読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

政治経済

カール・シュミット『陸と海 世界史的な考察』(原書 1942, 中山元訳 日経BPクラシックス 2018)

21世紀の世にあって地政学の古典となった一冊。シュミットの政治学的思想の核となる「友-敵理論」にも言及されていて、なかなか興味深い。 ナチスへの理論的協力を経て、思想的齟齬失脚の後に出版されたシュミット40代半ばの著作。娘のアニマに語りかけ…

ジャック・デリダ『最後のユダヤ人』(原講演 1998, 2000, 原書 2014, 渡名喜庸哲訳 未来社 2016)

フランス領アルジェリア出身のユダヤ系フランス人という自らの出自に正面から向き合い語られた講演二本。 主に学校という公共空間をとおして、ユダヤ人という符牒のもとに疎外されることに恐怖のようなものを感じ、且つ、疎外されたものたち同士が保身のため…

アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート『マルチチュード <帝国>時代の戦争と民主主義』(原書 2004 NHKブックス 2005) 左翼は愛がなくなったときにその生命はおわるんだなと確認させてくれた一冊

左翼の魂は愛、個人的な愛ではなく「公共的で政治的な愛」が肝となる。柄谷行人の交換様式Xの位置にあるアソシエーションも、言葉をかえればこの「公共的で政治的な愛」となる。左翼は愛がなくなったときにその生命は終わり、権威主義、教条主義、官僚機構…

柄谷行人『ニュー・アソシエーショニスト宣言』(作品社 2021) マヌケの抜け道としてのアソシエーションを肯定的に語った本

マヌケの抜け道としてのアソシエーション([協同]組合、[自由]連合)を肯定的に語った本。NAM(新アソシエーショニスト運動)から20年、学生運動からかぞえれば62年、ゆるぎない思索と運動から得た経験を、失敗を含めて語り明かした、現時点での総括…

【読了本六冊】新宮一成『ラカンの精神分析』、小林秀雄訳アラン『精神と情熱に関する八十一章』、スラヴォイ・ジジェク『パンデミック』、『[完全版]石牟礼道子全詩集』、冨田恭彦『詩としての哲学 ニーチェ・ハイデッガー・ローティ』、柏倉康夫訳ステファヌ・マラルメ『詩集』

引越しで図書館へのアクセス環境も変わり、自転車10分圏内に3館の公立図書館があるということでひとまず全館に足を向け、棚の並びを実際に見てみた。検索システムではわからない図書館ごとの特徴がいっぺんで分かるのがリアルの世界のいいところ。本の並…

スピノザ『国家論』( 原書 1677, 岩波文庫 畠中尚志訳 1940, 1975 )世俗の法と自然法

引越し後の一冊目はスピノザ。蔵書整理時にスピノザへの言及があるものを捨てられなかったことを確認できたため、楔の意味合いを込めて新居で何度目かの再読。 捨てられなかった本は的場昭弘『ポスト現代のマルクス ― マルクス像の再構成をめぐって ―』(お…

岡倉天心『英文収録 日本の覚醒 THE AWAKENING OF JAPAN』( 1904 夏野広訳 講談社学術文庫 2014 )余暇についてメモ

セネカの『道徳論集』のなかでもそれ自体としては肯定的にとらえられていた「暇」につづいて、岡倉天心の『日本の覚醒』でも「余暇」「閑暇」の重要性が説かれていたので、他の人の考えも併せてメモ。 【岡倉天心 THE AWAKENING OF JAPAN 原文】 The philist…

丸山俊一+NHK「欲望の時代の哲学」制作班『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ  自由と闘争のパラドックスを越えて』(NHK出版新書 2020 )

GAFAはよくない、SNSはよくない、地球温暖化はよくない、プラスチックやビニールはよくない。ひどい世の中だけど、ひどくさせたのはほかでもない私たちだ。だから哲学して別の視点と思考を持つようにしよう。 うーん、人気があるのは威勢のいい語り口のため…

的場昭弘+佐藤優『復権するマルクス 戦争と恐慌の時代に』( 角川新書 2016 )

再読。「債務が国家をつくる」という的場昭弘の発言が斬新。 赤字国家を前提にすると、アソシアシオンの概念は吹っ飛びます。(中略)債務者を殺すわけにはいかない。長く生きてもらうしかない。(第一章「変質する国家」より) 理論よりも世俗世界にも通じ…

ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分 ―普遍経済学の試み』(原書 1949, 二見書房ジョルジュ・バタイユ著作集第六巻 生田耕作訳1973)余分なものの活用のしかたについての考察

普遍経済学三部作の第一作。断片的エッセイが多いバタイユの作品にあって、珍しく体系的な構造をもった作品。前日の見田宗介『現代社会の理論』や、ロジェ・カイヨワ『聖なるものの社会学』など、生産と消費のサイクルについて論じられる場合によく参照引用…

見田宗介『現代社会の理論 ―情報化・消費化社会の現在と未来―』(岩波新書 1996)バタイユの普遍経済学との共闘

『自我の起源』(1993年)につづく仕事。未来に残したいと著者が願っている七作品のうちの一作。見田宗介(真木悠介)は人に何と言われようとつねに希望のある書物を書こうとしていると決めているところがあるのだなと、複数作品を読みすすめるうちに感じる…

【お風呂でロールズ】08.『政治哲学史講義』マルクス(講義Ⅰ~Ⅲ)格差原理は共産主義にまさるというロールズの押し出し

ロールズのマルクス講義では、マルクスが考えていた理想社会を、『資本論』のなかでよく使われる呼称から「自由に連合した生産者の社会」と呼び、その実現段階としては「社会主義」と「共産主義」があるとし、このふたつの段階の差異として、『ゴータ綱領批…

【お風呂でロールズ】07.『政治哲学史講義』ミル(講義Ⅰ~Ⅳ)ミルの功利主義とロールズの公正としての正義(格差原理)の親和性

ロールズのミルの講義は、自身の考えとの近さゆえにほかの思想家よりも分量も多く自身の見解を深く織り交ぜながら展開されている。目指しているのはともに最大幸福の実現で、ミルの場合は効用原理、ロールズの場合は格差原理からのアプローチと、ことばは違…

【お風呂でロールズ】06.『政治哲学史講義』ルソー(講義Ⅰ~Ⅲ)一般意志と共通善

共通善は common good であるので、翻訳では消えてしまっているけれども共通財とも常時かぶせて読んでくれというようなことが翻訳者側から注意として書かれていたような気がすることをルソーの講義では思い出した。 一般意志は共通善を意志するのですが、そ…

【お風呂でロールズ】05.『政治哲学史講義』ヒューム(講義Ⅰ~Ⅱ) 功利主義者としてのヒュームの政治思想

ホッブズ、ロックの社会契約説からヒュームとミルの功利主義へ講義は移る。自然法による原始の契約から効用の原理での合意選択へのイギリスの政治思想の流れをみながら、ロールズは経験主義哲学者でもあるヒュームの政治思想の面を、主にロックとの対比で語…

【お風呂でロールズ】04.『政治哲学史講義』ロック(講義Ⅰ~Ⅲ) 所有と階級国家についての思想の講義

古典は今現在の視点で批判しても意味はなく、それが書かれた当時の状況において、どのような問題を解決するために書かれたかを考慮しつつ読む必要があるというまっとうな指摘は記憶に残ったが、ロックのどこら辺に限界があるのかはあんまり残らなかった。ロ…

シリーズ・戦後思想のエッセンス『戦後思想の到達点  柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る』(NHK出版 2019 柄谷行人 、見田宗介、大澤真幸)抑圧の回帰と自由への飛翔

学恩に応えなければいけないという一世代下の大澤真幸の真っ正直な気持ちが見事に実を結んだ傑作対談集。 日本の知の世界を切り開いてきた先鋭二人の、それぞれ老い朽ちることのない孤高の歩みの根源にまで分け入ろうとする、準備の整った大澤真幸の態勢がす…

【お風呂でロールズ】03.『政治哲学史講義』功利主義を講じる際に出てきた人間タイプの表現に関してのメモ

ロールズがシジウィックの功利主義について考察している際に、否定的というか、強いられたとすれば嫌悪感をもよおすであろう人間のタイプのとして提示されたものに、逆に、自主的には望むべき人間のタイプなのではないのかと強く感じたために、ロック、ヒュ…

【お風呂でロールズ】02.『政治哲学史講義』ホッブズ(講義Ⅰ~Ⅳ+補遺) 教師がサービス業であることを思い出させてくれる講義

マイケル・サンデルの白熱教室のような討論形式の講義ではなく、オーソドックスな教授型の講義が目に浮かんでくるような講義録。特徴的なのは、ロールズの人柄がそうさせるであろうような誠実さと慎重さを基本にそえた論考の姿勢と、学生たちへ提供された資…

【お風呂でロールズ】01.『政治哲学史講義』序論―政治哲学についての見解 リベラリズムの展開を支えた制御と制限

歴史上の階級間闘争のなかで政治的妥当を精査する層が変化していったということを、まずは序論で確認しておく。 リベラリズムの三つの主要な歴史的源泉は次に挙げるものです。第一に宗教改革、および一六世紀、一七世紀の宗教戦争。この戦争はまず、寛容と良…

【お風呂でロールズ】00.読書資料 2020年刊行の岩波現代文庫のジョン・ロールズ本、三冊

自由と平等を守り保つのがおそらく正義。しかしながら、自由と平等は相性があまりよくない。平等も、何時の誰の立場のどの部分どの範囲における平等かということで、定義も評価も変わってくる。徴税と再分配を司る国家行政運営部門にも取り分があり、そこが…

トニー・ジャット『荒廃する世界のなかで これからの「社会民主主義」を語ろう』(原書 2010, 森本醇訳 みすず書房 2010)語り方を変えてみましょうという誘い

コロナ禍でますます荒廃に拍車がかかりそうな世界のなかで、行動抑制下余裕ができた時間を使って、イギリスの歴史家の最後のメッセージを拝読。筋委縮性側索硬化症(ALS)が進行するなか、口述筆記で書かれたとは思えないほどの眼を見張る先行文献からの引用…

藤田治彦『もっと知りたい ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ』(東京美術 2009) ブルジョア出身で贅沢品作成に才能のある芸術家が取り組んだ社会主義への夢

ウィリアム・モリスは世界を美しくしようとした。美しさへの才能が開花したのは著述の世界と、刺繍や染色、カーペット、カーテン、壁紙、タペストリーなどのテキスタイル芸術。 目指すのは争いも苦痛も失敗も失望も挫折もない、人々の趣味道楽だけでうまく回…

ゲオルク・ジンメル『社会学』(原書 1908, 白水社 1994 上下二巻 居安正 訳)最初から全部読まなければならないという思いを捨ててしまえば、補説をつまみ食いするだけでも十分楽しめ役に立つジンメルの論考(「多数決についての補説」あたりが特におすすめ)

分厚い本に向き合うにはどうしても決意とかが必要になってくる。買ってしまったら余計にそうだ。全部読まないといけないし全部理解しないといけないという圧を自分にかけてしまっている。そうなると息苦しさや求められてもいない自己採点のループに陥ってつ…

ゲオルク・ジンメル『社会的分化論 社会学的・心理学的研究』(原書 1890 石川晃弘, 鈴木春男 訳 中央公論社 世界の名著 47 1968, 中公クラシックス 2011) 分化と分業による個人への非関与が基本姿勢となる近代社会のなかでの自由と孤独というジンメル的思考のはじまりの書

ジンメル32歳の時の処女作にして出世作。ちなみに博士論文は23歳の時の「カントの自然的単子論にもとづく物質の本質」。ヨーロッパ的秀才。 本作は近代社会における社会的な各種地位の分化と分業の進展について所属先とメンバーたる個人の関係を見ながら…

仲正昌樹『現代哲学の最前線』(NHK出版新書 2020)具材が多くても味は荒れていない良質なガイド

読むことが職業とはいえ、よく読んでいる。そして基本的に自分を出さず、主要プレイヤーをフラットに紹介することを心がけている点に、教育者としての矜持がうかがえる。扱われている5つのテーマ、テーマごとの多くの理論家すべてに関心をもち、著作を覗い…

竹田青嗣『哲学とは何か』(NHKブックス 2020) 哲学教師としての竹田青嗣

西洋近代哲学の精華の図式的理解に大変有効な一冊。ただ、著者の本当の希望である社会変革(「自由な市民社会」の確立)の起点としての著作となるには、重みにかける。整理はうまいが、人生を動かしてしまうほどの思索の迫力に欠ける。言いたいことだけを言…

マルティン・ハイデッガー『放下』(原書1959, 理想社ハイデッガー選集15 辻村公一訳 1963)

「計算する思惟」と「省察する思惟」「追思する思惟」を区別するハイデッガー。二系統の思惟の違いが本当にあるものかどうかよくわからない。計算の中にはシミュレーションもフィードバックの機構も組み込むことは可能なので、機械的な思考と人間的な思考の…

今道友信『エコエティカ ―生圏倫理学入門―』(講談社学術文庫 1990)

エコエティカ(eco-ethica)とは、人間の新しい生活圏における新しい倫理学、「生圏道徳学」「生圏倫理学」という著者が1960年代に提示した現代に必要とされる哲学。高度技術社会、産業社会の中で失われた徳目、審美眼、品格、聖性といったものをもう一度取…

イマニュエル・ウォーラーステイン『脱商品化の時代 アメリカン・パワーの衰退と来たるべき世界』(原書2003, 訳書2004)

左翼を自認する社会学者ウォーラーステインが提示する希望をこめた未来世界のモデル。 資本主義システムの決定的な欠点は、私的所有にあるのではなく――それは単に手段にすぎない――商品化にある。商品化こそが資本の蓄積において不可欠の要素なのである。今日…