哲学
「美学」という学問とともに誕生した「芸術」という近代的概念について、主にドイツ近代の美学の歴史の研究から解釈していこうとするのが本書の狙いとするところ。章題ともなっている「所有」「先入見」「国家」「方位」「歴史」という切り口から美学の政治…
『柄谷行人『力と交換様式』を読む』(文春新書)に収録された講演草稿「交換様式と「マルクスその可能性の中心」」において柄谷行人がマルクスのフェティシズム論に関して多くの示唆を受けたことを示した著作。同じ講演草稿のなかで柄谷行人は、経済的下部…
絶望の先にある希望とうまくいかなくても耐えることの必要を説いたのが『力と交換様式』という著作だという柄谷行人の基本的考えが繰り返しあらわれるのが印象的な本。 柄谷行人自身をはじめとして、多くの共同執筆者に共通しているのは、本を繰り返し読み丹…
主著『崇高の修辞学』(月曜社 2017)から4年、2010年から2019年までのあいだに発表してきた単独の論文やエッセイを「崇高」「関係」「生命」という3つのテーマのもとに集めてリライト・再編集して出来上がった美学論集。芸術作品そのものを語るより…
中世哲学自体が錯綜していることもあってか著者の熱意にもかかわらず入門書としてあまり整理されているとはいえないという印象を持った。著者と中世哲学とのかかわりについての昔語りや、中世哲学者の思想読解にかかわる困難さに対する嘆きが頻繁にちりばめ…
これはおそらくあとからじわじわ効いてくるタイプの著作である。 初読で雷に打たれるようなタイプの作品ではない。 カントの三大批判を個人全訳した著者による、カントの晩年様式としての著作『判断力批判』の手堅い読解の書。 本書の感触といては、教育者と…
『純粋理性批判』と『実践理性批判』のあいだをつなぐ第三批判書。強力なペシミズムと強力なオプティミズムが同居しているところ、人間の生まれながらの三つの心の能力(理性、悟性、判断力)の機能を隙なく理論的に組み上げているところ、非人情に徹してい…
しっかり学ぶと人生がちょっと変わってしまうであろうことを予感させる美学の教科書。 カントの『判断力批判』の第一部を詳細に解説しながら、関係する先行作品と現代にいたるまでの後続の美学一般の論考に言及し、カントの論考の深さと広さを伝えてくれる優…
2023年4月刊行の本書は、現時点での國分功一郎の最新刊。 主著『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社 2011, 新潮文庫 2021)の思考を継承進化させた現在を、講義・講和のかたちで現代をともに生きる人たちに対して問い直すようにして語られた問題提起の著作…
1971年から2001年の三十年間で22刷りされている本書はカント入門書のなかでも名著の部類に入るのであろう。新書版150ページに三大批判書と遺稿、『単なる理性の限界内における宗教』『プロレゴーメナ』『道徳形而上学言論』など主要著作を幅広…
朱子学は中国南宋の朱熹が大成した新しい儒学。中島隆博の『中国哲学史』(中公新書 2022年)の朱子学の説明では、「身体的、物質的な気と、天の理を共有する性から、あらゆるものが説明できる」とあって、一般的な「理気二元論」が尊重されながら概括されて…
『学識ある無知について』(1440)の中世ドイツの哲学者・神学者であるクザーヌスの最晩年の著作。 日本では一休宗純(1394-1481)が同世代を生きていた。 注視の渾沌のなかで分析的思考を超えた無限の存在としての神を言語の限界とともに明らかにしようと勉める…
寄る辺なく取り付く島もない虚無の場としての無底、それに憤る意志が運動として何故か発生し(神と呼ばれる何ものかの性格を帯び)、存在の根拠となる底なるものを形成し、さらには善と悪のふたつの極相をもつ世界が創造され、その創造が被造物の存在と運動…
ルターのドイツ語訳聖書を読み、青年期にエゼキエル書に描かれた幻視体験に類似した数分間の幻視神秘体験を持ったところから、独自に神学的研鑽を積み、靴職人から神秘的著述家となっていったヤーコプ・ベーメの37歳の時のはじめての著作。専門的に神学や…
再読。 二十数年ぶり。 当時と今とで最も変わったことは、ネット環境の充実によってバルトが論じている作家の作品を手軽に高解像度で閲覧できるようになったこと。 図版が十分でなくとも、スマホ片手に検索しながら、バルトが見ていたであろうものを確認しつ…
『コーラ』は古典ギリシア学の大家ジャン=ピエール・ヴェルナンに捧げられたデリダの論文で、ロゴスとミュトスの彼方、感性的なものでも叡智的なものでもない第三のジャンルに属するという、プラトンがコーラの名で示しているものをめぐっての考察である。 …
本書を構成するジャック・デリダのアルトー論「基底材を猛り狂わせる」は、みすず書房から単独出版されていて、こちらの方が本体2400円と値段も安いこともあって、よく流通している。私の所蔵しているのもこちらの版であるが、今回縁あって、本来の造本…
ジャック・デリダの脱構築的テクストを読んで、読みの対象となっている詩人の作品を読みはじめるということは確かにある。私の場合、エドモン・ジャベスがそのケースに当てはまる。詩作品が翻訳されていてもすぐに手に入らない状況になってしまい、批評家や…
アガンベンの方法序説という趣きの著作。フーコーに倣いながら「パラダイム」「しるし」「考古学(アルケーの学)」に言及し、思考の基盤をかたちづくる骨組みを浮き上がらせようとしている。印象的なのは、記号をはみ出る過剰としてのしるしが、傷のような…
マニ教から新プラトン主義を経てキリスト教に辿りついたアウグスティヌスによるマタイの福音書「山上の説経」の解釈書。『聖書』は書かれた言葉そのものの相において読むのではなく、象徴的に読み解く必要があることを知ったことから聖書読解に劇的な展開を…
アウグスティヌス『神の国』第三分冊、第11巻から第14巻を収める。 古代の終焉と中世の端緒の時代に多大なる影響力を持ったアウグスティヌスの世界観は、21世紀の現代の私たちの感覚とは異なる。異なっているがゆえに、参考になることもおおいにある。…
ゲイであることをカミングアウトしている気鋭の哲学者千葉雅也と、能動的な男優以外の演者を中心に据える斬新な演出を繰り出すAV監督二村ヒトシと、戦闘的フェミニストでSNS上で炎上上等の言論活動を繰り広げてもいる彫刻を中心に活動する現代美術家柴…
岩波文庫のアウグスティヌスの翻訳は『告白』『神の国』ともに服部英次郎の手になるもの。 私は中央文庫の山田晶訳『告白』全三巻を読んでアウグスティヌスに興味を持ち、近くの図書館でいちばん手間のかからない解説書であったという理由で本書を手に取った…
『荘子』においてある物が他の物に生成変化することは「物化」と呼ばれていたと中島隆博によって要約されている部分があることが端的に示しているように、荘子の物化をドゥルーズの生成変化に引き付けて解釈し直す刺激的な書物。後半の第二部での独自性の強…
多作の思想家であったというエピクロスの作品が散逸してしまってほとんど残っていないのに対し、エピクロスの思想を展開したルクレティウスの『事物の本性について』全六巻が残ってきたのはなぜなのか? キリスト教の教義から見ればともに異端として退けられ…
ロジェ・カイヨワが亡くなった年に刊行された、自伝的エッセイ。死を予感しながら、生い立ちから最晩年までを振り返る作品は、静かな諦念とともにとても慎み深い仕草で自身の仕事を評価再確認している。文体にあらわれる表情には、落ちつきのある弱さが浸透…
原題は「夢に起因する不確実性」で、こちらのほうが内容をよりよく表しているし、カイヨワの思考の態度をよく表している。幻想的なテーマを好奇心からあつかうというよりも、夢という現象について先行テクストを参照しながらきわめて厳密に合理的に捉えよう…
日本において上堂という修行僧向けの法話をはじめたのが道元で、『正法眼蔵』とならぶ道元の主著『永平広録』全10巻には全531回分が収められている(第1巻から第7巻まで)。本書はそのうちから代表的なもの20篇を選んで、漢語原文に読み下し文と現…
2017年から2021年までのあいだに40代の哲学者同士が行った5回の対談が収められた一冊。この間に、國分功一郎は『中動態の世界』を出版し、千葉雅也は『勉強の哲学』を出版し、それぞれかなり注目されていたことが思い出される。 本書の冒頭2回の…
題名も装丁も青年層向けを意識したもので、中高年が手を出すには気恥ずかしさがある作品ではあるが、シオラン研究者が大学の紀要や哲学討論会での発表の内容をもとにして創りあげられたもので、内容的には手際よくしかも批判的視点を交えながら的確にシオラ…