読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

和歌

『長秋詠藻』とコレクション日本歌人選063 渡邉裕美子『藤原俊成』(笠間書院 2018)

後鳥羽院をして理想の歌の姿だと言わしめた藤原俊成の歌であるが、実際に読んでみるとどの辺に俊成の特徴があるのかということはなかなか指摘しづらい。薫り高く華麗な読みぶりで、華やかであるとともに軽やかさがあるところに今なお新鮮味を感じさせるが、…

「伊勢集」とコレクション日本歌人選023 中島輝賢『伊勢』(笠間書院 2011)

王朝和歌の世界を決定づけた三代集第一の女性歌人は小野小町ではなく伊勢。小野小町は謡曲ほか様々な伝説として現代にまで残っているが、伊勢は伝説になるには輝かしすぎるほどの男性遍歴と子を残し、現実の裏付けのある恋歌と哀歌を残した。同時代歌人との…

コレクション日本歌人選045 高重久美『能因』(笠間書院 2012)

名利関係なしの本格的な数寄者、能因。歌に耽溺する人物は歴史上数多くいるとはいえ「能因歌枕」のような後世に大きな影響を与えるほどの著作を持つ歌人はなかなかいない、俗世間から離れ歌枕を訪ね歩く漂白の歌人として、後の西行や芭蕉に大きな影響を与え…

コレクション日本歌人選019 島内景二『塚本邦雄』(笠間書院 2011)

罌粟枯るるきりぎしのやみ綺語驅つていかなる生を寫さむとせし夢の沖に鶴立ちまよふ ことばとはいのちをおもひ出づるよすが 塚本邦雄主宰の歌誌「玲瓏」が創刊されたのが1986年(昭和61年、チェルノブイリ原発事故があった年)、邦雄66歳、島内景二31歳…

『西行全歌集』(岩波文庫 2013, 校注:久保田淳・吉野朋美)

岩波文庫で西行といえば、しばらく前までは佐佐木信綱校訂の『山家集』(1928)だったが、近年は西行歌の全体像に触れられる『西行全歌集』約2300首が新たに出ている。人気があってずっと読まれている歌人というのは、やはり恵まれている。『西行全歌集』…

塚本邦雄『西行百首』(講談社文芸文庫 2011)

西行嫌いを公言していた塚本邦雄が70歳を越えてから雑誌「歌壇」に二年間にわたって連載していた異色の西行評釈。百首のうち曲がりなりにも褒めているのは三分の一程度で、それ以外は完全に否定しているか、もしくはほかの歌人や西行自身のエピソードを語…

『堀河院百首和歌』(1105年頃成立 明治書院和歌文学大系15 2002)

はじめての大規模な組題百首和歌の集成で、後の世の百首詠の規範とされ、思ってもみないような文化的拘束力も生じるまでになった歴史的な業績。たとえば和歌に詠まれる千鳥が冬の景物として定着するようになったのは堀河百首で冬の題に入れられたことによる…

藤原俊成『古来風躰抄』(初撰本1197, 再撰本1201 小学館新編日本古典文学全集87 歌論 訳・校注有吉保 2002)

式子内親王(1149-1201)が『千載和歌集』編纂の仕事を終えた藤原俊成(1114-1204)に依頼して執筆されたものとされる歌論。一般に歌をどのように詠むのがよいかという趣意を書きあらわすことを、当時たいへん貴重であった紙を贈られるとともに要請された。…

『玉葉和歌集』(第十四勅撰和歌集 伏見院下命、京極為兼撰、1321年成立 明治書院和歌文学体系39、40 中川博夫著 2016,2020)

定家晩年の主張を引き継いだ平明流麗な歌を良しとする主流の二条派に対して、心のはたらきを重視し、それに見合う言葉を生み出すことを主張し、新たな和歌表現をもたらした、京極為兼を中心とする京極派が、京極派の歌人でもある伏見院が実権を握った時を見…

後鳥羽院応制『正治二年院初度百首』(1200, 明治書院和歌文学大系49 2016)

『新古今和歌集』(1205)編纂にに向けて当代の筆頭歌人23人に百首歌を詠進させ、後の世から見ればひとつの時代を画することとなった記念碑的な応制百首。 当初、俊成を擁する御子左家の歌人、殊に定家が詠進者の中に含まれていなかったところを、和歌の世界…

大岡信『うたげと孤心』(集英社 1978, 岩波文庫 2017)

岩波文庫では191ページ、「『梁塵秘抄』という平安末期の歌謡集があって」とはじまる後半三章の後白河院の伝統芸能としての今様への関わりを論じている部分は、前半の和歌に関する論考との繋がりに緊密さが欠け、読者としては腰折れ歌のような印象を持っ…

【八代集を読む 番外編その2-a】後白河院の歌-『千載和歌集』と『新古今和歌集』収録歌

後白河天皇が位につく前の評判といえば、今様狂いの文武ともに到底帝に相応しい人物ではないというのが通り相場であり、前帝の近衛天皇が若くして薨したために再燃された保元の乱にいたる宮廷内の勢力争いが顕在化しなければ、位に着くこともなかったであろ…

塚本邦雄『緑珠玲瓏館』(文藝春秋 1980)

藤原定家への挑戦の書『新撰小倉百人一首』と同じ年に刊行された著作。 西欧的高踏詩を短歌に移植することに成功し塚本美学のひとつの達成点とされる1965年刊行の第五歌集『緑色研究』から、自選の100首を掲げ、歌それぞれに新たな賛としての幻想増殖…

源実朝の『金槐和歌集』(1213年までに成立, 樋口芳麻呂校注 新潮日本古典集成44 1981)

和歌を読みはじめたのが数え14歳、その同じ年の1205年に完成したばかりの『新古今和歌集』を手にして耽読、自家薬籠中の物としていく。1209年には藤原定家から『詠歌口伝』を受領し、本歌取り中心の歌作法を学びながら、定家の教えに囚われない大…

吉本隆明『源実朝』(ちくま文庫 1990, 初出 筑摩書房「日本詩人選」12 1971)

勃興する武家社会の中心で、疎外されながら象徴としてだけ生きた実朝と、王朝文化と没落しつつある律令国家の位階制度の権威に、まだ辺境の地にあった東国から、憧れ続けた実朝を、もろともに取り上げた源実朝論。 12世紀末、東国武家社会における惣領制と…

塚本邦雄『新撰小倉百人一首』(講談社文芸文庫 2016, 文芸春秋社 1980)

塚本邦雄60歳の記念として、定家の「百人一首」を超える「百人一首」をと念じ、世に問うた一冊。『新古今和歌集』の象徴の美を愛し、『新勅撰集』や「百人一首」を「無味淡白、平懐単調」に憤りを感じている著者が、「百人一首」と同じ歌人同じ配列で、「…

塚本邦雄『新古今の惑星群』(講談文芸文庫 2020, 初出『藤原俊成・藤原良経』筑摩書房 1975)

元は筑摩書房の日本詩人選の第23巻。新古今集時代の歌人として藤原定家と後鳥羽院と式子内親王は別の巻別の作者によって刊行されているため、本書ではその三名と覗く代表的歌人七名、俊成・良経・家隆・俊成卿女・宮内卿・寂蓮・慈円について論じている。…

慈円『拾玉集』(明治書院 和歌文学大系 58,59 久保田淳監修 石川一・山本一著 上巻2008, 下巻2011)

慈円の家集。全五巻、全五八〇〇首余。当時の歌人のなかでは極めて多作、且つ、極めて高い質での即詠が可能であった稀な才能をもった人物。 慈円は、九条家出身で天台宗の最高位天台座主を四度務めた平安末期から鎌倉初期にかけての僧、ということに一般的に…

久保田淳校註『千載和歌集』(第七勅撰和歌集 後白河院1183年下命、1188年成立 岩波文庫 1986) 【八代集を読む その6】

第七勅撰和歌集編纂の院宣を下したのは後白河院で、後白河院といえば和歌よりも今様とのかかわりがまず頭に浮かぶ。保元・平治の乱ののちの平氏政権の最中に、『梁塵秘抄』を1169年に完成させ(五味文彦『絵巻で歩む宮廷世界の歴史』2021年の情報)、源…

【八代集を読む 番外編その1-a】崇徳院の歌-『詞花和歌集』

八代集を読みすすめるにあたって、崇徳院が1144年下命し1151年に成立した第六勅撰和歌集『詞花和歌集』から、王朝文化終焉と武家文化への転換を意識するようになる。1141年の崇徳天皇退位で顕在化した、天皇家内での後継争いと摂関家内での勢力…

工藤重矩校註『詞花和歌集』(第六勅撰和歌集 崇徳院1144年下命、1151年成立 岩波文庫 2020) 【八代集を読む その5】

第五勅撰和歌集『金葉和歌集』が1126年に成立してからわずか18年、新たな勅撰和歌集編纂の命が崇徳院により下され藤原顕輔が撰にあたることとなった。1129年に白河院が崩御、代わって政治的権限を鳥羽院が握ったのちは、白河院の子とも言われる崇…

松田武夫校訂『三奏本 金葉和歌集』(第五勅撰和歌集 白河院下命、1126年成立 岩波文庫 1938) 【八代集を読む その4】

第四勅撰集『後拾遺和歌集』(1086年成立)につづき白川院の下命による勅撰和歌集。源俊頼が撰者となり編纂された全10巻、六五〇首の詞華集。ほかの勅撰集と異なり、下命者の奏覧に供されたものが、二度編者のもとに返され改訂されることになった。三度目…

西下経一校訂『後拾遺和歌集』(第四勅撰和歌集 白河天皇下命、1086年成立 岩波文庫 1940) 【八代集を読む その3】

第三勅撰和歌集『拾遺和歌集』から80年、若き藤原通俊が撰者となって編まれた、新時代を感じさせる第四勅撰和歌集。紀貫之や凡河內躬恒や伊勢といった三代集の芯を形づくっていた『古今集』を代表する歌人の歌は採らず、三代集以後の歌人、とくに女流歌人…

武田祐吉校訂『拾遺和歌集』(第三勅撰和歌集 1005-07年成立 岩波文庫 1938) 【八代集を読む その2】

藤原公任撰の『拾遺抄』と時をほぼ同じくして、公任の撰歌の影響のもとに花山院自身が編纂に深く関わった第三勅撰集。『拾遺抄』の増補版という趣の詞華集。全一三五一首。紀貫之の113首に次いで万葉歌人の柿本人麻呂の作品が長歌も含め104首とられて…

松田武夫校訂『後撰和歌集』(第二勅撰和歌集 951年下命、957-959年成立 岩波文庫 1945) 【八代集を読む その1】

『古今和歌集』から四十年余り後に村上天皇の下命によって編纂された二番目の勅撰和歌集。全一四二六首。源順・大中臣能宣・清原元輔・坂上望城・紀時文の五名が撰者として任命されたものの、撰者の歌が含まれていないのが特徴。収録歌が多いのは古今時代の…

『後鳥羽院御集』(明治書院 和歌文学大系24 久保田淳監修 寺島恒世著 1997)

新古今和歌集(1205)と承久の乱(1221)の中心人物、後鳥羽院の家集。1221年の隠岐配流以降の主要作「遠島百首」は本家集には含まれていないが、配流後の作品を含め約1800首の作品から後鳥羽院の歌の姿を知ることができる。帝王振りといわれる作風は、…

藤原清輔朝臣 夢のうちに五十の春は過ぎにけり今ゆくすゑは宵のいなづま

夏の金曜日の夕暮れ、仕事を終えて図書館に予約しておいた本を取りに行ったのち、中身をざっくりと確認。約二週間分くらいの十冊。丸谷才一の日本古典文学批評にうながされて新古今和歌集編纂期前後に関係する著作をまとめて読もうとして選んだラインナップ…

丸谷才一『日本文学史早わかり』(講談社 1978, 講談社文芸文庫 2004)

現代イギリスの詞華集好きと比較しながら、日本には勅撰和歌集による詞華集作成文化が歴史的により早くより長くあり、文化的枠組みや感受性により深く影響を与えてきたことを確認しつつ、日本文学史を詞華集に沿って時代を区分けし、各時代の特性を考察した…

丸谷才一『後鳥羽院 第二版』(筑摩書房 2004, ちくま学芸文庫 2013)

初版は1973年に筑摩書房から刊行された「日本詩人選」の10巻目の『後鳥羽院』で、翌1974年には読売文学賞の評論・伝記賞を受賞している名著で、第二版の第一部部分をなす。それから30年、1978年の『日本文学史早わかり』や1999年の『新々百人一首』など、…

丸谷才一『新々百人一首』(新潮社 1999, 新潮文庫 2004)

藤原定家の小倉百人一首、源義尚(室町幕府第9代将軍足利義尚)の新百人一首に次ぐ王朝和歌選集。25年の年月をかけて書き継がれて成った新しい百人一首。選歌に付けられた縦横無尽で出し惜しみのない解説文は王朝文芸に関するすぐれた評論にもなっていて…