読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

研究

矢内原伊作『完本 ジャコメッティ手帖 Ⅰ』『完本 ジャコメッティ手帖 Ⅱ』(みすず書房 2010)

矢内原伊作がジャコメッティに出会いはじめてモデルとなった1955年から最後にモデルをつとめた1961年までの手帖を編集したジャコメッティ晩年の創作現場を身近にうかがえる貴重な資料集。日々繰り返されるジャコメッティの感覚と思考の基本的な動きが濃密に…

柳田国男『不幸なる芸術・笑の本願』(原著 1946, 1953 岩波文庫 1979)

苦しみ多い現実を凌いでいけるように、時に情動を解放してこわばりをほぐし、区切りをつけて新たに向き直るようにしてくれる、笑い、泣き、たくらみの様々な様相と効能を説き、近代以降に衰退してしまったそれらの技芸や習俗となっていた振舞いの再興を願い…

アントワーヌ・テラス『ポール・デルヴォー 増補新版(シュルレアリスムと画家叢書3 骰子の7の目)』(原著 1972, 與謝野文子訳 河出書房新社 1974, 2006 )

ポール・デルヴォーの絵画世界は、それに触れた著述家にそれぞれの詩的世界を夢想させる自由を与えているようで、画集の解説文という位置づけにある文章であっても、作品の美術史上の位置づけや意味づけよりも、鑑賞者が受け止めるであろう印象のひとつのケ…

江川隆男『存在と差異 ドゥルーズの超越論的経験論』(知泉書館 2003)

超越的な規範としてのモラルから、生に内在する生を肯定する力としてのエチカへの転回。 ドゥルーズの著作の中では特異なスタイルで書かれた『カントの批判哲学』に関して、カントは自分にとっての敵であったがゆえにほかの著作とは異なるスタイルとなったと…

エルヴィーン・パノフスキー『芸術学の根本問題』(原著 1964, 1974, 細井雄介訳 中央公論美術出版 1994)

最初に哲学書房(1993)、のちに筑摩書房より文庫化(2009)された『<象徴形式>としての遠近法』を含むパノフスキーの代表的な美術論集。 ひとつの文章が長くて、内容自体も凝縮されたものであるために、じっくり根気よく付き合っていかないと読み通すのが難し…

塚本邦雄『秀吟百趣』(講談社文芸文庫 2014, 毎日新聞社 1978)

塚本邦雄が案内する濃密な近現代の短詩型の世界、短歌と俳句を交互に取り上げ103の作品とその作者を紹介鑑賞している。昭和51年から52年にかけて2年間にわたって週刊の「サンデー毎日」に連載していた原稿がベース。詩歌アンソロジー編纂に長けた博…

元木幸一『西洋絵画の巨匠 12 ファン・エイク』(小学館 2007)31×23cm

ファン・エイクがもたらした油彩技術の革新と新しい絵画モチーフに重点をおいて紹介解説するために、特定作品に比重を置き、全体図と部分図から詳しく説明を施しているのが特徴の画集。ファン・エイクの油彩画30点はほとんど取り上げられているが、そのな…

前川誠郎編著『ファン・エイク全作品』(中央公論社 1980)33×26cm

作品全44点、図版数全106点。内訳は ファン・エイク作が30点、図版数66. ロヒール・ファン・デルウェイデン作が6点、図版数17、 ロベルト・カンピン作が8点、図版数19、 ジャック・ダレー作画4点、図版数4ヤン・ファン・エイクを中心に初…

宮下規久朗『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』(名古屋大学出版会 2004)

『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』は美術史家宮下規久朗の主著で、第27回サントリー学芸賞(芸術・文学部門)と第10回地中海学会ヘレンド賞を受賞した会心の作であり出世作でもある。 宮下規久朗は、修士課程修了後、いったんは大学を出て、美術館で学芸…

ミア・チノッティ『カラヴァッジオ 生涯と全作品』(原著 1991, 森田義之訳 岩波書店 1993)34×28cm

カラヴァッジオ研究の権威ミア・チノッティの学術書『ミケランジェロ・メリージ,通称カラヴァッジオ:全作品』(1983)を一般向けに平易に書き直し再構成されたもの。年代順にカラヴァッジオの生涯と作品を追っていく堅実な作家論であり画集でもある。カラー…

山内志朗『中世哲学入門 存在の海をめぐる思想史』(ちくま新書 2023)

中世哲学自体が錯綜していることもあってか著者の熱意にもかかわらず入門書としてあまり整理されているとはいえないという印象を持った。著者と中世哲学とのかかわりについての昔語りや、中世哲学者の思想読解にかかわる困難さに対する嘆きが頻繁にちりばめ…

ジャン・ラクロワ『カント哲学』(原著 1966 木田元+渡辺昭造訳 白水社 文庫クセジュ 2001)

1971年から2001年の三十年間で22刷りされている本書はカント入門書のなかでも名著の部類に入るのであろう。新書版150ページに三大批判書と遺稿、『単なる理性の限界内における宗教』『プロレゴーメナ』『道徳形而上学言論』など主要著作を幅広…

コレクション日本歌人選046 高野瀬恵子『源俊頼』(笠間書院 2012)

はじめての組題百首『堀河百首』をまとめ、勅撰集『金葉集』を編纂、歌論『俊頼髄脳』を残し、俊恵、鴨長明を弟子筋に、その他おおくの歌人に影響を与え、後代に名を残す源俊頼ではあるが、実際のところその歌は現代ではあまり読まれていないのが実状であろ…

南原実『ヤコブ・ベーメ 開けゆく次元』(哲学書房 1991, 牧神社 1976)

寄る辺なく取り付く島もない虚無の場としての無底、それに憤る意志が運動として何故か発生し(神と呼ばれる何ものかの性格を帯び)、存在の根拠となる底なるものを形成し、さらには善と悪のふたつの極相をもつ世界が創造され、その創造が被造物の存在と運動…

ロバート・スコールズ『スコールズの文学講義 ―テクストの構造分析に向けて―』(原著 1974, 岩波書店 1992)

『記号論のたのしみ』『テクストの読み方と教え方』へ続く三部作の第一作。 基本的には文学における構造主義の運動の歴史的展開を担った研究者とその代表的著作の紹介で、丁寧な読書案内といった趣きが強い。実践的入門書というよりも文学における構造主義の…

ベルナール・ドリヴァル+イザベル・ルオー『ルオー全絵画』(原著 1988, 柳宗玄+高野禎子訳 岩波書店 1990)

ジョルジュ・ルオーの全絵画の目録。掲載作品数全2568点。装飾美術学校に通っていた1885年の10代の素描から、1956年85歳での油彩作品までを、時代ごとテーマごとに分けて網羅した大型本。全二冊、総ページ数670ページ。売価88000円…

三木紀人『鴨長明』(講談社学術文庫 1995, 新典社 1984)

広範な資料を読み解き、細部を形成している言葉の選択から人物の考えや動向をリアルに特定し、資料に残されていないものに関しては想像力をもって踏み込んだ人物像を描きあげている、出色の鴨長明伝。比較的硬質の文体での記述でありながら、学術的な感触よ…

ジャック・デリダ『シニェポンジュ』(フランシス・ポンジュに捧げられた1975年のスリジー・シンポジウムの講演、原著 1984, 梶田裕訳 法政大学出版局 2008)

ジャック・デリダの脱構築的テクストを読んで、読みの対象となっている詩人の作品を読みはじめるということは確かにある。私の場合、エドモン・ジャベスがそのケースに当てはまる。詩作品が翻訳されていてもすぐに手に入らない状況になってしまい、批評家や…

リチャード・ダッドのウィキペディアの記事からクィーンの「フェリー・フェラーの神技」のミュージックビデオを見てびっくりしたことの記録 オクタビオパスの『大いなる文法学者の猿』をきっかけに

エンドレス・リピートできるヤバいミュージックビデオ。 再生一回2分47秒(167秒)に込められたヨーロッパ文化の精髄。 フレディ・マーキュリーの天才が発掘し変奏させたイギリスの文化の奥深さに圧倒される。 www.youtube.com 受容の衝撃の度合いから…

コレクション日本歌人選 049 小林一彦『鴨長明と寂蓮』(笠間書院 2012)

鴨長明と寂蓮。ネームバリューで『方丈記』の鴨長明が優り、歌人としての優劣では寂蓮が圧倒している。本書は著者小林一彦の専門が鴨長明であることもあって、鴨長明の歌28首、寂蓮の歌22首という内訳となっているが、収録歌と収録歌鑑賞の方向性から歌…

五味文彦『鴨長明伝』(山川出版社 2013)

歴史学者が鴨長明の三作品『無名抄』『方丈記』『発心集』と残された和歌、そして関連作品・関連資料を綿密に読み込んだうえで提示した信憑性の高い鴨長明の伝記作品。散文三作品が書かれた順番やおおよその時期を確定し、また鴨長明の生年と残されたエピソ…

鈴木貞美『鴨長明 ――自由のこころ』(ちくま新書 2016)

最新の研究を参照しながら新たな鴨長明像を提示しようとした野心的な著作。新書であるにもかかわらず研究書あるいは批判的な考察の多い批評といった印象が強く、鴨長明をある程度読んでいない人にとってはとっつきにくい作品であると思う。少なくとも鴨長明…

久保田淳訳注 鴨長明『無名抄 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫 2013)

思い通りに出世もできず、歌人としても突出できず、老いをむかえて方丈庵に住むようになってからこつこつ散文を書きはじめた鴨長明のことが最近気になり出した。 歌論書『無名抄』は、角川ソフィア文庫で出ているのをブックオフで見かけたということもあって…

オクタビオ・パス『泥の子供たち ロマン主義からアヴァンギャルドへ』(原著 1974, 竹村文彦訳 水声社 1994)

今週末に引越しを控えるなか、荷造りや各種手続きの合間をぬって再読したオクタビオ・パスの詩論集。 『弓と竪琴』につづく本作は、西欧とアメリカとラテンアメリカの近代詩の展開に的を絞って論じている。イギリスとドイツのロマン派の詩人や、フランスの象…

ミシェル・テヴォー『誤解としての芸術 アール・ブリュットと現代アート』(原著 2017, 杉村昌昭訳 ミネルヴァ書房 2019)

ミシェル・テヴォーはジャン・デュビュッフェが1976年にローザンヌに設立したアール・ブリュット・コレクションの初代館長を26年間にわたって務めた人物。ローザンヌ大学を卒業後、フランス社会科学高等学院に学んだ秀才で、本論考にも見られる視野の…

末永照和『評伝ジャン・デュビュッフェ アール・ブリュットの探究者』(青土社 2012)

芸術の使命は創造的壊乱と個性の本来的な独走表現にあるといった信念のもとに生き活動したジャン・デュビュッフェの肖像を活写した日本オリジナルの評伝。シュルレアリスムの帝王アンドレ・ブルトンとも正面切って論争し、自分の主張や感情を曲げず傍若無人…

D・H・ロレンス『無意識の幻想』(原著 1922, 照屋佳男訳 中公文庫 2017)

『チャタレイ夫人の恋人』などの小説で有名なD・H・ロレンスの文明批判の書で、生命を阻害する知性を糾弾し、反知性主義を押し出している論考。本人はいたって科学的と主張しながら持論を展開しているのだが、その宇宙論や生命観、性の理論や教育観は、詩…

松長有慶ほか『即身 密教パラダイム 高野山大学百周年記念シンポジウムより』(河出書房新社 1988)

空海が即身成仏思想を説いた『即身成仏義』を中心に、西欧の学知の世界で新機軸を打ち出しながら研究を進める三人の柔軟な知識人をむかえて、空海思想の現代的意味をとらえようとしたシンポジウムの記録と、シンポジウムに関連した論考の集成からなる一冊。 …

著・訳:古田亮、著:岡倉覚三『新訳 東洋の理想 岡倉天心の美術思想』(平凡社 2022)

1903年=明治36年にロンドンで出版された『東洋の理想』として知られる天心岡倉覚三の処女作『The Ideals of the East-with special reference to the art of Japan』の最新訳に、訳者古田亮による本篇に匹敵する分量の『東洋の理想』研究が付された最…

新潮日本古典集成 山本利達校注『紫式部日記 紫式部集』(新潮社 1980, 2016)

藤原俊成の評に「歌よみの程よりは物書く筆は殊勝なり」とあるように、『源氏物語』の作者としての評判ばかり高く、歌についての評価は全般的に低い紫式部であるが、勅撰集やそのほかのアンソロジーなどで読んでいる際、わたしは何となく紫式部の歌が好きだ…