読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

宗教

ハンス・ヨーナス『アウシュヴィッツ以後の神』(原著 1994, 法政大学出版局 品川哲彦訳 2009)

ハンス・ヨーナスは1903年生まれのドイツ系ユダヤ人哲学者。学生時代にはシオニズム運動に参加し、第二次世界大戦時にはイギリス軍に志願しユダヤ旅団に属してナチス・ドイツと戦った。また、戦期にドイツから出国することの叶わなかった母親は、アウシュビ…

ひろさちや『NHK「100分de名著」ブックス 道元 正法眼蔵 わからないことがわかるということが悟り』(NHK出版 2018)

著者曰く、『正法眼蔵』は禅の指南書としてよりも哲学書として読むのが好い。本書で扱うのは「現成公案」「弁道話」「生死」「仏性」「有時」「山水経」「洗浄」「諸悪莫作」「菩提薩埵四摂法」「八大人覚」の各巻と、『典座教訓』『普勧座禅儀』。大事なと…

ひろさちや『親鸞を生きる』(佼成出版社 2021)

ひろさちやの魅力は、自分が何度も仏典を読み込んで掴んだこれぞというものを、通念を超えたところで開示してくれるところにある。三桁にもなる全著作のうちのほんの数冊を読んだけではあるが、いままで読んだものにはすべて生き生きとしていて芯の通った独…

ひろさちや『空海入門』(祥伝社 1984, 中公文庫 1998)

学問的入門書というよりも、司馬遼太郎の『空海の風景』と同じく、資料を調べながら著者の想像の肉付けを加えていった小説風人物伝といった味わいの一冊。空海は平安時代に唐から密教を日本に持ち帰ったのではなく、密教系経典を持ち帰ったうえで密教そのも…

ひろさちや『一遍を生きる』(佼成出版社 2022)

踊念仏を興し、被差別民や芸能とも深いかかわりを持った鎌倉期の流浪の捨聖、一遍。その一遍の生涯と思想を『播州法語集』や『一遍聖絵』(『一遍上人絵伝』)に依りながら語り起こした、ひろさちや最晩年の著作。日本仏教の祖師たちのひとりである一遍の教…

ジョーゼフ・キャンベル『神話のイメージ』(原著 1974, 大修館書店 訳:青木義孝+中名生登美子+山下主一郎 1991)

古代から脈々と連なる世界各地の神話を広く繊細な視点から重層的に扱い、霊的世界と物質的現世世界の合一を主テーマとする各神話を貫くイメージを421点の図版を通じて解き明かしていく。全世界に広がる同系のイメージを、同時発生的なものと考えるより、なん…

小林一枝『『アラビアン・ナイト』の国の美術史 【増補版】イスラーム美術入門』(八坂書房 2004, 2011)

イスラムの世界では「礼拝の対象としての聖像・聖画さらに宗教儀礼用の聖具を持たない」。建築以外には宗教の美を持たないとされ、「神の創造行為につながる生物の造形表現」に対する禁忌の念が、イスラム美術といわれる表現の領域において独特の基底を形作…

柳田聖山『禅の語録1 達摩の語録―二入四行論―』(筑摩書房 1969)

禅宗初祖の菩提達摩と初期禅宗の僧たちの思想を達摩の語録という体でまとめられたもの。本文、読み下し文、現代語訳、注釈の四部構成。注釈が充実していて、本文に関係なくこちらだけをつまんで読んでいてもとても参考になる。また、読み下し文もどことなく…

末木文美士『『碧巌録』を読む』(岩波書店 1998, 岩波現代文庫 2018)

岩波文庫の『碧巌録』全三巻は1990年代の最新研究を取り入れた画期的な新釈でおくる文庫本として広く受け入れられたらしいが、実際に手にとってみると、読み下し文と注から読み解くべきもので、現代語訳がなくなかなかハードルが高い。図書館で取り寄せやす…

ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ『神話の力』(原著 1988, 早川書房 飛田茂雄訳 1992)

『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスが大きな影響を受けたアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルに、ホワイトハウス報道官も務めたことのある先鋭博学のジャーナリストビル・モイヤーズが問いかける、知的興奮に満ちた対談集。生の冷酷な前提条件…

ディディエ・ダヴァン『『無門関』の出世双六 帰化した禅の聖典』(平凡社 ブックレット〈書物をひらく〉23 2020)

日本における「無門関」受容の歴史を、残された頼りない資料群を丁寧にたどり、現代にいたるまで描き出そうとしたフランス出身の在日仏教研究者ディディエ・ダヴァンのコンパクトな著作。『碧巌録』『臨済録』と異なり、中国本土ではほとんど顧みられない『…

ひろさちや『超訳 無門関』(中央公論新社 2018)

題に超訳と付いているが、よくある意訳抜粋本とは趣向が異なる。 本書は、中国南宋時代の無門慧開(1183年-1260年)によって編まれた公案集『無門関』を、現代語訳、読み下し文、解説で紹介したあとに、公案本則についての著者の自由訳である超訳を付け加え…

鈴木大拙+古田紹欽 編著『盤珪禅師説法』(大東出版社 1943, 1990)

不生禅の盤珪の重要性を見出し道元観照禅と臨済看話禅との違いを説いた鈴木大拙の手になる盤珪禅への導入書。先行して出版されている岩波文庫の鈴木大拙編校『盤珪禅師語録』(1941, 1993)をベースに、よりコンパクトにまとまった原典紹介がなされている。1…

有馬賴底『『臨済録』を読む』(聞き手:エディシオン・アルシーヴ 西川照子 講談社現代新書 2015)

臨済宗相国寺派管長に聞く禅語録『臨済録』の世界への参入の仕方。岩波文庫の『臨済録』を素人が読むと、問答に分別知が紛れ込む余地がでたら瞬時に否定されるという枠組みぐらいしか感じ取ることができないので、実際のところ何をめぐって対話がなされてい…

全国良寛会 監修 竹村牧男 著『良寛「法華讃」』(春秋社 2019)

良寛には法華経を称えた「法華讃」「法華転」と言われる漢詩作品集が四種あり、本書のもとになっているのは原詩102篇と著語(じゃくご)と言われる短い感想を述べたものと溢れる思いから書き添えられた和歌数篇からなる最大のもの。新潟市所蔵の良寛直筆…

『ポプキンズ詩集』(春秋社 安田章一郎+緒方登摩訳 2014)

一様ではない世界の紋様に敏感に反応し、見悶えた人としてのジェラード・マンリー・ポプキンズ。 まだら模様の幻視者という印象が強い。 中世スコラ神学者のドゥンス・スコトゥスとイエズス会の創立者のイグナチオ・デ・ロヨラに傾倒し、英国国教会からロー…

山内志朗『感じるスコラ哲学 存在と神を味わった中世』(慶應義塾大学出版会 2016)

感覚を持つ身体を基体として、個体性をもったハビトゥス(習慣)が生まれ、人生がかたちづくられる。ハビトゥスが方向性を生み出しながら、それぞれの生が営まれることを、主に中世の修道院の生活から解き明かしていったエッセイ的論考。中世の精神と生活の…

八木雄二『「神」と「わたし」の哲学 キリスト教とギリシア哲学が織りなす中世』(春秋社 2021)

神学中心の中世哲学を専門的に研究してきたことから見えてきた現代の思想の偏向性を相対化し批判的な視点を提供する八木雄二の近作。大著『天使はなぜ堕落するのか』(2009)で明らかにされた古代から中世、中世から近代への思想の展開の道筋は、分量的には半…

八木雄二『天使はなぜ堕落するのか 中世哲学の興亡』(春秋社 2009)

中世哲学の勃興から衰滅までの流れと、時代ごと哲学者ごとの思想内容を、難易度の高そうな部分も含めて、初学者にもじっくり丁寧に伝えてくれる頼れる書物。著者のしっかりした研究の成果がみごとに整理されているうえに、中世哲学を読むときに気を付けてお…

山内志朗『新版 天使の記号学 小さな中世哲学入門』(単行本 岩波書店 2001, 加筆修正新版 岩波現代文庫 2019)

ドゥルーズの内在の哲学とドゥンス・スコトゥスの存在の一義性への傾倒に関心を持ったことで中世哲学関連本を最近よく読んでいる。日本人の研究者で入手しやすいのは八木雄二と山内志朗の著作で、並行して読んだりすると、書き方にも原典の読み方にも違いが…

八木雄二 訳著『カントが中世から学んだ「直観認識」 スコトゥスの「想起説」読解』(ヨハネス・ドゥンス・スコトゥス 1265-1308 『オルディナチオ:神と世界の秩序についての論考』第45章の翻訳と注釈 知泉書館 2017)

身体を離れた霊魂のうち罰をまぬがれ神にまみえることが許された至福者の至福、このキリスト教の世界での至福直観を理論づけるために、身体という「個別」質料に関わる感性と、「普遍」形相に関わる知性を結びつけるものとして、はじめて「直観」という概念…

安藤礼二『大拙』(講談社 2018) 神秘から芸術へ

批評家安藤礼二の名前をはじめて意識したのは角川ソフィア文庫の鈴木大拙『華厳の研究』(2020年)の解説。ずいぶんしっかりした紹介をしてくれる人だなと気になって最近複数の作品にあたっていたが、折口信夫研究からの必然的な展開として新仏教家藤無染を…

竹村牧男『良寛の詩と道元禅』(大蔵出版 1978, 新装版 1991)良寛と道元が観た世界の後の世界を観る世界

生きているあいだに確実に超えられない業績を残している人に出会ってしまうのは結構つらい経験ではあるのだが、本を読むということは、そんなつらい経験をあえてもとめているようなところが大きい。 なぜ強いられてもいないのに読んでしまうかというと、これ…

ジョルジョ・アガンベン『王国と楽園』(原書 2019, 平凡社 2021 岡田温司+多賀健太郎訳)

アダムとイヴが追放された楽園と神の王国(天国)と原罪をもつ人間の関係性を論じながら、アントニオ・ネグリとは少し違った角度からマルチチュード(多数者)による地上楽園の実現としての社会変革を支えるひとつの理論として書かれた書物という印象をもっ…

大橋俊雄校注『一遍上人語録 ― 付 播州法語集 ―』(岩波文庫 1985)

遊行の捨聖、一遍智真。 「南無阿弥陀仏 決定往生六十万人」の念仏札を配り歩き、踊念仏を興した鎌倉時代の僧。 輪廻も極楽浄土も信じられない人間であっても、遍満する仏や本来無一物や他力の仏教思想には慰められることがけっこう多い。年をとってきて、自…

宮下規久朗編『西洋絵画の巨匠⑪ カラヴァッジョ』(小学館 2006)と宮下規久朗『闇の美術史 カラヴァッジョの水脈』(岩波書店 2016)

カラヴァッジョを最初に凄いなと思ったのは、静物画「果物籠」を中学生くらいのときに画集で見たときだったと思う。テーブルの上に置かれた籠は手に取れそうだし、籠の中のブドウは指でつまんですぐに食べられそうなみずみずしさだ。すこし虫に喰われたとこ…

エルヴィン・パノフスキー『<象徴形式>としての遠近法』(原書 1924/25, 哲学書房 1993, ちくま学芸文庫 2009)

哲学者の木田元に、専門分野ではないにもかかわらず自ら翻訳しようとまで思わせた魅力的な研究書。美術史家パノフスキーが近代遠近法の成立過程と意味合いを凝縮された文章で解き明かす。日本語訳本文70ページ弱に対して、原注はその二倍を超えてくる分量…

宮下規久朗『聖と俗 分断と架橋の美術史』(岩波書店 2018)

聖と俗、彼岸と此岸の聖別と交流をさまざまな角度から論じた美術論集。アンディ・ウォーホルとキリスト教、シルクスクリーン作品とイコンとの関連を論じた「アンディ・ウォーホル作品における聖と俗」がとりわけ興味深かった。大衆消費社会に流通する代表的…

福永光司『老子』(朝日選書 1997)

陰気、陽気、冲気。 本書は老荘思想・道教研究の第一人者福永光司による訳解書。老子初読という人であれば、二昔前に出版され、ブームにもなった、加島祥造による英語訳からの重訳『タオ 老子』くらいの軽いものの方がよいかもしれないが、一見素っ気なく書…

ペトラルカ『無知について』(原書 1371 岩波文庫 2010 )

イタリア・ルネサンスのキリスト教的ユマニスムの主唱者ペトラルカが、同時代のスコラ文化圏のアリストテレス派知識人から受けた「善良だが無知」という批判に対する論駁の書。アリストテレスの自然哲学思想にも通じているペトラルカ自身の学識もやんわりと…