読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

歴史

宇野重規『トクヴィル 平等と不平等の理論家』( 講談社選書メチエ 2007, 講談社学術文庫 2019 )社会制度とともに変容する想像力と象徴秩序

『アメリカの民主主義』をメインに考察されるトクヴィルの思想。封建社会が崩れて民主主義が台頭し、抑圧されてきた庶民層が平等に考え発言することができるようになると、想像における自己像と現実の自己のギャップに苦しむことも可能になり、身を滅ぼして…

トニー・ジャット『荒廃する世界のなかで これからの「社会民主主義」を語ろう』(原書 2010, 森本醇訳 みすず書房 2010)語り方を変えてみましょうという誘い

コロナ禍でますます荒廃に拍車がかかりそうな世界のなかで、行動抑制下余裕ができた時間を使って、イギリスの歴史家の最後のメッセージを拝読。筋委縮性側索硬化症(ALS)が進行するなか、口述筆記で書かれたとは思えないほどの眼を見張る先行文献からの引用…

辻惟雄『日本美術の歴史』(東京大学出版局 2005)瑞々しい図版と読ませる文章でおくる辻版日本美術史

書店(BOOKOFFだけど)で手に取って棚に戻さなかったのは、図版のたたずまいがキリっとしていてチョイスもどことなく変わっていたため。表紙も横尾忠則デザインで只者ではなさそうな雰囲気はあったが、橋本治の『ひらがな日本美術史』にも通じるところのある…

松岡正剛『にほんとニッポン 読みとばし日本文化譜』(工作舎 2014) 「山と海が常世であるならば、その間にある野は無常の世であった」、日本。

松岡正剛の既刊書籍と「千夜千冊」サイトからの日本しばり引用リミックス。一般的な日本史、日本論では出会わないことばにつぎつぎ出会える一冊。出し惜しみなし。いいとこ、つまみ食い。 阿弥号は、もともと時宗の徒すなわち時衆であることを示す名号(みょ…

杉浦康平『文字の美・文字の力』(誠文堂新光社 2008)漢字文化圏の文字に込められた思いにひたる

ビジュアル本でほっこりする。80点で紹介する文字意匠に内在する文化的生活の力。 双喜紋、喜を横に二つ並べた「囍」の文字装飾のおさまりの良さに喜びが呼び起こされる。込められた意味を知るとラーメン用のどんぶりの飾り文字にさえ、どことなく愛おしさ…

シャルル・ステパノフ&ティエリー・ザルコンヌ著、中沢新一監修『シャーマニズム』(原書2011 創元社「知の再発見」双書162 遠藤ゆかり訳 2014)豊かな自然と祝祭を喜ぶ精霊と交信するシャーマンという存在

一神教以外の聖なるものについての情報補給。シベリア、北アジア、中央アジアのシャーマンについての最近の研究の成果を、多くの図版とともに提供してくれる一冊。ソビエト社会主義連邦統治下では抑圧されていた宗教活動と研究が解放されたが故の活動の記録…

ひのまどか『ブラームス ――人はみな草のごとく――』(リブリオ出版 1985) 「自由に、だが孤独に」を人生のモットーにしたブラームス64年の生涯

長風呂のお供にブラームスのピアノ曲をよく聴いている。一番聴くのはグレン・グールドの輸入盤2枚組ピアノ曲集「Glenn Gould Plays Brahms - 4 Ballades Op.10, 2 Rhapsodies Op.79, 10 Intermezzi」。最近はハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読んでい…

マルティン・ハイデッガー『形而上学入門』(原書 1935, 1953 理想社ハイデッガー選集9 川原榮峰 訳 1960) ナチス賛同の痕跡と戦後も考えを変えないハイデッガー

1935年夏フライブルク大学での講義テキストをもとに内容は変えずに文言の体裁に手を入れて1953年に出版。削ることも注記を加えることもできたであろうに、戦時期のドイツの状況とナチスについての発言部分はそのままの状態で残している。アドルノな…

Think the Earth プロジェクト 編集統括:小崎哲哉『百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY』(紀伊国屋書店 2002)20世紀を振り返り、21世紀の地球を考える100枚の写真

小崎哲哉『現代アートとは、何か』を読んで、コンセプチュアル・アートに慣れることも期待して、小崎哲哉の仕事をもう一冊。貧困、感染症、戦争、公害、廃棄物。センシティブな人は避けたほうがいいかもしれないが記録価値のある写真の数々。最近読んでいる…

インドロ・モンタネッリ『ローマの歴史』(原書1957, 中公文庫 1979, 藤沢道郎訳)

間違っているかも知れない。古代の体制は雑で、命が軽い。イタリア人ジャーナリストがアカデミズムの制約から離れたところで、荘重で堅苦しい感じを取り除き、世俗的な評価の基準と読み物としての楽しさをベースに書きおこした歴史教養作品であると思いなが…

ヤーコプ・ブルクハルト『世界史的考察』(1868-72の講義草稿 原書1905 ちくま学芸文庫2009)

歴史家は各時代の特徴と制約を浮き上がらせる能力を磨いている専門家で、その言説は冷静に聞き入れておく価値がある。ブルクハルトはスイスのすぐれた歴史学者で、現行のスイス・フランの最高額の紙幣の肖像にも用いられている。ニーチェとも深い親交があっ…

網野善彦『日本中世の民衆像 ―平民と職人―』(1980, 岩波新書)

質的変換をともなう歴史の層に切り込んでいくのは大変な作業と考えられる。網野善彦は農民を中心にすえてそれ以外の領域で生きる人間に対する眼差しを抑圧する歴史観に掉さして、漁民、狩猟民、職人などの世界の存在を強く主張した日本の歴史学者。今では常…

山本健吉『大伴家持』(1971)

安心の山本健吉。幅広い知識をベースに一流の鑑賞を披露してくれている。 【歌語に対する考察】 万葉の挽歌では、「死ぬ」という言葉を絶対に使わない。信仰的には、死は死ではなく、甦りだという考え方があった。「天知らす」「雲隠る」「過ぐ」「罷る」「…

アンドレ・ルロワ=グーラン『世界の根源 先史絵画・神話・記号』(1982)

アンドレ・ルロワ=グーランは先史学者・社会文化人類学者。先史芸術の研究で有名。代表作『身ぶりと言葉』は、千夜千冊の松岡正剛が絶賛している。本書は美術史家クロード・アンリ・ロケとの全十二章からなる対話。400ページを超えてはいるものの、アンド…

白川静『甲骨文の世界 古代殷王朝の構造』(1972)

金文から時代をさらにさかのぼる甲骨文の世界。 甲骨文には、金文のように時期的な推移のうちに社会史的な展開をみるということは困難であり、甲骨文の世界は、古代王朝の性格そのものをつねに全体的に示すというところがあるので、甲骨文一般という立場から…

白川静『金文の世界 殷周社会史』(1971)

金文は青銅器に記された文字のこと。内容については作者が序章に「この書の主題は、金文資料による西周史の再構成と、断代編年の問題である」と書いている。 周人の創造するところは、この多くの異族を含む新しい国家形態の支配原理として、天の思想を生み出…