読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ハインリヒ・ハイネ『流刑の神々・精霊物語』

主流とは異なるところから見えてくるものがある。

キリスト教進行以前の、未開ともいわれそうな時代の土地固有の文化が変形されてしまう力学を感じることができるハイネの論考2篇。

【精霊物語】

彼はむしろ自己独自の思考を信頼しようとする。彼は理性をはたらかせるのである! ところで自己独自の思考は、もちろんなにかおそろしいものをもっている。ゆえにローマ・カトリック使徒教会が独自の思考を悪魔(トイフェル)的だとして有罪と認め、理性の代表者たるトイフェルを虚偽の父であると宣言したのももっともなことではある。(「精霊物語」p67)

【流刑の神々】

教会は古代の神々を、哲学者たちのように、けっして妄想だとか欺瞞と錯覚のおとし子だとは説明せず、キリストの勝利によってその権力の絶頂からたたきおとされ、今や地上の古い神殿の廃墟や魔法の森の暗闇のなかで暮らしをたてている悪霊たちであると考えている。そしてその悪霊たちはか弱いキリスト教徒が廃墟や森へ迷いこんでくると、その誘惑的な魔法、すなわち肉欲や美しいもの、特にダンスと歌でもって背教へと誘いこむというのである。(「流刑の神々」p125)

 

ヨーロッパ中世の遺産は執拗に繰り返され今現在も文化として生き残りつづけている。勢力闘争に敗れて追いやられた神々の、変形されてはいるが消えきることのない姿。

 

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ハインリヒ・ハイネ
1797 - 1856
小沢俊夫
1930 -