読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ポール・エリュアールの詩集二冊

バシュラールの想像力に関する著作に多く引用されていたことがきっかけでエリュアールの詩集を読み返してみた。 ダダでもシュルレアリスムでもブルトンとともに中心的な人物であったポール・エリュアールではあるが、彼の詩は奇矯なものでも過激なものでもな…

フランチェスコ・ヴァルカノーヴェル『イタリア・ルネサンスの巨匠たち 〈23〉 カルパッチョ』(原著 1989, 東京書籍 1995)

日本でカルパッチョの作品をまとめてみることのできる貴重な作品集。図版数は76。 個別の代表作を偏りなく冷静に取り上げて紹介しているのがいちばんの妙味。 初期作品から晩年にいたるまで、大きな画面の隅々にまで神経のいきわたった揺るぎない緊張感が…

D・H・ロレンス『無意識の幻想』(原著 1922, 照屋佳男訳 中公文庫 2017)

『チャタレイ夫人の恋人』などの小説で有名なD・H・ロレンスの文明批判の書で、生命を阻害する知性を糾弾し、反知性主義を押し出している論考。本人はいたって科学的と主張しながら持論を展開しているのだが、その宇宙論や生命観、性の理論や教育観は、詩…

ポール・ヴェルレーヌ『呪われた詩人たち』(原著 1884,1888 倉方健作訳 幻戯書房 2019)

40歳台前半、詩人としても一人の人間としても地に堕ちていた時代のヴェルレーヌの仕事。この『呪われた詩人たち』がなかったらランボーが忘れ去られていたかもしれないことで歴史的に重要な作品。ヴェルレーヌ自身もこの著作によって詩人としての立場が上…

松長有慶ほか『即身 密教パラダイム 高野山大学百周年記念シンポジウムより』(河出書房新社 1988)

空海が即身成仏思想を説いた『即身成仏義』を中心に、西欧の学知の世界で新機軸を打ち出しながら研究を進める三人の柔軟な知識人をむかえて、空海思想の現代的意味をとらえようとしたシンポジウムの記録と、シンポジウムに関連した論考の集成からなる一冊。 …

著・訳:古田亮、著:岡倉覚三『新訳 東洋の理想 岡倉天心の美術思想』(平凡社 2022)

1903年=明治36年にロンドンで出版された『東洋の理想』として知られる天心岡倉覚三の処女作『The Ideals of the East-with special reference to the art of Japan』の最新訳に、訳者古田亮による本篇に匹敵する分量の『東洋の理想』研究が付された最…

浅野秀剛『ARTBOX 鈴木春信』(講談社 2017)

浮世絵師鈴木春信の活動期間は1760年の数え36歳から1770年に46歳で亡くなるまでの約10年間で制作点数は1000点を超える。本書にはそのなかから116点の浮世絵がカラー図版で収められている。書籍のサイズがA24取(140×148)と小さめのた…

田辺昌子『鈴木春信 江戸の面影を愛おしむ』(東京美術 2017)

B5判の判型に鈴木春信作品87点、比較対照用の春信以外の作者の作品20点を収めた解説本。野口米次郎や宮沢賢治が鈴木春信の浮世絵にインスパイアされて作成した詩などの紹介もあり、春信作品の特色と受容の歴史などに目配せが効いている。また使用された…

新潮日本古典集成 山本利達校注『紫式部日記 紫式部集』(新潮社 1980, 2016)

藤原俊成の評に「歌よみの程よりは物書く筆は殊勝なり」とあるように、『源氏物語』の作者としての評判ばかり高く、歌についての評価は全般的に低い紫式部であるが、勅撰集やそのほかのアンソロジーなどで読んでいる際、わたしは何となく紫式部の歌が好きだ…

ガストン・バシュラール『空と夢 運動の想像力に関する試論』(原著 1943, 法政大学出版局 1968,2016)

物質についての想像力論第3巻、「大気(風)」の想像力、空の詩人に関する研究。飛翔するもの、翼を持つものの詩的世界、また墜落するものの世界。シャルル・ノディエ、リルケ、ニーチェ、シェリー、キーツ、ダヌンツィオ、ヴィクトル・ユゴー、ブレイク、…

ガストン・バシュラール『水と夢 物質的想像力試論』(原著 1942, 法政大学出版局 2008, 2016)

物体に触れてはたらく想像力はエンペドクレス以来の根本四大元素にいたりつくまで進むことによって詩的喚起力を持つイマージュをつくりあげるという。本書『水と夢』は『火の精神分析』(1938)につづいて刊行された物質についての想像力論の第2巻。四大元素…

松長有慶『訳注 声字実相義』(春秋社 2020)

『訳注 即身成仏義』についで刊行された空海訳注シリーズの第4弾。大日如来が現実化したものとして現われ出ている現実世界をかたちづくるものすべては塵すべては文字いう空海の密教思想を説いた『声字実相義』の解釈本で、平易な表現にもかかわらず、古くか…

松長有慶『訳注 即身成仏義』(春秋社 2019)

仏教一般に対して空海の思想の特異な点は、すべてが大日如来の発現であるとしているところで、物質も精神も本質的には違いがないという教えが説かれている。この点に関して本書では特に本論の第六章「生み出すものと生み出されるものの一体性」に詳しい解説…

原作:ミゲル・デ・セルバンテス、訳・構成:谷口江里也、挿画:ギュスターヴ・ドレ『ドレのドン・キホーテ』(原作 1605, 宝島社 2012)

ドレの挿画178点とともに読む『ドン・キホーテ 正編』の縮約翻訳本。岩波文庫版だと正編=前篇部分が三冊で1200ページ、本作はドレの挿画を含めて446ページなので約3分の1の分量。原作を読むのに躊躇している人にとっても52の話が欠けることなく…

森田真生『数学する身体』(新潮社 2015、新潮文庫 2018)

数学を専門にしていない人にも開かれた数学と数学する人をめぐっての軽快かつ情緒のある世俗批評。チューリングと岡潔がメインだか、その前段で語られる数学の形式化と基礎づけに関する危機の歴史の語り方が興味深い。数を数える数学の発生にはじまり、心と…

渡辺広士編訳『ロートレアモン論集成』(思潮社 1977)

ロートレアモンは死後50年を経た1920年代にシュルレアリスムの帝王アンドレ・ブルトンが注目したことによってようやく読まれるようになった19世紀の特異な呪われた詩人で、本書にはその再評価の初期段階で書かれた7名のロートレアモン論と論考を翻…

アルベルト・マルチニ監修『ファブリ世界名画集 72 ヴィットーレ・カルパッチョ』(原著 1964, 解説:目形照 平凡社 1973)

現代の日本においてヴィットーレ・カルパッチョの作品といえば、ふたりの高級娼婦の姿を描いたというコッレール美術館所収の『二人のヴェネツィアの女性』で、画家が活動していた当時の最先端のファッションを身にまとっている世俗的人物を、落ち着いた筆致…

ヤマザキマリ『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』(集英社新書 2015)

マンガ家でエッセイストのヤマザキマリは17歳から単身イタリアに渡って油絵と美術史を学んだ筋金入りの美術専門家であり美術愛好家である。現在もイタリア在住で、主にイタリアでの日常的な芸術体験がもとになった精神の自由をうたいあげる知性の輝きがま…

吉川一義『カラー版 絵画で読む『失われた時を求めて』』(中公新書 2022)

プルーストと絵画が専門の著者吉川一義は岩波文庫版『失われた時を求めて』の翻訳者でもある。2022年プルースト没後百年に出版された本書は、作品中陰に陽に言及される絵画作品に焦点を当て、長大な作品のさまざまな登場人物と作品があつかうさまざまな…