読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

安藤元雄 『めぐりの歌』

安藤元雄
めぐりの歌
1999

No  作品 召喚対象 エピグラフ
1 百年の帳尻 小泉八雲 はああれは先頃なくなりました。
2 冬の蛹 ジュリアン・グラック 内側ではどんなにがんじがらめになっとるものか、/とてもわかるまいなあ。
3 血のしみた地 シャルル・ボードレール あれがシテール、/と誰かが言った。
4 ながらえる者の嘆き節 西脇順三郎 汝は汝の村へ歸れ
5 庭のしずく 夏目漱石 此の下に稲妻起こる宵あらん
6 飛ばない凧

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

ねえ、羊の絵をかいてよ。
7 透明な犬 萩原朔太郎 いいえ子供/犬は飢ゑているのですよ。
8 必敗の野 ジュール・シュペルヴィエル どこかよその国の/にぶい小さな物音だ。
9 夏の終り 小熊英雄 暁はかならず/あかく美しいとはかぎらない
10 干からびた星 瀧口修造 落葉よ おまえは/明けの星に似る
11 帰路 立原道造 私はいつまでもうたつていてあげよう
12 田ごとの顔 よみ人知らず わがこころなぐさめかねつ
13 千年の帳尻 ジェラール・ド・ネルヴァル 十三番目が戻ってくる、それはまたもや一番目

※12のエピグラフは「わが心慰めかねつ更級や姨捨山に照る月を見て」(古今集)の一部

 

各詩作品のエピグラフは作品を見事に導く役割を果たしているのだが、
掲げられている作家との共闘感がなさそうなのは孤独の世界をつづっているからだろうか。
めぐるのは閉鎖し疲弊した想い、年月。
上質のコトバではあるが、湿気って、肌に張りついて、気の流れが滞る。悪いほうの永劫回帰という感触がある。
この廃墟の絵、陰鬱な幽霊画を、さて、どういたらよいものだろう?

 

それもまたいつものこと いつものならい
冷えてきたな 今夜は そう 呪文のように
何もかも変わらない家並みと空き地
自動点灯する街路灯 そのひとつひとつが
海の向こうまで連なっているらしい
「帰路」p94

 

安藤元雄
1934