読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

神学

【4連休なので神秘思想への沈潜を試みる】00 序奏:企画と準備 プロティノス、マイスター・エックハルト、スウェーデンボルグ、ルドルフ・シュタイーナー、カンディンスキー、ウィリアム・ブレイク

前回の4連休(2020.07.23~2020.07.26)の際、柳瀬尚紀訳でジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を読んだ。連休のイベントとして、普段であれば読むことが難しいと思うものにチャレンジするということにしておくと、ふんばりがきいてなんとか…

フレデリック・ルノワール『スピノザ よく生きるための哲学』(原書 2017, ポプラ社 2019)

エマニュエル・レヴィナスの弟子筋の宗教哲学系の作者が綴った穏健なスピノザ解説書。前半で『神学・政治論』、後半で『エチカ』を概観する。本書でいちばん目を引いたのはスティーヴン・ナドラーの『スピノザ』から引用された、ユダヤ教会からの破門状「ヘ…

空海『即身成仏義』(加藤精一編 角川ソフィア文庫 ビギナーズ日本の思想 2013)

空海の思想の中心はやはり即身成仏。詳細な解説書を読む前に、原文読み下し文と簡易解説に触れておくほうが良いと思うので、角川ソフィア文庫のビギナーズ日本の思想シリーズを手にされることをすすめる。 【即身成仏の頌】六大無礙にして常に瑜伽(ゆが)な…

アントニオ・ネグリ『スピノザとわたしたち』(原書2010, 訳書2011)

『野生のアノマリー スピノザにおける力能と権力』(1981)から30年たったところで出版されたネグリのスピノザ論集。会議での発表用テキスト四本に序章を追加した著作。口頭発表用の原稿とあって、味わいが濃いわりに、理解もしやすい。聴衆や読者の好奇心を…

國分功一郎『スピノザの方法』(2011 みすず書房)

「説得というモーメントに引きずられている」デカルト(p141)と「説得に無関心で、説き伏せることのないスピノザ」(p355)という視点。 國分功一郎は『暇と退屈の倫理学』(2011 朝日出版社)でウィリアム・モリスを引きながら「人の生活はバラで飾られていな…

チャールズ・ジャレット『知の教科書 スピノザ』(原書2007, 講談社選書メチエ2015)

アメリカのスピノザ研究者による入門書。エチカを中心に情報をたくさん盛り込んだ書籍だが、入門書の一冊目として推薦できるかといえば、かなり難しい。著者がスピノザの思想に距離をとっており、興味付けという点では、むしろ逆効果となる懸念もある。岩波…

デイヴィッド・ヒューム『自然宗教をめぐる対話』(原書1779, 岩波文庫2020)

ヒューム(1711~1776)の遺稿。友人のアダム・スミス(1723~1790、『国富論』『道徳感情論』)に遺言で出版を依頼したものの、アダム・スミスがその内容に躊躇して出版をためらったいわくつきの作品。生前ヒュームは無神論者・不信心者と非難され、職につ…

ジル・ドゥルーズ『スピノザと表現の問題』(原書1968, 訳書1991)

プロテスタント(長老派)で神学者の佐藤優さんは哲学者とくにスピノザが嫌い。マルクスはよくてスピノザはダメ。ライプニッツはよく引用しているので比較的好ましい哲学者に入りそう。どうしてなのかいまひとつ分からないが、スピノザを神学者としての第一…

ジル・ドゥルーズ『スピノザ 実践の哲学』(原書1981,訳書1994)に学ぶ「心身並行論」

ドゥルーズはスピノザの心身並行論に関して、身体の導入による意識の評価切り下げという視点を提示し、意識にならない無意識的な領域の存在を浮上させる。 この心身並行論の実践的な意義は、意識によって情念〔心の受動〕を制しようとする<道徳的倫理観(モ…

スピノザ『神・人間及び人間の幸福に関する短論文』で境界のない世界像に触れる

スピノザ二十七、八歳、後の『エチカ』に直結する論文。スピノザにとって神以外に存在はない。この「神即自然」の認識は例えば次の如く語られる。 神は内在的原因であって超越的原因でない。なぜなら神は一切を自己自身のうちに生じ自己の外に生じないからで…

カール・ヤスパース『スピノザ』(原書1957, 訳書1967) 理想社 ヤスパース選集23

本書の興味深い点は、ヤスパースが《神即自然》の哲学者スピノザの静謐さに物足りなさを感じているところ。冷静なね、闘い方っていうのもあるのではないんですかね、と秘かに思いつつ、実存を語るヤスパースの熱さも注ぎ入れていただけることに感謝しながら…

カール・ヤスパース『ニコラウス・クザーヌス』(原書1964, 訳書1970)

ヤスパースは思弁哲学者としてのニコラウス・クザーヌスを称揚し、キリスト者や教会運営者としてのニコラウス・クザーヌスを批判する。キリストへの信仰の有無で救いが分かたれるという発想が押し出されて来ると、やはり非キリスト者としては賛同しかねるの…

ニコラウス・クザーヌス「信仰の平和」(1453) 八巻和彦訳

諸国民の知者達と御言葉との対話。参加者はギリシア人、イタリア人、アラブ人、インド人、カルデア人、ユダヤ人、スキタイ人、ガリア人、ペトロ、ペルシア人、シリア人、スペイン人、トルコ人、ドイツ人、パウロ、タタール人、アルメニア人、ボヘミア人、イ…

ニコラウス・クザーヌス「知恵に関する無学者の対話」(1450) 小山宙丸訳

一文が比較的短く読みやすい対話篇。 単純なものは合成されたものよりも本性上より先なるものであるのと同様に、合成されたものは本性上より後なるものです。それゆえ、合成されたものは単純なものを計ることはできません。むしろその反対です。(第6節より …

ニコラウス・クザーヌス「創造についての対話」(1447) 酒井紀幸訳

生成する宇宙のイメージをえられる著作。 神に由来する類似化の様式は、それが特殊であるときに、まさにそれゆえに理に適っていると。なぜなら次のように言われるからである。すなわち、同一者が同一化するがゆえに、特定の状態によって隠蔽されうる様式は、…

ニコラウス・クザーヌス「テオリアの最高段階について」(1464) 佐藤直子訳

ニコラウス・クザーヌス最後の著作。可能であることについての言説。 実際、可能自体が存在するか否かを問う人は、注意するならただちに問いの不適切さを看取します。可能なしに可能自体について問うことは可能でないのですから。可能自体がこれであるか、あ…

ニコラウス・クザーヌス「神を見ることについて」(1453)

無限について語るニコラウス・クザーヌスを読んでいるとつねにスピノザのことを意識するのだが、ニコラウス・クザーヌスは受肉や三一性も説きつづけるのでよりアクロバティックに見える。 もしそれが、無限性から縮限されることが可能なものであるならば、そ…

ニコラウス・クザーヌス「オリヴェト山修道院での説教」(1463)

超越的なものに向かい祈ることのできる人は洋の東西を問わず一人に強い。一人でも一人ではないように生きられるから。 修道士(monachus)とは、monosつまり「一人」という意味の語に由来するのであり、それにchusという語尾が付けられているのであるから、…

ニコラウス・クザーヌス「ニコラウスへの書簡」(1463)

全能と限界付き能力の差異。人格神としてではなく神=無限として読み替えて参考にしている。 神においては不可能なことは何もないのであるから〔ルカ1・37〕、様態についてのいかなる問いも〔神においては〕消え失せるのである。なぜならば、神のうちでの…

八木雄二『神を哲学した中世 ヨーロッパ精神の源流』(2012)

無信仰の研究者が説く中世神学案内。聖から俗まで語りの幅が広く、一般読者にも開かれた書物となっている。 中世の神学者は神をめぐる抽象的な議論にだけ没頭していたのではない。遺産相続、商業利益、所有や貸借や利子など、これまでに紹介したスコトゥスの…

中川純男 編 哲学の歴史 第三巻 神との対話 【中世】信仰と知の調和(2008)

人物ベースで中世の神学を紹介してくれる一冊。各神学者の研究者が解説を担当している。年代を追うことで西欧に近代がどのようにして芽生えてくるかを感得できるつくりになっていると思う。 哲学の歴史 3|全集・その他|中央公論新社 付箋箇所101, 109, 12…

八木雄二『中世哲学への招待 「ヨーロッパ的思考」のはじまりを知るために』(2000)

ヨハネス・ドゥンス・スコトゥスを軸に語られる中世哲学、中世の神学の入門書。近代科学、哲学を用意することにもなるドゥンス・スコトゥスの思想を一般向けに精妙に紹介してくれている。 平凡社ライブラリー『中世思想原典集成 精選6 大学の世紀2』所収の…