読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

海外の古典

ルイス・ホワイト・ベック『6人の世俗哲学者たち ―スピノザ・ヒューム・カント・ニーチェ・ジェイズム・サンタヤナ―』(原書 1960, 藤田昇吾訳 晃洋書房 2017)

教会と対立していると考えられる世界を世俗と定義したうえで、世俗的関心から宗教的問題に深くアプローチした哲学者について考察したコンパクトな書物。取り上げられた哲学者のラインナップが魅力的で、特に日本ではほとんど触れられることもないサンタヤナ…

冨田恭彦『バークリの『原理』を読む ―「物質否定論」の論理と批判』(勁草書房 2019)

バークリは、物質を否定し人間の知覚する精神と神の存在のみを実体であるとした18世紀アイルランドの哲学者で聖職者。主著『人知原理論』は1710年の刊行。 バークリの物質否定を強く打ち出した観念論は、ニュートンの自然科学的考えが力を持っていた当…

植木豊編訳『プラグマティズム古典集成 パース、ジェイムズ、デューイ』(作品社 2014)からデューイの5つの論考を読む

デューイのプラグマティズム、特に民主主義を論じたものよりも認識論や論理学に言及することの多い哲学的な論考に関しては、きわめて明朗快活で、読んでいて気持ちがよいものが多い。それらの論考のなかでは、実践的な未来志向の思考とコミュニケーションを…

オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(原著1932, 早川書房 早川epi文庫 2017)

ジョージ・オーウェルの『一九八四年』(1949)と並ぶディストピア小説の名作。古典として残り、読まれ続けられている作品だけあって、とてもよく出来ているなという印象が強い。オーウェルの『一九八四年』がカフカ的悪夢を感じる悲劇的な重厚さに満ちている…

松岡正剛『間と世界劇場 主と客の構造2』(春秋社 1988)

昭和63年(1988)は今から34年前、編集者松岡正剛30代後半から40代前半に行った対談10篇を集めた一冊。錚々たる対談相手にすこしも引けを取らない松岡正剛の博覧強記ぶりに舌を巻く。それぞれの専門分野以外についても視界が広く且つ深い人たちの放…

ロビンドロナト・タゴール『タゴール著作集 第一巻 詩集1』(第三文明社 1981)

タゴール自身の英訳詩からの重訳をベースにした訳詩集。九つの詩集と初期詩篇をおさめる。代表作として森達雄訳の『ギタンジャリ』のほかに片山敏彦訳『渡り飛ぶ白鳥』が収録されているところに大きな意味がある。 両者とも、梵我一如思想の色濃い「わたし」…

1990年の英国祭(UK90)にあたって国立西洋美術館で開催された展覧会のカタログ『ウィリアム・ブレイク William Blake 1990』の第二版(日本経済新聞社 1990)

ニーチェに先立って従来のキリスト教的価値観を超える善悪の彼岸を、自身の詩作と版画と水彩画によって切り拓こうとしたイギリスの芸術家ブレイクの、画家としての業績を、基本的に年代順に紹介した作品展のカタログ。ブレイクは銅版画家、挿絵画家が生計を…

ウィリアム・ブレイク『ブレイク詩集』(彌生書房 世界の詩55 寿岳文章訳 1968)

ブレイクの創作全期間のなかから選ばれた詩篇によるアンソロジー。前期の代表的詩集『無心の歌 The Songs of Innocence』(1789)、『有心の歌 The Songs of Experience』(1794)の詩篇におおきく偏ることなく、全体的な業績が想像できるような編集がされている…

ジョルジュ・バタイユ三冊『内的体験』『有罪者』『純然たる幸福』

無神学大全として生前刊行された第一巻『内的体験』(1943)、第二巻『有罪者』(1944)と、刊行が予定されていたが未刊に終わった第四巻をバタイユ研究者の酒井健が編集した日本オリジナルの『純然たる幸福』をここ二週間くらいかけてちょこちょこ通して読んで…

ラビンドラナート・タゴール『タゴール詩集』(彌生書房 世界の詩39 山室静訳 1966)

『ギタンジャリ(英語版)』ただ一冊の功績によって1913年にアジア初のノーベル文学賞を受賞したラビンドラナート・タゴールの日本版詩選集。基本的にはベンガル語の詩人であるが、本人による英訳、というよりも英語による改作した作品のほうが広く読まれて…

シャルル・ボードレール『小散文詩 パリの憂愁』(原著 1869, 思潮社 訳・解説:山田兼士 2018)

2022年現在一番新しい翻訳かと思って調べたら、2021年はボードレール生誕200年ということもあってかもうひとつ新しい翻訳が出ていた。なんにせよ研究と読解の成果が新しく出てくることは、ボードレールに触れる機会が増えるということだけ見ても、いいことだ…

ウィリアム・ブレイク『ブレイク詩集』(平凡社ライブラリー 土居光知訳 1995)

角川文庫のブレイク詩集の訳者である寿岳文章(1900-1992)より十四歳年長の英文学者土居光知(1886-1979)によるブレイク初期の三詩集の翻訳アンソロジー。 無心の歌(The Songs of Innocence、1789年)経験の歌(The Songs of Innocence and of Experience…

塚原史+後藤美和子 編訳『ダダ・シュルレアリスム新訳詩集』(思潮社 2016)

チューリッヒ・ダダ100周年、アンドレ・ブルトン没後50年の年に刊行されたダダ・シュルレアリスム新訳新編アンソロジー。上下二段組み、236ページ。詩人32名、199篇という満足感が得られるラインナップであった。刊行の意図としては、美術の世界のダダ・シュ…

柏倉康夫訳 ステファヌ・マラルメ『賽の一振り』( 発表 「コスモポリス」1897年5月号, 月曜社 叢書・エクリチュールの冒険 2022 )

ステファヌ・マラルメの最後の作品「賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう」の最新日本語訳。柏倉康夫によるマラルメ翻訳は、晦渋さが極力排除された理解しやすくイメージを得やすいものとなっている。さらに、先行する研究や翻訳への目配りが届…

朝比奈緑+下村信子+武田雅子 編訳『【ミラー版】エミリ・ディキンスン詩集 芸術家を魅了した50篇 [対訳と解説]』(小鳥遊書房 2021)

様々な分野の作家に大きな影響を与えているエミリ・ディキンスンンの詩の世界を、各分野で参照引用されている作品を取り上げながら、原詩と新訳と解説で詳しく多角的にとらえている最新アンソロジー。音楽、アート、絵本、映画、演劇、詩と小説、書評、評論…

中林孝雄訳『エミリ・ディキンスン詩集』(松柏社 1986)

ウォルト・ホイットマン(1819-1892)と並び称されるアメリカの国民的詩人エミリ・ディキンスン(1830-1886)の没後100年にあわせて刊行された日本語訳アンソロジー。およそ1800篇残されたディキンスンの詩のなかから154篇を選び、作品番号順(基本的…

アダム・ミツキェーヴィチ『祖霊祭 ヴィリニュス篇』(未知谷 ポーランド文学古典叢書8 関口時正訳 2018) 過酷さと享楽の臨界点への道行き

19世紀前半のポーランドを代表するロマン派詩人アダム・ミツキェーヴィチの最高傑作とも言われる未完の詩劇『祖霊祭』の関口時正による編集翻訳作品。最後に書かれたという第三部は、政治色が濃く、また分量も突出して大きく、他のテクストからの独立性が…

入矢義高 注『寒山』(岩波書店 中國詩人選集5 1958)

中国江蘇省蘇州市にある臨済宗の寺、寒山寺に伝わる風狂超俗の伝説の僧、寒山拾得のうちのひとり、寒山。 禅画・水墨画に描かれる異形瘋癲の寒山の姿を想い起す人のほうが多いであろうが、そのイメージとはかなり異なる姿が寒山の詩からは読み取れる。 本書…

國方栄二『ギリシア・ローマ ストア派の哲人たち セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウス』(中央公論新社 2019)

キュニコス派(犬儒派)ディオゲネスから説きおこし、ストア派初期のゼノンから後期のマルクス・アウレリウスまでの哲学をたどる概説書。 自分の力ではどうにもならない外的条件に対してどのように振舞うのが良いかに焦点を当て、意志の力で自己統率し運命に…

佐々部英男訳『梟とナイチンゲール 中世英語問答』(ゆいぽおと 2020)

どことなく宮澤賢治が書きそうな話。キリスト教と法華経の世界の違いはある。 重く冷静な梟と軽く陽気なナイチンゲールが互いに退かずに自分の優位性について言論でもってはりあっているところに面白味がある。 原詩の成立時代は12世紀後半中世であっても…

プラトン『ソピステス ―〈あるもの〉(有)について―』『ポリティコス(政治家) ―王者の統治について―』(岩波書店 プラトン全集3 1976)

パルメニデスやゼノンに連なるエレア派の論理学を学んだであろう「エレアからの客人」を対話の主人に据えたプラトンの後期対話篇2篇。ソクラテスは対話導入部にほんの少し顔を出すだけで、後期プラトンの思想を代弁する「エレアからの客人」が、「分割法(…

サミュエル・ベケット『ベケット戯曲全集1 ゴドーを待ちながら/エンドゲーム』(白水社 岡室美奈子訳 2018)

ベケットの作品は小説も戯曲も基本的に目的も到達点もない。戯曲については、プラトンの対話篇と並べて読んだりすると、その違いに呆然となる。プラトンの対話篇は遠回りしているかに見えても中心主題に向けて求心的に進んでいくが、ベケットの対話はきっか…

ノヴァーリス『青い花』(原著 1802, 岩波文庫 青山隆夫訳 1989)

未完ながら初期ドイツロマン派の良心が結晶したような詩的な小説作品。夢みる詩人が旅をする中で出会った人たちに関係しながら精神的に成長し世界の奥行きを覗き見るようになっていくとともに、運命の女性との出会い成就するまでが完成された第一部「期待」…

吉見昭德訳 「クレーバー第4版対訳 古英語叙事詩『ベーオウルフ』」(春風社 2018)

7世紀から9世紀のあいだに写本が成立したとする説が有力な古英語で書かれた全3182行の英雄叙事詩の最新対訳本。古英語がどんなものかということと古典注入という関心から手に取ってみた。個人的に西脇順三郎対策という意味もある日本で8世紀といえば『古…

ノヴァーリス『夜の讃歌・サイスの弟子たち 他一篇』(岩波文庫 今泉文子訳 2015)

ノヴァーリスの『花粉』からデリダの『散種』へという仲正昌樹の『モデルネの葛藤』のなかにでてきた案内を読んで、実際にノヴァーリスの『花粉』が収録されている本書を手に取ってみた。 シュレーゲルの反省と否定による無限超出に比べて、ノヴァーリスには…

八木雄二『古代哲学への招待 パルメニデスとソクラテスから始めよう』(平凡社新書 2002)

宇宙の理解に数学を用いたピュタゴラスがヨーロッパ哲学の最大の源泉であるという主張に目を洗われた。対話と政治倫理あるいは正義や徳についての議論に重きを置いたソクラテスではなく、数学ベースの真理究明と美的探究に重きを置いた知性と技術優位のピュ…

仲正昌樹『増補新版 モデルネの葛藤』(作品社 2019, 御茶の水書房 2001, 修士論文 1994)

仲正昌樹、30歳を越えて提出した長大な修士論文をベースにした著作。院試失敗や統一教会への入信脱会など起伏が大きい経歴を経ての著述。自身のこだわりをあまり表面には出してこないが、研究対象に対して妥協することなく調査している姿勢がうかがえて、…

プラトン『ティマイオス』(岩波書店 プラトン全集12 1975)

プラトンの後期対話篇に於けるソクラテスは、語り手でも対話者でもなく、もっぱら聴き手の位置にいる、日本の能の構成上でいえばワキの位置に控えながら、全体を無意識的に統括する主宰者の位置にある。主宰者は迎えいれた主賓を称え、主賓の最高の精神活動…

プラトン『パルメニデス』(岩波書店 プラトン全集4 田中美知太郎訳) 読み通すと、なぜ岩波で文庫本になっていないのかが分かる奇作

パルメニデスを主人公にした対話篇。 年少のソクラテスやアリストテレスに対する思考の準備運動の実践教育らしいが、字面を追うだけで精一杯。文書で読んでいるからまだいいようなものの、話し言葉を耳で聞いて理解し対応するとなると至難の業。 一と多、有…

仲正昌樹『危機の詩学 ヘルダリン、存在と言語』(作品社 2012)

仲正昌樹の博士論文『<隠れたる神>の痕跡――ドイツ近代の成立とヘルダリン』(1996)に、2009年のハイデガー・フォーラムでの報告論考「哲学にとっての母語の問題――ハイデガーのヘルダリン解釈をめぐる政治哲学的考察」を付録としてつけて刊行されたもの。 市民…