読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

数学

森田真生『数学する身体』(新潮社 2015、新潮文庫 2018)

数学を専門にしていない人にも開かれた数学と数学する人をめぐっての軽快かつ情緒のある世俗批評。チューリングと岡潔がメインだか、その前段で語られる数学の形式化と基礎づけに関する危機の歴史の語り方が興味深い。数を数える数学の発生にはじまり、心と…

今野健『スピノザ哲学考究 普遍数学の樹立と哲学の終焉』(東銀座出版社 1994)

集合論から読み解くスピノザの哲学。幾何学的秩序に従って論証されるスピノザの『エチカ』の構成を、現代数学の世界からその骨組みを透視して見せた論考。合理のみで突き詰め、削ぎ落していった果てのスピノザ哲学のひとつの姿を見ることができて、なるほど…

アラン・バディウ『推移的存在論』(原著 1998, 水声社 近藤和敬+松井久訳 2018) 数学と数学の裂け目からの哲学的思考(文芸要素多め)

本書『推移的存在論』は、バディウの主著『存在と出来事』(1988)と『存在と出来事 第二巻 世界の論理』(2006)を繋ぐ位置において書かれた中継点的著作で、『存在と出来事』のエッセンスと『世界の論理』へと展開していく変換点が記されている。訳注解説含め…

アラン・バディウ『ラカン 反哲学3 セミネール 1994-1995』(原著 2013, 法政大学出版局 原和之訳 2019)

哲学者アラン・バディウがいうところの「反哲学」とは、知的な至福の可能性と真理をめぐる思考である哲学の信用を失墜させるような仕方で同定した上で、哲学とは異なった思考の布置の到来であるような「行為」を引き受ける思考のスタイルを指していて、バデ…

近藤和敬『構造と生成Ⅰ カヴァイエス研究』(月曜社 古典転生4 2011年) 「数学は生成する」

2009年に受理された著者の博士論文『カヴァイエスにおける「操作」と「概念」――数学的経験における構造の弁証論的生成について』をベースに、カヴァイエス『構造と生成Ⅱ 論理学と学知の理論について』での解説と重複する部分を削除の上、加筆改訂した論考。…

ジャン・カヴァイエス『構造と生成Ⅱ 論理学と学知の理論について』(原著 1947, 月曜社 古典転生5 近藤和敬訳 2013)

ジャン・カヴァイエス(1903-1944)の名前を知ったのはつい最近のことで、図書館の検索システムで書名にスピノザと入れて見ていたところ、近藤和敬著『〈内在の哲学〉へ カヴァイエス・ドゥルーズ・スピノザ』(青土社 2019年)という検索結果に目が止まった…

中沢新一『レンマ学』(講談社 2019)とりあえず、この先五年の展開が愉しみ

中沢新一、七〇歳のレンマ学言挙げ。あと十年ぐらいは裾野を拡げる活動と頂を磨き上げる活動に注力していただきたい。難しそうな道なので陰ながら応援!!! 横道に逸れたら、それも中沢新一。私とは明瞭に違った人生を生きている稀有な人物。変わった人なの…

竹内薫『「ファインマン物理学」を読む 電磁気学を中心として』(講談社ブルーバックス 2020)

物理学はモデルよりもモデルのもととなる数式、方程式が大事。そのことを明確にしかも興味深く教えてくれるのがファインマン先生、さらによりかみ砕いて肝の食べやすい部分だけをさっと取り出してくれているのが竹内薫。本当は方程式を理解したほうがいいに…

山田克哉『真空のからくり 質量を生み出した空間の謎』(講談社ブルーバックス 2013 )

観測不能と無限大とゼロ。付け加えて仮想粒子とプランク定数と量子化。量子力学の世界像に慣らしてくれるほぼ数式なしで書かれた解説書。 わりと疑い深くはない性格なので、専門の編集者がついて出版された書籍に書かれていることは、なんとなく理解すること…

ジョルジョ・アガンベン『実在とは何か マヨラナの失踪』(原書2016, 講談社選書メチエ2018)

イタリアの天才物理学者が突然失踪した理由を思想的側面から推理するアガンベンの著作。著者がマヨラナの失踪について最終的に提示した見解よりも、そこに到るまでの統計確率の学問的解釈に目を惹かれた。「決断することを可能にする科学」としての統計確率…

高岡詠子『シャノンの情報理論入門 価値ある情報を高速に、正確に送る』(講談社ブルーバックス 2012)

情報理論の父、クロード・シャノンを紹介した入門書。「あらゆる情報は数値に置き換えて表わすことができる」として、情報のデジタル化を理論的に支えた業績を3つの視点からとらえられるようにしている。 1.情報を量ることができることについて2.情報を…

須藤康介+古市憲寿+本田由紀『文系でもわかる統計分析』(朝日出版社 旧版 2012, 新版 2018)

数学が苦手な社会学者古市憲寿が狂言回しとなって、統計分析の初歩をレクチャーしてもらう対談形式の一冊。用語に馴染むというところからはじめてくれているので、敷居がとても低く初心者に優しい。IBMのSPSSを実際に操作しながら統計分析の手法を学んでいく…

クリフォード・ピックオーバー『ビジュアル 数学全史 人類誕生前から多次元宇宙まで』(原書2009, 岩波書店2017)

図書館が再開して、自分では購入して保有してはおけない大型本に接することができるようになった。 「紀元前1億5000万年ころ アリの体内距離計」、「紀元前3000万年ころ 数をかぞえる霊長類」からはじまって、「2007年 例外型単純リー群E8の探求」、「2007年…

福岡伸一『フェルメール 光の王国』(木楽舎 2011)

1632年、オランダ。フェルメールとスピノザが生まれたオランダ、デルフトでもうひとり、光とレンズの世界に没入する人物がいた。アントニ・ファン・レーウェンフック。顕微鏡の父、微生物の発見者。福岡伸一はフェルメールの『地理学者』『天文学者』のモデ…

竹内薫『「ファインマン物理学」を読む 普及版 力学と熱力学を中心として』(講談社ブルーバックス 2020)

サイエンス作家竹内薫がガイドする「ファインマン物理学」への手引き書。三分冊のうちの最終巻のようだが、「ファインマン物理学」の原書第1巻は「力学」、第2巻が「光・熱・波動」ということなので、こちらから読みはじめた。 ファインマン自身の魅力に加…

山田克哉『 E=mc2のからくり エネルギーと質量はなぜ「等しい」のか』(講談社ブルーバックス 2018)

恥ずかしながら「光子はエネルギーを持っているのに質量がゼロとはどういうこと?」と理系世界では常識レベルかも知れないことをずっと疑念に思ってきたのだが、本書ではじめて腑に落ちた。「電子対創生」。いままで読んだことはあったかも知れない。でも、…

佐藤勝彦 監修『図解雑学 量子論』(ナツメ社 2001)

初歩の初歩、入門中の入門の書みたいな体裁をとっているにもかかわらず、具だくさん。しかもきっちりと味付けがしてあって、うまさを感じる。見開き2ページでひとつのトピックを扱っていて、右に図解、左に解説文で、数式が理解できないひとに向けても、し…

エルヴィン・シュレーディンガー『自然とギリシャ人・科学と人間性』(原書 1996, ちくま学芸文庫 2014)

教育は洗脳の側面を持っていると言われるなかで、自主的に学習していこうとする者は進んで洗脳される態勢をとっているカモのようなものなのに、相対論と量子論の洗脳はなかなかきまってくれない。古典力学の洗脳が強くて解けないので、新しい洗脳を弾いてし…

吉田洋一+赤攝也『数学序説』(培風館 1954, ちくま学芸文庫 2013)

一回試行の確率空間って、日々の生活とか歴史の歩みのことを言っているようだ。 理系の学者でうまい文章を書く人はとても魅力的で、普段は思いもつかないようなことを示唆してくれる。 適当に訓練された数学者は、数学的理論に対して’数学的審美眼’ともいう…

コーラ・ダイアモンド編『ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎編 ケンブリッジ1939年』(原書 1975, 講談社学術文庫 2015)

なに言っているんでしょう、ウィトゲンシュタイン。そんなことばっかり言ってると愛しのチューリング君にあきれられてしまいますよ。 前回の最後は紛糾してしまった。そしておそらく、今回も同様にもつれることになりそうだ。少し前に私が辿り着いたポイント…

ジャック・デリダ『「幾何学の起源」序説』(原書 1962, , 青土社 1988)

デリダの序説はフッサール論であるとともに、ジェイムズ・ジョイス論という側面を持っている。ジョイスを論ずるのにヴィーコを持ってきたベケットと、フッサールを持ってきたデリダ。これまでデリダは苦手で、お付き合いするのをためらうことが多かったのだ…

エドムント・フッサール『幾何学の起源』(執筆 1936, 中公文庫 1995, 青土社 1988)

文化を担っているという意識をことさら持たなくとも、日常の活動の中で、文化的なものを伝える媒質あるいは再生する装置としての自分自身というものを思うと、すこしプラスの感情が発生する。フッサールの『幾何学の起源』の文章は、そうした機会を発生させ…

赤攝也『集合論入門』(培風館 1957, ちくま学芸文庫 2014)

数学が趣味ではない文系人間でも、集合論は興味深く接することができる領域だと思う。無限と自己言及に関する議論についての感度が高くなる気がするので、怖がらずに四、五時間付き合ってみるのも経験値の観点からも損はない。また、ぜんぶ分からなくても、…

小室直樹『数学を使わない数学の講義』(2005, 原書『超常識の方法』1981)

本のタイトルは重要で、原書の『超常識の方法』のままだったら手に取らなかったかもしれない。40年前の書籍が15年前に改訂・改題して出版、いまでも版を重ねているようだからたぶん良書なんだろうとおもって購入して読んでみたら、昭和の香りが色濃い、おじ…

スティーヴン・ホーキング+レナード・ムロディナウ『ホーキング、宇宙のすべてを語る』(原書2005, 訳書2005)

物理学者にとっては宇宙のモデルとして数式のほうがリアルなんだろうが、一般読者はその数式から導き出されるイメージを自然言語に翻訳してもらわないことには悲しいことに何もわからない。本書はホーキングとムロディナウによって一般層になるべくわかりや…

ジョン・フォン・ノイマン『計算機と脳』(原書1958, 2000 ちくま学芸文庫 2011)

ノイマンの遺稿。現代コンピュータの生みの親が最後に綴った言葉は六十年の時を経てもなお輝きを失わない。第三次人工知能ブームの世の中で一般向けに出版されている解説文に書かれている基本的な重要情報は本篇100ページに満たないノイマンの原稿のなか…

石川聡彦『人工知能プログラミングのための数学がわかる本』(2018)

自然言語処理系のAIは、まだバカっぽさが残っているところが愛らしく感じられて好きだ。はてなブログの関連記事の抽出機能はこの自然言語系のAIが担っているものと想定されるのだが、書き手の予想を外れる関連記事を持ってくることが多々あって、それはそれ…

佐藤敏明『文系編集者がわかるまで書き直した世界一美しい数式「eiπ =-1」を証明する』(2019)

中卒レベルの数学力の読者層に向けてオイラーの公式、オイラーの等式を理解してもらおうと書かれた一冊。章末の練習問題を端折ってしまっても、本文さえ読み通せば、なんとなく分かった気にさせてくれる。対数や指数の意義についても、計算を簡便に高速にす…

吉田武『虚数の情緒 中学生からの全方位独学法』(2000)

名著。虚数を通して量子力学の世界にも手引きしてくれていて、お得。先日科学哲学の入門書で何の説明もなしに出てきて困った「虚時間」や「ファインマンの経路積分法」についても紹介があり、さらに興味付けもしてくれて大変ありがたい。千頁の大冊だが19年…

野矢茂樹『無限論の教室』(1998)

カバー表: 「無限は数でも量でもありません」とその先生は言った。ぼくが出会った軽くて深い哲学講義の話 著者の友人の哲学者、田島正樹をモデルにした無限論ゼミ風物語。カント―ル、ラッセル、ゲーデルの業績をベースに物語は展開する。 私が一番興味を持…