読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

哲学

エルンスト・カッシーラー『人間 シンボルを操るもの』(原書 1944, 岩波文庫 1997, 岩波書店 1953)

カッシーラー生前最後の著作(『国家の神話』は没後出版)。広範囲な文化現象についてこれまでの自身の思索を総括していくように綴られた一冊。人間をanimal symbolicum(シンボルを操る動物)と定義して、シンボル的宇宙を生みそこに生きる人間の姿を描きあ…

【ヘーゲルの本四冊】ヘーゲル『歴史哲学講義』(岩波文庫全二冊 1994)、仲正昌樹『ヘーゲルを越えるヘーゲル』(講談社現代新書 2018)、長谷川宏『新しいヘーゲル』(講談社現代新書 1997)

■ヘーゲル『歴史哲学講義』 『歴史哲学講義』はヘーゲル晩年の講義録。アジアにはじまり西欧ゲルマン民族のゲルマン世界にいたる発展史観は『美学講義』とも同じ流れ。二十一世紀に生きるアジアの端の日本人読者としては、すべてをはいそうですかと拝読する…

ペトラルカ『無知について』(原書 1371 岩波文庫 2010 )

イタリア・ルネサンスのキリスト教的ユマニスムの主唱者ペトラルカが、同時代のスコラ文化圏のアリストテレス派知識人から受けた「善良だが無知」という批判に対する論駁の書。アリストテレスの自然哲学思想にも通じているペトラルカ自身の学識もやんわりと…

【カール・ヤスパース二冊】『哲学的信仰』(原書 1948, 理想社 1998)と『哲学入門』(原書 1949 新潮文庫 1954)

ヤスパースの講演録とラジオ講演録。宗教で説かれてきた神と区別するために、主観‐客観の分裂を超えた存在として「包括者」という概念をヤスパースは用いて存在を根底付けようとしているが、「超越者」、「神」といった言い換えも多く、特に『哲学入門』では…

ガブリエル・タルド『摸倣の法則』(原書 1890, 1895 河出書房新社 2007, 2016 )

「摸倣」という武器一本で物理・生命現象から社会現象まで語りきる途方もない著作。データ検証からではなく推論ベースの展開で、ほんとかねと疑いたくなるようなところもままあるのだけど、ドゥルーズが称賛していて、それに乗る形で蓮實重彦も推薦している…

戸谷洋志『ハンス・ヨナスを読む』(堀之内出版 2018)

日本初のハンス・ヨナスの入門書。1988年生まれの若手の研究者が「未来への責任」という哲学的テーゼを、ヨナスの著作からの引用を豊富にちりばめながら、理解しやすく展開してくれた著作。非常に丁寧に、興味を持てるように、目配りをきかせながらヨナ…

エルンスト・カッシーラー『アインシュタインの相対性理論』(原書 1921, 山本義隆訳 河出書房新社 1976, 1996 )

私は、にわかではあるが、カッシーラーのファンである。今年の正月に『シンボル形式の哲学』を読んで以来、この人は本物だと思っている。相対性理論や量子論の意味を、文系読者にもきちんと伝えてくれる、かけがえのない人物なのではないかと思っている。記…

滝口清榮『ヘーゲル哲学入門』(社会評論社 2016)

マルクスの思想にもつながるだろうヘーゲルのことばがちょこちょこ顔を出してきてなかなか楽しい。 「国家は終焉しなければならない」 「コルポラツィオーン(職業団体)」 「ポリツァイ(内務ー福祉行政)」 「中間階級」 「中間身分」 「市民社会」 などな…

【読了本四冊】白川静+梅原猛『呪の思想 神と人との間』(平凡社ライブラリー)、ドニ・ユイスマン『美学』(白水社文庫クセジュ)、斉藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)、鈴木大拙『華厳の研究』(角川ソフィア文庫)

白川静+梅原猛『呪の思想 神と人との間』(平凡社ライブラリー 2011, 平凡社 2002) 日本が誇る変人師弟対談。白川静が師、梅原猛が弟子という、異次元を垣間見させてくれるような組合せ。 独自の思想を抱いてしまった思想家の語りが日常の思考を揺さぶらず…

ヘーゲル『美学講義』(長谷川宏訳 作品社 全三冊 1996) 複製技術時代以前のゆったりたっぷりの芸術論

ヘーゲルは1770年の生まれ。美学の講義がなされたのは主に1820年代。同年生まれのヘルダーリンやベートーベンへの言及がないことが、読み手としてとても残念に感じられるくらいに充実していて安定感のある魅力的な講義録。序論部分に他の哲学部門と…

【雑記】BOOKOFFにて『字統』に出会う ヘーゲルと白川静

引越後4週間、はじめての大作、作品社の長谷川宏訳のヘーゲル『美学講義』全三巻を読み終えた。満足感を持った状態で、運動不足解消も兼ねて数駅先のBOOKOFFまではじめて自転車で遠出。店舗滞在時間30分込みで1時間半コース。小型店舗だったのであまり期…

【読了本三冊】加藤郁乎編『吉田一穂詩集』(岩波文庫)、廣松渉+加藤尚武編訳『ヘーゲル・セレクション』(平凡社ライブラリー)、ティル=ヘルガー・ボルヒェルト『ヒエロニムス・ボスの世界 大まじめな風景のおかしな楽園へようこそ』(PIE International)

書くより読む優先の時間配分が続く生活のなかで、読後感想をまとめる時間に向きあうために超えなくてはならないハードルが高い。しかし、書かないと読んだことの定着が落ちる。消えてもったいないかもしれないと思うことはとりあえず記録しておく。 加藤郁乎…

【読了本七冊】東京美術『もっと知りたい  東寺の仏たち』、ノーバート・ウィーナー『サイバネティクス 動物と機械における制御と通信』、佐藤信一『コレクション日本歌人選 43 菅原道真』、草薙正夫『幽玄美の美学』、トーマス・スターンズ・エリオット『エリオット全集2 詩劇』、アンリ・ミショー『閂に向きあって』、中央公論社『日本の詩歌12』より「野口米次郎」

25~30日に読み終わった本は7冊。 まだ新居で落ち着かない感じをゆっくり言葉でふさいでいる。 東京美術『もっと知りたい 東寺の仏たち』 www.tokyo-bijutsu.co.jp 空海の思想は生の肯定の思想で、第一作『三教指帰』からの文字文献においても艶めかし…

【読了本六冊】新宮一成『ラカンの精神分析』、小林秀雄訳アラン『精神と情熱に関する八十一章』、スラヴォイ・ジジェク『パンデミック』、『[完全版]石牟礼道子全詩集』、冨田恭彦『詩としての哲学 ニーチェ・ハイデッガー・ローティ』、柏倉康夫訳ステファヌ・マラルメ『詩集』

引越しで図書館へのアクセス環境も変わり、自転車10分圏内に3館の公立図書館があるということでひとまず全館に足を向け、棚の並びを実際に見てみた。検索システムではわからない図書館ごとの特徴がいっぺんで分かるのがリアルの世界のいいところ。本の並…

スピノザ『国家論』( 原書 1677, 岩波文庫 畠中尚志訳 1940, 1975 )世俗の法と自然法

引越し後の一冊目はスピノザ。蔵書整理時にスピノザへの言及があるものを捨てられなかったことを確認できたため、楔の意味合いを込めて新居で何度目かの再読。 捨てられなかった本は的場昭弘『ポスト現代のマルクス ― マルクス像の再構成をめぐって ―』(お…

セネカ『人生の短さについて 他二篇』( 岩波文庫 茂手木元蔵訳 1980 )酒には浸かる程度がよい

大西英文訳(2010)のひとつ前の岩波文庫。『心の平静について』『幸福な人生について』と収録作も同じ。余暇の時間と平穏な生活を荒らすことなく、この世の借り物としての生を堅実に遂行することを説いた三篇。モンテーニュが好み、彼のエセーでも踏襲して…

『存在と時間』本篇と関連書籍を読む マルティン・ハイデガーの限界についての個人的感想

フィリップ・ラク―=ラバルトのハイデガー批判書二冊(『政治という虚構』『経験としての詩 ツェラン・ヘルダーリン・ハイデガー』)を読み、アメリカの大学での展開を記したマイケル・ゲルヴェンの『ハイデッガー「存在と時間」註解』を読んだ後、マルティ…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】04. 宮下志朗訳『エセー抄』 隠居の思想

最新のエセー全訳のきっかけになった2003年のエセー抄訳。とにかく読みやすさを心がけたという訳文は、訳語の選択やひらがなの分量も現代的な心遣いに溢れている。確かに読みやすい。しかし、モンテーニュは16世紀の人間で、しかもどちらかといえば世…

丸山俊一+NHK「欲望の時代の哲学」制作班『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ  自由と闘争のパラドックスを越えて』(NHK出版新書 2020 )

GAFAはよくない、SNSはよくない、地球温暖化はよくない、プラスチックやビニールはよくない。ひどい世の中だけど、ひどくさせたのはほかでもない私たちだ。だから哲学して別の視点と思考を持つようにしよう。 うーん、人気があるのは威勢のいい語り口のため…

蓮實重彦『知性のために 新しい思考とそのかたち』(岩波書店 1998)結果よりも過程が大切らしい

第26代東京大学総長時代(1997-2001)の9講演を収めた書籍。久しぶりに再読。頻繁にドゥルーズの『差異と反復』に言及していることにちょっと驚く。『マゾッホとサド』やフーコー論『新たなるアルシヴィスト』の翻訳者でもあるので別に驚くこともないのだが…

セネカ『神慮について』( 原著 64, 岩波文庫 1980 )神々と人間が水平にいる世界観

『神慮について』は茂手木元蔵訳の岩波文庫旧版『怒りについて』に収録されている一篇。東海大学出版会の『道徳論集』にも収められている。 「神慮について」の原題は"De Providentia"。「神慮」は「摂理」とも訳される神学用語。セネカが神を語るときに想定…

宇野重規『トクヴィル 平等と不平等の理論家』( 講談社選書メチエ 2007, 講談社学術文庫 2019 )社会制度とともに変容する想像力と象徴秩序

『アメリカの民主主義』をメインに考察されるトクヴィルの思想。封建社会が崩れて民主主義が台頭し、抑圧されてきた庶民層が平等に考え発言することができるようになると、想像における自己像と現実の自己のギャップに苦しむことも可能になり、身を滅ぼして…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『精神分析の四基本概念』上下巻(原書 1973, 岩波書店 2000, 改訂版岩波文庫 2020 )理性と無意識の関係など

「フロイトに還れ」を旗印に20世紀以降の精神分析学の一大潮流を作ったラカンの20年にもおよぶ講義の11年目の講義録。精神分析の四つの基本概念である「無意識」「反復」「転移」「欲動」について、分析家の養成を目標に置きながら講義がすすめられて…

中沢新一『精霊の王』(講談社 2003, 講談社学術文庫 2018 )神楽、申楽、猿楽の翁という日本的精霊、後戸の神の振舞いに感応する精神と身体

『精霊の王』は、著作の位置としては『日本文学の大地』『フィロソフィア・ヤポニカ』のあと、カイエ・ソバージュシリーズの執筆を行なっていた時期の作品。この後、『アースダイバー』『芸術人類学』とつづいている。『日本文学の大地』で能の理論家として…

オリヴィエ・コーリー『キルケゴール』(白水社文庫クセジュ 1994)異質な世界を観ている人の世界観への案内

歴史に残る偉人というものは、凡人からみればみな変態で、消化しきれないところがあるからこそ意味がある。異物感、異質感。複雑すぎて味わいきれないニュアンス、踏み入ることのできない単独性を帯びた感受性の領域を持つ人間の観ている世界。おそらく消化…

【お風呂でロールズ】08.『政治哲学史講義』マルクス(講義Ⅰ~Ⅲ)格差原理は共産主義にまさるというロールズの押し出し

ロールズのマルクス講義では、マルクスが考えていた理想社会を、『資本論』のなかでよく使われる呼称から「自由に連合した生産者の社会」と呼び、その実現段階としては「社会主義」と「共産主義」があるとし、このふたつの段階の差異として、『ゴータ綱領批…

セーレン・キェルケゴール『死に至る病』(原書 1849 講談社学術文庫 2017)絶望の反対は希望でなく信仰

副題は「教化と覚醒のためのキリスト教的、心理学的論述」。『キリスト教の修練』と併せて当時のデンマーク国教会(キリスト教プロテスタントのルター派の教会)の批判の書として書かれている。時代が異なる異教徒が読む必要があるかどうかという視点では、…

カール・ヤスパース『歴史の起源と目標』(原書 1949 理想社ヤスパース選集9 1964)人間と歴史はオープンエンド

世界同時的に古代の思想家があらわれた紀元前500年前後を枢軸時代という観点で提示した著作。枢軸時代の観点は著作全体におよんでいるが、特に第一部で重点的に取り上げられている。枢軸時代ははじめて「人間の生存が歴史として反省の対象となる」時代で…

カール・マルクスの学位論文『デモクリトスの自然哲学とエピクロスの自然哲学との差異』(原書 1841)と七冊のノート 渦巻きとクリナメンとダイモン

マルクス、二十三での哲学博士取得論文。たんに自己意識の平静を目的としており実証的に観察し考察された学説ではないと批判されてきたエピクロスの自然哲学を、原子概念における形式と質量あるいは本質と現存在との無矛盾性という視点から哲学的に再評価す…

【お風呂でロールズ】07.『政治哲学史講義』ミル(講義Ⅰ~Ⅳ)ミルの功利主義とロールズの公正としての正義(格差原理)の親和性

ロールズのミルの講義は、自身の考えとの近さゆえにほかの思想家よりも分量も多く自身の見解を深く織り交ぜながら展開されている。目指しているのはともに最大幸福の実現で、ミルの場合は効用原理、ロールズの場合は格差原理からのアプローチと、ことばは違…