読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

エッセイ

山内志朗『感じるスコラ哲学 存在と神を味わった中世』(慶應義塾大学出版会 2016)

感覚を持つ身体を基体として、個体性をもったハビトゥス(習慣)が生まれ、人生がかたちづくられる。ハビトゥスが方向性を生み出しながら、それぞれの生が営まれることを、主に中世の修道院の生活から解き明かしていったエッセイ的論考。中世の精神と生活の…

千葉雅也『アメリカ紀行』(文藝春秋 2019) 日本を離れて考え感じる現代日本の哲学者(小説家になる前の千葉雅也の小説のような作品)

読み終えて、ああ終わっちゃったとさみしさが湧いてきた。読んでいる最中もなんだかさみしいなあと思いながらの読書だった。たぶん、特殊個人的なケースだと思う。 大学で哲学を教える千葉雅也の2017年39歳時の海外学外研究(サバティカル)での交流記、滞在…

竹村牧男『良寛の詩と道元禅』(大蔵出版 1978, 新装版 1991)良寛と道元が観た世界の後の世界を観る世界

生きているあいだに確実に超えられない業績を残している人に出会ってしまうのは結構つらい経験ではあるのだが、本を読むということは、そんなつらい経験をあえてもとめているようなところが大きい。 なぜ強いられてもいないのに読んでしまうかというと、これ…

アラン・コルバン『草のみずみずしさ 感情と自然の文化史』(原著 2018, 藤原書店 小倉孝誠+綾部麻美訳 2021 )

草づくしの200ページ。西欧、とりわけフランスの田園のもとに育まれた感性を、多くの絵画、小説、詩、書簡や博物誌や批評のなかに探り、アラン・コルバンの地の文章に多くの引用をちりばめた散文詩のような作品。とてもフランス的で日本ではあまり同系統…

鍵谷幸信編 西脇順三郎『芭蕉・シェイクスピア・エリオット』(恒文社 1989)よりエリオット

西脇順三郎が残したエリオットについてのエッセイ15本が収録されている。 イギリス留学もしていた西脇順三郎が同時代のエリオットを語るという、西脇順三郎側からの微妙かつ一方的なライバル的関係性もうかがえて興味深い。詩人としてよりも批評家としての…

志村ふくみ『晩禱 リルケを読む』(人文書院 2012)

染織、紬織での人間国宝、志村ふくみが綴るリルケ。ここぞというところで使用されている「裂(きれ)」という記号がどこか聖性を帯びていて、これは敵わないなあと思いつつ読み通す。2012年刊行なので、88歳、米寿での作品となる。それも、敵わない。…

アラン・コルバン『静寂と沈黙の歴史 ルネサンスから現代まで』(原著 2016, 藤原書店 小倉孝誠+中川真知子訳 2018 )

「感性の歴史家」ともいわれているアラン・コルバン、題名と本のたたずまいに魅かれて試し読み。『草のみずみずしさ 感情と自然の文化史』と迷ったが、どちらかといえばメジャーな分野を対象にしたものからという判断で、こちらから参入してみる。 内容的に…

マリオ・プラーツ『官能の庭Ⅰ マニエーラ・イタリアーナ ルネサンス・二人の先駆者・マニエリスム』(原書 1975, ありな書房 2021)

本書は1993年にありな書房から訳出刊行されたマリオ・プラーツの芸術論集『官能の庭』の分冊版の第一巻。全五冊の刊行が予定されている。分冊再刊行にあたっては監修者の伊藤博明により一部論考の差し替えと翻訳の再検討が行われているようだ。一冊の本…

堀田百合子『だだの文士 父、堀田善衞のこと』(岩波書店 2018)

娘の眼に映った作家堀田善衞の仕事と日常。 田植えをするように夜中にお気に入りの万年筆でトントンと原稿用紙を埋めていく堀田善衞が印象的。 一日五枚、2000字を積みあげて、堅牢であるが陽当たりも風通しもよい質の高い大作を次々に生み出していった…

富山県高志の国文学館編『堀田善衞を読む 世界を知り抜くための羅針盤』(集英社新書 2018 著者:池澤夏樹, 吉岡忍, 鹿島茂, 大高保二郎, 宮崎駿)

『方丈記私記』『定家明月記私抄』『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』『別離と邂逅の歌』『堀田善衞詩集 一九四二~一九六六』と堀田善衞の作品を読みすすんできて、次は何を読もうかということと、他の人はどんな風に読んでいるのかを知りたくて手に取った一冊…

黒井千次『老いるということ』(講談社現代新書 2006)

黒井千次の「老い」シリーズ新書作品のおそらくいちばん最初の作品。他三作は中公新書、(現時点で未読の)『老いのかたち』(2010)『老いの味わい』(2014)『老いのゆくえ』(2019)。 本書はNHKラジオの「こころをよむ」の2006年第1四半期放送分…

宮下規久朗『聖と俗 分断と架橋の美術史』(岩波書店 2018)

聖と俗、彼岸と此岸の聖別と交流をさまざまな角度から論じた美術論集。アンディ・ウォーホルとキリスト教、シルクスクリーン作品とイコンとの関連を論じた「アンディ・ウォーホル作品における聖と俗」がとりわけ興味深かった。大衆消費社会に流通する代表的…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】05. 第二巻第一二章「レーモン・スボンの弁護」(宮下志朗訳 白水社『エセー 4』2010)

モンテーニュ『エセー』のなかでいちばん長い章。白水社版で本文約300ページ。 白水社サイトには「難解な」という形容がつけられているが、訳者や多くの評者が指摘しているように「奇妙な」とか「けったいな」とか「勝手な」という形容がふさわしい叙述の…

堀田善衛『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』(集英社 1998 集英社文庫 2005)

小説。 『箴言録』で有名なラ・ロシュフーコーが残した『回想録』の体裁にならって(単行本p398参照)、ラ・ロシュフーコー公爵フランソワ六世が語り手となり、三人称形式と一人称形式を混ぜ合わせながら、ラ・ロシュフーコー家の歴史と十七世紀フランスを中…

ポール・ヴァレリー『精神の危機 他十五篇』(岩波文庫 2010)

20世紀前半、第一次世界大戦終結からヴァレリー晩年の第二次世界大戦終結期までに発表された講演や式辞、エッセイを集めた一冊。西欧精神の優位と没落を併せ語っているところに機械文明・機械産業膨張期に対しての旧世代最後の抵抗がきこえてくる。抵抗と…

【読了本七冊】東京美術『もっと知りたい  東寺の仏たち』、ノーバート・ウィーナー『サイバネティクス 動物と機械における制御と通信』、佐藤信一『コレクション日本歌人選 43 菅原道真』、草薙正夫『幽玄美の美学』、トーマス・スターンズ・エリオット『エリオット全集2 詩劇』、アンリ・ミショー『閂に向きあって』、中央公論社『日本の詩歌12』より「野口米次郎」

25~30日に読み終わった本は7冊。 まだ新居で落ち着かない感じをゆっくり言葉でふさいでいる。 東京美術『もっと知りたい 東寺の仏たち』 www.tokyo-bijutsu.co.jp 空海の思想は生の肯定の思想で、第一作『三教指帰』からの文字文献においても艶めかし…

久々の書籍購入 

引越し後、最寄のBOOKOFFが変わった。 本日午後、業務を終えて、新居近くで自転車を新規購入した後、新たなテキスト流通の流れに身を委ねてみた。 今回、購入という行為で公共の書棚の構成から引き抜いて、自室に持ち込んだ書籍とCDは以下のとおり。 [仕事…

【雑記】 住み替えて風吹きぬける五月尽

先週末、転居と引渡が完了した。都内隣接区で1Fから5Fへの移動。風の流れ方が違うんだなと単純に感じている。引越しの荷造りで強制的な棚卸とBS圧縮が発生したため、まだ心ここにあらず感が強い。箱詰めせずに転居前後の細切れ時間と落ち着かない精神…

岡倉天心『英文収録 日本の覚醒 THE AWAKENING OF JAPAN』( 1904 夏野広訳 講談社学術文庫 2014 )余暇についてメモ

セネカの『道徳論集』のなかでもそれ自体としては肯定的にとらえられていた「暇」につづいて、岡倉天心の『日本の覚醒』でも「余暇」「閑暇」の重要性が説かれていたので、他の人の考えも併せてメモ。 【岡倉天心 THE AWAKENING OF JAPAN 原文】 The philist…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】04. 宮下志朗訳『エセー抄』 隠居の思想

最新のエセー全訳のきっかけになった2003年のエセー抄訳。とにかく読みやすさを心がけたという訳文は、訳語の選択やひらがなの分量も現代的な心遣いに溢れている。確かに読みやすい。しかし、モンテーニュは16世紀の人間で、しかもどちらかといえば世…

メイ・サートン『独り居の日記』( 原書 1973 武田尚子訳 みすず書房 1991, 新装版 2016 )勇者をはぐくむ繊細な日常

小説家で詩人のメイ・サートン五十八歳のときの一年間の日記。小説上で自身の同性愛を告白したために大学の職を追われて田舎に引きこもった際の日々が率直に記録されていて、力づよい。生活と精神に芯のある人間の飾らないことばは、ときどき読み返したくな…

オリヴィエ・コーリー『キルケゴール』(白水社文庫クセジュ 1994)異質な世界を観ている人の世界観への案内

歴史に残る偉人というものは、凡人からみればみな変態で、消化しきれないところがあるからこそ意味がある。異物感、異質感。複雑すぎて味わいきれないニュアンス、踏み入ることのできない単独性を帯びた感受性の領域を持つ人間の観ている世界。おそらく消化…

【雑記】花の季節の土台の不具合

2021年3月23日、一部Android端末不具合(メール使えない、ブラウザ使えない)と即時対応(半日かかったけど対応版Chrome更新で私のケースでは復旧)の対象となった人間で、短詩形に少しでも関心を持っている変わり者は、まあ何かしら気の利いた詩句がこの機…

平田オリザ『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書 2016)下り坂の世で「寂しさと向き合う」

語り口は穏やかだが、内容はかなりシビアな状況論。寛容な精神が重要と言っている一方で、付加価値を生みだせる人材を育てていかなければ生き延びるのは困難になってきているという主張が目を引く。成長が当たり前だった時代が過ぎ、停滞から衰退に向かう状…

杉本博司『苔のむすまで』(新潮社 2005)荒ぶる魂の沈思黙考

写真家であり現代美術作家である杉本博司の第一著作。固定したカメラで長時間露光した作品や模造品の写真作品を作成してきた作家のコンセプト部分がうかがえる一冊。写真図版も多く含まれているので杉本博司入門にもなる。 私が写真という装置を使って示そう…

森村泰昌『まねぶ美術史』(赤々舎 2010)若年:苦味という感覚の味わいの深さ

近現代美術界。商業的にひとりの美術家が成功すると、その周りにいたひとたちも同時に注目されるようになり、すこし潤う。知られず見られることもなかった状況から、共に見られる状況にすこし変わる。それぞれの作家への深入りは、あったりなかったりで、必…

荒木昭太郎『モンテーニュ 初代エッセイストの問いかけ』(中公新書 2000) 明晰な存在への陶酔

著者70歳での著述。モンテーニュの訳者、研究者としての海外調査旅行、シンポジウム参加などの様子が織り交ぜられてモンテーニュが語られている。どことなく退官記念の記念出版物のような、力の抜けた味わいがある。著者はクラシック音楽にも造詣が深く、…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】03. 荒木昭太郎訳で 3-13, 2-10 繊細な精神で清濁併せ呑むモンテーニュ

『エセー』最終章「経験について」(3-13)。モンテーニュ56歳に書いたことがうかがわれる記述が見える。病を得、身体の老いも目に見えてくるなか、いたずらに抵抗することなく、自身の運命とともに人生をゆっくり歩むことを、しずかに淡々と諭すように書…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】02. 荒木昭太郎訳で 3-9, 1-8, 1-4, 1-1 むなしさが似つかわしくないモンテーニュ

ひきつづき中央公論社『世界の名著 19 モンテーニュ』荒木昭太郎訳。 空しさについて、自分を対象にして思いをめぐらすと、空しさに暴れまわられてしまうので気をつけないといけないと思っている。充実感がないこと、無能さに目が向いてしまうことなど、こう…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】01, 荒木昭太郎訳で 1-50, 3-8 本を読むモンテーニュを読む

モンテーニュの『エセー』つまみ食い資料をつくったので、自分でも利用してみる。完訳本を用意すると全部読まなくちゃいけないという圧がかかってきそうなので、抄訳本で読みはじめる。中央公論社『世界の名著 19 モンテーニュ』荒木昭太郎訳。『エセー』全…