講演
50歳を越えてからのジンメルが生の展開や発展や開化や更新ということを強く説くようになったのは、ニーチェに傾倒した思想的背景が前面化してきたのに加え、老いを迎え病も得やすくなった自分自身を鼓舞する意味もあったのではないかと勝手に想像しながら…
ヴァレリーのカイエの読解からフロイト、ニーチェとの親近性を説く論考。そして自己聴解という点においてヴァレリーとデリダ自身の親近性をも示す論考となっている。 源泉が何ものかとなった――これこそが不可解なことだ――とき、起源のそれ自身に対するこの遅…
大事なことが語られることはなんとなくわかるが、読み取るのが難しい。訳文が旧字旧仮名なので輪をかけて難しくなっている。また今度に備えてメモ。 【カントの『純粋理性批判』の中での注解(§16, B134, Anm.)】 かくして統覚の総合的統一は最高点であり、…
自由は正当な要請に従う自由であって、単に無軌道無拘束ということとは異なる。 さてしかし、すでに洞窟の内部においてすら眼を影から火の光の方へ、またその火の光の中で自らを提示する事物の方へ向けることが困難であり、のみならず成功しないとすれば、い…
人間の常態にあっては、真理の本質が安らっているわけではなく、真理の本質に到らない非本質と非真理が支配している。まず大切なのは常態で無茶苦茶しないこと。そのために常態である非本質と非真理の様相を知る必要がある。 【非本質】通常のものに安住する…
ヘーゲルの『論理の学』(『大論理学』)の哲学演習をまとめて講演した際のテキスト。存在と存在するものとが同一なるものにもとづいて差異を分かち合うことを論述している。 存在は顕わしつつ〔隠蔽を取り除きつつ〕ある転移として自らを示す。存在するもの…
同一性の命題、この最上位の思考法則はなにを言い表しているのかという、日常的には浮かび上がっては来ない問いを問い、答えをあたえようとする講演論文。パルメニデスの言葉「同じものは即ち思考であるとともにまた存在である」を軸に、解き明かしが試みら…
まだ若いうちは恐怖はあっても驚異はなかったが、老眼が出はじめた二年前くらいから、恐怖も驚異も共に感じる精神状態になってきた。そのためもあってか、哲学書もわりとよく読むようになってきた。老いはじめてはじめて知るようになった、存在していること…
ヘーゲルが『精神現象学』を一八〇七年にはじめて公表した際の表題「意識の経験の学」の「経験」にこだわって講義論述された論文。学問の世界で一般的に流通している「現象学」ではなくて「経験の学」こそ大事だという主張がある。 自己の知が対象に即応しな…
価値について語ることが広く行われはじめたのは十九世紀になってから、とくにニーチェ以降の現象であるとハイデッガーは指摘する。なるほど、神が生きていた時代には神と神の体系を語っていればよかった。それが失効したときに、新たな価値をみんなが探しは…
フライブルク大学教授就任にあたっての公開就任講演。内容が「無」と「不安」という概念をめぐるものであったため、講演後にニヒリズムの思想ではないかなどといった非難や誤解が多く発生、そのため、後に「後語」と「緒論」を追加することになった。その間…
題名に神学の文字がはいる二つのテクストはともに言葉をめぐる思索の成果である。「現象学と神学」は学問の言葉について、「「現代の神学における非客観化的思考と言表の問題」に関する神学的討論のための主要な観点に与える若干の指摘」は詩の言葉について…
一九三八年六月九日、もとは「形而上学による近代的世界像の基礎づけ」と題されて行われた講演とそれに付随するハイデッガーによる補遺。近代の偉大さと危うさをめぐる思索が展開されているなかで、大戦前のきな臭いにおい、危機感のようなものも伝わってく…
『ロゴス』につづいてヘラクレイトスの断片についての解釈。ヘラクレイトスは暗い人だが、その暗さの中でしか見えてこないほのかな明かりのはたらき(「明るめ」)があるとハイデッガーは説き続ける。 《決して没しないものを前にして、ひとはいかにして自分…
「計算する思惟」と「省察する思惟」「追思する思惟」を区別するハイデッガー。二系統の思惟の違いが本当にあるものかどうかよくわからない。計算の中にはシミュレーションもフィードバックの機構も組み込むことは可能なので、機械的な思考と人間的な思考の…
ヨハン・ペーター・ヘーベルはドイツ語方言であるアレマン語によって詩集を編んだ詩人。ハイデッガーは母なる言葉、国言語の重要性に眼を向ける思索者なので、ヘーベルのような民衆詩人を称揚する。本論文は、ヘーベルの活動を語りつつ、二〇世紀の機械化の…
よく引用されるヘルダーリン論四篇が収録されている。 「帰郷――近親者に寄す」(1943) 訳:手塚富雄「ヘルダーリンと詩の本質」(1936) 訳:斎藤信治『あたかも、祭の日の・・・・』(1939) 訳:土田貞夫、竹内豊治『追想』(1943) 訳:土田貞夫、竹内豊治 こと…
ヘルダーリンの詩篇に導かれるかたちをとって展開される現代技術論。 されど危険の存するところ、おのずから救うものもまた芽生う。ヘルダーリン「パトモス」(部分) 危険がまさに危険と言われるべき危険としてあるところには、既に救うものもまた生育して…
ヘルダーリンを論じながら現代技術世界における自然とのかかわりを問う論考。 まずは詩人とは何か、何が大事かについて一九六八年の講演『詩』で説かれているところを見ると、以下となる。 肝要なるは、おのれのものの正しき有(たも)ちを完遂することであ…
原題は「詩作と思索 シュテファン・ゲオルゲの詩《言葉》に寄せて」。 言葉 (部分) あるとき私は よい旅のあとで 着いたゆたけく また 愛らしい宝石を一つもって 女神は長らく探し それから私にお告げをくれた、<さようなものは この深い底に 眠ってはお…
松浦寿輝の東京大学退官記念講演と最終講義をまとめた一冊。読後に襲ってきたのは不安感。到底この人の域には行きつけないのに、なに読んでいるんだろうという無力感みたいなものが湧いてきた。才能があるのに何故日本では輝いて幸福そうには見えないのかと…
大江健三郎の読書講義。 2006年に池袋のジュンク堂で行われた6本の講演と、同じく2006年に映画「エドワード・サイード OUT OF PLACE」完成記念上映会での講演に手を入れて書籍化したもの。執筆活動50周年記念作。 現代日本の読書人であれば一冊くらい大江健…
身体的な欲求も社会的な欲望も他なるものを取り込みながら同化変容していく。活動領域や交換法則は整備されながら拡大していく。同質化の動きは避けられない。 確実なのは以下のことどもです。現在までの未曽有の相互浸透がもはや定着していること。個々の国…
象徴作用によって存在しているものは実際には存在していないがゆえに誤謬と仲が良い。けれども存在していないからといってすべてを取り払うことも出来ない。事物に働きかける外的な強制力もある。 象徴作用と直接的知識とのあいだには、一つの大きい相違があ…
象徴作用(Symbolism)すなわち記号による体系化作用という視点から語られる組織論。 社会的象徴作用は、二重の意味をもっている。プラグマティックな面からいえば、それは諸個人を特定の行動へ向かわせる方向づけを意味し、また理論的な面からいえば、それ…
探求者たちの知的な言葉は通念に対する冷却剤として機能することがままある。普段使いされない言葉をもって通常意識されることのない思考の枠組みにゆさぶりをかける。哲学的な思考実験といわれるものの価値は、その異物性によるところが大きい。 岩石とは、…
イギリス経験論、ヒュームの系譜。習慣によって組み上げられ形作られる人間の様態について。 ヒュームは、ふつうはこうであるということに言及され、通常性(normality)の基準を提供したのであり、だから彼によれば、われわれの心に普通のことがくり返し与…
労働力商品を売る生活のなかでの自由について。 大都市ならいづこにおいても、ほとんどすべてのひとが被雇用者であり、他人によって厳密に定められた通りのやり方で、その就業時間に従っている。また、それらのひとびとの態度物腰でさえ、一定の型にはめられ…
文明論的な内容の90年前のハーバード大学での講演。凝集力が高く、即効性も持続性も兼ね備えている知的世界の巨人の言葉。ベンヤミンが好きだったパウル・クレーの未来に向かって後ろ向きに吹き飛ばされる天使の絵を思い出しながら、写経するように引用メモ。…
佐々木中推薦のピエール・ルジャンドルの高校生向けの講演録。日本語と円を使って生をおくっている日本人は、日本語と円の信用体系の中で生きつつ維持しているというようなことを意識化してくれる。 私たちは、世界の物質性と言語との関係が、イメージへの信…