読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

高橋睦郎 『つい昨日のこと 私のギリシア』

高橋睦郎
つい昨日のこと 私のギリシア

思潮社 新刊情報 » 高橋睦郎『つい昨日のことーー私のギリシア』

2018

 

80歳の最新詩集。いい歳の取り方をされているが、やはり老いと死がテーマとなる事が多い。
ソクラテスの死が幾度か取り上げられているのが印象に残る。

 

七十歳で 凍結した道を跣足で歩いたソクラテス
彼さえも 老衰の果ての死を怖れていた
これなど すでにじゅうぶんに老人鬱
彼は言いがかりの罪科に これ幸いと飛びつき
敢然と 名誉ある受難の死を選んだ
老いの結果ではない 尊厳ある死を
 (75 若さと死 p84)

高橋睦郎は「うその罪状を でっち上げ」(「殺したのは」p160)られることもなく、これからも端正な詩を書き続けていくことだろう。80歳を超えながら、時に松脂入りの白葡萄酒を飲み、青空に向き合いながら。

 

あとがきには、自身の「詩作の最重要な契機になった」という呉茂一訳『ギリシア抒情詩選』のアルクマン断片について熱く語られている。詩に撃たれ、その後60年もの活動を決定づけられたというアルクマンの詩篇岩波文庫では8篇が読める。

 

森に包まれ
花とも見えるリーペーの山は、
か黒な夜の
張る胸か・・・・・・
(呉茂一訳『ギリシア抒情詩選』p152)

 

愛好するわずかな言葉から尽きぬ想いを汲み上げていくというのは詩人としての才能なのだろう。

 

内容:
「つい昨日のこと」書下ろし151篇
殺したのは
異神来たる
家族ゲーム

 

高橋睦郎
1937 -