読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ベケットの劇を読む (ベスト・オブ・ベケット3)

サミュエル・ベケット
ベスト・オブ・ベケット3
しあわせな日々/芝居
白水社 (1991/01)

近頃新しい訳者による新しい組み合わせの戯曲集(新訳ベケット戯曲全集1,2)も出ているようですが、手元にあるのは1991年出版の旧版です。
キャストをつけて脳内上演を試みつつ読んでみました。


1.しあわせな日々 

安藤信也 高橋康也 訳
概要:五十歳くらいの女(ウィニー)が焼けただれた草原のなかの低い丸丘にうずもれ沈んでいきながら、60歳くらいの男(ウィリー、多分旦那)にひたすらしゃべり続ける。
脳内キャスト:
【パターンA】
 五十歳くらいの女(ウィニー):池谷のぶえ
 六十歳くらいの男(ウィリー):内村光良
 演出:内村光良
 池谷のぶえが「蟻だわ!ウィリー、蟻よ、生きてる蟻よ!」とか言っているところが見たい。
【パターンB】
 五十歳くらいの女(ウィニー):ヘレナ・ボナム=カーター
 六十歳くらいの男(ウィリー):ジョニー・デップ
 演出:ティム・バートン
 ヘレナ・ボナム=カーターが「なんてありがたいこと、何にも生えてこないってことは、考えてもごらんなさい、この草がみんないっせいに生え始めたらどうなるか。(間)考えただけでも。(間)ほんと、ありがたいこと。(長い間)これ以上しゃべれないわ。(間)今のところは。」とか言っているところが見たい。

2.芝居 安藤信也 高橋康也 訳
概要:壺から顔だけ出した三人の三角関係をめぐるそれぞれの語り
脳内キャスト:
 女1:杏
 女2:小池栄子
 男 :山田孝之
セリフ例:
 女1:あたし、あの人に言ったの、あの女と手を切ってちょうだいって
 女2:あなた、私の言うこと聞いているの? 誰かわたしの言うこと聞いているかしら? 誰かわたしのこと見ているかしら? 誰かわたしのこと少しでも気にしているかしら?
 男 :おれはどちらかといえば、いつもリプトン紅茶のほうが好きだった。

3.言葉と音楽 安藤信也 高橋康也 訳
概要:老いた主人が毎夜召使二人の元へ慰めの言葉と音楽を聴きにやってくる。今夜の主題は「愛」だったが、その刺激は強く、主人は苦悶する。
脳内キャスト:
言葉(ジョウ):上川哲也
音楽(ボブ):葉加瀬太郎
クロウク:市村正親
セリフ例:
言葉(ジョウ):もう一度やりますよ、あまりにも青ざめ身じろぎひとつもせずあまりにも恍惚たる様子なので、奇しくも今宵最高十度の光度をもって冷たい光を
音楽(ボブ):(弱音器をつけて、うやうやしく)「はい」
クロウク:今晩の主題は… (間)今晩の主題は… 愛。(間)愛だ。


4.ロッカバイ 高橋康也 訳
概要:揺り椅子に座っている女が出す執着の声「もっと」に、彼女自身の声で「あのひともうそろそろやめていいころよ」の語り(録音)が重なる
脳内キャスト:
 女:高畑淳子

5.オハイオ即興劇 高橋康也 訳
概要:テーブルについたよく似た二人。一人は終わりに近い本を音読し(「語るべきことはもうほとんど残っていない。」とたびたび繰り返される)、もう一人はテーブルをコツコツノックして応答している。
脳内キャスト:
 読み手:大和田伸也
 聞き手:大和田獏

6.カタストロフィ 高橋康也 訳
概要:ある劇の最終場面の仕上げの最中、演出家の横暴な声が響く
脳内キャスト:
 D=演出家:佐野史郎
 A=演出助手、女性:松岡茉優
 P=主人公:温水洋一
 L=照明係、声のみ:小沢一敬スピードワゴン
セリフ例:
 D=演出家:ばかいうな! その次はどうなるっていうんだ? 頭を上げるだと? ここをどこだと思っているんだ? パタゴニアじゃないんだぞ!
 A=演出助手:あのう、どうでしょう、ちょっと… ほんのちょっと… 猿ぐつわを噛ませたら?
 L=照明係:なんですって?

 

追加の感想: 

 「言葉と音楽」はベケットぽくないドラマでした。

 

書店にありそうな新訳はこちら

新訳ベケット戯曲全集2 ハッピーデイズ - 白水社

 

サミュエル・ベケット
1906 - 1989

安藤信也
1927 - 2000 

高橋康也
1932 - 2002