読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ヴェクサシオン 高橋アキとチッコリーニ

近頃ヴェクサシオンをエンドレスで聞いていられるようになったのでメモ。きっかけは高橋アキの演奏。

リモート勤務の際にヴェクサシオン(840回相当量)を聴いていられるか何度か試してみていたが、いつも二時間程度で苦痛を感じて挫折していた。聴いていたのはチッコリーニの5枚組のピアノ音楽全集の2枚目(トラック26 1回分 1'35")だった。さすが「いやがらせ」と思っていたが、先日図書館で借りてきた高橋アキのサティ・ピアノ音楽全集(第2集)『星たちの息子/バラ十字教団時代と秘教の祈り』に収録されているヴェクサシオンでやってみると不思議にいつまでも聴いていられる。なんでだろうと思って音を数えながら聴いてみた。

ヴェクサシオンは3つの部分の組み合わせで1回分になっているが、これが少し調べてみると、弾く人によって組み合わせのパターンが異なっている。

ヴェクサシオン1回分の3つの部分は
A.和声1(両手)
B.和声2(両手)、和声づけ部分が和声1の半オクターブ下
C.主題(片手)

一般的な演奏の1回は「主題-和声1-主題-和声2 (C-A-C-B)」で、840回演奏するには18時間程度必要とされている。18×60×60÷840で1回分の演奏時間は約77秒(1'17")となる。

チッコリーニの場合、主題のみの演奏はなく代わりに和声1のうちの主題を強く弾く和声3(C')が入って、1回分は「和声1-和声1-和声2-和声2-和声3 (A-A-B-B-C')」で演奏時間は95秒(1'35")でテンポは一般的な演奏とあまり変わりはない。

高橋アキの場合、CDには5回分の演奏が収録されていて、演奏内容は
和声1-和声2-和声1-和声2-主題 (A-B-A-B-C)
和声1-和声2-和声1-主題-和声2 (A-B-A-C-B)
和声1-和声2-和声1-主題-和声2 (A-B-A-C-B)
和声1-和声2-主題-和声1-和声2 (A-B-C-A-B)
和声1-和声2-和声1-主題-和声2 (A-B-A-C-B)
となっている。5回分の演奏時間が811秒(13'31")で1回分の演奏時間は約162秒(2'42")。通常の2倍ちかく遅いテンポでの演奏だ。全曲演奏となると811×840÷5÷60÷60で約38時間程度の演奏時間となる。

高橋アキの演奏をなぜずっと聴いていられるのかというと、現世離れした音の響きなのではないかと思っている。誰もいない教会で自動演奏でゆっくりと弾かれているピアノのような音。感情を祓う、どこにも向かわない音楽。少しだけある意味の読み取れない変化。カーテンを閉めた仕事部屋で聴くと、一挙に一人になれる。不思議と孤独感のない一人の感覚。

※なお、音を数えながら聴いた後では、チッコリーニ版も聴きやすくなっていた。聴き流している私のどこかに音を数えていた時の能動性がかすかに再生されているからかもしれない。


エリック・サティ
1866 - 1925
アルド・チッコリーニ
1925 - 2015
高橋アキ
1944 -