読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

穂村弘 『水中翼船炎上中』

穂村弘
水中翼船炎上中

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「あとがき」より:

私の言葉はまっすぐな時の流れに抗おうとする

 

短歌5選:

カブトムシの角をつかめばかちゃかちゃと森の光をかきまわす脚
ブラウン管にぺたっとつけた足の裏 みんみんみんみんみんみん蟬が
夕闇の部屋に電気を点すとき痛みのようなさみしさがある
「なんかこれ、にんぎょくさい」と渡されたエビアン水や夜の陸橋
髪の毛がいっぽん口にとびこんだだけで世界はこんなにも嫌

 

にんぎょくさいの歌が一番穂村弘的だと思うが今作では抑えめかも。
全328首。何回か読み返しても苛立ちがほとんど起きない。
きれいにコーティングされた感覚。感情の押し付けにはならない優れたセンス。
やっぱりなんだかんだ才能あるんだなあ。
なにか、うっすら火をつけたままの鍋のスープの煮込み具合を、都度確かめて間違いがないかと確認しては火元をうろつく厄介な小心者の料理人のような気持ちが表現されていると思う。

そしてタイトル。今って炎上中なんだなぁってちょっとびっくり。
私も言葉でまっすぐな時の流れに抗おうとしたいです。

 

穂村弘
1962 -