読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

海外の詩

梅津濟美訳『ブレイク全著作』2 (名古屋大学出版会 1989)

公の席でイギリス国歌とともに歌われることの多い聖歌「エルサレム」は、ウィリアム・ブレイクの第二預言書『ミルトン』の序詩に曲がつけられたもので、イギリス国民の多くが詩を暗唱し、難なく曲に合わせて歌唱しているものである。大江健三郎の四〇代後半…

有田忠郎『光は灰のように』(書肆山田 2009)

多田智満子とともにサン=ジョン・ペルスの訳者である有田忠郎。いずれも詩人で、いずれも異なる作風であることが、いちばん気にかかる。 ある程度の分量になる場合、書くということは、書き手の本質を浮かび上がらせずにはおかない、ということに気づかせて…

ジョー・ブスケ『傷と出来事』(原著 1973, 谷口清彦+右崎有希訳 河出書房新社 2013)

本書の原題は『神秘なるもの』であり、日本語題の『傷と出来事』は訳者からの説明はないものの、ジル・ドゥルーズが『意味の論理学』(1969)でジョー・ブスケを論じた第21セリー「できごとについて」に由来すると考えられる。 『意味の論理学』の原注では、…

オクタビオ・パス『もうひとつの声 詩と世紀末』(原著 1990, 木村榮一訳 岩波書店 2007)

『弓と竪琴』(1956)『泥の子供たち』(1972)につづく詩論三部作の三作目。人間にとっての世界を生むはたらきを持つ想像力の重要性を説く基本姿勢に変わりはないが、本書は詩人と詩の社会的な位置についての言及が比較的多く、詩自体のはたらきにより多く注目…

オクタビオ・パスの訳詩集3冊 『オクタビオ・パス詩集』(真辺博章訳 土曜美術出版販売 1997)、『続オクタビオ・パス詩集』(真辺博章訳 土曜美術出版販売 1998)、『大いなる文法学者の猿』(原著 1972, 清水憲男訳 新潮社 1990)

オクタビオ・パスは、メキシコの詩人。シュルレアリスム的傾向を持ちながら、作品は詩に関する詩といったものが多く、批評的あるいは哲学的な雰囲気が濃い。外交官としてヨーロッパ各国、日本、インドなどで活動し、各地で得た文化的知見を見事に咀嚼し、メ…

フランシス・ポンジュ『表現の炎』(原著 1952, 1976 思潮社 1980)

原題名を直訳するならば『表現の怒り』。従来の言語への嫌悪感から、その言語を告発し、修正するべく書きつづけ、新たな詩の言語の生成の過程をあきらかにていくことが、ポンジュの詩法の特徴である。 実質的な第一詩集である『物の味方』での、物に寄り添い…

ジョン・ミルトン『楽園の回復・闘技士サムソン』(原著 1671, 訳:新井明 大修館書店 1982)

『楽園の回復』と『闘技士サムソン』は1671年に合本として刊行されたのが最初。実際の制作時期に関しては『楽園の回復 Paradise Regained 』が1667年以降、『闘技士サムソン Samson Agonistes 』が1668年以降と推定される。ミルトン晩年の三作品…

有田忠郎訳のサン=ジョン・ペルスの詩集二冊 『風』(書肆山田 2006)と『鳥』(書肆山田 2008)

サン=ジョン・ペルスは1960年度のノーベル文学賞を受賞したフランスの詩人。生まれはフランス海外県のグアドループのポワンタピートルで、クレオールの文学としての特徴も持つ。『鳥』には、1962年に書かれた最後の長篇連作詩の「鳥、連作」とノー…

梅津濟美訳『ブレイク全著作』1 (名古屋大学出版会 1989)

ウィリアム・ブレイク(1757 - 1827)というと、日本では『無垢の歌、経験の歌(Songs of Innocence and of Experience, 1789, 1794)』が圧倒的に有名で、次いで比較的短い詩篇『天国と地獄の結婚(The Marriage of Heaven and Hell, 1790-1793)』が多く訳…

フランシス・ポンジュ『物の味方』(原著 1942, 阿部弘一訳 思潮社 1965)

『物の味方』はフランシス・ポンジュの第二詩集。サルトルを感銘させてポンジュ論「人間ともの」(『シュチュアシオンⅠ』所収)を書かせたところの名詩集。 阿部弘一訳がはじめてポンジュの詩集を外国の言語に翻訳したということも手伝って、日本では谷川俊…

ジャック・デリダ『シニェポンジュ』(フランシス・ポンジュに捧げられた1975年のスリジー・シンポジウムの講演、原著 1984, 梶田裕訳 法政大学出版局 2008)

ジャック・デリダの脱構築的テクストを読んで、読みの対象となっている詩人の作品を読みはじめるということは確かにある。私の場合、エドモン・ジャベスがそのケースに当てはまる。詩作品が翻訳されていてもすぐに手に入らない状況になってしまい、批評家や…

堀田三郎訳『ウォレス・スティーヴンズ詩集』(英宝社 2022)

ウォレス・スティーヴンズはアメリカのモダニズムの詩人。世界的には著名で研究も多くなされていながら、日本ではなかなか紹介されることの少ない詩人の一人。現状もっとも手に入りやすいのは岩波文庫の『アメリカ名詩選』で、代表作のひとつ「アイスクリー…

リチャード・ダッドのウィキペディアの記事からクィーンの「フェリー・フェラーの神技」のミュージックビデオを見てびっくりしたことの記録 オクタビオパスの『大いなる文法学者の猿』をきっかけに

エンドレス・リピートできるヤバいミュージックビデオ。 再生一回2分47秒(167秒)に込められたヨーロッパ文化の精髄。 フレディ・マーキュリーの天才が発掘し変奏させたイギリスの文化の奥深さに圧倒される。 www.youtube.com 受容の衝撃の度合いから…

『ヴァレリー詩集 コロナ/コロニラ』(松田浩則・中井久夫 共訳 みすず書房 2022)

ポール・ヴァレリー最晩年の8年間に、愛人ジャンヌ・ロヴィトンの要請により書かれた、愛の詩の集成。日本語版訳書には、詩集刊行が目指されていた「コロナ」全23篇と、姉妹篇となる予定であった「コロニラ」の詩篇133篇のなかから21篇が選ばれ訳出…

オクタビオ・パス『泥の子供たち ロマン主義からアヴァンギャルドへ』(原著 1974, 竹村文彦訳 水声社 1994)

今週末に引越しを控えるなか、荷造りや各種手続きの合間をぬって再読したオクタビオ・パスの詩論集。 『弓と竪琴』につづく本作は、西欧とアメリカとラテンアメリカの近代詩の展開に的を絞って論じている。イギリスとドイツのロマン派の詩人や、フランスの象…

柳瀬尚紀訳 ロアルド・ダール『脚韻(きゃくいん)ソング』(原著 2005, 評論社 2008)

ロアルド・ダールの物語作品の中にちりばめられた詩や歌を拾い集めた全47篇の韻文アンソロジー。ルビつきで、総勢26人というたくさんの、それぞれ個性的なイラストレーターの挿し絵がついていて、贅沢な絵本作品集を読んでいるような感じにさせてくれる…

ミシェル・ビュトール『ポール・デルヴォーの絵の中の物語』(原著 1975, 内山憲一訳 朝日出版社 2011)と中原祐介責任編集『現代世界の美術 アート・ギャラリー 19 デルヴォー』(集英社 1986)

ビュトールの『ポール・デルヴォーの絵の中の物語』は,『夢の物質』の第二巻『地下二階』に収められた「ヴィーナスの夢」の章を抽出して訳出されたもの。全5巻の長大な作品の中でデルヴォーの絵に触発されて綴られた作品の一部が全体のなかでどのような位…

『D・H・ロレンス全詩集【完全版】』(彩流社 2011)

生命の本来的な活動力を損なう文明の病に徹底して抗議するロレンスのさまざまな文筆活動の最も根本にある詩的精神の純粋な発露である詩作品の集成。生涯書きつづけられた詩作を全篇読み通してみると、ロレンスという作家の大きさがよく分かってくる。100…

『フランス世紀末文学叢書 13 詞華集』(国書刊行会 1985)

掲載順ではヴェルレーヌからヴァレリーまで、生年順では1842年のマラルメから1877年生まれのオスカル・ミロッシュまで、19世紀末フランスに活躍した34名の詩人の作品を集めたアンソロジー。象徴派の詩人の詩作品の印象が強いが、デカダン派や牧…

フランソワ・ラブレー原作、谷口江里也作、ギュスターヴ・ドレ画『異説ガルガンチュア物語』(原著 1534, 未知谷 2018)

フランス・ルネサンス期のユマニスムを代表する著作、16世紀前半のラブレーの作品『ガルガンチュワ物語』に、19世紀後半の複製芸術が勃興しはじめた時期、ギュスターヴ・ドレは二回にわたって木口木版画の技法で挿絵を描いていた。一度目は1854年、…

ポール・エリュアールの詩集二冊

バシュラールの想像力に関する著作に多く引用されていたことがきっかけでエリュアールの詩集を読み返してみた。 ダダでもシュルレアリスムでもブルトンとともに中心的な人物であったポール・エリュアールではあるが、彼の詩は奇矯なものでも過激なものでもな…

ポール・ヴェルレーヌ『呪われた詩人たち』(原著 1884,1888 倉方健作訳 幻戯書房 2019)

40歳台前半、詩人としても一人の人間としても地に堕ちていた時代のヴェルレーヌの仕事。この『呪われた詩人たち』がなかったらランボーが忘れ去られていたかもしれないことで歴史的に重要な作品。ヴェルレーヌ自身もこの著作によって詩人としての立場が上…

ガストン・バシュラール『空と夢 運動の想像力に関する試論』(原著 1943, 法政大学出版局 1968,2016)

物質についての想像力論第3巻、「大気(風)」の想像力、空の詩人に関する研究。飛翔するもの、翼を持つものの詩的世界、また墜落するものの世界。シャルル・ノディエ、リルケ、ニーチェ、シェリー、キーツ、ダヌンツィオ、ヴィクトル・ユゴー、ブレイク、…

ガストン・バシュラール『水と夢 物質的想像力試論』(原著 1942, 法政大学出版局 2008, 2016)

物体に触れてはたらく想像力はエンペドクレス以来の根本四大元素にいたりつくまで進むことによって詩的喚起力を持つイマージュをつくりあげるという。本書『水と夢』は『火の精神分析』(1938)につづいて刊行された物質についての想像力論の第2巻。四大元素…

渡辺広士編訳『ロートレアモン論集成』(思潮社 1977)

ロートレアモンは死後50年を経た1920年代にシュルレアリスムの帝王アンドレ・ブルトンが注目したことによってようやく読まれるようになった19世紀の特異な呪われた詩人で、本書にはその再評価の初期段階で書かれた7名のロートレアモン論と論考を翻…

ガストン・バシュラール『ロートレアモンの世界』(原著 1939, 平井照敏訳 思潮社 1970)

つい最近、蓮實重彦がジャン=ピエール・リシャールのテーマ批評にからめてバシュラールからの影響ということを語っていたネット記事に影響されて手に取ってみた一冊。 理性に先行するイマージュという視点からロートレアモンの詩を論じている。 想定外に破…

思潮社現代詩文庫205『田原詩集』(2014)

風化したあとの白骨の白さのイメージをそこここに滲ませながら、いまを生きることを謳う、日本語と中国語のふたつの言語で詩を書く詩人の詩集。日本語による詩集二冊と未刊詩篇、日本人翻訳者による中国語訳詩篇からなる珍しいアンソロジー。日本語で書く詩…

エメ・セゼール二冊『帰郷ノート/植民地主義論』(訳:砂野幸稔 平凡社 1997, 平凡社ライブラリー 2004)、『クリストフ王の悲劇 コレクション現代フランス語圏演劇01』(訳:尾崎文太+片桐祐+根岸徹郎、監訳:佐伯隆幸 れんが書房新社 2013)

エメ・セゼールはフランスの海外県でカリブ海西インド諸島の島のひとつマルティニーク出身の詩人、政治家。ネグリチュード(黒人性)という概念を提起し、黒人の地位向上と近代西欧からの精神的解放ののろしを上げ、植民地主義を批判した人物。代表作『帰郷…

『ドレの失楽園』(原作:ジョン・ミルトン、翻案:谷口江里也、挿画:ギュスターヴ・ドレ 宝島社 2010)

創造神による独裁的な統治に反乱を企てた革命戦士としての堕天使ルチフェルを描いたミルトンの『失楽園』を更に翻案しドレの挿画とともに谷口江里也が新たな息吹を吹き込んだ作品。原作と翻案作品とのあいだにどれほどの差があるのかは改めて比較してみない…

D・W・ライト編『アメリカ現代詩101人集』(思潮社 2000)『ニューヨーク現代詩36人集』(思潮社 2022)

「ビートの父」として知られる1905年生まれのレクスロスから上海から移住して英語で詩を書く1957年生まれのワン・ピンまで、20世紀のアメリカの特徴的な詩人を集めて、アメリカ現代詩の動向を概観できるようにしたアンソロジー『アメリカ現代詩1…