読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

政治経済

サルトル×レヴィ『いまこそ、希望を』(原著 1980, 1991 訳:海老坂武 光文社古典新訳文庫 2019)

希望が見いだせたらいいなぁと思って手に取った著作。 サルトル最晩年の言葉。 対談相手のベニ・レヴィは毛派のプロレタリア左派指導者で、1973年に68歳で盲目となったサルトルの秘書として1974年から思考の相手をつとめた人物。 本対談はレヴィ主…

ジョルジョ・アガンベン『思考の潜勢力 論文と講演』(原著 2005, 訳:高桑和巳 月曜社 2009)

アガンベンの単著に入っていない論文の集成の書の翻訳。全21篇。 総ページ数500超で、造本も背表紙の厚さを見るといかついが、アガンベン思想の全体的枠組みを体感するのにはもってこいの著作。いずれかの単著を読み終えたのち、広範な領域にわたるアガ…

ジョルジョ・アガンベン『いと高き貧しさ 修道院規則と生の形式』(原著 2011, 訳:上村忠男+太田綾子 みすず書房 2014)

「ホモ・サケル」シリーズの一冊。大量消費社会を超え、生政治にも取り込まれることのない「到来する共同体」に向けてのケーススタディ的著作。イエスのように生きようとしたアッシジのフランチェスコとその後継者としてのフランシスコ会の修道士たちを中心…

ジョルジョ・アガンベン『例外状態』(原著 2003, 訳:上村忠男+中村勝己 未来社 2007)

第二次世界大戦期の独裁国家誕生以降、政治的には世界的に例外状態あるいは緊急事態がつづいていることを指摘して、行政の執行権力の拡大による法の力に関わる危うさの増大を考察した濃密な一冊。法学に疎いものにはなかなか敷居が高いが、現在においても継…

ジョルジョ・アガンベン『瀆神』(原著 2005, 訳:上村忠男+堤康徳 月曜社 2005)

有用性の軛からの解放の諸相について書かれた短めのエッセイ集成。名前のないものとなって必要に追いたてられることなく遊び戯れるという至福。資本主義というよこしまな魔法使いから逃れて自らが魔術師となって行為することの可能性に気づかせようとアガン…

ジョルジョ・アガンベン『カルマン 行為と罪過と身振りについて』(原著 2017, 訳:上村忠男 みすず書房 2022)

哲学とキリスト教神学に加えインドのタントラ仏教の教えから人間における自由について考察した論考。働かないこと、遊ぶこと、踊ることによって現世にニルヴァーナ(涅槃)が出来することを説いている。西洋においても東洋においても秘儀に属するようなこと…

石塚正英『マルクスの「フェティシズム・ノート」を読む 偉大なる、聖なる人間の発見』(社会評論社 2018)

『柄谷行人『力と交換様式』を読む』(文春新書)に収録された講演草稿「交換様式と「マルクスその可能性の中心」」において柄谷行人がマルクスのフェティシズム論に関して多くの示唆を受けたことを示した著作。同じ講演草稿のなかで柄谷行人は、経済的下部…

栗原康『大杉栄伝 永遠のアナキズム』(角川ソフィア文庫 2021, 夜光社 2013)

現代日本の政治学者でアナキズム研究家である栗原康の二冊目の著作。快作であり怪作である『村に火をつけ、白痴になれ――伊藤野枝伝』(岩波書店、2016年)や『死してなお踊れ――一遍上人伝』(河出書房新社、2017年)に先行するアナーキーな人物評伝の第一作…

柄谷行人『力と交換様式』(岩波書店 2022) 初読

柄谷行人81歳での最新作は、枯れたという印象はまったくないが、焦りのようなものが消えた円熟した語りのスタイルによる思考の到達点を見せてくれている。 共同体による贈与と返礼、国家による略取と再分配、資本による貨幣と商品の交換、国家や資本を揚棄…

栗原康『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波現代文庫 2020, 岩波書店 2016)

欲望全開の人が数多く出てくる評伝。はじめのパートナーはダダイストの辻潤、二番目のパートナーはアナキストの大杉栄、いずれも反体制派の強烈な個性の持ち主だが、本書を読むと伊藤野枝は二人を上回る個性的な言動を生み出した人物であることがわかる。伊…

慈円『愚管抄 全現代語訳』(大隅和雄訳 講談社学術文庫 2012)

驚異的な読書人二人、松岡正剛と佐藤優が混迷の時代に読むべき一冊としているのが慈円の『愚管抄』。 近頃、丸谷才一の王朝和歌に関する著作を複数冊読み、後鳥羽院と定家を中心に新古今和歌集の歌人たちへの関心が高まっている状況で、歌人としての慈円と相…

リチャード・ローティ『アメリカ 未完のプロジェクト ―20世紀アメリカにおける左翼思想―』(原著 1998, 晃洋書房 2000, 2017)

リチャード・ローティの政治的信条はブルジョワ・リベラル。立憲民主主義のもとで最大限に自由かつ寛容な社会を実現していこうとする立場。原理主義的な完璧性を目指す急進派に対して、「有限で終息する運命にある」社会政治的なキャンペーンをくりかえすこ…

戸谷洋志『スマートな悪 技術と暴力について』(講談社 2022)

非効率を退け最適化を追求するなかで、利便性と同時に発展進行する冷たい無思考の世界が、高度技術化社会のなかで非人間的な振舞いを誘発容認する悪をも同時に生み出しているのではないかということを、20世紀の歴史を振り返りつつ問題提起し、著者なりの…

ピエール=フランソワ・モロー『スピノザ入門[改定新版]』(原著 2003, 2019, 白水社文庫クセジュ 訳:松田克進+樋口義郎 2021)

訳者によりスピノザ思想の入門書的性格をもつと判断されたために書名に「入門」の語を付けられてはいるが、スピノザの思想の根幹部分に容赦なく斬り込んでくる挑戦的な書物。もったいをつけずスマートに核心に斬り込みながら、淡々とすすむスタイルが爽快。…

エティエンヌ・バリバール『スピノザと政治』(原著 1985 追加論文 1989, 1993, 水声社 叢書言語の政治 17 水嶋一憲訳 2011)

スピノザの主要三著作『神学・政治論』『エチカ』『政治論』(邦訳『国家論』)から、大衆各個人の情動を根底に構成される国家体制について思考する政治論を分析している。ホッブスとの自然権の譲渡と契約をめぐる差異、マルクスとの理論構築においての外的…

浅野俊哉『スピノザ 〈触発の思考〉』(明石書店 2019)

政治哲学・社会思想史を専門とする哲学者浅野俊哉のスピノザ論。主として第二次世界大戦前後にかけてスピノザの思想を語った思想家6名について検討しながら、スピノザの現実的かつ根源的な思考の射程を浮かび上がらせる精緻な論考。20世紀の思想家の政治…

平野晋『ロボット法 <増補版> AIとヒトの共生にむけて』(弘文堂 初版 2017, 増補版 2019 ) 人間のコントロール外の領域に踏み込みつつある技術と共にあることについての考察

ベルクソンは人間の振舞いに機械的な強張りを見たときに笑いが生じると説いた。第三次AIブーム下にある2022年の今現在、特定領野における限られた行動においては、一般的な人間よりも滑らかで高度な技術を見せるロボットやAIはいくらでもいて、その…

ヴォルテール『寛容論』(原書 1763, 中川信訳 現代思潮社 1971, 中公文庫 2011)

光文社古典新訳文庫の斉藤悦則の新訳(2016)もあるらしいが昔からある中川信の訳で『寛容論』を読んだ。 不寛容が拡がっている世の中で、あらためて読み直されている古典、らしい。 カソリックとプロテスタントの対立が長くつづいていた18世紀フランスに起…

カール・シュミット『陸と海 世界史的な考察』(原書 1942, 中山元訳 日経BPクラシックス 2018)

21世紀の世にあって地政学の古典となった一冊。シュミットの政治学的思想の核となる「友-敵理論」にも言及されていて、なかなか興味深い。 ナチスへの理論的協力を経て、思想的齟齬失脚の後に出版されたシュミット40代半ばの著作。娘のアニマに語りかけ…

ジャック・デリダ『最後のユダヤ人』(原講演 1998, 2000, 原書 2014, 渡名喜庸哲訳 未来社 2016)

フランス領アルジェリア出身のユダヤ系フランス人という自らの出自に正面から向き合い語られた講演二本。 主に学校という公共空間をとおして、ユダヤ人という符牒のもとに疎外されることに恐怖のようなものを感じ、且つ、疎外されたものたち同士が保身のため…

アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート『マルチチュード <帝国>時代の戦争と民主主義』(原書 2004 NHKブックス 2005) 左翼は愛がなくなったときにその生命はおわるんだなと確認させてくれた一冊

左翼の魂は愛、個人的な愛ではなく「公共的で政治的な愛」が肝となる。柄谷行人の交換様式Xの位置にあるアソシエーションも、言葉をかえればこの「公共的で政治的な愛」となる。左翼は愛がなくなったときにその生命は終わり、権威主義、教条主義、官僚機構…

柄谷行人『ニュー・アソシエーショニスト宣言』(作品社 2021) マヌケの抜け道としてのアソシエーションを肯定的に語った本

マヌケの抜け道としてのアソシエーション([協同]組合、[自由]連合)を肯定的に語った本。NAM(新アソシエーショニスト運動)から20年、学生運動からかぞえれば62年、ゆるぎない思索と運動から得た経験を、失敗を含めて語り明かした、現時点での総括…

【読了本六冊】新宮一成『ラカンの精神分析』、小林秀雄訳アラン『精神と情熱に関する八十一章』、スラヴォイ・ジジェク『パンデミック』、『[完全版]石牟礼道子全詩集』、冨田恭彦『詩としての哲学 ニーチェ・ハイデッガー・ローティ』、柏倉康夫訳ステファヌ・マラルメ『詩集』

引越しで図書館へのアクセス環境も変わり、自転車10分圏内に3館の公立図書館があるということでひとまず全館に足を向け、棚の並びを実際に見てみた。検索システムではわからない図書館ごとの特徴がいっぺんで分かるのがリアルの世界のいいところ。本の並…

スピノザ『国家論』( 原書 1677, 岩波文庫 畠中尚志訳 1940, 1975 )世俗の法と自然法

引越し後の一冊目はスピノザ。蔵書整理時にスピノザへの言及があるものを捨てられなかったことを確認できたため、楔の意味合いを込めて新居で何度目かの再読。 捨てられなかった本は的場昭弘『ポスト現代のマルクス ― マルクス像の再構成をめぐって ―』(お…

岡倉天心『英文収録 日本の覚醒 THE AWAKENING OF JAPAN』( 1904 夏野広訳 講談社学術文庫 2014 )余暇についてメモ

セネカの『道徳論集』のなかでもそれ自体としては肯定的にとらえられていた「暇」につづいて、岡倉天心の『日本の覚醒』でも「余暇」「閑暇」の重要性が説かれていたので、他の人の考えも併せてメモ。 【岡倉天心 THE AWAKENING OF JAPAN 原文】 The philist…

丸山俊一+NHK「欲望の時代の哲学」制作班『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ  自由と闘争のパラドックスを越えて』(NHK出版新書 2020 )

GAFAはよくない、SNSはよくない、地球温暖化はよくない、プラスチックやビニールはよくない。ひどい世の中だけど、ひどくさせたのはほかでもない私たちだ。だから哲学して別の視点と思考を持つようにしよう。 うーん、人気があるのは威勢のいい語り口のため…

的場昭弘+佐藤優『復権するマルクス 戦争と恐慌の時代に』( 角川新書 2016 )

再読。「債務が国家をつくる」という的場昭弘の発言が斬新。 赤字国家を前提にすると、アソシアシオンの概念は吹っ飛びます。(中略)債務者を殺すわけにはいかない。長く生きてもらうしかない。(第一章「変質する国家」より) 理論よりも世俗世界にも通じ…

ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分 ―普遍経済学の試み』(原書 1949, 二見書房ジョルジュ・バタイユ著作集第六巻 生田耕作訳1973)余分なものの活用のしかたについての考察

普遍経済学三部作の第一作。断片的エッセイが多いバタイユの作品にあって、珍しく体系的な構造をもった作品。前日の見田宗介『現代社会の理論』や、ロジェ・カイヨワ『聖なるものの社会学』など、生産と消費のサイクルについて論じられる場合によく参照引用…

見田宗介『現代社会の理論 ―情報化・消費化社会の現在と未来―』(岩波新書 1996)バタイユの普遍経済学との共闘

『自我の起源』(1993年)につづく仕事。未来に残したいと著者が願っている七作品のうちの一作。見田宗介(真木悠介)は人に何と言われようとつねに希望のある書物を書こうとしていると決めているところがあるのだなと、複数作品を読みすすめるうちに感じる…

【お風呂でロールズ】08.『政治哲学史講義』マルクス(講義Ⅰ~Ⅲ)格差原理は共産主義にまさるというロールズの押し出し

ロールズのマルクス講義では、マルクスが考えていた理想社会を、『資本論』のなかでよく使われる呼称から「自由に連合した生産者の社会」と呼び、その実現段階としては「社会主義」と「共産主義」があるとし、このふたつの段階の差異として、『ゴータ綱領批…