読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

漢詩

日夏耿之介『唐山感情集』(彌生書房 1959, 講談社文芸文庫 2018) 天生我材必有用

日夏耿之介の手になる漢詩の訳詩アンソロジー。全63篇。 松岡正剛とドミニク・チェンの対談本『謎床 思考が発酵する編集術』(晶文社 2017)を読んで、いたく感心する一方、自分の卑小さにへこんでいたところ、なにか癒しの本をと思い、手にした一冊。 欲…

足立大進編『禅林句集』(岩波文庫 2009)

室町から江戸にかけて徐々に精練されていった禅語のアンソロジー『禅林句集』から抽出された全3410句からなる禅語導入書。 修行して悟りを得たいなどという思いはさらさらないのだが、気が軽くなるような気の利いた言葉に、あまり苦労することなく出会い…

福永光司『老子』(朝日選書 1997)

陰気、陽気、冲気。 本書は老荘思想・道教研究の第一人者福永光司による訳解書。老子初読という人であれば、二昔前に出版され、ブームにもなった、加島祥造による英語訳からの重訳『タオ 老子』くらいの軽いものの方がよいかもしれないが、一見素っ気なく書…

集英社 漢詩体系17 蘇東坡(1037-1101)(訳・解説 近藤光男 1964年一刷発行 )どこに行っても言葉に不自由しない苦吟と無縁の詩人の業績

蘇軾。中国北宋の人。政治家としては守旧派、詩人としてはどの地域のどの主題にも対応できる万能の人。書家、画家としても優れ、音楽も能くする。革新派との政治的な勢力争いの中で、左遷と地位回復を繰り返した人生の中での詩作。66年の生涯で、2714…

『文選 詩篇 (六)』(岩波文庫 2018)人が動けば人ごとに現われる文様

第六巻は最終巻、引き続き雑詩、雑擬と、先行作品を参照した模擬詩を中心に、さまざまな詩形と内容の詩が収録されている。雑擬は文選のなかに摸倣詩によるアンソロジーが組み込まれているような感じ。 江淹(444-505) 阮步兵 詠懷 籍 靑鳥海上遊鸒斯蒿下飛…

『文選 詩篇 (五)』(岩波文庫 2018)書類に沈む人生と詩

第五巻は楽府、挽歌、雑歌、雑詩を収録。雑歌、雑詩に於いて詩に詠われるもののバリエーションが増え、具体的な日常の様子が詠いこまれるものも現われる。1800年前の事務職従事者の憂いと詠嘆は、今の時代と何ら変わらない。変わってもよさそうなものだ…

『文選 詩篇 (四)』(岩波文庫 2018)無文字から微・風・吹・閨・闥・羅・帷・自・飄・颺

第四巻は贈答、行旅、軍戎、郊廟、楽府の詩を収録。左遷や離別などの憂愁を詠ったものが多く、身近に感じることのできる詩が多い。特に民間の歌謡とそれを模した歌謡詩を収めた「楽府」の詩は繰り返し読める。 傷歌行 昭昭素明月輝光燭我牀憂人不能寐耿耿夜…

『文選 詩篇 (三)』(岩波文庫 2018)風雅と野蛮の贈答詩

第三巻は贈答の詩。詠い手は皇帝と高級官僚とその取巻き。詩句の後ろに政治的駆け引きや利害関係が隠されているものもあって、注釈などと読み合わせると非常に生臭いものであったりもする。アドルノは「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」と…

『文選 詩篇 (二)』(岩波文庫 2018)思いきれない吐息の昇華

岩波文庫版「文選」の第二冊は、世の混乱のなかを生きる人間の憂い悲しみと超俗願望が多く歌われている。思うようにいかないなか音楽と詩歌が人の心を慰めている。 詠懐詩十七首 其一 阮籍 夜中不能寐起坐弾鳴琴薄帷鑑明月淸風吹我衿孤鴻號外野朔鳥鳴北林徘…

『文選 詩篇 (一)』(岩波文庫 2018)まつりごとにたずさわるひとたちのうた

文選(もんぜん)。紀元前二世紀から約八百年に及ぶ中国詩文の精華。科挙の詩文制作の規範とされたこの詩文集は、収録作品についても多くは高級官僚の手になるもので、基本的に政治についての言及が内容となっている。かりに今の国政や地方行政に携わる人た…

岩波日本古典文学大系89『五山文學集 江戸漢詩集』(岩波書店 1966 山岸徳平校注)から江戸の漢詩を読む

藤原惺窩から良寛まで江戸の漢詩人77名を集めている。鎌倉室町期の五山文学に比べて使用される語彙が多くなっていることもあり詩興のバリエーションは増えている感じはするが、閑寂を理想美としていることもあってか、生活に関わるような事物が出てくるこ…

岩波日本古典文学大系89『五山文學集 江戸漢詩集』(岩波書店 1966 山岸徳平校注)から五山文学の漢詩を読む

五山文学は鎌倉室町期の臨済宗の僧侶たちの手による漢詩の作品。読み下し文をたよりに単に読み通すだけだと、パターン化された憂愁を詠った作品が多くて、悟った僧たちのくせに何をやってるのだろうと感じたりもするのだが、作品を書いた意図としては無聊の…

相馬御風『大愚良寛』(1918, 考古堂 渡辺秀英校注 1974)良寛愛あふれる評伝

良寛のはじめての全集が出たのが1918年(大正7年)であるから、まだまとまった資料がない時期に、良寛の史跡を訪ね、ゆかりの地に伝わる逸話を地元の人々から直接聞き取り、良寛の遺墨に出会いながら、人々に愛された良寛の生涯をつづる。明治期から昭和期に…

『五山文学集』(新日本古典文学大系48 入矢義高校注 1990)鎌倉室町期の日本の漢詩

古典注入。 漢詩が足りていないとおもい、図書館検索して岩波の新日本古典文学大系『五山文学集』を手に取る。読み下し文と脚注で鑑賞。鎌倉から室町期の臨済系の頓悟した禅僧たちの詩があつめられているのだが、詩には悟りの輝きや清浄や大安心などは、うま…

唐木順三『良寛』(筑摩書房 1971, ちくま文庫 1985)天真爛漫と屈折の同居。漢詩の読み解きを中心に描かれる良寛像

良寛は道元にはじまる曹洞宗の禅僧で、師の十世大忍国仙和尚から印可を受けているので、悟りを開いていることになっているはずなのだが、実際のところ、放浪隠遁の日々を送っているその姿は、パトロンから見ても本人的にも失敗した僧と位置付けるのが正しい…

小川環樹・木田章義 注解『千文字』(岩波文庫 1997)

重複なしの漢字一千字を四字一句の250の韻文に編纂した文字学習用の一篇。使用されている故事成語の出典等を注解した李暹の「千字文注」の訳をそえて二句ごと紹介する体裁。中国古代よりの徳目である忠孝に関連するエピソードにもたくさん触れられる。 そ…

【唐詩選】王建(768-830)「水夫謡」 訳:筧文生

生涯でひとつでも辞書に残るような言葉を残せたら、文学好きにとっては本望だろう。 淼淼 びょうびょう 「水がはてしなくつづくさま」ということで平面的な意味が強いようだが、水が三つ重なった形が二つ並んだ様は、水の量感をずっしりと感じさせてくれる。…

【唐詩選】張説(667-730)「山夜聴鐘」 訳:今鷹真

信知本際空。わかった、ほんとうのところ人間なんて空なんだ。 否定を知ってしまった人間が本来的なものを想像しつつ空なるものを詠嘆する。 本来価値フラットな自然であるが、人間の歴史的文化的な象徴能力は否定と理想をつくってしまって、どうあがいても…

横山悠太『唐詩和訓 ひらがなで読む名詩100』(2019)

唐詩百篇をひらがな七七調で和訳したアンソロジー。食べにくい乾物をうまく戻し調理して、みずみずしさを感じられるようにしてくれている、といったところの一冊。原詩、読み下し文、作品評もついていて、入門書としてゆったり読むのに十分なつくり。杜甫3…

加藤郁乎編『荷風俳句集』(2013)

淡い味わいの文芸作品。風流の人というよりは侘しさをまとった人が生きた言葉のすがた。香ることもあれと敢えてとどめた情感の残滓。 007 まだ咲かぬ梅をながめて一人かな188 凩(こがらし)や電車過ぎたる町の角(かど)233 寂しさや独り飯(めし)くふ秋の…

吉川幸次郎『漱石詩注』(2002)

岩波文庫で読む漱石の漢詩。今回は青年期の作品が印象深く残った。 漫識読書涕涙多暫留山館払愁魔可憐一片功名念亦被雲烟抹殺過 漫りに読書を識りて涕涙多し暫く山館に留まりて愁魔を払う憐れむ可し一片功名の念亦た雲烟の被に抹殺過さる 帰途口号のうち一首…

吉川幸次郎・三好達治『新唐詩選』(1952,1965)

学者と詩人それぞれからの唐詩紹介。新書だがとても密度が濃い。 吉川幸次郎:杜甫の絶句(江は碧にして鳥は逾よ白く)をめぐって この短い詩の底には、中国の詩に常に有力な、二つの感情が流れている。ひとつは、さっきのべた推移の感覚である。推移する万…

高田眞治訳注 集英社漢詩体系1・2『詩経(上・下)』

詩経の詩篇をとりあえず通読。現代人の等身大スケールで理解できる作品がやはり読み取りやすい。 兔爰(とゑん) 兔(と)有り 爰爰(えんえん)たり 雉羅(ちら)に離(かか)る我が生の初め 尚(こひねがは)くば為(な)す無(な)けんど我が生の後 此(…

白川静『詩経 中国の古代歌謡』(1970)

『万葉集』と『詩経』を共に読むことを人生の中心に据えた白川静の『詩経』側の著作。 『万葉』が早く創作詩として個人の世界、心情の内面に沈潜していったのは、わが国の文学において古くから社会性の欠如がその特質をなす傾向のあったことを示している。詩…

揖斐高訳注『頼山陽詩選』(2012)岩波文庫

江戸後期の代表的漢詩人、頼山陽の120篇の詩。歴史を題材にとった作品が多いが、それよりも生活をうたった作品の方に興味を持った。幕末を用意した時代の貧乏儒学者の生活の雰囲気がなんとなく伝わってくる。 読書八首(其三) 今朝(こんちょう)風日(ふう…

瀬尾文子『春怨秋思 コリア漢詩鑑賞』(2003)

高句麗・新羅・高麗・李朝1200年のなかから、代表的な詩人100人の詩篇146首を紹介している。作者の紹介からは政争によって死刑や流罪、投獄、辞職などに追い込まれた人物が多いような印象を受けたが、それに比して紹介されている詩はおとなしいものが多いよ…

井波律子『中国名詩集』(2010)

前漢の高祖劉邦から20世紀の毛沢東までの漢詩百三十七首。中国の詩は嘆きも喜びもスケールが大きく強さがある。 竹石 鄭板橋(ていはんきょう:清) 青山(せいざん)を咬定(こうてい)して放鬆(ほうしょう)せず根を立つるは 原(も)と破巌(はがん)の…

大岡信『紀貫之』(1971, 2018)

「土佐日記」が好きなので紀貫之を悪く思ったことはない。歌も悪いとは感じない。 影見れば波の底成るひさかたの空漕ぎわたるわれぞわびしき 正岡子規によって戦略的に「下手な歌よみ」と宣言されてしまった紀貫之ではあるが、大岡信は本書によって紀貫之の…

山崎昇『人と思想149 良寛』(1997 清水書院)

清水書院の「人と思想」シリーズで詩人が対象となる場合、伝記に実作品がふんだんに取り入れられて、優れたアンソロジーを読んだ気分にさせてくれる。本書の場合も漢詩、俳句、和歌の区別なく取り入れられていて、さらには書の図版も多く、良寛の全体像が見…

滝川幸司『菅原道真 学者政治家の栄光と没落』(2019)

菅原道真の官吏としての生涯を漢詩を絡めて解説した書籍。歴史的情報は十分だが、詩人としての魅力がいまひとつ伝わってこないのが惜しい。 筆者は日本文学研究者であり、道真を漢詩人として考えることが多い。しかし、道真が官僚であった以上、道真伝は、そ…