読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

哲学

ジャック・デリダ『哲学のナショナリズム 性、人種、ヒューマニティ』(パリ社会科学高等研究院での原セミネール 1984/85, 原書 2018, 藤本一勇訳 岩波書店 2021)

ハイデガーのトラークル論をデリダが脱構築的に読み直し論じた講義録。単純に詩人トラークルが好きだからということで手に取って読んだとすると、ハイデガーもデリダもなに言ってんのということになりかねないし、トラークルの詩の印象からはかなり隔たって…

カール・シュミット『陸と海 世界史的な考察』(原書 1942, 中山元訳 日経BPクラシックス 2018)

21世紀の世にあって地政学の古典となった一冊。シュミットの政治学的思想の核となる「友-敵理論」にも言及されていて、なかなか興味深い。 ナチスへの理論的協力を経て、思想的齟齬失脚の後に出版されたシュミット40代半ばの著作。娘のアニマに語りかけ…

ジャック・デリダ『最後のユダヤ人』(原講演 1998, 2000, 原書 2014, 渡名喜庸哲訳 未来社 2016)

フランス領アルジェリア出身のユダヤ系フランス人という自らの出自に正面から向き合い語られた講演二本。 主に学校という公共空間をとおして、ユダヤ人という符牒のもとに疎外されることに恐怖のようなものを感じ、且つ、疎外されたものたち同士が保身のため…

モーリス・ブランショ『ミシェル・フーコー 想いに映るまま』(原書1986, 豊崎光一訳 哲学書房 1986)

ミシェル・フーコー(1926-1984)が亡くなってから二年後に交流のあったモーリス・ブランショが沈黙を破って書いた追悼の書。ブランショがようやく亡くなったフーコーについて語ったということで、日本でも緊急出版されたあたりが当時の人文系学問界隈の熱を感…

村岡晋一『ドイツ観念論 カント・フィヒテ・シェリング・ヘーゲル』(講談社選書メチエ 2012)

近代ドイツ哲学入門解説書なのに、かなり面白い。なにかトリックが埋め込まれているのではないかと疑いを持つくらいに、かろやか。風通しがよい感じ。哲学者ごとに主要著作一冊と押さえておくべきポイントを思い切りよく絞り込んだために出てきた効果なのか…

エルヴィン・パノフスキー『<象徴形式>としての遠近法』(原書 1924/25, 哲学書房 1993, ちくま学芸文庫 2009)

哲学者の木田元に、専門分野ではないにもかかわらず自ら翻訳しようとまで思わせた魅力的な研究書。美術史家パノフスキーが近代遠近法の成立過程と意味合いを凝縮された文章で解き明かす。日本語訳本文70ページ弱に対して、原注はその二倍を超えてくる分量…

福永光司『老子』(朝日選書 1997)

陰気、陽気、冲気。 本書は老荘思想・道教研究の第一人者福永光司による訳解書。老子初読という人であれば、二昔前に出版され、ブームにもなった、加島祥造による英語訳からの重訳『タオ 老子』くらいの軽いものの方がよいかもしれないが、一見素っ気なく書…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】05. 第二巻第一二章「レーモン・スボンの弁護」(宮下志朗訳 白水社『エセー 4』2010)

モンテーニュ『エセー』のなかでいちばん長い章。白水社版で本文約300ページ。 白水社サイトには「難解な」という形容がつけられているが、訳者や多くの評者が指摘しているように「奇妙な」とか「けったいな」とか「勝手な」という形容がふさわしい叙述の…

ロルフ・ヴィガースハウス『アドルノ入門』(原書 1987 平凡社ライブラリー 1998)

ユルゲン・ハバーマスのもとで哲学の学位取得した著者による辛口のアドルノ入門書。フランクフルト学派全体の研究として評価の高い大冊『フランクフルト学派 ―歴史、理論的発展、政治的意義』(1988)と同時期に書かれたアドルノの業績全般の紹介の書で、コ…

アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン『美学』(原書 1750/58, 玉川大学出版部 1987, 講談社学術文庫 2016)

美学はじまりの書。西欧古典をベースに展開される感性的な領域にかかわる教養についての学問書。美学あるいは感性の学が扱うべき範囲を調査整理しながら、古典作品の具体例を伴った美的領域への導きとなる指導書という感触がある。おもにギリシア、ローマの…

ミヒャエル・エルラー『知の教科書 プラトン』(原書 2006 講談社選書メチエ 2015)

著者ミヒャエル・エルラーは2001年から2004年まで国際プラトン学会会長を務めたドイツ人研究者。ちなみに日本人では納富信留が2007年から2010年まで会長職を務めている。 最新の研究データをとり入れながら偽作を含めてプラトンの生涯と作品全体を見渡せるよ…

プラトン『法律』(岩波文庫 全二冊 1993)

プラトン最後の対話篇。70歳代の作品。ソクラテスが登場しない唯一の対話篇でもあり、プラトンの思想を仮託されるのは「アテナイからの客人」になる。クレテ島のある地域に植民を行ないマグネシアという都市国家を建設するにあたり制度設計と法律の制定を…

藤沢令夫『プラトンの哲学』(岩波新書 1998)

プラトンの著作自体を読みたくさせるすぐれた案内書。とりわけ『テアイテトス』『国家』『パイドロス』『ティマイオス』『法律』などで語りの対象となる魂=プシュケーやイデアに関する案内解説にキレがある。特に第五章[Ⅴ「汝自身を引き戻せ」―反省と基礎固…

フッサール『現象学の理念』(講義 1907 原書 1947, 1958 作品社 長谷川宏訳 1997)

フッサールの現象学探究のはじまりの講義五講がまとめられたもの。平明を心がけることを方針としてもっている長谷川宏の訳でも読みずらいということは、フッサールの語りそのものが聴講者へのサービス精神をあまり含まないもので、そういうものだとあきらめ…

アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート『マルチチュード <帝国>時代の戦争と民主主義』(原書 2004 NHKブックス 2005) 左翼は愛がなくなったときにその生命はおわるんだなと確認させてくれた一冊

左翼の魂は愛、個人的な愛ではなく「公共的で政治的な愛」が肝となる。柄谷行人の交換様式Xの位置にあるアソシエーションも、言葉をかえればこの「公共的で政治的な愛」となる。左翼は愛がなくなったときにその生命は終わり、権威主義、教条主義、官僚機構…

柄谷行人『ニュー・アソシエーショニスト宣言』(作品社 2021) マヌケの抜け道としてのアソシエーションを肯定的に語った本

マヌケの抜け道としてのアソシエーション([協同]組合、[自由]連合)を肯定的に語った本。NAM(新アソシエーショニスト運動)から20年、学生運動からかぞえれば62年、ゆるぎない思索と運動から得た経験を、失敗を含めて語り明かした、現時点での総括…

ジル・ドゥルーズ+フェリックス・ガタリ『千のプラトー』(原書 1980, 河出書房新社 1994, 河出文庫 2010)

すごかった。笑える哲学書というのもめずらしい。本文もそうだけれどインパクトのある挿入図が独特で、その突飛さに思わずなんども吹きだした。笑いだけではなく、おそろしくいろいろなものがつめ込まれている。喜怒哀楽、戦慄、絶望、恐怖、愛、戦略、計画…

エルンスト・カッシーラー『十八世紀の精神 ルソーとカントそしてゲーテ』(原書 1945, 英訳 1962, 思索社 原好男訳 1989)

十八世紀の啓蒙主義期における大人物、ルソーとカント、ゲーテとカント、一般的には資質や思索の方向性にあまり類似が見られない著述家のカップリングに深く交流している部分があることを浮かび上がらせるふたつのエッセイ。ルソーとカントでは意志と自由に…

ディルタイ『近代美学史 ―近代美学の三期と現代美術の課題―』(原書 1892 岩波文庫 1960 )

摸倣論とは一線を画する美学。 現実の模写のみを事とする人達は聡明な人。卓れた観察者ならば彼を俟たずとも知つてゐるもの以外に何ひとつ教へはしない。彼等は疾うに芸術の言葉で語られたことを繰返す観念論者と大差はない。両者に生存の権利を与へるのもの…

エルヴィン・パノフスキー『イデア 美と芸術の理論のために』(原書 1960, 平凡社ライブラリー 2004)

美学におけるイデアの位置と神学における神の位置の歴史的な並行性を感じさせてくれた作品。パノフスキーの『イデア』は美と芸術の側のイデアの位置の描出をしているだけで、神学側の神の位置の歴史的変遷を語っているわけではないのだが、私がよく読ませて…

ヘーゲル『小論理学』(「エンチクロペディ―」第3版原書 1839 岩波文庫 1951/52 全二冊 )

思惟と認識の無限を語るヘーゲルの論理学はなんだか心強さを与えてくれる。 モーゼの伝説には、神は人間をエデンの園から追放し、もって人間が生命の木の実をも食べないようにした、と言われているが、この意味は、人間は自然的側面からすれば、有限で死すべ…

小田部胤久『西洋美学史』(東京大学出版会 2009)

先の連休中に読んで感銘を受けた優れた教科書、導入書。特に簡明を絵にかいたような黒板書きみたいな掲載図には心打たれるものがある。実際の大学の授業で説明の言葉とともに掲載図と同質の黒板書きに出会ったら、より深くお教えを乞いたいと思わずにはいら…

中島隆博『ヒューマニティーズ 哲学』(岩波書店 2009 )

中島隆博は千葉雅也の師であり松浦寿輝の弟子の位置にいる変わった感じの優秀な哲学者。東洋哲学、特に中国哲学を専門としている。老子とヘーゲルの組み合わせに憩っている感じのある2021年夏の私には、荘子とドゥルーズという組み合せや、孔子とドゥル…

【4連休なのでユリシーズと美学の本を読んでみる】03 連休4日目、緊急対応案件発生で余暇強制終了(16:00)で、美学系の読書が中途半端で終わる

16時前、思わぬ架電。出て見るとクレームの通知。身に覚えはないが、自分自身以外の共同行動者の振舞いを考えてみると該当者と問題行動がほんのり浮かび上がってくる。確認のため、こちらから連絡。先方の守秘義務以外の苦情に関わる情報をなるべくお聞か…

【技術に関する本2冊】フリードリヒ・ゲオルク・ユンガー『技術の完成』(原書 1946, 人文書院 2018)、ジャン=リュック・ナンシー『フクシマの後で 破局・技術・民主主義』(原書 2012, 以文社 2012 )

技術に駆り立てられるようにして人間も自然も搾取されながら、破局と破局のあいだを生きる近代以降の人間のありようが描かれている二冊。「積み重ねられ、彷徨する七〇億の存在」(ジャン=リュック・ナンシー)が、技術の集積を使い、純粋な自然からの贈与で…

イマヌエル・カント『美と崇高との感情性に関する観察』(原書 1764, 岩波文庫 1948)

批判哲学以前のカントの小品。観察、分類、列挙からなるエッセイ風の砕けた文章で、『判断力批判』の崇高論のようなものを期待すると肩透かしをくらう。 男性が崇高で、女性が美。 イタリア、フランスが美で、イギリス、スペイン、ドイツが崇高。 翻訳ははじ…

【脳だけじゃない脳科学 アントニオ・ダマシオ二冊】『デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳』(原書 1994, 2005 ちくま学芸文庫 2010)、『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』(原書 2003 ダイヤモンド社 2005)

ソマティック・マーカー仮説(somatic marker hypothesis)のアントニオ・ダマシオ。脳だけじゃない脳科学。身体(遺伝子)―情動―感情。科学―哲学―心理学。デカルト、スピノザのほかにウィリアム・ジェームズも大きな存在感を示している。苦が生に対してもつ…

エルンスト・カッシーラー『人間 シンボルを操るもの』(原書 1944, 岩波文庫 1997, 岩波書店 1953)

カッシーラー生前最後の著作(『国家の神話』は没後出版)。広範囲な文化現象についてこれまでの自身の思索を総括していくように綴られた一冊。人間をanimal symbolicum(シンボルを操る動物)と定義して、シンボル的宇宙を生みそこに生きる人間の姿を描きあ…

【ヘーゲルの本四冊】ヘーゲル『歴史哲学講義』(岩波文庫全二冊 1994)、仲正昌樹『ヘーゲルを越えるヘーゲル』(講談社現代新書 2018)、長谷川宏『新しいヘーゲル』(講談社現代新書 1997)

■ヘーゲル『歴史哲学講義』 『歴史哲学講義』はヘーゲル晩年の講義録。アジアにはじまり西欧ゲルマン民族のゲルマン世界にいたる発展史観は『美学講義』とも同じ流れ。二十一世紀に生きるアジアの端の日本人読者としては、すべてをはいそうですかと拝読する…

ペトラルカ『無知について』(原書 1371 岩波文庫 2010 )

イタリア・ルネサンスのキリスト教的ユマニスムの主唱者ペトラルカが、同時代のスコラ文化圏のアリストテレス派知識人から受けた「善良だが無知」という批判に対する論駁の書。アリストテレスの自然哲学思想にも通じているペトラルカ自身の学識もやんわりと…