読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

日本の小説

【金井美恵子を三冊】『岸辺のない海』(中央公論社 1974, 日本文芸社 1995, 河出文庫 2009)、『柔らかい土をふんで、』(河出書房新社 1997, 河出文庫 2009)、現代詩文庫55『金井美恵子詩集』(思潮社 1973)

不遜な作家の不遜な小説。 ロラン・バルトやフランスのヌーヴォー・ロマンに影響を受けつつ、書くことをめぐって書きつづける、日本にあっては稀有なスタイルを持つ小説を生みだしている金井美恵子。『柔らかい土をふんで、』が1997年出版なので、おおよ…

堀田善衛『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』(集英社 1998 集英社文庫 2005)

小説。 『箴言録』で有名なラ・ロシュフーコーが残した『回想録』の体裁にならって(単行本p398参照)、ラ・ロシュフーコー公爵フランソワ六世が語り手となり、三人称形式と一人称形式を混ぜ合わせながら、ラ・ロシュフーコー家の歴史と十七世紀フランスを中…

中島敦(1909-1942)の遺作「李陵」と典拠の中国古典

『文選 詩篇 (五)』で李陵と蘇武の作とされる漢詩を読んで、中島敦の「李陵」が気になりだしたので、典拠として挙げられている中国の古典とともに久しぶりに読んでみた。高校以来だろうか。「李陵」の主要な登場人物は前漢第七代皇帝武帝が北方の匈奴と攻…

『樋口一葉小説集』(ちくま文庫 2005)憂い悲しみながら生きている

さきほど給湯器が壊れてお湯が出なくなった。風呂を沸かした直後で風呂には入れるので、まあついているといえばついている。正月休みも明けているので、明日になれば管理会社に連絡が取れるのも、ついているといえばついている。かたちあるものは古びて壊れ…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】06. 戦闘 ハイデッガーのきな臭さ

ハイデッガー『ニーチェ』の原書は1961年の刊行。実際に講義が行われたのは1936~1937, 1939, 1940の期間。ナチスとは距離をとったと言われている時期ではあるが、どうにもきな臭い。 プラトニズムと実証主義における真理 ニーチェがニヒリズムの根本経験か…

松浦寿輝『波打ち際に生きる』(羽鳥書店 2013)

松浦寿輝の東京大学退官記念講演と最終講義をまとめた一冊。読後に襲ってきたのは不安感。到底この人の域には行きつけないのに、なに読んでいるんだろうという無力感みたいなものが湧いてきた。才能があるのに何故日本では輝いて幸福そうには見えないのかと…

大江健三郎『読む人間』(集英社 2007, 集英社文庫 2011)

大江健三郎の読書講義。 2006年に池袋のジュンク堂で行われた6本の講演と、同じく2006年に映画「エドワード・サイード OUT OF PLACE」完成記念上映会での講演に手を入れて書籍化したもの。執筆活動50周年記念作。 現代日本の読書人であれば一冊くらい大江健…

横書きでも鑑賞可能な吉田一穂の詩と縦書きでしか鑑賞できない高柳重信の俳句

こだわりの強い吉田一穂ファンのサイバースペース上での発言には「横書きの吉田一穂なんて耐えがたい」というものが結構多いけれども、私の個人的意見としては、そんなものですかねという程度。『古代緑地』で30度のポールシフトの影響度の強さを語ってい…

高橋源一郎『今夜はひとりぼっちかい? 日本文学盛衰史 戦後文学篇』(2018)

高橋源一郎は昔から気になる作家だ。小説に関してはほぼ全部読んでいるんじゃないかと思う。で、久しぶりにいい高橋源一郎作品を読んだような気になった。三度目の離婚以降の作品(『あ・だ・る・と』)あたりから何となく低調な感じがしていたけれど、今回…

大江健三郎 柄谷行人 全対話 世界と日本と日本人

大江健三郎 柄谷行人 全対話 世界と日本と日本人 bookclub.kodansha.co.jp 偉大な読み手二人による対談。批評家(哲学者)と小説家という違いはあれ、読み、それによって書くことを深めていった二人の人間の大きさを改めて体感した。 中野重治のエチカ 1994/…

水上勉 『良寛』

水上勉良寛1984 徳川の支配の仕組みに組み込まれた宗門を批判的に見る清らかさはあったが、僧としての資質には傷があったという視点から良寛が語られている。曹洞宗の僧良寛というよりも、家を捨て、宗門を捨て、文芸に生きようとした人間山本栄蔵の一生を、…