読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

宗教

松長有慶ほか『即身 密教パラダイム 高野山大学百周年記念シンポジウムより』(河出書房新社 1988)

空海が即身成仏思想を説いた『即身成仏義』を中心に、西欧の学知の世界で新機軸を打ち出しながら研究を進める三人の柔軟な知識人をむかえて、空海思想の現代的意味をとらえようとしたシンポジウムの記録と、シンポジウムに関連した論考の集成からなる一冊。 …

松長有慶『訳注 声字実相義』(春秋社 2020)

『訳注 即身成仏義』についで刊行された空海訳注シリーズの第4弾。大日如来が現実化したものとして現われ出ている現実世界をかたちづくるものすべては塵すべては文字いう空海の密教思想を説いた『声字実相義』の解釈本で、平易な表現にもかかわらず、古くか…

松長有慶『訳注 即身成仏義』(春秋社 2019)

仏教一般に対して空海の思想の特異な点は、すべてが大日如来の発現であるとしているところで、物質も精神も本質的には違いがないという教えが説かれている。この点に関して本書では特に本論の第六章「生み出すものと生み出されるものの一体性」に詳しい解説…

松長有慶『空海』(岩波新書 2022)

新書で手に入りやすい空海最新入門書。真言宗僧侶で全日本仏教会会長も務めた高僧による、空海の著作をベースにした思想伝授に重きを置いた解説書。近作には、『訳註 秘蔵宝鑰』(春秋社 2018)、『訳注 般若心経秘鍵』(春秋社 2018)、『訳注 即身成仏義』…

永野藤夫訳『聖フランシスコの小さき花』(講談社 1986)

聖フランシスコばかりでなく、フランシスコ会の兄弟信徒の行状も多く描かれている聖人伝。全53のエピソード。キリストや天使や聖人たちの幻を見ることも、奇蹟を行うことも、頻繁に起きていて、すべて肯定的に描かれている。フランシスコ会発足当初の時代…

アウグスティヌス『主の山上のことば』(原書 393-396, 熊谷賢二訳 上智大学神学部編キリスト教古典叢書8 創文社 1970)

マニ教から新プラトン主義を経てキリスト教に辿りついたアウグスティヌスによるマタイの福音書「山上の説経」の解釈書。『聖書』は書かれた言葉そのものの相において読むのではなく、象徴的に読み解く必要があることを知ったことから聖書読解に劇的な展開を…

高木昌史『美術でよむ中世ヨーロッパの聖人と英雄の伝説』(三弥井書店 2020)

グリム兄弟や伝承文学などが専門のドイツ文学者高木昌史が文学と美術の両面から中世ヨーロッパの世界を案内する一冊。聖人や英雄伝説への入門あるいは再入門として伝説の概要とテキスト本文の引用がまず提示されたあと、その伝説に取材した視覚芸術家の作品…

アウグスティヌス『神の国 (三)』(服部英次郎・藤本雄三訳 岩波文庫 1983)

アウグスティヌス『神の国』第三分冊、第11巻から第14巻を収める。 古代の終焉と中世の端緒の時代に多大なる影響力を持ったアウグスティヌスの世界観は、21世紀の現代の私たちの感覚とは異なる。異なっているがゆえに、参考になることもおおいにある。…

アウグスティヌス『神の国 (一)』(服部英次郎・藤本雄三訳 岩波文庫 1982)

アウグスティヌスの主著、正式名称『神の国について異教徒を駁する』全22巻のうちローマ陥落をめぐる保守勢力のキリスト教批判への対抗としてローマ帝国に内在していた問題をめぐって書かれた第1巻から第5巻までを収めている。神話の神々とその祭祀、ス…

沓掛良彦訳 エラスムス『痴愚神礼讃 ラテン語原典訳』(原著 1511, 中公文庫 2014)

意図することなく宗教改革の火付け役のひとつともなった作品。軽いようでいて、現状回復不能にしてしまう、パロディの掘り崩す力を、沓掛良彦によるラテン語原典からの新しい翻訳ですっきり楽しめる。五百年前の古典作品ではあるが、友人のトーマス・モアの…

山田晶『アウグスティヌス講話』(新地書房 1986, 講談社学術文庫 1995)

京都北白川教会で1973年に行われた講話6篇をベースに編纂されたアウグスティヌスのキリスト教一般信徒向けの研究。第1話は中央公論社「世界の名著」シリーズのアウグスティヌスの解説「教父アウグスティヌスと『告白』」(1968)でも強調されているアウグス…

寿岳文章訳のダンテ『神曲』

ダンテの『神曲』を粟津則雄が推奨していた寿岳文章訳で読んだ。単行本の刊行は1974-76年、この訳業により1976年の読売文学賞研究・翻訳賞を受賞している。私が今回手に取ったのは集英社ギャラリー[世界の文学]1古典文学集。イタリア文学者河島英昭によるダ…

服部英次郎『アウグスティヌス』(勁草書房 1980, 新装版 1997)

岩波文庫のアウグスティヌスの翻訳は『告白』『神の国』ともに服部英次郎の手になるもの。 私は中央文庫の山田晶訳『告白』全三巻を読んでアウグスティヌスに興味を持ち、近くの図書館でいちばん手間のかからない解説書であったという理由で本書を手に取った…

大谷哲夫『道元「永平広録・上堂」選』(講談社学術文庫 2005)

日本において上堂という修行僧向けの法話をはじめたのが道元で、『正法眼蔵』とならぶ道元の主著『永平広録』全10巻には全531回分が収められている(第1巻から第7巻まで)。本書はそのうちから代表的なもの20篇を選んで、漢語原文に読み下し文と現…

道元『永平広録 真賛・自賛・偈頌』(講談社学術文庫 2014, 全訳注 大谷哲夫)

愁人愁人に向かって道うこと莫れ、無道愁人人を愁殺す 迷っている人は黙っとけというのは、たとえ正しくても、言い方によっては言論封殺の徒と思われても仕方ないところがあるけれど、反対に、すべての言説をそれぞれいいねといって放置するのもまたおかしな…

竹村牧男『禅のこころ その詩と哲学』(ちくま学芸文庫 2010)

仏教学者竹村牧男の思想の根幹は臨済禅で、系譜としては釈宗演‐鈴木大拙‐秋月龍珉‐竹村牧男となる。著作における特色としては禅が大乗仏教であることを強く押し出しているところが挙げられる。本書の第七章「大悲に遊戯して<大乗>」のなかの小題のひとつに…

神塚淑子「『老子』 <道>への回帰」(岩波書店 2009, シリーズ:書物誕生 あたらしい古典入門)

『老子』テクストの誕生と受容の歴史を概観する第一部と、『老子』テクストを五つのテーマに分けて代表的な章の読み解きを行なった第二部の二段構成。 第一部では残存する複数テクスト間の差異と歴代の『老子』注釈書の変遷から、成立の経緯と儒教との関係を…

竹村牧男『親鸞と一遍 日本浄土教とは何か』(講談社学術文庫 2017, 法蔵館 1999)

他力浄土門の対照的な祖師の二人である親鸞と一遍を主に教学的側面から対比しつつ、日本浄土教の救いの理路を描き出した一冊。「信心の親鸞」に対し「名号の一遍」と言われる二人の念仏の思想を、特に三信(さんじん)の問題と還相(げんそう)の問題に焦点…

山田雄司『怨霊とは何か 菅原道真・平将門・崇徳院』(中公新書 2014)

日本三大怨霊と称される三人を軸に、中世から現代にいたるまでの日本人の怨霊観と鎮魂文化を解き明かそうとする一冊。著者は日本古代・中世信仰史を専門とする歴史学者で、現三重大学教授。おどろおどろしさを期待するとすこし趣向が違っていてがっかりする…

松岡正剛『情報の歴史を読む 世界情報文化史講義』(NTT出版 1997)と松岡正剛監修『増補 情報の歴史 象形文字から人工知能まで』(NTT出版 1996)

2021年に再増補版として『情報の歴史21―象形文字から仮想現実まで』が編集工学出版社から刊行されているらしいのだが、今回私が覗いてみたのは、ひとつ前の増補版『増補 情報の歴史 象形文字から人工知能まで』。第八ダイアグラムの「情報の文明―情報…

ひろさちや『道元 仏道を生きる』(春秋社 2014)

道元の生涯をたどりながら思想と布教の展開を跡づけるという、いつもながらのひろさちやの語り口で成立している一冊。 ひろさちやが道元を見る時のポイントとなっているのは、貴族が没落し権勢が武家に取って代わられる鎌倉初期の激動の渦中にあった超名門貴…

ハンス・ヨーナス『アウシュヴィッツ以後の神』(原著 1994, 法政大学出版局 品川哲彦訳 2009)

ハンス・ヨーナスは1903年生まれのドイツ系ユダヤ人哲学者。学生時代にはシオニズム運動に参加し、第二次世界大戦時にはイギリス軍に志願しユダヤ旅団に属してナチス・ドイツと戦った。また、戦期にドイツから出国することの叶わなかった母親は、アウシュビ…

ひろさちや『NHK「100分de名著」ブックス 道元 正法眼蔵 わからないことがわかるということが悟り』(NHK出版 2018)

著者曰く、『正法眼蔵』は禅の指南書としてよりも哲学書として読むのが好い。本書で扱うのは「現成公案」「弁道話」「生死」「仏性」「有時」「山水経」「洗浄」「諸悪莫作」「菩提薩埵四摂法」「八大人覚」の各巻と、『典座教訓』『普勧座禅儀』。大事なと…

ひろさちや『親鸞を生きる』(佼成出版社 2021)

ひろさちやの魅力は、自分が何度も仏典を読み込んで掴んだこれぞというものを、通念を超えたところで開示してくれるところにある。三桁にもなる全著作のうちのほんの数冊を読んだけではあるが、いままで読んだものにはすべて生き生きとしていて芯の通った独…

ひろさちや『空海入門』(祥伝社 1984, 中公文庫 1998)

学問的入門書というよりも、司馬遼太郎の『空海の風景』と同じく、資料を調べながら著者の想像の肉付けを加えていった小説風人物伝といった味わいの一冊。空海は平安時代に唐から密教を日本に持ち帰ったのではなく、密教系経典を持ち帰ったうえで密教そのも…

ひろさちや『一遍を生きる』(佼成出版社 2022)

踊念仏を興し、被差別民や芸能とも深いかかわりを持った鎌倉期の流浪の捨聖、一遍。その一遍の生涯と思想を『播州法語集』や『一遍聖絵』(『一遍上人絵伝』)に依りながら語り起こした、ひろさちや最晩年の著作。日本仏教の祖師たちのひとりである一遍の教…

ジョーゼフ・キャンベル『神話のイメージ』(原著 1974, 大修館書店 訳:青木義孝+中名生登美子+山下主一郎 1991)

古代から脈々と連なる世界各地の神話を広く繊細な視点から重層的に扱い、霊的世界と物質的現世世界の合一を主テーマとする各神話を貫くイメージを421点の図版を通じて解き明かしていく。全世界に広がる同系のイメージを、同時発生的なものと考えるより、なん…

小林一枝『『アラビアン・ナイト』の国の美術史 【増補版】イスラーム美術入門』(八坂書房 2004, 2011)

イスラムの世界では「礼拝の対象としての聖像・聖画さらに宗教儀礼用の聖具を持たない」。建築以外には宗教の美を持たないとされ、「神の創造行為につながる生物の造形表現」に対する禁忌の念が、イスラム美術といわれる表現の領域において独特の基底を形作…

柳田聖山『禅の語録1 達摩の語録―二入四行論―』(筑摩書房 1969)

禅宗初祖の菩提達摩と初期禅宗の僧たちの思想を達摩の語録という体でまとめられたもの。本文、読み下し文、現代語訳、注釈の四部構成。注釈が充実していて、本文に関係なくこちらだけをつまんで読んでいてもとても参考になる。また、読み下し文もどことなく…

末木文美士『『碧巌録』を読む』(岩波書店 1998, 岩波現代文庫 2018)

岩波文庫の『碧巌録』全三巻は1990年代の最新研究を取り入れた画期的な新釈でおくる文庫本として広く受け入れられたらしいが、実際に手にとってみると、読み下し文と注から読み解くべきもので、現代語訳がなくなかなかハードルが高い。図書館で取り寄せやす…