読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

哲学

セネカ『人生の短さについて 他二篇』( 岩波文庫 茂手木元蔵訳 1980 )酒には浸かる程度がよい

大西英文訳(2010)のひとつ前の岩波文庫。『心の平静について』『幸福な人生について』と収録作も同じ。余暇の時間と平穏な生活を荒らすことなく、この世の借り物としての生を堅実に遂行することを説いた三篇。モンテーニュが好み、彼のエセーでも踏襲して…

『存在と時間』本篇と関連書籍を読む マルティン・ハイデガーの限界についての個人的感想

フィリップ・ラク―=ラバルトのハイデガー批判書二冊(『政治という虚構』『経験としての詩 ツェラン・ヘルダーリン・ハイデガー』)を読み、アメリカの大学での展開を記したマイケル・ゲルヴェンの『ハイデッガー「存在と時間」註解』を読んだ後、マルティ…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】04. 宮下志朗訳『エセー抄』 隠居の思想

最新のエセー全訳のきっかけになった2003年のエセー抄訳。とにかく読みやすさを心がけたという訳文は、訳語の選択やひらがなの分量も現代的な心遣いに溢れている。確かに読みやすい。しかし、モンテーニュは16世紀の人間で、しかもどちらかといえば世…

丸山俊一+NHK「欲望の時代の哲学」制作班『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ  自由と闘争のパラドックスを越えて』(NHK出版新書 2020 )

GAFAはよくない、SNSはよくない、地球温暖化はよくない、プラスチックやビニールはよくない。ひどい世の中だけど、ひどくさせたのはほかでもない私たちだ。だから哲学して別の視点と思考を持つようにしよう。 うーん、人気があるのは威勢のいい語り口のため…

蓮實重彦『知性のために 新しい思考とそのかたち』(岩波書店 1998)結果よりも過程が大切らしい

第26代東京大学総長時代(1997-2001)の9講演を収めた書籍。久しぶりに再読。頻繁にドゥルーズの『差異と反復』に言及していることにちょっと驚く。『マゾッホとサド』やフーコー論『新たなるアルシヴィスト』の翻訳者でもあるので別に驚くこともないのだが…

セネカ『神慮について』( 原著 64, 岩波文庫 1980 )神々と人間が水平にいる世界観

『神慮について』は茂手木元蔵訳の岩波文庫旧版『怒りについて』に収録されている一篇。東海大学出版会の『道徳論集』にも収められている。 「神慮について」の原題は"De Providentia"。「神慮」は「摂理」とも訳される神学用語。セネカが神を語るときに想定…

宇野重規『トクヴィル 平等と不平等の理論家』( 講談社選書メチエ 2007, 講談社学術文庫 2019 )社会制度とともに変容する想像力と象徴秩序

『アメリカの民主主義』をメインに考察されるトクヴィルの思想。封建社会が崩れて民主主義が台頭し、抑圧されてきた庶民層が平等に考え発言することができるようになると、想像における自己像と現実の自己のギャップに苦しむことも可能になり、身を滅ぼして…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『精神分析の四基本概念』上下巻(原書 1973, 岩波書店 2000, 改訂版岩波文庫 2020 )理性と無意識の関係など

「フロイトに還れ」を旗印に20世紀以降の精神分析学の一大潮流を作ったラカンの20年にもおよぶ講義の11年目の講義録。精神分析の四つの基本概念である「無意識」「反復」「転移」「欲動」について、分析家の養成を目標に置きながら講義がすすめられて…

中沢新一『精霊の王』(講談社 2003, 講談社学術文庫 2018 )神楽、申楽、猿楽の翁という日本的精霊、後戸の神の振舞いに感応する精神と身体

『精霊の王』は、著作の位置としては『日本文学の大地』『フィロソフィア・ヤポニカ』のあと、カイエ・ソバージュシリーズの執筆を行なっていた時期の作品。この後、『アースダイバー』『芸術人類学』とつづいている。『日本文学の大地』で能の理論家として…

オリヴィエ・コーリー『キルケゴール』(白水社文庫クセジュ 1994)異質な世界を観ている人の世界観への案内

歴史に残る偉人というものは、凡人からみればみな変態で、消化しきれないところがあるからこそ意味がある。異物感、異質感。複雑すぎて味わいきれないニュアンス、踏み入ることのできない単独性を帯びた感受性の領域を持つ人間の観ている世界。おそらく消化…

【お風呂でロールズ】08.『政治哲学史講義』マルクス(講義Ⅰ~Ⅲ)格差原理は共産主義にまさるというロールズの押し出し

ロールズのマルクス講義では、マルクスが考えていた理想社会を、『資本論』のなかでよく使われる呼称から「自由に連合した生産者の社会」と呼び、その実現段階としては「社会主義」と「共産主義」があるとし、このふたつの段階の差異として、『ゴータ綱領批…

セーレン・キェルケゴール『死に至る病』(原書 1849 講談社学術文庫 2017)絶望の反対は希望でなく信仰

副題は「教化と覚醒のためのキリスト教的、心理学的論述」。『キリスト教の修練』と併せて当時のデンマーク国教会(キリスト教プロテスタントのルター派の教会)の批判の書として書かれている。時代が異なる異教徒が読む必要があるかどうかという視点では、…

カール・ヤスパース『歴史の起源と目標』(原書 1949 理想社ヤスパース選集9 1964)人間と歴史はオープンエンド

世界同時的に古代の思想家があらわれた紀元前500年前後を枢軸時代という観点で提示した著作。枢軸時代の観点は著作全体におよんでいるが、特に第一部で重点的に取り上げられている。枢軸時代ははじめて「人間の生存が歴史として反省の対象となる」時代で…

カール・マルクスの学位論文『デモクリトスの自然哲学とエピクロスの自然哲学との差異』(原書 1841)と七冊のノート 渦巻きとクリナメンとダイモン

マルクス、二十三での哲学博士取得論文。たんに自己意識の平静を目的としており実証的に観察し考察された学説ではないと批判されてきたエピクロスの自然哲学を、原子概念における形式と質量あるいは本質と現存在との無矛盾性という視点から哲学的に再評価す…

【お風呂でロールズ】07.『政治哲学史講義』ミル(講義Ⅰ~Ⅳ)ミルの功利主義とロールズの公正としての正義(格差原理)の親和性

ロールズのミルの講義は、自身の考えとの近さゆえにほかの思想家よりも分量も多く自身の見解を深く織り交ぜながら展開されている。目指しているのはともに最大幸福の実現で、ミルの場合は効用原理、ロールズの場合は格差原理からのアプローチと、ことばは違…

【お風呂でロールズ】06.『政治哲学史講義』ルソー(講義Ⅰ~Ⅲ)一般意志と共通善

共通善は common good であるので、翻訳では消えてしまっているけれども共通財とも常時かぶせて読んでくれというようなことが翻訳者側から注意として書かれていたような気がすることをルソーの講義では思い出した。 一般意志は共通善を意志するのですが、そ…

【お風呂でロールズ】05.『政治哲学史講義』ヒューム(講義Ⅰ~Ⅱ) 功利主義者としてのヒュームの政治思想

ホッブズ、ロックの社会契約説からヒュームとミルの功利主義へ講義は移る。自然法による原始の契約から効用の原理での合意選択へのイギリスの政治思想の流れをみながら、ロールズは経験主義哲学者でもあるヒュームの政治思想の面を、主にロックとの対比で語…

【お風呂でロールズ】04.『政治哲学史講義』ロック(講義Ⅰ~Ⅲ) 所有と階級国家についての思想の講義

古典は今現在の視点で批判しても意味はなく、それが書かれた当時の状況において、どのような問題を解決するために書かれたかを考慮しつつ読む必要があるというまっとうな指摘は記憶に残ったが、ロックのどこら辺に限界があるのかはあんまり残らなかった。ロ…

頼住光子『正法眼蔵入門』(角川ソフィア文庫 2014)分節化した世界からの「脱落と現成」

2005年にNHK出版から刊行され、いまは絶版となってしまっている『道元 自己・時間・世界はどのように成立するのか』の増補改訂版の著作。全128ページの論考が231ページまで分量的にはほぼ倍増され、研究の深まり、論旨の繊細さもずいぶん増したように感じ…

ピエール・ブルデュー『自己分析 これは自伝ではない』という本人からの自伝的資料集成(原書 2004, 藤原書店 2011) 闘争の休止に対する願望と闘争への固執

敵と思うものが明確にいた。社会学者としての業績よりも、敵と思うものに対しての自身の立場の表明と抵抗こそが重要であった人生ではなかったのかなと思わせる、本人曰く「自伝ではない」、一個人の人生の社会学的資料集成であり、死の時まで推敲を重ねてい…

シリーズ・戦後思想のエッセンス『戦後思想の到達点  柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る』(NHK出版 2019 柄谷行人 、見田宗介、大澤真幸)抑圧の回帰と自由への飛翔

学恩に応えなければいけないという一世代下の大澤真幸の真っ正直な気持ちが見事に実を結んだ傑作対談集。 日本の知の世界を切り開いてきた先鋭二人の、それぞれ老い朽ちることのない孤高の歩みの根源にまで分け入ろうとする、準備の整った大澤真幸の態勢がす…

廣川洋一『ソクラテス以前の哲学者』(講談社学術文庫 1997)古代ギリシア哲学へのすぐれたガイド

ソクラテス以前の哲学者のテクストを読んでおこうと検索してヒットした著作。はじめの210ページが廣川洋一による解説。ついで150ページが各哲学者の残存テクストの日本語訳。断片的なものから思想の核心と各哲学者の思索の違いの意味を読み取っていく…

【お風呂でロールズ】03.『政治哲学史講義』功利主義を講じる際に出てきた人間タイプの表現に関してのメモ

ロールズがシジウィックの功利主義について考察している際に、否定的というか、強いられたとすれば嫌悪感をもよおすであろう人間のタイプのとして提示されたものに、逆に、自主的には望むべき人間のタイプなのではないのかと強く感じたために、ロック、ヒュ…

【お風呂でロールズ】02.『政治哲学史講義』ホッブズ(講義Ⅰ~Ⅳ+補遺) 教師がサービス業であることを思い出させてくれる講義

マイケル・サンデルの白熱教室のような討論形式の講義ではなく、オーソドックスな教授型の講義が目に浮かんでくるような講義録。特徴的なのは、ロールズの人柄がそうさせるであろうような誠実さと慎重さを基本にそえた論考の姿勢と、学生たちへ提供された資…

今村仁司+座小田豊 編『知の教科書 ヘーゲル』(講談社選書メチエ 2004) 入門から次の段階に進むときに力になってくれる複数の日本研究者によるヘーゲル論考集成。入門用教科書と思って買うと期待はずれになる可能性が高い

入門書というよりも現代思想系雑誌のヘーゲル特集号の書籍化といった趣きの強い一冊。書籍としての造りのまま素直に頭から読みすすめる前に、巻末268ページの執筆者紹介を一瞥しておくことをお勧めする。編者として名の上がっている今村仁司と座小田豊以…

モンテーニュの『エセー』読書資料(つまみ食いのすすめ) 日本語訳者三名の訳業を目次ベースでマッピング(資料コア部分をCSV形式で)

モンテーニュの『エセー』の訳者毎の目次ベースのcsv形式資料。日本語訳で、つまみ食いしやすいようにするための資料。 ※2021.02.07時点では、宮下志朗、原二郎、荒木昭太郎の三訳者の訳業データで構成※宮下訳と原・荒木訳とでは第一巻の章立て配列に違いが…

モンテーニュの『エセー』読書資料(つまみ食いのすすめ) 日本語訳者三名の訳業を目次ベースでマッピング(表形式)

モンテーニュの『エセー』の訳者毎の目次ベースの表形式資料。日本語訳で、つまみ食いしやすいようにするための資料。 ※2021.02.07時点では、宮下志朗、原二郎、荒木昭太郎の三訳者の訳業データで構成※宮下訳と原・荒木訳とでは第一巻の章立て配列に違いがあ…

エピクテトスの『語録 要録』(中公クラシックス 2011, 中央公論社『世界の名著13 キケロ/エピクテトス/マルクス・アウレリウス』1968 ) 清沢満之と読むエピクテトス

明治期真宗大谷派の突出した他力の宗教家たる清沢満之と、後期ストア派で奴隷出身という特異な出自を持つ哲学者「エピクテタス氏」との出会いに導かれて、エピクテトスの『語録 要録』を中央公論社『世界の名著』の抄訳で読んだ。新刊書店では中公クラシック…

原二郎『モンテーニュ 『エセー』の魅力』(岩波新書 1980, 特装版 岩波新書・評伝選 1994) 正統的評伝によるモンテーニュの思想入門

現在最新の宮下志朗の一代前の『エセー』完訳者、一番流通しているであろう岩波文庫版『エセー』翻訳者によるモンテーニュの評伝。生涯と思想という括りできっちり語られているので、重量感はこちらのほうが宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』…

宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』(岩波新書 2019) 執筆期間20年、総ページ数2400超の『エセー』をゆるくつまんでみませんかという訳者からのお誘い

宮下志朗は『エセー』のあたらい翻訳者。みすず書房の抄訳、白水社の全訳を経ての、岩波新書での導入ガイド。しっかりした分量の引用が多く、解説もしっかりしているので、いいとこどりの名所ツアーに参加しているような気分になる。宮下志朗も親しみやすい…