井隆『文語詩人 宮沢賢治』(筑摩書房 1990)と宮沢賢治の文語定型詩

宮沢賢治は短歌から表現活動をはじめ、最晩年は病の中文語詩に集中していた。本書は、童話作品や心象スケッチ『春と修羅』などの口語作品に比べて読まれることの少ない賢治の文語作品は賢治にとってどのような意味があったのか、また、賢治の文語作品が書か…

岡井隆『詩の点滅 詩と短歌のあひだ』(角川書店 2016)

角川刊行の月刊誌『短歌』に2013年から掲載された連載評論25回分をまとめた著作。80代後半の著述。年季が入っているのに硬直化していない探求心がみずみずしい。 長きにわたり実作者として詩歌や評論を読みつづけてきた技巧と鑑賞眼から新旧の作品を…

思潮社現代詩文庫502『岡井隆歌集』(思潮社 2013)

岡井隆75歳の年に刊行された本歌集は、未刊の最初期歌集『O』から平成20年(2008年)刊行の『ネフスキイ』までの60年31冊の歌集から約1200首を同じ短歌結社『未来』の後継世代の黒瀬珂瀾が選歌した最新アンソロジー。60歳以降の年月にあたる…

谷口江里也『ドレのロンドン巡礼 天才画家が描いた世紀末』(ドレの原作 18872, 講談社 2013)

地上に縛られることのない高貴さの象徴としての天使の素足と地上で虐げられた生活を強いられていることの悲惨さのあらわれとしての貧民の靴を履けない裸足。その両極の間に、貴族上流階級の着飾った姿に履かれるブーツ(女性は衣装のため靴は見えない)と労…

永野藤夫訳『聖フランシスコの小さき花』(講談社 1986)

聖フランシスコばかりでなく、フランシスコ会の兄弟信徒の行状も多く描かれている聖人伝。全53のエピソード。キリストや天使や聖人たちの幻を見ることも、奇蹟を行うことも、頻繁に起きていて、すべて肯定的に描かれている。フランシスコ会発足当初の時代…

アウグスティヌス『主の山上のことば』(原書 393-396, 熊谷賢二訳 上智大学神学部編キリスト教古典叢書8 創文社 1970)

マニ教から新プラトン主義を経てキリスト教に辿りついたアウグスティヌスによるマタイの福音書「山上の説経」の解釈書。『聖書』は書かれた言葉そのものの相において読むのではなく、象徴的に読み解く必要があることを知ったことから聖書読解に劇的な展開を…

高木昌史『美術でよむ中世ヨーロッパの聖人と英雄の伝説』(三弥井書店 2020)

グリム兄弟や伝承文学などが専門のドイツ文学者高木昌史が文学と美術の両面から中世ヨーロッパの世界を案内する一冊。聖人や英雄伝説への入門あるいは再入門として伝説の概要とテキスト本文の引用がまず提示されたあと、その伝説に取材した視覚芸術家の作品…

思潮社現代詩文庫205『田原詩集』(2014)

風化したあとの白骨の白さのイメージをそこここに滲ませながら、いまを生きることを謳う、日本語と中国語のふたつの言語で詩を書く詩人の詩集。日本語による詩集二冊と未刊詩篇、日本人翻訳者による中国語訳詩篇からなる珍しいアンソロジー。日本語で書く詩…

北川透『傳奇集』(思潮社 2022)

いまの日本の現代詩の領域では80歳を超えた高齢の詩人たちの活動がよく目に入ってくる。谷川俊太郎、高橋睦郎、吉増剛造ほか、かなりの実力者が名を連ねる。本書の北川透もそのなかの一人で、刊行時は86歳、収録作の初出は78歳から83歳まで刊行して…

『ドレの昔話』(原作:シャルル・ペロー、翻案:谷口江里也、挿画:ギュスターヴ・ドレ 宝島社 2011)

グリム兄弟によって収集された童話集に先行するフランス人詩人のシャルル・ペローによる民間伝承をベースにした物語集。谷口江里也によって現代風にアレンジされているところもあるようだが、基本的にシャルル・ペロー作品に忠実で、近代的な物語の枠組みか…

谷口江里也『ラ・タウロマキア(闘牛術)/ロス・ディスパラテス 視覚表現史に革命を起した天才ゴヤの第三・四版画集』(未知谷 2016)

近代絵画の扉を開いたゴヤ晩年の二つの版画集。 第三版画集『ラ・タウロマキア(闘牛術)』は1816年の刊行。ゴヤ70歳での作品集。未刊行の第二版画集『戦争の悲惨』から6年後の刊行になる版画集は、ゴヤの愛した闘牛の世界に取材した作品集。闘牛の歴史…

谷口江里也『戦争の悲惨 視覚表現史に革命を起した天才ゴヤの第二版画集』(未知谷 2016)

第二版画集『戦争の悲惨』は1810年、ゴヤ64歳の年に制作を開始されたと考えられる未刊行の第二版画集。1806年からのナポレオン軍のスペイン侵攻に対して、スペイン全土に湧き上がった民衆ゲリラ軍の決死の戦いを、依頼もなく出版の目途も立たない…

谷口江里也『ロス・カプリチョス 視覚表現史に革命を起した天才ゴヤの第一版画集』(未知谷 2016)

ゴヤの第一版画集『ロス・カプリチョス』は1798年、ゴヤ52歳の時の自費出版作品。この年はスペインの首席宮廷画家にも任命された年でもあったが、フランス革命以降の市民社会の動向、王室や教会の権威の弱体化を感じて、国家最上層のパトロンを相手に…

エメ・セゼール二冊『帰郷ノート/植民地主義論』(訳:砂野幸稔 平凡社 1997, 平凡社ライブラリー 2004)、『クリストフ王の悲劇 コレクション現代フランス語圏演劇01』(訳:尾崎文太+片桐祐+根岸徹郎、監訳:佐伯隆幸 れんが書房新社 2013)

エメ・セゼールはフランスの海外県でカリブ海西インド諸島の島のひとつマルティニーク出身の詩人、政治家。ネグリチュード(黒人性)という概念を提起し、黒人の地位向上と近代西欧からの精神的解放ののろしを上げ、植民地主義を批判した人物。代表作『帰郷…

『ドレの失楽園』(原作:ジョン・ミルトン、翻案:谷口江里也、挿画:ギュスターヴ・ドレ 宝島社 2010)

創造神による独裁的な統治に反乱を企てた革命戦士としての堕天使ルチフェルを描いたミルトンの『失楽園』を更に翻案しドレの挿画とともに谷口江里也が新たな息吹を吹き込んだ作品。原作と翻案作品とのあいだにどれほどの差があるのかは改めて比較してみない…