読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

エッセイ

宮下規久朗『聖と俗 分断と架橋の美術史』(岩波書店 2018)

聖と俗、彼岸と此岸の聖別と交流をさまざまな角度から論じた美術論集。アンディ・ウォーホルとキリスト教、シルクスクリーン作品とイコンとの関連を論じた「アンディ・ウォーホル作品における聖と俗」がとりわけ興味深かった。大衆消費社会に流通する代表的…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】05. 第二巻第一二章「レーモン・スボンの弁護」(宮下志朗訳 白水社『エセー 4』2010)

モンテーニュ『エセー』のなかでいちばん長い章。白水社版で本文約300ページ。 白水社サイトには「難解な」という形容がつけられているが、訳者や多くの評者が指摘しているように「奇妙な」とか「けったいな」とか「勝手な」という形容がふさわしい叙述の…

堀田善衛『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』(集英社 1998 集英社文庫 2005)

小説。 『箴言録』で有名なラ・ロシュフーコーが残した『回想録』の体裁にならって(単行本p398参照)、ラ・ロシュフーコー公爵フランソワ六世が語り手となり、三人称形式と一人称形式を混ぜ合わせながら、ラ・ロシュフーコー家の歴史と十七世紀フランスを中…

ポール・ヴァレリー『精神の危機 他十五篇』(岩波文庫 2010)

20世紀前半、第一次世界大戦終結からヴァレリー晩年の第二次世界大戦終結期までに発表された講演や式辞、エッセイを集めた一冊。西欧精神の優位と没落を併せ語っているところに機械文明・機械産業膨張期に対しての旧世代最後の抵抗がきこえてくる。抵抗と…

【読了本七冊】東京美術『もっと知りたい  東寺の仏たち』、ノーバート・ウィーナー『サイバネティクス 動物と機械における制御と通信』、佐藤信一『コレクション日本歌人選 43 菅原道真』、草薙正夫『幽玄美の美学』、トーマス・スターンズ・エリオット『エリオット全集2 詩劇』、アンリ・ミショー『閂に向きあって』、中央公論社『日本の詩歌12』より「野口米次郎」

25~30日に読み終わった本は7冊。 まだ新居で落ち着かない感じをゆっくり言葉でふさいでいる。 東京美術『もっと知りたい 東寺の仏たち』 www.tokyo-bijutsu.co.jp 空海の思想は生の肯定の思想で、第一作『三教指帰』からの文字文献においても艶めかし…

久々の書籍購入 

引越し後、最寄のBOOKOFFが変わった。 本日午後、業務を終えて、新居近くで自転車を新規購入した後、新たなテキスト流通の流れに身を委ねてみた。 今回、購入という行為で公共の書棚の構成から引き抜いて、自室に持ち込んだ書籍とCDは以下のとおり。 [仕事…

【雑記】 住み替えて風吹きぬける五月尽

先週末、転居と引渡が完了した。都内隣接区で1Fから5Fへの移動。風の流れ方が違うんだなと単純に感じている。引越しの荷造りで強制的な棚卸とBS圧縮が発生したため、まだ心ここにあらず感が強い。箱詰めせずに転居前後の細切れ時間と落ち着かない精神…

岡倉天心『英文収録 日本の覚醒 THE AWAKENING OF JAPAN』( 1904 夏野広訳 講談社学術文庫 2014 )余暇についてメモ

セネカの『道徳論集』のなかでもそれ自体としては肯定的にとらえられていた「暇」につづいて、岡倉天心の『日本の覚醒』でも「余暇」「閑暇」の重要性が説かれていたので、他の人の考えも併せてメモ。 【岡倉天心 THE AWAKENING OF JAPAN 原文】 The philist…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】04. 宮下志朗訳『エセー抄』 隠居の思想

最新のエセー全訳のきっかけになった2003年のエセー抄訳。とにかく読みやすさを心がけたという訳文は、訳語の選択やひらがなの分量も現代的な心遣いに溢れている。確かに読みやすい。しかし、モンテーニュは16世紀の人間で、しかもどちらかといえば世…

メイ・サートン『独り居の日記』( 原書 1973 武田尚子訳 みすず書房 1991, 新装版 2016 )勇者をはぐくむ繊細な日常

小説家で詩人のメイ・サートン五十八歳のときの一年間の日記。小説上で自身の同性愛を告白したために大学の職を追われて田舎に引きこもった際の日々が率直に記録されていて、力づよい。生活と精神に芯のある人間の飾らないことばは、ときどき読み返したくな…

オリヴィエ・コーリー『キルケゴール』(白水社文庫クセジュ 1994)異質な世界を観ている人の世界観への案内

歴史に残る偉人というものは、凡人からみればみな変態で、消化しきれないところがあるからこそ意味がある。異物感、異質感。複雑すぎて味わいきれないニュアンス、踏み入ることのできない単独性を帯びた感受性の領域を持つ人間の観ている世界。おそらく消化…

【雑記】花の季節の土台の不具合

2021年3月23日、一部Android端末不具合(メール使えない、ブラウザ使えない)と即時対応(半日かかったけど対応版Chrome更新で私のケースでは復旧)の対象となった人間で、短詩形に少しでも関心を持っている変わり者は、まあ何かしら気の利いた詩句がこの機…

平田オリザ『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書 2016)下り坂の世で「寂しさと向き合う」

語り口は穏やかだが、内容はかなりシビアな状況論。寛容な精神が重要と言っている一方で、付加価値を生みだせる人材を育てていかなければ生き延びるのは困難になってきているという主張が目を引く。成長が当たり前だった時代が過ぎ、停滞から衰退に向かう状…

杉本博司『苔のむすまで』(新潮社 2005)荒ぶる魂の沈思黙考

写真家であり現代美術作家である杉本博司の第一著作。固定したカメラで長時間露光した作品や模造品の写真作品を作成してきた作家のコンセプト部分がうかがえる一冊。写真図版も多く含まれているので杉本博司入門にもなる。 私が写真という装置を使って示そう…

森村泰昌『まねぶ美術史』(赤々舎 2010)若年:苦味という感覚の味わいの深さ

近現代美術界。商業的にひとりの美術家が成功すると、その周りにいたひとたちも同時に注目されるようになり、すこし潤う。知られず見られることもなかった状況から、共に見られる状況にすこし変わる。それぞれの作家への深入りは、あったりなかったりで、必…

荒木昭太郎『モンテーニュ 初代エッセイストの問いかけ』(中公新書 2000) 明晰な存在への陶酔

著者70歳での著述。モンテーニュの訳者、研究者としての海外調査旅行、シンポジウム参加などの様子が織り交ぜられてモンテーニュが語られている。どことなく退官記念の記念出版物のような、力の抜けた味わいがある。著者はクラシック音楽にも造詣が深く、…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】03. 荒木昭太郎訳で 3-13, 2-10 繊細な精神で清濁併せ呑むモンテーニュ

『エセー』最終章「経験について」(3-13)。モンテーニュ56歳に書いたことがうかがわれる記述が見える。病を得、身体の老いも目に見えてくるなか、いたずらに抵抗することなく、自身の運命とともに人生をゆっくり歩むことを、しずかに淡々と諭すように書…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】02. 荒木昭太郎訳で 3-9, 1-8, 1-4, 1-1 むなしさが似つかわしくないモンテーニュ

ひきつづき中央公論社『世界の名著 19 モンテーニュ』荒木昭太郎訳。 空しさについて、自分を対象にして思いをめぐらすと、空しさに暴れまわられてしまうので気をつけないといけないと思っている。充実感がないこと、無能さに目が向いてしまうことなど、こう…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】01, 荒木昭太郎訳で 1-50, 3-8 本を読むモンテーニュを読む

モンテーニュの『エセー』つまみ食い資料をつくったので、自分でも利用してみる。完訳本を用意すると全部読まなくちゃいけないという圧がかかってきそうなので、抄訳本で読みはじめる。中央公論社『世界の名著 19 モンテーニュ』荒木昭太郎訳。『エセー』全…

モンテーニュの『エセー』読書資料(つまみ食いのすすめ) 日本語訳者三名の訳業を目次ベースでマッピング(資料コア部分をCSV形式で)

モンテーニュの『エセー』の訳者毎の目次ベースのcsv形式資料。日本語訳で、つまみ食いしやすいようにするための資料。 ※2021.02.07時点では、宮下志朗、原二郎、荒木昭太郎の三訳者の訳業データで構成※宮下訳と原・荒木訳とでは第一巻の章立て配列に違いが…

モンテーニュの『エセー』読書資料(つまみ食いのすすめ) 日本語訳者三名の訳業を目次ベースでマッピング(表形式)

モンテーニュの『エセー』の訳者毎の目次ベースの表形式資料。日本語訳で、つまみ食いしやすいようにするための資料。 ※2021.02.07時点では、宮下志朗、原二郎、荒木昭太郎の三訳者の訳業データで構成※宮下訳と原・荒木訳とでは第一巻の章立て配列に違いがあ…

原二郎『モンテーニュ 『エセー』の魅力』(岩波新書 1980, 特装版 岩波新書・評伝選 1994) 正統的評伝によるモンテーニュの思想入門

現在最新の宮下志朗の一代前の『エセー』完訳者、一番流通しているであろう岩波文庫版『エセー』翻訳者によるモンテーニュの評伝。生涯と思想という括りできっちり語られているので、重量感はこちらのほうが宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』…

宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』(岩波新書 2019) 執筆期間20年、総ページ数2400超の『エセー』をゆるくつまんでみませんかという訳者からのお誘い

宮下志朗は『エセー』のあたらい翻訳者。みすず書房の抄訳、白水社の全訳を経ての、岩波新書での導入ガイド。しっかりした分量の引用が多く、解説もしっかりしているので、いいとこどりの名所ツアーに参加しているような気分になる。宮下志朗も親しみやすい…

森村泰昌『「美しい」ってなんだろう 美術のすすめ』(理論社 よりみちパン!セ 2007)美術家という変わった職業の内幕を覗く

かつて理論社の「よりみちパン!セ」ホームページで連載されていたものの書籍化。中高生を中心に美術の見方をレクチャーする一冊。「西洋美術史になった私」「日本美術史になった私」「女優になった私」など過去の絵画作品や人物に扮したにセルフポートレイ…

茨木のり子+長谷川宏『思索の淵にて 詩と哲学のデュオ』(近代出版 2006, 河出文庫 2016)哲学成分が少ないデュオだけど長谷川宏が楽しんでいる様子がうかがえるいい本

ヘーゲルの新しい翻訳者として高い評価を得ている長谷川宏。全共闘活動に参加した後、大学に所属せず塾を営み生計を立てることを選択した経験が、茨木のり子の詩にあわせて語られている。編集者の桑原芳子も注文していたように「もっと哲学的に思索してくだ…

エルンスト・ブロッホ『異化』(原書 異化Ⅰ ヤヌスの諸像 1962, 異化Ⅱ ゲオグラフィカ 1964, 白水社 1986)はっきりしないものに輪郭を与え、キツイものを揉みほぐす言葉の力

度重なる亡命と異国の地での生活のなかで希望と現在を語りつづけた異能の思索者、エルンスト・ブロッホ(1885 - 1977)。ナチス活動期ドイツでのユダヤ人という、これ以上ない苦難苦境の中にありながら、軽さを決して失うことのない文章の数々は、書かれた内…

希望の思想家、エルンスト・ブロッホ「希望は失望させられることがあるか」(テュービンゲン大学開講講義,1961 『異化Ⅰヤヌスの諸像』収録 原書1962, 白水社 1986)

エルンスト・ブロッホは異化の思想家であるとともに希望の思想家でもあった。それぞれの思想を語る際に共通しているのは、世界が変容する現在の現われに対して明晰な視線を投げかけているところ。 希望は、自由の王国と呼ばれる目的内容に従いつつ、投げやり…

佐々木健一『美学への招待 増補版』(中公新書 2004, 2019) デュシャンのレディーメイド以降の美の世界をちゃんとうろつきたい市民層のためのガイド

お金は持っていないので購入という究極の評価の場には参加できないし、技術もコンセプトもないため供給側に立つこともできないけれども、なんとなく美術は好きという人のために書かれた美についての現代的な理論書。 センスなんてものは自分に一番しっくりし…

高畑勲『一枚の絵から 海外編』(岩波書店 2009) 先行作品との出会いがつくり出すあらたな制作欲に出会う時間

日本編と同時発刊の海外編。一冊での刊行であれば編集も変わってきたであろうが、日本で500ページ超の書籍を刊行するのは相当難しいことなのだろう。収録エッセイはスタジオジブリの月刊誌『熱風』におけるおもに絵画作品に関する連載がベースになってお…

高畑勲『一枚の絵から 日本編』(岩波書店 2009)日本のアニメの巨匠の眼を借りて観る日本の絵画と工芸品

高畑勲は言わずと知れた日本のアニメータ。私は彼の手掛けたテレビアニメを再放送で見た世代。『アルプスの少女ハイジ』『フランダースの犬』『母をたずねて三千里』など。個人的にいちばん高畑勲っぽいなと感じるのは『じゃりン子チエ』か。映画だと『ホー…