スピノザ
スピノザの主要三著作『神学・政治論』『エチカ』『政治論』(邦訳『国家論』)から、大衆各個人の情動を根底に構成される国家体制について思考する政治論を分析している。ホッブスとの自然権の譲渡と契約をめぐる差異、マルクスとの理論構築においての外的…
政治哲学・社会思想史を専門とする哲学者浅野俊哉のスピノザ論。主として第二次世界大戦前後にかけてスピノザの思想を語った思想家6名について検討しながら、スピノザの現実的かつ根源的な思考の射程を浮かび上がらせる精緻な論考。20世紀の思想家の政治…
2014年の博士論文「本質と実在 ― スピノザ形而上学の生成とその展開」をベースに編み直された著者初の単著。慶応大学出なのに法政大学出版会というちょっと変わった期待のかけられ方を感じる著者で、あとがきによると、ライプニッツと中世哲学を専門領域とす…
ドゥルーズとガタリによる最後の共著『哲学とは何か』の詳細な読解。思考の「三大形式」である「哲学」と「科学」と「芸術」を「超越」を拒否する「内在」と「カオス」の概念との関係性からそれぞれ見極めていくスリリングな書物となっている。注を含めて6…
熱い探究心から出た過激な肯定の書物。「宇宙人であるかのごとく〈現在〉を見る異邦人」であることの追求の過程をめざましい17篇の論考を通して提示してくれている。 フーコーやスピノザのようにあたかも宇宙人であるかのごとく〈現在〉を見る異邦人の眼差…
2009年に受理された著者の博士論文『カヴァイエスにおける「操作」と「概念」――数学的経験における構造の弁証論的生成について』をベースに、カヴァイエス『構造と生成Ⅱ 論理学と学知の理論について』での解説と重複する部分を削除の上、加筆改訂した論考。…
「人間本性の変形や物の存在の価値転換」という革命を準備し実践するのが哲学の使命だとする江川隆男の2010年代の論考を中心に集めた一冊。大冊『アンチ・モラリア <器官なき身体>の哲学』(河出書房新社 2014)と『スピノザ『エチカ』講義 批判と創造…
アンチ・モラリアは21世紀のエチカを目指して書かれた江川隆男の主著。反道徳としての倫理を世界に打ち込む。「神の死」、「人間の死」につづく「世界の死」を実現するために。スピノザ、ニーチェ、ドゥルーズ=ガタリの著作を深く読み込みながら思考して…
中島隆博は千葉雅也の師であり松浦寿輝の弟子の位置にいる変わった感じの優秀な哲学者。東洋哲学、特に中国哲学を専門としている。老子とヘーゲルの組み合わせに憩っている感じのある2021年夏の私には、荘子とドゥルーズという組み合せや、孔子とドゥル…
16時前、思わぬ架電。出て見るとクレームの通知。身に覚えはないが、自分自身以外の共同行動者の振舞いを考えてみると該当者と問題行動がほんのり浮かび上がってくる。確認のため、こちらから連絡。先方の守秘義務以外の苦情に関わる情報をなるべくお聞か…
ソマティック・マーカー仮説(somatic marker hypothesis)のアントニオ・ダマシオ。脳だけじゃない脳科学。身体(遺伝子)―情動―感情。科学―哲学―心理学。デカルト、スピノザのほかにウィリアム・ジェームズも大きな存在感を示している。苦が生に対してもつ…
引越し後の一冊目はスピノザ。蔵書整理時にスピノザへの言及があるものを捨てられなかったことを確認できたため、楔の意味合いを込めて新居で何度目かの再読。 捨てられなかった本は的場昭弘『ポスト現代のマルクス ― マルクス像の再構成をめぐって ―』(お…
入門書というよりも現代思想系雑誌のヘーゲル特集号の書籍化といった趣きの強い一冊。書籍としての造りのまま素直に頭から読みすすめる前に、巻末268ページの執筆者紹介を一瞥しておくことをお勧めする。編者として名の上がっている今村仁司と座小田豊以…
ドイツ民族好きだからか、スピノザの心身並行論みたいな感じがする部分をハイデッガーはライプニッツからプラトニズムを排去しただけのものといって解説する。それとも単なる私の読みのまちがいか・・・ プラトンのパイドロス篇-幸福をもたらす離間における…
エマニュエル・レヴィナスの弟子筋の宗教哲学系の作者が綴った穏健なスピノザ解説書。前半で『神学・政治論』、後半で『エチカ』を概観する。本書でいちばん目を引いたのはスティーヴン・ナドラーの『スピノザ』から引用された、ユダヤ教会からの破門状「ヘ…
訳者でもある上村忠男が読み解くアガンベンの《ホモ・サケル》プロジェクト。高名な方であるのにかかわらず、瑞々しく真摯な執筆の姿勢に頭が下がる思いがする。 アガンベンの仕事をたどるなか、ベンヤミンからスピノザへ導かれるような感触もあったので、ス…
1632年、オランダ。フェルメールとスピノザが生まれたオランダ、デルフトでもうひとり、光とレンズの世界に没入する人物がいた。アントニ・ファン・レーウェンフック。顕微鏡の父、微生物の発見者。福岡伸一はフェルメールの『地理学者』『天文学者』のモデ…
中沢新一と斎藤環の助けを借りつつ、3.11以降の時代にハイデッガーの『放下』を読むという内容。『暇と退屈の倫理学』で示された余暇にバラを配置する手続きの前に、荒れた心も場も整えなければならないだろうという想いに駆られての論考と受け取った。 …
一貫して心身並行論から読み解くスピノザ『エチカ』十五講。日本のマーケットだけで収まってしまうには惜しい一冊。英訳、仏訳されて世界の読者層にも読んでもらいたい。 意志と結び付けて人間の自由を理解することは、道徳的思考のもっとも典型的で基本的な…
同じ年に生まれ、デルフトとハーグという近隣都市に住んでいたフェルメールとスピノザの、伝記的な出会いの可能性と、精神の近接性を描き上げた美しい書物。フェルメールのカメラ・オブスキュラのレンズを磨いたのがスピノザで、フェルメールの『天文学者』…
『野生のアノマリー スピノザにおける力能と権力』(1981)から30年たったところで出版されたネグリのスピノザ論集。会議での発表用テキスト四本に序章を追加した著作。口頭発表用の原稿とあって、味わいが濃いわりに、理解もしやすい。聴衆や読者の好奇心を…
本物の凄さが伝わる。無実の身で国家権力により投獄された中で書かれたスピノザ論。無神論者、唯物論者、脱ユートピアの思索者スピノザという視点。ホッブズ―ルソー―ヘーゲルの三人組に対立するマキャヴェッリ―スピノザ―マルクスの三人組を形づくる政治論者…
「説得というモーメントに引きずられている」デカルト(p141)と「説得に無関心で、説き伏せることのないスピノザ」(p355)という視点。 國分功一郎は『暇と退屈の倫理学』(2011 朝日出版社)でウィリアム・モリスを引きながら「人の生活はバラで飾られていな…
アメリカのスピノザ研究者による入門書。エチカを中心に情報をたくさん盛り込んだ書籍だが、入門書の一冊目として推薦できるかといえば、かなり難しい。著者がスピノザの思想に距離をとっており、興味付けという点では、むしろ逆効果となる懸念もある。岩波…
プロテスタント(長老派)で神学者の佐藤優さんは哲学者とくにスピノザが嫌い。マルクスはよくてスピノザはダメ。ライプニッツはよく引用しているので比較的好ましい哲学者に入りそう。どうしてなのかいまひとつ分からないが、スピノザを神学者としての第一…
ショーペンハウアー三十一歳の時に刊行された主著。とりあえず通読完了。厭世哲学といわれることも多いが、実作の印象はだいぶ異なる。外部なき世界を思索の対象としている哲学者ショーペンハウアーの根本は、ペシミズムもオプティミズムも超えて「世界はた…
ドゥルーズはスピノザの心身並行論に関して、身体の導入による意識の評価切り下げという視点を提示し、意識にならない無意識的な領域の存在を浮上させる。 この心身並行論の実践的な意義は、意識によって情念〔心の受動〕を制しようとする<道徳的倫理観(モ…
スピノザ二十七、八歳、後の『エチカ』に直結する論文。スピノザにとって神以外に存在はない。この「神即自然」の認識は例えば次の如く語られる。 神は内在的原因であって超越的原因でない。なぜなら神は一切を自己自身のうちに生じ自己の外に生じないからで…
アラン35歳の時の処女作。後年の縦横無尽なエッセイを予感させるものの、まだ生硬さがのこるはじまりの書。スピノザの心身合一説を敷衍した箇所はアランの本質を成すしなやかさがすでに垣間見えている。 われわれがもっている外的物体の観念は、外的物体の…
本書の興味深い点は、ヤスパースが《神即自然》の哲学者スピノザの静謐さに物足りなさを感じているところ。冷静なね、闘い方っていうのもあるのではないんですかね、と秘かに思いつつ、実存を語るヤスパースの熱さも注ぎ入れていただけることに感謝しながら…