読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

エッセイ

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】02. 荒木昭太郎訳で 3-9, 1-8, 1-4, 1-1 むなしさが似つかわしくないモンテーニュ

ひきつづき中央公論社『世界の名著 19 モンテーニュ』荒木昭太郎訳。 空しさについて、自分を対象にして思いをめぐらすと、空しさに暴れまわられてしまうので気をつけないといけないと思っている。充実感がないこと、無能さに目が向いてしまうことなど、こう…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】01, 荒木昭太郎訳で 1-50, 3-8 本を読むモンテーニュを読む

モンテーニュの『エセー』つまみ食い資料をつくったので、自分でも利用してみる。完訳本を用意すると全部読まなくちゃいけないという圧がかかってきそうなので、抄訳本で読みはじめる。中央公論社『世界の名著 19 モンテーニュ』荒木昭太郎訳。『エセー』全…

モンテーニュの『エセー』読書資料(つまみ食いのすすめ) 日本語訳者三名の訳業を目次ベースでマッピング(資料コア部分をCSV形式で)

モンテーニュの『エセー』の訳者毎の目次ベースのcsv形式資料。日本語訳で、つまみ食いしやすいようにするための資料。 ※2021.02.07時点では、宮下志朗、原二郎、荒木昭太郎の三訳者の訳業データで構成※宮下訳と原・荒木訳とでは第一巻の章立て配列に違いが…

モンテーニュの『エセー』読書資料(つまみ食いのすすめ) 日本語訳者三名の訳業を目次ベースでマッピング(表形式)

モンテーニュの『エセー』の訳者毎の目次ベースの表形式資料。日本語訳で、つまみ食いしやすいようにするための資料。 ※2021.02.07時点では、宮下志朗、原二郎、荒木昭太郎の三訳者の訳業データで構成※宮下訳と原・荒木訳とでは第一巻の章立て配列に違いがあ…

原二郎『モンテーニュ 『エセー』の魅力』(岩波新書 1980, 特装版 岩波新書・評伝選 1994) 正統的評伝によるモンテーニュの思想入門

現在最新の宮下志朗の一代前の『エセー』完訳者、一番流通しているであろう岩波文庫版『エセー』翻訳者によるモンテーニュの評伝。生涯と思想という括りできっちり語られているので、重量感はこちらのほうが宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』…

宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』(岩波新書 2019) 執筆期間20年、総ページ数2400超の『エセー』をゆるくつまんでみませんかという訳者からのお誘い

宮下志朗は『エセー』のあたらい翻訳者。みすず書房の抄訳、白水社の全訳を経ての、岩波新書での導入ガイド。しっかりした分量の引用が多く、解説もしっかりしているので、いいとこどりの名所ツアーに参加しているような気分になる。宮下志朗も親しみやすい…

森村泰昌『「美しい」ってなんだろう 美術のすすめ』(理論社 よりみちパン!セ 2007)美術家という変わった職業の内幕を覗く

かつて理論社の「よりみちパン!セ」ホームページで連載されていたものの書籍化。中高生を中心に美術の見方をレクチャーする一冊。「西洋美術史になった私」「日本美術史になった私」「女優になった私」など過去の絵画作品や人物に扮したにセルフポートレイ…

茨木のり子+長谷川宏『思索の淵にて 詩と哲学のデュオ』(近代出版 2006, 河出文庫 2016)哲学成分が少ないデュオだけど長谷川宏が楽しんでいる様子がうかがえるいい本

ヘーゲルの新しい翻訳者として高い評価を得ている長谷川宏。全共闘活動に参加した後、大学に所属せず塾を営み生計を立てることを選択した経験が、茨木のり子の詩にあわせて語られている。編集者の桑原芳子も注文していたように「もっと哲学的に思索してくだ…

エルンスト・ブロッホ『異化』(原書 異化Ⅰ ヤヌスの諸像 1962, 異化Ⅱ ゲオグラフィカ 1964, 白水社 1986)はっきりしないものに輪郭を与え、キツイものを揉みほぐす言葉の力

度重なる亡命と異国の地での生活のなかで希望と現在を語りつづけた異能の思索者、エルンスト・ブロッホ(1885 - 1977)。ナチス活動期ドイツでのユダヤ人という、これ以上ない苦難苦境の中にありながら、軽さを決して失うことのない文章の数々は、書かれた内…

希望の思想家、エルンスト・ブロッホ「希望は失望させられることがあるか」(テュービンゲン大学開講講義,1961 『異化Ⅰヤヌスの諸像』収録 原書1962, 白水社 1986)

エルンスト・ブロッホは異化の思想家であるとともに希望の思想家でもあった。それぞれの思想を語る際に共通しているのは、世界が変容する現在の現われに対して明晰な視線を投げかけているところ。 希望は、自由の王国と呼ばれる目的内容に従いつつ、投げやり…

佐々木健一『美学への招待 増補版』(中公新書 2004, 2019) デュシャンのレディーメイド以降の美の世界をちゃんとうろつきたい市民層のためのガイド

お金は持っていないので購入という究極の評価の場には参加できないし、技術もコンセプトもないため供給側に立つこともできないけれども、なんとなく美術は好きという人のために書かれた美についての現代的な理論書。 センスなんてものは自分に一番しっくりし…

高畑勲『一枚の絵から 海外編』(岩波書店 2009) 先行作品との出会いがつくり出すあらたな制作欲に出会う時間

日本編と同時発刊の海外編。一冊での刊行であれば編集も変わってきたであろうが、日本で500ページ超の書籍を刊行するのは相当難しいことなのだろう。収録エッセイはスタジオジブリの月刊誌『熱風』におけるおもに絵画作品に関する連載がベースになってお…

高畑勲『一枚の絵から 日本編』(岩波書店 2009)日本のアニメの巨匠の眼を借りて観る日本の絵画と工芸品

高畑勲は言わずと知れた日本のアニメータ。私は彼の手掛けたテレビアニメを再放送で見た世代。『アルプスの少女ハイジ』『フランダースの犬』『母をたずねて三千里』など。個人的にいちばん高畑勲っぽいなと感じるのは『じゃりン子チエ』か。映画だと『ホー…

【中井正一を読む】07. 読書資料 全集収録データ(全集掲載順、発表年代順、CSV)

|【全集収録データ(全集掲載順)】|【全集収録データ(発表年代順)】|【全集収録データ(CSVデータ)】 【全集収録データ(掲載順)】 題名 掲載誌 発表年月 全集 全集掲載順 その他 模写論の美学的関連 『美・批評』 1934.05 全1 1 Subjektの問題 『思想…

【中井正一を読む】06. 久野収編『中井正一全集4 文化と集団の論理』(美術出版社 1981)否定を媒介としての超脱、身心脱落ののちにあらわれる美しい安心の世界

雑誌の巻頭言や新聞のコラムを多く集めた全集第4巻は、岩波文庫の『中井正一評論集』を編集した詩人の長田弘の作品といわれても疑わずに受け入れてしまえるような詩的な文章が多く収められている。 真実は誤りの中にのみ輝きずるもので、頭の中に夢のごとく…

【中井正一を読む】05. 久野収編『中井正一全集3 現代芸術の空間』(美術出版社 1981)酷さをつくりだしたのは人間、素晴らしさをつくりだせたのも人間

何ものかがあると自覚し驚いた人間という器に注がれ溢れるものの運動と、それを共振しながら受けとめている人間の時間と空間の有りように、あらためて眼を向けさせてくれる中井正一の美をめぐっての思想。 宇宙の中に、宇宙をうつす新しい宇宙を、人類だけが…

【中井正一を読む】03. 久野収編『中井正一全集1 哲学と美学の接点』(美術出版社 1981)組織の美、機能美を語る美学者の出発点

1937年治安維持法違反によって検挙される以前の反ファシズムの同人誌、雑誌に発表された論文が多くを占める。時代的なものと京大周辺の研究者を対象読者層としているところから、その表現は熱いが硬く、なかなか読み取りづらい文章である。参照しているドイ…

【中井正一を読む】01. 長田弘編『中井正一評論集』(岩波文庫 1995)政治経済の歴史とともに語られる美学の歴史

2020年現在、中井正一に触れるには一番スタンダードな一冊。詩人の長田弘が編纂しているところに個人的には興味があった。「どんな関係性?」という興味。先に解説を読んでも長田弘は自分のことは語っていないので疑問は残ったまま。あきらめてはじめから順…

松岡正剛『にほんとニッポン 読みとばし日本文化譜』(工作舎 2014) 「山と海が常世であるならば、その間にある野は無常の世であった」、日本。

松岡正剛の既刊書籍と「千夜千冊」サイトからの日本しばり引用リミックス。一般的な日本史、日本論では出会わないことばにつぎつぎ出会える一冊。出し惜しみなし。いいとこ、つまみ食い。 阿弥号は、もともと時宗の徒すなわち時衆であることを示す名号(みょ…

唐木順三『無常』(筑摩叢書 1965 ちくま学芸文庫 1998)日本的詩の世界の探究

赤子の世界、無垢なる世界は、美しいが恐ろしい。穢れ曇ったものが触れると、穢れや曇りが際立ってしまう。そして、在家の世界で赤子のままでずっといられる万人向けの方法など探してみても、どうにもなさそうなので、せめて先人の行為の跡に触れようと、と…

宮下規久朗『モチーフで読む美術史2』(ちくま文庫 2015) 喪失者による虚飾のない仕事。人の心を動かす美術の力へのまなざし。

2013年の『モチーフで読む美術史』につづく文庫版オリジナル著作第二弾。あらたに50のモチーフから美術作品を読み解いていく、小さいながらも情報量の多い作品。 著者である宮下規久朗は、前作『モチーフで読む美術史』の校了日に一人娘を22歳の若さ…

ゲオルク・ジンメル『ジンメル・エッセイ集』 川村二郎編訳 (平凡社ライブラリー 1999)アドルノやベンヤミンに影響を与えたエッセイのスタイルと切れ味の良い文章

哲学者・社会学者としての論文や講義録にもジンメル節と言っていいようなことばの選択が匂い立つことはままあるのだが、一般読者層に向けて書かれたジンメルの哲学的エッセイは文化や芸術を鮮やかに扱っていて、より一層書き手の個性が際立って、文章自体が…

宮下規久朗『モチーフで読む美術史』(ちくま文庫 2013) とりあわせにも著者の魂がこもる一冊。たとえば蝶はジェラール「クピドとプシュケ」応挙「百蝶図」コールテ「セイヨウカリンと蝶」

見開き2ページのコラムにカラー図版2ページの体裁で、66の絵画モチーフについて取り上げた美術書。1000円を切った価格で、ほぼすべての図版がカラーというのはとても贅沢。コラムには絵画モチーフについての基本的な情報と、モチーフにまつわる雑学…

【ジンメルの社会学を読む三連休】03.寝落ちで連休終了 大作1件読了も始まり感のほうが大きい

18:30、『社会学』下巻読了後、食料品買い出し、夕食、晩酌。『文化論』読みながら21:00くらいに寝落ち。4:30くらいに目が覚める。予定の90%くらいの進捗だが、なんとなく満足しているような幸福感とともに目覚める。めずらしい。自己満足…

【ジンメルの社会学を読む三連休】02.越境の能力者、ゲオルク・ジンメル

論文とエッセイ、科学と芸術、学問と商業文芸。社会学者としてのゲオルク・ジンメルの本業は私が提示したカップリングの前者、著述家としての本質は後者にあるのかなと考える。位置づけがしづらい人物である分、学問的評価が若干厳しめに推移しているような…

【ジンメルの社会学を読む三連休】01.第一印象 生気論つながりは関係なく、ジンメルはおだやかなドゥルーズ=ガタリのような感じ

ゲオルク・ジンメルもドゥルーズ=ガタリもちゃんと読んでいるわけではないので一読者の勝手な印象でしかないのだが、ジンメルはおだやかなドゥルーズ=ガタリ(且つガタリ弱め)のような感じがしていて、咀嚼するのに大変なところはあるものの、いろいろお…

【ジンメルの社会学を読む三連休】00.準備 読みきれないかもしれないくらいの分量として五冊を用意

三日連続の休みなので、社会学をまとめて読もうかと・・・ 二クラス・ルーマンも候補にあったけれど、資料が集まらず、ゲオルク・ジンメルに決定。 1.『社会的分化論 社会学的・心理学的研究』(1890) 石川晃弘, 鈴木春男 訳 (中央公論社 世界の名著 47 196…

ウンベルト・エーコ 編著『醜の歴史』(原書 2007, 川野美也子訳 東洋書林 2009)醜は美よりも多様で複雑で個性的で且つ身近な現実

言葉にするとはしたないことになってしまうけれども、興奮状態でいたいというのは近代生活においては基本的な性向となっているに違いない。倦怠でさえ興奮の対象としてボードレールを一つの頂点としてさまざまな詩人たちによって悪魔的に描出されている。 醜…

アントナン・アルトー『神の裁きと訣別するため』( 原書1948 河出文庫 2006 )「器官なき身体」を「腑抜け」が読む

アルトー最晩年のラジオ劇『神の裁きと訣別するため』関連の文章(宇野邦一訳)と『ヴァン・ゴッホ 社会による自殺者』(鈴木創士訳)の最新訳カップリング。 心身の不調と経済的苦境によって死にまで追い詰められた二人の人物。近い親族にいたとしたらやは…

岡崎乾二郎『近代芸術の解析 抽象の力』(亜紀書房 2018)技術で見えてきたものによって変わる人間の認識と作品制作。マティス以後の抽象絵画を中心に

素朴な画家と勝手に思い込んでいた熊谷守一が、同業者からは一目置かれる理論派で当時の最先端美術にも通じ、なおかつ海外の代表的な作家の作品にも通底し且つ質において匹敵するする作品を晩年まで作成し続けていたという指摘に、目を洗われる思いがした。…