海外の古典
ロラン・バルトとともに読むバルザックの中編小説『サラジーヌ』。ジョルジュ・バタイユが傑作『青空』において宙づりにされたような気持ちにさせられる小説として『嵐ヶ丘』『審判』『失われた時を求めて』『赤と黒』『白痴』などと並べて挙げていた『サラ…
ドイツ・バロック期の神秘主義的宗教詩人アンゲルス・シレジウス(1624-1677)。もともと医学を学んでいたが、オランダのライデン大学で学んでいた時期にヤコブ・ベーメの思想に出会ったことがきっかけで、エックハルトやタウラーなどのドイツ神秘思想に関心を…
ペトラルカの『カンツォニエーレ 俗事詩片』の全訳、全366歌。選集とは違った味わいがあるので全訳があることは大変貴重。 軽快、快活、ユーモラスな第一部と、愛の対象たるラウラを亡くして後の悲哀と栄光に彩られることの多い第二部との対象も見どころ…
ペトラルカの父、セル・ペトラッコはダンテと同じく教皇派の白派に属しており、ダンテ同様フィレンツェから追放、財産も没収された受難の人であった。 息子のペトラルカも幼くして生まれ故郷のイタリアを離れ、21歳の時には父を失い、後ろ盾のない苦難の非…
ルネサンス期にはラウラへの愛を歌いあげた『カンツォニエーレ 俗事詩片』よりもよく読まれたペトラルカの『凱旋』。ダンテの『神曲』からの影響も感じられる凱旋パレードを模した人物総覧の凱歌。人物名、固有名が列挙される「愛の凱旋」「貞潔の凱旋」「名…
ローベルト・ムージル、フランツ・カフカ、ヴァルター・ベンヤミン、ヘルマン・ヘッセ、またブランショやスーザン・ソンタグなど錚々たる面々から高く評価されているローベルト・ヴァルザー(1878-1956)は、スイス生まれのドイツ語の詩人であり散文作家。本書…
合理主義を超えて世界の真実を説こうとしたブレイク、そして天地創造はあらゆるものを分裂させてそれをFall(降下)させてしまった神の過ちで、それを回復するのは唯一キリストのみと考えるブレイク。影響を受けたスウェーデンボルグやダンテやミルトンにさ…
『失楽園』以外になかなか翻訳がないミルトンのなかで、前期詩篇と後期の『復楽園』『闘士サムソン』が読める貴重な詩選集。しかも平明な口語調の翻訳で、読みやすく、詩に詠われた各場面が鮮明に印象づけられる。大修館書店から1982年に刊行された新井…
公の席でイギリス国歌とともに歌われることの多い聖歌「エルサレム」は、ウィリアム・ブレイクの第二預言書『ミルトン』の序詩に曲がつけられたもので、イギリス国民の多くが詩を暗唱し、難なく曲に合わせて歌唱しているものである。大江健三郎の四〇代後半…
本書の原題は『神秘なるもの』であり、日本語題の『傷と出来事』は訳者からの説明はないものの、ジル・ドゥルーズが『意味の論理学』(1969)でジョー・ブスケを論じた第21セリー「できごとについて」に由来すると考えられる。 『意味の論理学』の原注では、…
オクタビオ・パスは、メキシコの詩人。シュルレアリスム的傾向を持ちながら、作品は詩に関する詩といったものが多く、批評的あるいは哲学的な雰囲気が濃い。外交官としてヨーロッパ各国、日本、インドなどで活動し、各地で得た文化的知見を見事に咀嚼し、メ…
原題名を直訳するならば『表現の怒り』。従来の言語への嫌悪感から、その言語を告発し、修正するべく書きつづけ、新たな詩の言語の生成の過程をあきらかにていくことが、ポンジュの詩法の特徴である。 実質的な第一詩集である『物の味方』での、物に寄り添い…
『楽園の回復』と『闘技士サムソン』は1671年に合本として刊行されたのが最初。実際の制作時期に関しては『楽園の回復 Paradise Regained 』が1667年以降、『闘技士サムソン Samson Agonistes 』が1668年以降と推定される。ミルトン晩年の三作品…
サン=ジョン・ペルスは1960年度のノーベル文学賞を受賞したフランスの詩人。生まれはフランス海外県のグアドループのポワンタピートルで、クレオールの文学としての特徴も持つ。『鳥』には、1962年に書かれた最後の長篇連作詩の「鳥、連作」とノー…
ウィリアム・ブレイク(1757 - 1827)というと、日本では『無垢の歌、経験の歌(Songs of Innocence and of Experience, 1789, 1794)』が圧倒的に有名で、次いで比較的短い詩篇『天国と地獄の結婚(The Marriage of Heaven and Hell, 1790-1793)』が多く訳…
生命の本来的な活動力を損なう文明の病に徹底して抗議するロレンスのさまざまな文筆活動の最も根本にある詩的精神の純粋な発露である詩作品の集成。生涯書きつづけられた詩作を全篇読み通してみると、ロレンスという作家の大きさがよく分かってくる。100…
掲載順ではヴェルレーヌからヴァレリーまで、生年順では1842年のマラルメから1877年生まれのオスカル・ミロッシュまで、19世紀末フランスに活躍した34名の詩人の作品を集めたアンソロジー。象徴派の詩人の詩作品の印象が強いが、デカダン派や牧…
フランス・ルネサンス期のユマニスムを代表する著作、16世紀前半のラブレーの作品『ガルガンチュワ物語』に、19世紀後半の複製芸術が勃興しはじめた時期、ギュスターヴ・ドレは二回にわたって木口木版画の技法で挿絵を描いていた。一度目は1854年、…
バシュラールの想像力に関する著作に多く引用されていたことがきっかけでエリュアールの詩集を読み返してみた。 ダダでもシュルレアリスムでもブルトンとともに中心的な人物であったポール・エリュアールではあるが、彼の詩は奇矯なものでも過激なものでもな…
『チャタレイ夫人の恋人』などの小説で有名なD・H・ロレンスの文明批判の書で、生命を阻害する知性を糾弾し、反知性主義を押し出している論考。本人はいたって科学的と主張しながら持論を展開しているのだが、その宇宙論や生命観、性の理論や教育観は、詩…
ドレの挿画178点とともに読む『ドン・キホーテ 正編』の縮約翻訳本。岩波文庫版だと正編=前篇部分が三冊で1200ページ、本作はドレの挿画を含めて446ページなので約3分の1の分量。原作を読むのに躊躇している人にとっても52の話が欠けることなく…
ロートレアモンは死後50年を経た1920年代にシュルレアリスムの帝王アンドレ・ブルトンが注目したことによってようやく読まれるようになった19世紀の特異な呪われた詩人で、本書にはその再評価の初期段階で書かれた7名のロートレアモン論と論考を翻…
プルーストと絵画が専門の著者吉川一義は岩波文庫版『失われた時を求めて』の翻訳者でもある。2022年プルースト没後百年に出版された本書は、作品中陰に陽に言及される絵画作品に焦点を当て、長大な作品のさまざまな登場人物と作品があつかうさまざまな…
つい最近、蓮實重彦がジャン=ピエール・リシャールのテーマ批評にからめてバシュラールからの影響ということを語っていたネット記事に影響されて手に取ってみた一冊。 理性に先行するイマージュという視点からロートレアモンの詩を論じている。 想定外に破…
マニ教から新プラトン主義を経てキリスト教に辿りついたアウグスティヌスによるマタイの福音書「山上の説経」の解釈書。『聖書』は書かれた言葉そのものの相において読むのではなく、象徴的に読み解く必要があることを知ったことから聖書読解に劇的な展開を…
グリム兄弟によって収集された童話集に先行するフランス人詩人のシャルル・ペローによる民間伝承をベースにした物語集。谷口江里也によって現代風にアレンジされているところもあるようだが、基本的にシャルル・ペロー作品に忠実で、近代的な物語の枠組みか…
創造神による独裁的な統治に反乱を企てた革命戦士としての堕天使ルチフェルを描いたミルトンの『失楽園』を更に翻案しドレの挿画とともに谷口江里也が新たな息吹を吹き込んだ作品。原作と翻案作品とのあいだにどれほどの差があるのかは改めて比較してみない…
明晰と錯乱の混淆した類いまれな作品。アルトーが生前に構想していた最後の作品は、長期間におよぶ精神病院収用の最後の数年間に書かれた書簡と詩的断章からなるもので、妄想と呪詛が現実世界に対して牙をむいている。全集編者による推奨の短文に「アルトー…
実現するにはいたらなかったがリルケがロダンに次いで作家論を書こうとしていたのが本書で紹介されているデンマーク・コペンハーゲンが生んだ特異な象徴主義の画家ヴィルヘルム・ハマスホイ。「北欧のフェルメール」とも言われるハマスホイであるが、フェル…
小説としては前期三部作『モロイ』(1951)『マロウンは死ぬ』(1951)『名づけえぬもの』(1961)に次ぐストーリー解体後の後期モノローグ作品の端緒となる最後の長篇といえる作品。もっとも読まれ、もっとも知られてもいるだろう戯曲『ゴドーを待ちながら』(1952…