読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

哲学

アウグスティヌス『神の国 (三)』(服部英次郎・藤本雄三訳 岩波文庫 1983)

アウグスティヌス『神の国』第三分冊、第11巻から第14巻を収める。 古代の終焉と中世の端緒の時代に多大なる影響力を持ったアウグスティヌスの世界観は、21世紀の現代の私たちの感覚とは異なる。異なっているがゆえに、参考になることもおおいにある。…

千葉雅也+二村ヒトシ+柴田英里『欲望会議 性とポリコレの哲学』(角川ソフィア文庫 2021)

ゲイであることをカミングアウトしている気鋭の哲学者千葉雅也と、能動的な男優以外の演者を中心に据える斬新な演出を繰り出すAV監督二村ヒトシと、戦闘的フェミニストでSNS上で炎上上等の言論活動を繰り広げてもいる彫刻を中心に活動する現代美術家柴…

服部英次郎『アウグスティヌス』(勁草書房 1980, 新装版 1997)

岩波文庫のアウグスティヌスの翻訳は『告白』『神の国』ともに服部英次郎の手になるもの。 私は中央文庫の山田晶訳『告白』全三巻を読んでアウグスティヌスに興味を持ち、近くの図書館でいちばん手間のかからない解説書であったという理由で本書を手に取った…

中島隆博『荘子の哲学』(講談社学術文庫 2022, 岩波書店 2009)

『荘子』においてある物が他の物に生成変化することは「物化」と呼ばれていたと中島隆博によって要約されている部分があることが端的に示しているように、荘子の物化をドゥルーズの生成変化に引き付けて解釈し直す刺激的な書物。後半の第二部での独自性の強…

小池澄夫+瀬口昌久「ルクレティウス 『事物の本性について』――愉しや、嵐の海に (書物誕生 あたらしい古典入門)」(岩波書店 2020)

多作の思想家であったというエピクロスの作品が散逸してしまってほとんど残っていないのに対し、エピクロスの思想を展開したルクレティウスの『事物の本性について』全六巻が残ってきたのはなぜなのか? キリスト教の教義から見ればともに異端として退けられ…

ロジェ・カイヨワ『アルペイオスの流れ 旅路の果てに <改訳>』(原著 1978, 法政大学出版局 2018)

ロジェ・カイヨワが亡くなった年に刊行された、自伝的エッセイ。死を予感しながら、生い立ちから最晩年までを振り返る作品は、静かな諦念とともにとても慎み深い仕草で自身の仕事を評価再確認している。文体にあらわれる表情には、落ちつきのある弱さが浸透…

ロジェ・カイヨワ『夢の現象学』(原著 1956, 思潮社 1986)

原題は「夢に起因する不確実性」で、こちらのほうが内容をよりよく表しているし、カイヨワの思考の態度をよく表している。幻想的なテーマを好奇心からあつかうというよりも、夢という現象について先行テクストを参照しながらきわめて厳密に合理的に捉えよう…

大谷哲夫『道元「永平広録・上堂」選』(講談社学術文庫 2005)

日本において上堂という修行僧向けの法話をはじめたのが道元で、『正法眼蔵』とならぶ道元の主著『永平広録』全10巻には全531回分が収められている(第1巻から第7巻まで)。本書はそのうちから代表的なもの20篇を選んで、漢語原文に読み下し文と現…

國分功一郎+千葉雅也『言語が消滅する前に 「人間らしさ」をいかに取り戻すか?』(幻冬舎新書 2021)

2017年から2021年までのあいだに40代の哲学者同士が行った5回の対談が収められた一冊。この間に、國分功一郎は『中動態の世界』を出版し、千葉雅也は『勉強の哲学』を出版し、それぞれかなり注目されていたことが思い出される。 本書の冒頭2回の…

大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』(星海社新書 2019)

題名も装丁も青年層向けを意識したもので、中高年が手を出すには気恥ずかしさがある作品ではあるが、シオラン研究者が大学の紀要や哲学討論会での発表の内容をもとにして創りあげられたもので、内容的には手際よくしかも批判的視点を交えながら的確にシオラ…

道元『永平広録 真賛・自賛・偈頌』(講談社学術文庫 2014, 全訳注 大谷哲夫)

愁人愁人に向かって道うこと莫れ、無道愁人人を愁殺す 迷っている人は黙っとけというのは、たとえ正しくても、言い方によっては言論封殺の徒と思われても仕方ないところがあるけれど、反対に、すべての言説をそれぞれいいねといって放置するのもまたおかしな…

竹村牧男「『大乗起信論』を読む」(春秋社 2017)

『大乗起信論』は大乗仏教の数少ない綱要書のひとつで、一心二門三大四信五行の体系的な構成により、唯識・如来蔵・中観思想を統合的に示している。一心二門三大四信五行は、一心=衆生心、二門=真如門と生滅門、三大=体大と相大と用大、四信=真如および…

高崎直道『「大乗起信論」を読む』岩波セミナーブックス35 (岩波書店 1991)

岩波文庫での現代語訳と解説の仕事が1994年。それに先立つこと九年、1985年に全六回の岩波市民セミナーで行なった講義内容を書籍化したもの。高崎直道は如来蔵思想の専門家で、本書では、『起信論』の本覚・不覚・始覚の三極構造と、不生不滅の真如と心消滅…

ジャン・フランソワ・ビルテール『荘子に学ぶ コレージュ・ド・フランス講義』(講義 2000, 出版 2002, みすず書房 亀節子訳 2011)

スイス生まれの中国学者がパリの地の聴衆に向けて講義した荘子の記録。日本人が日本人に向けて語る荘子とはだいぶ違った印象の深読みが実践されていて面白い。荘子を語るにあたって引き合い参照される人物たちがまず独特で、荘子像を新たなかたちで印象づけ…

鈴木修次『人と思想 38 荘子』(清水書院 1973, 2016)

為政者側の論理を整えるための思想としての儒家に対し、無為自然の優位を説く老荘の思想は、被征服者たちが追いやられた南部の土地で形成されていったという指摘にはじまり、墨子の社会主義的思想や揚朱の個人主義をともども採り入れ老子の哲学的側面を広く…

E・M・シオラン『四つ裂きの刑』(原著 1979, 法政大学出版局 金井裕訳 1986)

現世を拒否し世俗を厭うシオランの老年期の断片・アフォリズム集。この世を厭い、自殺が唯一の解決策であると何度も明言しながら、折々の自殺であるような文章を際限なく書き出していくことで、死からも逃れ、どこでもない場所を切り拓いていくようなところ…

堀田彰『人と思想 6 アリストテレス』(清水書院 1968, 2015)

先日読んだ『人と思想 83 エピクロスとストア』が良かったので、同じ著者の『人と思想 6 アリストテレス』にも手を出してみた。対象がアリストテレスという大きな存在であるために、思想全般を扱おうとすると凝集度についてはやや落ちている印象があるが、そ…

ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー『神 第一版・第二版 スピノザをめぐる対話』(原著 1787, 1803, 法政大学出版局 吉田達訳 2018)

ヤコービ(1743-1819)を相手にした「汎神論論争」において、当時言論界で無神論者として忌避されていたスピノザの思想をはじめて擁護し、肯定的に読み解く方向性を与えた対話篇。人格神でも目的や意志を持った創造神でもない無限の実体としての神即自然のスピ…

シオラン『敗者の祈禱書』(原著 ルーマニア語1940-44, フランス語訳 1993, 法政大学出版局 金井裕訳 1996, 2020)

独軍占領下のパリでシオランが綴った母語ルーマニア語での最後の著作。本書以降はフランス語での著述に切り替わる。生まれたことへの呪詛と、生きることの苦痛、倦怠、嫌悪を一貫して書きつづけたシオラン。本書は章題を持たない70の断章からなっていて、…

柄谷行人『力と交換様式』(岩波書店 2022) 初読

柄谷行人81歳での最新作は、枯れたという印象はまったくないが、焦りのようなものが消えた円熟した語りのスタイルによる思考の到達点を見せてくれている。 共同体による贈与と返礼、国家による略取と再分配、資本による貨幣と商品の交換、国家や資本を揚棄…

竹村牧男『禅のこころ その詩と哲学』(ちくま学芸文庫 2010)

仏教学者竹村牧男の思想の根幹は臨済禅で、系譜としては釈宗演‐鈴木大拙‐秋月龍珉‐竹村牧男となる。著作における特色としては禅が大乗仏教であることを強く押し出しているところが挙げられる。本書の第七章「大悲に遊戯して<大乗>」のなかの小題のひとつに…

竹村牧男『華厳とは何か』(春秋社 2004, 新装版 2017)

Eテレ「こころの時代」2002年度のテキストをもとにした華厳入門書。比較的手に入りやすい華厳思想の入門書のなかでは、もっとも詳しい思想解説と経典読解ではないかと感じた。特に第二部は華厳思想入門から実際の経典への導きとしての道を示していて貴…

堀田彰『人と思想 83 エピクロスとストア』(清水書院 1989, 2014)

清水書院の「人と思想」シリーズは伝記と思想案内を同時に行っている質が良く効率も良い入門書であるが、本書『エピクロスとストア』は入門書の域を超えるくらいの本格的な思想案内書となっている。 エピクロス派もストア派もともに世界は物質から構成されて…

アリエル・シュアミ&アリア・ダヴァル『スピノザと動物たち』(原著 2008, 大津真作訳 法政大学出版局 2017)

スピノザの主要テクストや書簡から動物や虫やキマイラなどに関する言及を切り出して、多くのイラストとともに編集構成しながら、スピノザ思想の核心的部分を軽快にめぐっているユニークな著作。スピノザ思想の入門書の体裁をとっているが別世界案内のムック…

上野修『哲学者たちのワンダーランド 様相の十七世紀』(講談社 2013)

講談社の月間PR誌『本』に25回にわたって連載されていた十七世紀哲学史エッセイを一冊にまとめたもので、内容的にはだいぶくだけた感じの思想紹介になっている。取り上げられているのはデカルト、スピノザ、ホッブズ、ライプニッツの四人で、上野修の著…

上野修『デカルト、ホッブズ、スピノザ 哲学する十七世紀』(講談社学術文庫 2011, 原本『精神の眼は論証そのもの』学樹書院 1999)

講談社現代新書の『スピノザの世界 神あるいは自然』(2005)に先行する上野修のはじめての単著。80年代から90年代にかけて学術誌に発表された論文を集めたもので、内容的には学問的。参考になる注も付いている。論述対象の配分はスピノザが70%程度で圧…

上野修『スピノザの世界 神あるいは自然』(講談社現代新書 2005)

講談社現代新書にはスピノザを扱ったものが三作品あり、本書はその中でいちばん最初に刊行されたもの。 スピノザの初期の作品『知性改造論』と死後刊行の主著『エチカ』(正確には『幾何学的秩序で証明されたエチカ』)とを扱った解説書で、真理と倫理の次元…

神塚淑子「『老子』 <道>への回帰」(岩波書店 2009, シリーズ:書物誕生 あたらしい古典入門)

『老子』テクストの誕生と受容の歴史を概観する第一部と、『老子』テクストを五つのテーマに分けて代表的な章の読み解きを行なった第二部の二段構成。 第一部では残存する複数テクスト間の差異と歴代の『老子』注釈書の変遷から、成立の経緯と儒教との関係を…

國分功一郎『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』(講談社現代新書 2020)

國分功一郎の良いところでもありもの足りないところは紛うかたなき優等生であるところ。嫉妬も込めて、ちょっとだけ刺激不足といいたくなる研究者であり、破綻しない正統派の市民政治の実践家であると、今現在、個人的には捉えている。学究の面でも行政の面…

吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』(講談社現代新書 2022)

スピノザを読むことで大きいのは、人間という種の基本スペックを確認できるところ。『神学・政治論』における「自然権」、『エチカ』における「コナトゥス」から、個人としての存在の構造と社会や国家のあり方の必然的枠組みを、がっちり描き出してくれてい…