読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

エッセイ

アンスガー・アレン『シニシズム』(原著 2020, 監修:上野正道, 訳:彩本磨生 ニュートンプレス 2021, Newton新書 2022)

ディオゲネスから現代まで、シニシズムの原初的形態から中世、近世、現代までの様相と社会的な意味を概観できる著作。多くの言語に翻訳されている著作で、目次を見ただけでもなかなか本格的で読みごたえのある著述であることは予想もでき、実際に最後まで興…

『高橋順子詩集』(思潮社現代詩文庫163 2001)

長く出版社に勤め慎ましやかな生活を送りながら独り詩を作り集まって連句を巻いていたところに、40代もおしつまった1993年、小説家の車谷長吉と結婚し共同生活をはじめたことで作風が変わっていくのがよく見える詩選集。小説家の夫が強迫神経症に陥っ…

ジェイムズ・ロード『ジャコメッティの肖像』(原著 1965, 訳:関口浩 みすず書房 2003)

ジャコメッティ晩年の63歳、胃がん手術明けの年、1964年9月12日から10月1日までの18日間に、パリのアトリエにおいて美術評論家でエッセイストのアメリカ人ジェイムズ・ロードをモデルとして油彩作品を制作した際の記録。初日からモデルがパリ…

ジャン・ジュネ『アルベルト・ジャコメッティのアトリエ』(現代企画室 鵜飼哲編訳 1999)

ジュネの芸術論6篇。レンブラント2篇、ジャコメッティ、綱渡り芸人でジュネの恋人だったアブダラへのメッセージ、犯罪少年たちへ向けたラジオ原稿、演劇論。貧しさと闇を抱えているがゆえに異彩を放ちつづける者たちへの讃歌。既成の枠組みを支える世俗的…

『エマニュエル・トッドの思考地図』(筑摩書房 2020)

近未来における歴史的変換についての予測が多く当たることで有名なフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド。日本でもっとも注目される学者のひとりであるそのエマニュエル・トッドが,コロナ禍真っ只中の日本で発信した思考指南書。刊行時69歳、自ら…

足立和浩『知への散策 <現代思想入門>』(夏目書房 1993)

先日ジル・ドゥルーズの『ニーチェと哲学』(原著 1962, 国文社 1974)をちょっとした永遠回帰の実践のつもりで足立和浩訳で久方ぶりに読んでみた。現在流通している訳書は河出文庫の江川隆男訳(2008)だが、珍しく学生時代に購入した書籍が残っていて、そ…

ウォルター・ペイター『ルネサンス』(1873, 1893)ほか 筑摩書房『ウォルター・ペイター全集1』(2002)

150年ほど前に刊行されたウォルター・ペイターの唯美主義の書『ルネサンス』は美術や文芸の世界にスキャンダルを巻き起こし、ペイターの学者としての道や文筆家としての活動に困難さをもたらすことになった著作であるとともに、世紀末芸術を加速させると…

ロラン・バルト『記号の国』(原著 1970, 石川美子訳 みすず書房 ロラン・バルト著作集7 2004)

バルトが1966年から1967年にかけて三度日本を訪れたことをきっかけに書かれた記号の国としての日本讃歌の書。 日本的とされるエクリチュール(書字、書法、表現法)の実体にとらわれない空虚さの自由度に感応したバルトの幻想紀行的小説風テクスト。…

コンラート・ローレンツ『文明化した人間の八つの大罪』(原著 1973, 日高敏隆+大羽更明訳 思索社 1973)

私が生まれた1971年の世界の人口は37憶、今年2023年は80憶を超えているという。50年で倍増、40億人増加している。西暦1000年時点では2億人くらいだそうだから、世界の様相が変わっていかないほうがおかしい。人口過剰と言われつつ世界…

ロラン・バルト『美術論集 アルチンボルドからポップ・アートまで』(原著 1982, 沢崎浩平訳 みすず書房 1986)

再読。 二十数年ぶり。 当時と今とで最も変わったことは、ネット環境の充実によってバルトが論じている作家の作品を手軽に高解像度で閲覧できるようになったこと。 図版が十分でなくとも、スマホ片手に検索しながら、バルトが見ていたであろうものを確認しつ…

小海永二訳『アンリ・ミショー全集』2(青土社 1986)

アンリ・ミショーの後半生(一九五四~一九八五)の主要な詩集および詩的エッセー集を集めた全集第二巻。以下七冊分を収録している。 閂に向きあって 1954 55歳夢の見方・眼覚め方 1969 70歳様々の瞬間 1973 74歳逃れゆくものに向きあって 1975 76歳角の杭 1…

鶴岡善久『アンリ・ミショー 詩と絵画』(沖積舎 1984)

小海永二と同じくアンリ・ミショーの特異な隠者性に魅かれて詩と絵画の世界を探求した詩人鶴岡善久によるアンリ・ミショー論。多くの詩が引かれ、そこにあらわれたイメージについて語られることが多いので、詩と絵画双方を論じていながら、ミショーの絵画の…

ジャン・デュビュッフェ『文化は人を窒息させる デュビュッフェ式<反文化宣言>』(原著 1968, 杉村昌昭訳 人文書院 2020)

戦後の20世紀を代表するに足るフランスの異端的芸術家による芸術論であり闘争的宣言書。権威筋による既成の価値観に従順な表現は、有用性を付与されるかわりに、特権的ではあるが支配体制に絡め取られ飼い慣らされてしまっている規格化され抑圧的にはたら…

ライアル・ワトソン『ネオフィリア 新しもの好きの生態学』(内田美恵訳 筑摩書房 1988, ちくま文庫 1994)

宇宙の奇妙さ、地球の奇妙さ、生命の奇妙さに科学者的視点から迫ろうとする知的興奮に満ちたエッセイ集。神秘現象と見なされるような事象に対しても、いたずらにタブー視するのでもなく、かといって無闇にまつりあげるのでもなく、実験と観測データから合理…

森田真生『数学する身体』(新潮社 2015、新潮文庫 2018)

数学を専門にしていない人にも開かれた数学と数学する人をめぐっての軽快かつ情緒のある世俗批評。チューリングと岡潔がメインだか、その前段で語られる数学の形式化と基礎づけに関する危機の歴史の語り方が興味深い。数を数える数学の発生にはじまり、心と…

ヤマザキマリ『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』(集英社新書 2015)

マンガ家でエッセイストのヤマザキマリは17歳から単身イタリアに渡って油絵と美術史を学んだ筋金入りの美術専門家であり美術愛好家である。現在もイタリア在住で、主にイタリアでの日常的な芸術体験がもとになった精神の自由をうたいあげる知性の輝きがま…

岡井隆『文語詩人 宮沢賢治』(筑摩書房 1990)と宮沢賢治の文語定型詩

宮沢賢治は短歌から表現活動をはじめ、最晩年は病の中文語詩に集中していた。本書は、童話作品や心象スケッチ『春と修羅』などの口語作品に比べて読まれることの少ない賢治の文語作品は賢治にとってどのような意味があったのか、また、賢治の文語作品が書か…

谷口江里也『ドレのロンドン巡礼 天才画家が描いた世紀末』(ドレの原作 18872, 講談社 2013)

地上に縛られることのない高貴さの象徴としての天使の素足と地上で虐げられた生活を強いられていることの悲惨さのあらわれとしての貧民の靴を履けない裸足。その両極の間に、貴族上流階級の着飾った姿に履かれるブーツ(女性は衣装のため靴は見えない)と労…

石原八束『三好達治』(筑摩書房 1979)

俳人石原八束はすでに飯田蛇笏主宰の「雲母」の編集に携わっていた1949年30歳の時に詩人三好達治に師事することになり、1960年から詩人の死の年まで三好達治を囲む「一、二句文章会」を自宅にて毎月開催していた。 本書は昭和50年代に各所に発表…

石原八束『駱駝の瘤にまたがって ――三好達治伝――』(新潮社 1987)

生前の三好達治の門下生として親しく交流した俳人石原八束による三好達治の伝記評伝。 散文の表現能力に秀でている石原八束によって再現される三好達治は、生身の三好達治に限りなく近い像を与えてくれていることは疑いようもないことではあるのだが、昭和初…

ジャコモ・レオパルディ『断想集』(國司航佑訳 幻戯書房 2020)

本日12月9日は106回目の漱石忌。レオパルディの『断想集』からの引用がある漱石の『虞美人草』の該当箇所である第15話と第17話の抜粋が併録されていたために、はからずも知ることとなった忌日。漱石が亡くなったのは49歳。『虞美人草』は職業作…

高橋睦郎『百枕』(書肆山田 2010)

百枕はももまくらと読む。2007年7月から30ヶ月にわたって俳句雑誌に連載された三百三十三の句作と、枕の字を含んだ語句をめぐって博覧強記から自在に紡がれる縦横無尽なエッセイで構成された書物。すべての句に枕の文字が入り、エッセイもそれらの句…

粟津則雄『ダンテ地獄篇精読』(筑摩書房 1988)

山川丙三郎の文語訳(1914-1922)ダンテ『神曲』を導きの糸として取り入れていたのは大江健三郎の代表作のひとつ『懐かしい年への手紙』(1987)。本書はその翌年に出版された地獄篇のみの読み解き本で、寿岳文章訳(1974-76)の訳業に大きくインスパイアされてい…

ロジェ・カイヨワ『石が書く』(原著 1970, 訳:菅谷暁/ブックデザイン:山田英春 創元社 2022)

図版だけ眺めているだけでも楽しめる、カイヨワの石コレクションをベースにつくりあげられた、石にひそむ記号探索の書。風景石、瑪瑙、セプタリア(亀甲石)、ジャスパー(碧玉)などの自然石にあらわれる形態が、想像力を刺激して連想類想を生む不思議を十…

ロジェ・カイヨワ『蛸 想像の世界を支配する論理をさぐる』(原著 1973, 塚崎幹夫訳 青土社 2019, 中央公論社 1975)

蛸のイメージの変遷を、古代神話からロマン派の空想世界の魔物を経て現代の合理的解釈と精神分析的解釈まで概観し、物に対して想像力が働く様相を明らかにしていく、関心領域の広いカイヨワならではの類を見ない思索の結晶。蛸に親しみを抱いて文化に取り込…

ロジェ・カイヨワ『アルペイオスの流れ 旅路の果てに <改訳>』(原著 1978, 法政大学出版局 2018)

ロジェ・カイヨワが亡くなった年に刊行された、自伝的エッセイ。死を予感しながら、生い立ちから最晩年までを振り返る作品は、静かな諦念とともにとても慎み深い仕草で自身の仕事を評価再確認している。文体にあらわれる表情には、落ちつきのある弱さが浸透…

E・M・シオラン『四つ裂きの刑』(原著 1979, 法政大学出版局 金井裕訳 1986)

現世を拒否し世俗を厭うシオランの老年期の断片・アフォリズム集。この世を厭い、自殺が唯一の解決策であると何度も明言しながら、折々の自殺であるような文章を際限なく書き出していくことで、死からも逃れ、どこでもない場所を切り拓いていくようなところ…

シオラン『敗者の祈禱書』(原著 ルーマニア語1940-44, フランス語訳 1993, 法政大学出版局 金井裕訳 1996, 2020)

独軍占領下のパリでシオランが綴った母語ルーマニア語での最後の著作。本書以降はフランス語での著述に切り替わる。生まれたことへの呪詛と、生きることの苦痛、倦怠、嫌悪を一貫して書きつづけたシオラン。本書は章題を持たない70の断章からなっていて、…

アリエル・シュアミ&アリア・ダヴァル『スピノザと動物たち』(原著 2008, 大津真作訳 法政大学出版局 2017)

スピノザの主要テクストや書簡から動物や虫やキマイラなどに関する言及を切り出して、多くのイラストとともに編集構成しながら、スピノザ思想の核心的部分を軽快にめぐっているユニークな著作。スピノザ思想の入門書の体裁をとっているが別世界案内のムック…

シオランをまとめて読んでみた

無感動状態であるというわけではないと思っているのだが、シオランのアフォリズムには、本当のところ心が動かない、現時点での私には響いてこない。断章形式ということもあって、それほどストレスなく、いくらでも読もうと思えば読めてしまうのだが、不思議…