読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

日本の近現代詩

思潮社現代詩文庫502『岡井隆歌集』(思潮社 2013)

岡井隆75歳の年に刊行された本歌集は、未刊の最初期歌集『O』から平成20年(2008年)刊行の『ネフスキイ』までの60年31冊の歌集から約1200首を同じ短歌結社『未来』の後継世代の黒瀬珂瀾が選歌した最新アンソロジー。60歳以降の年月にあたる…

思潮社現代詩文庫205『田原詩集』(2014)

風化したあとの白骨の白さのイメージをそこここに滲ませながら、いまを生きることを謳う、日本語と中国語のふたつの言語で詩を書く詩人の詩集。日本語による詩集二冊と未刊詩篇、日本人翻訳者による中国語訳詩篇からなる珍しいアンソロジー。日本語で書く詩…

北川透『傳奇集』(思潮社 2022)

いまの日本の現代詩の領域では80歳を超えた高齢の詩人たちの活動がよく目に入ってくる。谷川俊太郎、高橋睦郎、吉増剛造ほか、かなりの実力者が名を連ねる。本書の北川透もそのなかの一人で、刊行時は86歳、収録作の初出は78歳から83歳まで刊行して…

見田宗介『宮沢賢治 ― 存在の祭りの中へ』(岩波書店 20世紀思想家文庫12 1984, 岩波現代文庫 2001)

本当の修羅は修羅でない者にむかってことばを投げつけずにはいられないものなのだろう。 だから、多作が可能であり、際限のない推敲が可能となるのだろう。 50歳を過ぎてようやく納得できたのは、私自身は修羅ではないということ。 その差を確認するための…

管啓次郎『詩集 犬探し/犬のパピルス』(Tombac , インスクリプト 2019)

アントナン・アルトーの翻訳者ということで身構えていたが、読んでみるといたって穏当で建設的。幻想的フィクションを織り交ぜているが、それは世界をよりよく見取り、新たな相を見せるようにするための詩的な戦略で、きわめて実践的なものであることが感じ…

中央公論社『日本の詩歌22 三好達治』(中央公論社 1967, 新訂版 1979, 中央文庫 1975)

高見順の異母兄にあたる福井県出身の詩人阪本越郎が、福井に縁の深い三好達治の作品ひとつひとつに的確な鑑賞文をつけて案内してくれる良書。第一詩集『測量船』から最後の詩集『百たびののち』まで、代表作とみられるものがこの一冊で優れた読み手の読解付…

石原八束『三好達治』(筑摩書房 1979)

俳人石原八束はすでに飯田蛇笏主宰の「雲母」の編集に携わっていた1949年30歳の時に詩人三好達治に師事することになり、1960年から詩人の死の年まで三好達治を囲む「一、二句文章会」を自宅にて毎月開催していた。 本書は昭和50年代に各所に発表…

高橋睦郎『永遠まで』(思潮社 2009)

翁なのか、幼児であるのか、はたまた、生者であるのか、死者であるのか、いずれでもなくいずれでもあるあわいを生きていることはそれぞれの詩が強烈に主張しているけれども、70歳を迎えた身体からくりだされることばは、時間と空間の閾に通路を拓きながら…

三好達治『詩を読む人のために』(岩波文庫 1991, 至文堂 1952)

「初めて現代詩を読もうとする年少の読者のために」書かれた批評家的資質の確かな詩人による現代詩入門書というのが本書の位置づけではあるが、刊行年度が1952年ということもあって、内容的には文語調の近代詩から口語自由詩へ発展し定着していく過程を…

萩原朔太郎『青猫』(1923)

2023年は『青猫』刊行百周年。ほかには高橋新吉「ダダイスト新吉の詩」百周年であったり、伊藤野枝、大杉栄没後100年だったりするが、中学生での初読以来『青猫』のイメージは強烈で、なじみ深いものともなっている。今でも機会があれば読み返したり…

三好達治『萩原朔太郎』(筑摩書房 1963, 講談社文芸文庫 2006)

萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治の詩人論。『月に吠える』『青猫』で日本の口語自由詩の領域を切り拓いたのち、「郷土望景詩」11篇において詩作の頂点を迎えたと見るのが三好達治の評価で、晩年の『氷島』(1934)における絶唱ならぬ絶叫は、詩の構成からい…

桑原武夫+大槻鉄男選『三好達治詩集』(岩波文庫 1971)

いくつかある三好達治のアンソロジーのなかで歌集『日まわり』と句集『路上百句』を収録しているめずらしい一冊。詩人三好達治を語るには短歌と俳句を除外してはいけないというのが選者の意見。三好達治の詩論集『諷詠十二月』でも日本文芸の核となるジャン…

石原八束『駱駝の瘤にまたがって ――三好達治伝――』(新潮社 1987)

生前の三好達治の門下生として親しく交流した俳人石原八束による三好達治の伝記評伝。 散文の表現能力に秀でている石原八束によって再現される三好達治は、生身の三好達治に限りなく近い像を与えてくれていることは疑いようもないことではあるのだが、昭和初…

畠中哲夫『三好達治』(花神社 1979)

越前三国の地で三好達治の門下生であった詩人畠中哲夫による評論。三好達治自身の作品や生前実際にかわされたことばはもちろんのこと、同時代周辺の文学者たちの表現を多くとりこんで、詩人三好達治の存在がいかなるものであったかを、重層的に表現している…

三好達治『諷詠十二月』(新潮社 1942, 改訂版新潮文庫 1952, 講談社学術文庫 2016)

戦時下の昭和17年9月に刊行された「国民的詩人」三好達治の詩論集。本書では、戦時色が色濃く出ている試論であり、詩人自らの手によって削除入れ替えされる前の七月・八月を補遺として収録して、時代と三好達治自身の移り変わりも見わたせるように配慮さ…

現代詩文庫1038 清水昶編『三好達治詩集』(思潮社 1989)

谷川俊太郎、高橋睦郎、田村隆一など、詩人として高く評価している人物がいるいっぽう、評価と批判相半ばする者、全面的に否定する者など、生前も死後もよく論じられたというところが、三好達治の存在と詩作品の重要さを感じとらせてくれる。 本書は全面的に…

谷川俊太郎編『三好達治詩集』(彌生書房 1965)

編者谷川俊太郎のこころの柔らかさが感じとれる三好達治の詩選集。散文もふくよかな情感がさらっとまとめられた小文が選ばれていて、三好達治に好感を持ちやすく編集されている。代表作『測量船』にあまりこだわりのない生涯を通しての作品から、谷川俊太郎…

入沢康夫『遐い宴楽 とほいうたげ』(書肆山田 2002)

なぜ詩を書くのか? 傍から見ていてどうにも理解がおよばぬ人はいる。 私にとって、入沢康夫はそういう不思議な詩人の一人。 比較的よく読んでいる詩人であるにもかかわらず、相変わらずよくわからない。 業としかいいようのない何かを背負っているらしいこ…

高橋睦郎句集『十年』(角川書店 2016)

高橋睦郎の第九句集。70代の十年間の集大成となる609句を収める。この十年の間には句作とエッセイからなる『百枕』333句があり、ほかに歌集『高橋睦郎歌集 待たな終末』(短歌研究社 2014)と詩集『何処へ』(書肆山田 2011)ほか多数の詩歌に関する…

『ホモサピエンス詩集 ―四元康祐翻訳集現代詩篇』(澪標 2020)  たとえば、「現代マケドニアの詩人の存在を知っていますか?」と問いかけてもいる詞華集

ドイツ、ミュンヘン在住の日本語現代詩人の四元康祐が、主に西欧で開催された文学祭や詩祭や相互翻訳ワークショップで知り合った22ヶ国32人の詩人の作品を、自らの手で訳して紹介した、今現在の世界の現代詩を知ることのできる貴重なアンソロジー。 各国…

北園克衛『現代詩文庫1023 北園克衛詩集』(思潮社 1981)

エズラ・パウンドなどとも交流のあったモダニスト詩人の詩選集。行替えの激しい『黒い火』あたりの作風がもっとも個性が出ているような印象だった。E.E.カミングスや高柳重信などの詩型が類想される。言語自体のイメージを梃子にして創られた作品は、元…

大木実『現代詩文庫1041 大木実詩集』(思潮社 1989)

大木実(1923 - 2009)は大正生まれで太平洋戦争期に招集を受け帰還した後も詩を書き続けた詩人。思潮社の選集の巻末エッセイには、尾崎一雄、三好達治、高村光太郎、丸山薫、川崎洋といった錚々たる面々の讚が集められていることからも、ただごとではない詩…

吉岡実句集『奴草』(書肆山田 2003)

戦後詩を代表する詩人吉岡実が残したほぼすべての句作を集めたもの。詩の作風はシュルレアリスム的なモダニズム詩であり、言語自体の喚起力と虚構をベースにした幻想的世界が展開されるため、時代感覚は薄いほうといっていいと思うが、主に戦時下の若き日に…

塚本邦雄『定型幻視論』(人文書院 1972)

塚本邦雄の歌論・短詩系文学論における代表作。1950~1960年代、前衛短歌運動が最も盛んだった時期の当事者による批評的営為。短詩型文学を否定した桑原武夫の『第二芸術』 (1946) へ苦い思いを抱き、口語自由詩の作者であり短詩系文学の理論家でも…

俵万智の歌集二冊 『プーさんの鼻』(2005)『未来のサイズ』(2020)

シングルマザーとして出産・育児をする中で詠まれた現代日本の短歌。 俵万智の第四歌集と第六歌集。 同世代の歌人のなかで途切れることなく歌集を出しつづけ、商業的にも失敗していないところはやはりすごい。 根本にある奔放さと冷徹さがすこし浮世離れして…

コレクション日本歌人選019 島内景二『塚本邦雄』(笠間書院 2011)

罌粟枯るるきりぎしのやみ綺語驅つていかなる生を寫さむとせし夢の沖に鶴立ちまよふ ことばとはいのちをおもひ出づるよすが 塚本邦雄主宰の歌誌「玲瓏」が創刊されたのが1986年(昭和61年、チェルノブイリ原発事故があった年)、邦雄66歳、島内景二31歳…

丸谷才一『七十句/八十八句』(講談社文芸文庫 1988)

王朝和歌に関する評論が多くある作家丸谷才一が自ら作ったのは短歌ではなく俳句。それも安東次男から連句の手ほどきを受け、大岡信を加えた三人で歌仙の会を開いていたという本格正統派。本書は古希での記念出版『七十句』と米寿の記念として準備されていた…

塚本邦雄『塚本邦雄歌集』(短歌研究社 短歌研究文庫16 1992)

塚本邦雄70歳の時の自選歌集。解説の岡井隆が指摘しているように二十代から一貫して現代短歌の第一線で活躍している塚本邦雄の四十代以降の作品が95%を占める、中年から老年への軌跡を強く感じとれるアンソロジー。全1793首。今回の何度目かになる…

ヨネ・ノグチ『詩集 明界と幽界』(原著 Seen and Unseen: or Monologues of a Homeless Snail 1896, 彩流社 対訳詩集 2019)

野口米次郎の第一詩集'Seen and Unseen: or Monologues of a Homeless Snail'は移民渡航後三年目にしてアメリカで現地出版された英語の詩集。日本人の神秘的精神性に興味を持たれたのと、ネイティブが使用しないような言葉や変わった造語を用いたことが新鮮…

Yone Noguchi 'SEEN & UNSEEN' と野口米次郎『明界と幽界』 比較資料 (野口米次郎再興活動特別編 001)

二重国籍、二重言語であるがゆえに日本と西洋との橋渡し的存在となり得た日本近代詩黎明期の詩人、二重化の上にそれぞれ残った野口米次郎とYone Noguchi。 同時代的には、インドのタゴールが英語とベンガル語の二重言語を使用し、1913年には『ギタンジャリ(…