読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

人文書

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】04. 宮下志朗訳『エセー抄』 隠居の思想

最新のエセー全訳のきっかけになった2003年のエセー抄訳。とにかく読みやすさを心がけたという訳文は、訳語の選択やひらがなの分量も現代的な心遣いに溢れている。確かに読みやすい。しかし、モンテーニュは16世紀の人間で、しかもどちらかといえば世…

丸山俊一+NHK「欲望の時代の哲学」制作班『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ  自由と闘争のパラドックスを越えて』(NHK出版新書 2020 )

GAFAはよくない、SNSはよくない、地球温暖化はよくない、プラスチックやビニールはよくない。ひどい世の中だけど、ひどくさせたのはほかでもない私たちだ。だから哲学して別の視点と思考を持つようにしよう。 うーん、人気があるのは威勢のいい語り口のため…

落合陽一を読み返す 『魔法の世紀』(2015)『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』(2018)

落合陽一の主著二作を読み返す。圧倒的計算力を基盤にした計算機主導の環境変革のありようが描出されている。言語よりも計算に信を置く立場ながら、言語で書かれた書籍としての完成度は高く、時代の動きに触れられる記念碑的な作品となっていると思う。イン…

宇野重規『トクヴィル 平等と不平等の理論家』( 講談社選書メチエ 2007, 講談社学術文庫 2019 )社会制度とともに変容する想像力と象徴秩序

『アメリカの民主主義』をメインに考察されるトクヴィルの思想。封建社会が崩れて民主主義が台頭し、抑圧されてきた庶民層が平等に考え発言することができるようになると、想像における自己像と現実の自己のギャップに苦しむことも可能になり、身を滅ぼして…

佐々木中『切りとれ、あの祈る手を 〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』(河出書房新社 2010)

『夜戦と永遠──フーコー・ラカン・ルジャンドル』の佐々木中の五日間十時間ぶんのインタビューを文字起こしした本。インタビューベースの本にしては資料引用などもしっかりしていてよく出来ている。本を読む熱量に翳りが出てきたときに読むと勇気づけられる…

時枝誠記『国語学原論 ―言語過程説の成立とその展開―』(上・下)(岩波書店 1941, 岩波文庫 2007)見えないもの聞こえないものを掴む思考力、「零記号の陳述」

自然科学的構造分析を用いるソシュール系の言語理論に対して、時枝誠記は言語は主体的な表現活動そのものであるとする「言語過程説」という立場に立つ。発話者と聴取者が必ず出て来るウィトゲンシュタインの言語ゲームの理論とも親和性があるようにも思える…

ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分 ―普遍経済学の試み』(原書 1949, 二見書房ジョルジュ・バタイユ著作集第六巻 生田耕作訳1973)余分なものの活用のしかたについての考察

普遍経済学三部作の第一作。断片的エッセイが多いバタイユの作品にあって、珍しく体系的な構造をもった作品。前日の見田宗介『現代社会の理論』や、ロジェ・カイヨワ『聖なるものの社会学』など、生産と消費のサイクルについて論じられる場合によく参照引用…

見田宗介『現代社会の理論 ―情報化・消費化社会の現在と未来―』(岩波新書 1996)バタイユの普遍経済学との共闘

『自我の起源』(1993年)につづく仕事。未来に残したいと著者が願っている七作品のうちの一作。見田宗介(真木悠介)は人に何と言われようとつねに希望のある書物を書こうとしていると決めているところがあるのだなと、複数作品を読みすすめるうちに感じる…

カール・ヤスパース『歴史の起源と目標』(原書 1949 理想社ヤスパース選集9 1964)人間と歴史はオープンエンド

世界同時的に古代の思想家があらわれた紀元前500年前後を枢軸時代という観点で提示した著作。枢軸時代の観点は著作全体におよんでいるが、特に第一部で重点的に取り上げられている。枢軸時代ははじめて「人間の生存が歴史として反省の対象となる」時代で…

森村泰昌『まねぶ美術史』(赤々舎 2010)若年:苦味という感覚の味わいの深さ

近現代美術界。商業的にひとりの美術家が成功すると、その周りにいたひとたちも同時に注目されるようになり、すこし潤う。知られず見られることもなかった状況から、共に見られる状況にすこし変わる。それぞれの作家への深入りは、あったりなかったりで、必…

筒井紘一『利休聞き書き 「南方録 覚書」全訳注』( 講談社学術文庫 2016, 講談社『すらすら読める南方録』2003 )時を得たもてなしの心と技

モンテーニュ(1533 - 1592)の『エセー』をつまみ食いしているなか、日本の同時代人が気になったので、千利休(1522 - 1591)の語録系の著作を読んでみた。現代から遠く離れた時代の生活感を感じるとともに、茶道などの知らない分野について書かれた古典的…

カルロス・カスタネダ『沈黙の力 意識の処女地』(原書 1987、二見書房 1990)知覚の障壁が破られるとき:理性と言語を超越する知の伝授について

社会学者の見田宗介(真木悠介)がカスタネダの世界を見る瑞々しい眼差しにインスパイアを受けたと言っていることを知り、かつドゥルーズ=ガタリが「器官なき身体」を語るにあたってカスタネダを肯定的に引用しているという情報も少し入ってきたために、だ…

オーギュスト・コント『ソシオロジーの起源へ』(原書 1854, 白水社 杉本隆司訳 2013)マルクス、ウェーバー、デュルケムも読んだ社会学の祖の著作

社会学者見田宗介(真木悠介)の本を三冊連続で読んだところで、社会学のはじまりを知っておくために社会学 sociologie という言葉自体の生みの親、オーギュスト・コントの著作を読んでみた。見田宗介の本にはウェーバーやデュルケムへの言及はあってもコン…

見田宗介『現代社会はどこに向かうか 高原の見晴らしを切り開くこと』(岩波新書 2018)「世界の有限性を生きる思想」を語る

貨幣による交易がはじまり世界が無限化したときに人々は衝撃をうけ、その空気感のもとではじめて哲学と世界宗教が生まれたというヤスパースの「軸の時代」という考えの延長上で、環境的にも資源的にも限界状況に踏み込んでしまった現代は、また別の「軸の時…

【お風呂でロールズ】05.『政治哲学史講義』ヒューム(講義Ⅰ~Ⅱ) 功利主義者としてのヒュームの政治思想

ホッブズ、ロックの社会契約説からヒュームとミルの功利主義へ講義は移る。自然法による原始の契約から効用の原理での合意選択へのイギリスの政治思想の流れをみながら、ロールズは経験主義哲学者でもあるヒュームの政治思想の面を、主にロックとの対比で語…

見田宗介『社会学入門 人間と社会の未来』(岩波新書 2006)二十一世紀以降のユートピアについての提言

2017年2月の6章改訂版以前の版での繙読。改訂前後の6章の目次を見る限り、2018年出版の『現代社会はどこに向かうか 高原の見晴らしを切り開くこと』で改訂分は補完可能(序章が改訂版6章と同一)。20世紀後半の人間増殖のピーク時と後続のピークアウト…

真木悠介『自我の起源 愛とエゴイズムの動物社会学』(岩波書店 1993, 岩波現代文庫 2008 ) 読むことの先に初めて出現するまばゆい世界

先日読んだ『戦後思想の到達点』収録の大澤真幸との対談で社会学者見田宗介(真木悠介)は後世に残したい仕事を七つ挙げていた。理論的なものとして『時間の比較社会学』『自我の起源』『現代社会の理論』『現代社会はどこに向かうか』の四点。その他で熱心…

頼住光子『正法眼蔵入門』(角川ソフィア文庫 2014)分節化した世界からの「脱落と現成」

2005年にNHK出版から刊行され、いまは絶版となってしまっている『道元 自己・時間・世界はどのように成立するのか』の増補改訂版の著作。全128ページの論考が231ページまで分量的にはほぼ倍増され、研究の深まり、論旨の繊細さもずいぶん増したように感じ…

ピエール・ブルデュー『自己分析 これは自伝ではない』という本人からの自伝的資料集成(原書 2004, 藤原書店 2011) 闘争の休止に対する願望と闘争への固執

敵と思うものが明確にいた。社会学者としての業績よりも、敵と思うものに対しての自身の立場の表明と抵抗こそが重要であった人生ではなかったのかなと思わせる、本人曰く「自伝ではない」、一個人の人生の社会学的資料集成であり、死の時まで推敲を重ねてい…

シリーズ・戦後思想のエッセンス『戦後思想の到達点  柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る』(NHK出版 2019 柄谷行人 、見田宗介、大澤真幸)抑圧の回帰と自由への飛翔

学恩に応えなければいけないという一世代下の大澤真幸の真っ正直な気持ちが見事に実を結んだ傑作対談集。 日本の知の世界を切り開いてきた先鋭二人の、それぞれ老い朽ちることのない孤高の歩みの根源にまで分け入ろうとする、準備の整った大澤真幸の態勢がす…

【お風呂でロールズ】02.『政治哲学史講義』ホッブズ(講義Ⅰ~Ⅳ+補遺) 教師がサービス業であることを思い出させてくれる講義

マイケル・サンデルの白熱教室のような討論形式の講義ではなく、オーソドックスな教授型の講義が目に浮かんでくるような講義録。特徴的なのは、ロールズの人柄がそうさせるであろうような誠実さと慎重さを基本にそえた論考の姿勢と、学生たちへ提供された資…

今村仁司+座小田豊 編『知の教科書 ヘーゲル』(講談社選書メチエ 2004) 入門から次の段階に進むときに力になってくれる複数の日本研究者によるヘーゲル論考集成。入門用教科書と思って買うと期待はずれになる可能性が高い

入門書というよりも現代思想系雑誌のヘーゲル特集号の書籍化といった趣きの強い一冊。書籍としての造りのまま素直に頭から読みすすめる前に、巻末268ページの執筆者紹介を一瞥しておくことをお勧めする。編者として名の上がっている今村仁司と座小田豊以…

モンテーニュの『エセー』読書資料(つまみ食いのすすめ) 日本語訳者三名の訳業を目次ベースでマッピング(資料コア部分をCSV形式で)

モンテーニュの『エセー』の訳者毎の目次ベースのcsv形式資料。日本語訳で、つまみ食いしやすいようにするための資料。 ※2021.02.07時点では、宮下志朗、原二郎、荒木昭太郎の三訳者の訳業データで構成※宮下訳と原・荒木訳とでは第一巻の章立て配列に違いが…

モンテーニュの『エセー』読書資料(つまみ食いのすすめ) 日本語訳者三名の訳業を目次ベースでマッピング(表形式)

モンテーニュの『エセー』の訳者毎の目次ベースの表形式資料。日本語訳で、つまみ食いしやすいようにするための資料。 ※2021.02.07時点では、宮下志朗、原二郎、荒木昭太郎の三訳者の訳業データで構成※宮下訳と原・荒木訳とでは第一巻の章立て配列に違いがあ…

エピクテトスの『語録 要録』(中公クラシックス 2011, 中央公論社『世界の名著13 キケロ/エピクテトス/マルクス・アウレリウス』1968 ) 清沢満之と読むエピクテトス

明治期真宗大谷派の突出した他力の宗教家たる清沢満之と、後期ストア派で奴隷出身という特異な出自を持つ哲学者「エピクテタス氏」との出会いに導かれて、エピクテトスの『語録 要録』を中央公論社『世界の名著』の抄訳で読んだ。新刊書店では中公クラシック…

原二郎『モンテーニュ 『エセー』の魅力』(岩波新書 1980, 特装版 岩波新書・評伝選 1994) 正統的評伝によるモンテーニュの思想入門

現在最新の宮下志朗の一代前の『エセー』完訳者、一番流通しているであろう岩波文庫版『エセー』翻訳者によるモンテーニュの評伝。生涯と思想という括りできっちり語られているので、重量感はこちらのほうが宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』…

【お風呂でロールズ】01.『政治哲学史講義』序論―政治哲学についての見解 リベラリズムの展開を支えた制御と制限

歴史上の階級間闘争のなかで政治的妥当を精査する層が変化していったということを、まずは序論で確認しておく。 リベラリズムの三つの主要な歴史的源泉は次に挙げるものです。第一に宗教改革、および一六世紀、一七世紀の宗教戦争。この戦争はまず、寛容と良…

【お風呂でロールズ】00.読書資料 2020年刊行の岩波現代文庫のジョン・ロールズ本、三冊

自由と平等を守り保つのがおそらく正義。しかしながら、自由と平等は相性があまりよくない。平等も、何時の誰の立場のどの部分どの範囲における平等かということで、定義も評価も変わってくる。徴税と再分配を司る国家行政運営部門にも取り分があり、そこが…

ヘーゲル『哲学入門』(ニュールンベルクのギムナージウムでの哲学講義 1809-1811, 武市健人訳 岩波文庫版第1刷 1952) 旧字で避けられてしまうのはもったいない優れた訳業

哲学界の大物ヘーゲルの著作にしては珍しくコンパクトにまとまっているこの著作の中身確認で、好奇心から1952年第1刷発行の岩波文庫ヘーゲル『哲学入門』の不特定ページを開いてみると、旧字の物々しさに「やっぱりダメかも」とたじろいでしまう人も多…

トニー・ジャット『荒廃する世界のなかで これからの「社会民主主義」を語ろう』(原書 2010, 森本醇訳 みすず書房 2010)語り方を変えてみましょうという誘い

コロナ禍でますます荒廃に拍車がかかりそうな世界のなかで、行動抑制下余裕ができた時間を使って、イギリスの歴史家の最後のメッセージを拝読。筋委縮性側索硬化症(ALS)が進行するなか、口述筆記で書かれたとは思えないほどの眼を見張る先行文献からの引用…