歴史
フランスの歴史家ミシュレの死後出版された未完の作品。『フランス革命史』を書き上げた後、ルイ・ナポレオンのクーデターによって成立した第二帝政期に共和制支持の立場を崩さなかったがために、コレージュ・ド・フランス教授職ほかすべての公職を失うこと…
『中世の秋』(1919)『ホモ・ルーデンス』(1938)を著したオランダの歴史学者ヨハン・ホイジンガが、第二次世界大戦下、自国オランダがナチス・ドイツの占領下にあった時、自国民を勇気づけようとして著したとされる著作。 絶頂期にあったオランダ17世紀を、政…
苦しみ多い現実を凌いでいけるように、時に情動を解放してこわばりをほぐし、区切りをつけて新たに向き直るようにしてくれる、笑い、泣き、たくらみの様々な様相と効能を説き、近代以降に衰退してしまったそれらの技芸や習俗となっていた振舞いの再興を願い…
グリム兄弟や伝承文学などが専門のドイツ文学者高木昌史が文学と美術の両面から中世ヨーロッパの世界を案内する一冊。聖人や英雄伝説への入門あるいは再入門として伝説の概要とテキスト本文の引用がまず提示されたあと、その伝説に取材した視覚芸術家の作品…
アウグスティヌスの主著、正式名称『神の国について異教徒を駁する』全22巻のうちローマ陥落をめぐる保守勢力のキリスト教批判への対抗としてローマ帝国に内在していた問題をめぐって書かれた第1巻から第5巻までを収めている。神話の神々とその祭祀、ス…
平安末期から鎌倉初期の激動の時代に、長らく治世者の立場として特異な存在感を保っていた後白河院。当初、帝の器に非ずと言われ非正統的な芸道である今様に入れあげていた皇子が、権力争いのひとつの駒として担ぎ出されて皇位に着いた後、宮廷内のパワーバ…
勅撰和歌集を『古今和歌集』から読みすすめていくと、第四勅撰集の『後拾遺和歌集』あたりから雰囲気が変わり、下命者であり実作も採られている各帝のことが気になり出してくる。 第四勅撰集『後拾遺和歌集』(1086)、白河天皇第五勅撰集『金葉和歌集』(1126)…
慈円の家集。全五巻、全五八〇〇首余。当時の歌人のなかでは極めて多作、且つ、極めて高い質での即詠が可能であった稀な才能をもった人物。 慈円は、九条家出身で天台宗の最高位天台座主を四度務めた平安末期から鎌倉初期にかけての僧、ということに一般的に…
第七勅撰和歌集編纂の院宣を下したのは後白河院で、後白河院といえば和歌よりも今様とのかかわりがまず頭に浮かぶ。保元・平治の乱ののちの平氏政権の最中に、『梁塵秘抄』を1169年に完成させ(五味文彦『絵巻で歩む宮廷世界の歴史』2021年の情報)、源…
日本三大怨霊と称される三人を軸に、中世から現代にいたるまでの日本人の怨霊観と鎮魂文化を解き明かそうとする一冊。著者は日本古代・中世信仰史を専門とする歴史学者で、現三重大学教授。おどろおどろしさを期待するとすこし趣向が違っていてがっかりする…
八〇九年の嵯峨天皇即位から一二〇五年の『新古今和歌集』の成立までの約四〇〇年間、平安時代(794-1185)の世の移り変わりを、絵巻に表わされた場面とともに、駆け足でたどる感のある歴史書。文字表記ではなかなかリアルに現れてこない衣食住の様子や、貴…
驚異的な読書人二人、松岡正剛と佐藤優が混迷の時代に読むべき一冊としているのが慈円の『愚管抄』。 近頃、丸谷才一の王朝和歌に関する著作を複数冊読み、後鳥羽院と定家を中心に新古今和歌集の歌人たちへの関心が高まっている状況で、歌人としての慈円と相…
2021年に再増補版として『情報の歴史21―象形文字から仮想現実まで』が編集工学出版社から刊行されているらしいのだが、今回私が覗いてみたのは、ひとつ前の増補版『増補 情報の歴史 象形文字から人工知能まで』。第八ダイアグラムの「情報の文明―情報…
日本における「無門関」受容の歴史を、残された頼りない資料群を丁寧にたどり、現代にいたるまで描き出そうとしたフランス出身の在日仏教研究者ディディエ・ダヴァンのコンパクトな著作。『碧巌録』『臨済録』と異なり、中国本土ではほとんど顧みられない『…
『アメリカの民主主義』をメインに考察されるトクヴィルの思想。封建社会が崩れて民主主義が台頭し、抑圧されてきた庶民層が平等に考え発言することができるようになると、想像における自己像と現実の自己のギャップに苦しむことも可能になり、身を滅ぼして…
コロナ禍でますます荒廃に拍車がかかりそうな世界のなかで、行動抑制下余裕ができた時間を使って、イギリスの歴史家の最後のメッセージを拝読。筋委縮性側索硬化症(ALS)が進行するなか、口述筆記で書かれたとは思えないほどの眼を見張る先行文献からの引用…
書店(BOOKOFFだけど)で手に取って棚に戻さなかったのは、図版のたたずまいがキリっとしていてチョイスもどことなく変わっていたため。表紙も横尾忠則デザインで只者ではなさそうな雰囲気はあったが、橋本治の『ひらがな日本美術史』にも通じるところのある…
松岡正剛の既刊書籍と「千夜千冊」サイトからの日本しばり引用リミックス。一般的な日本史、日本論では出会わないことばにつぎつぎ出会える一冊。出し惜しみなし。いいとこ、つまみ食い。 阿弥号は、もともと時宗の徒すなわち時衆であることを示す名号(みょ…
ビジュアル本でほっこりする。80点で紹介する文字意匠に内在する文化的生活の力。 双喜紋、喜を横に二つ並べた「囍」の文字装飾のおさまりの良さに喜びが呼び起こされる。込められた意味を知るとラーメン用のどんぶりの飾り文字にさえ、どことなく愛おしさ…
一神教以外の聖なるものについての情報補給。シベリア、北アジア、中央アジアのシャーマンについての最近の研究の成果を、多くの図版とともに提供してくれる一冊。ソビエト社会主義連邦統治下では抑圧されていた宗教活動と研究が解放されたが故の活動の記録…
長風呂のお供にブラームスのピアノ曲をよく聴いている。一番聴くのはグレン・グールドの輸入盤2枚組ピアノ曲集「Glenn Gould Plays Brahms - 4 Ballades Op.10, 2 Rhapsodies Op.79, 10 Intermezzi」。最近はハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読んでい…
1935年夏フライブルク大学での講義テキストをもとに内容は変えずに文言の体裁に手を入れて1953年に出版。削ることも注記を加えることもできたであろうに、戦時期のドイツの状況とナチスについての発言部分はそのままの状態で残している。アドルノな…
小崎哲哉『現代アートとは、何か』を読んで、コンセプチュアル・アートに慣れることも期待して、小崎哲哉の仕事をもう一冊。貧困、感染症、戦争、公害、廃棄物。センシティブな人は避けたほうがいいかもしれないが記録価値のある写真の数々。最近読んでいる…
間違っているかも知れない。古代の体制は雑で、命が軽い。イタリア人ジャーナリストがアカデミズムの制約から離れたところで、荘重で堅苦しい感じを取り除き、世俗的な評価の基準と読み物としての楽しさをベースに書きおこした歴史教養作品であると思いなが…
歴史家は各時代の特徴と制約を浮き上がらせる能力を磨いている専門家で、その言説は冷静に聞き入れておく価値がある。ブルクハルトはスイスのすぐれた歴史学者で、現行のスイス・フランの最高額の紙幣の肖像にも用いられている。ニーチェとも深い親交があっ…
質的変換をともなう歴史の層に切り込んでいくのは大変な作業と考えられる。網野善彦は農民を中心にすえてそれ以外の領域で生きる人間に対する眼差しを抑圧する歴史観に掉さして、漁民、狩猟民、職人などの世界の存在を強く主張した日本の歴史学者。今では常…
安心の山本健吉。幅広い知識をベースに一流の鑑賞を披露してくれている。 【歌語に対する考察】 万葉の挽歌では、「死ぬ」という言葉を絶対に使わない。信仰的には、死は死ではなく、甦りだという考え方があった。「天知らす」「雲隠る」「過ぐ」「罷る」「…
アンドレ・ルロワ=グーランは先史学者・社会文化人類学者。先史芸術の研究で有名。代表作『身ぶりと言葉』は、千夜千冊の松岡正剛が絶賛している。本書は美術史家クロード・アンリ・ロケとの全十二章からなる対話。400ページを超えてはいるものの、アンド…
金文から時代をさらにさかのぼる甲骨文の世界。 甲骨文には、金文のように時期的な推移のうちに社会史的な展開をみるということは困難であり、甲骨文の世界は、古代王朝の性格そのものをつねに全体的に示すというところがあるので、甲骨文一般という立場から…
金文は青銅器に記された文字のこと。内容については作者が序章に「この書の主題は、金文資料による西周史の再構成と、断代編年の問題である」と書いている。 周人の創造するところは、この多くの異族を含む新しい国家形態の支配原理として、天の思想を生み出…