読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

九鬼周造『時間論』1928年パリ近郊ポンティニーでの二講演

九鬼周造40歳での講演であり、最初の著作。粋で瀟洒な雰囲気をもつ九鬼周造だが、実際の著作を読むと意外に熱い魂にふれることができる。原文はフランス語。小浜善信による翻訳。

Ⅰ 時間の観念と東洋における時間の反復 (1928.08.11)

武士道は意志の肯定であり、否定の否定であり、ある意味で涅槃の廃棄である。それは自己の固有の完成のみを気にかけるような意志である。それゆえ、仏教にとっては最高の悪であった意志の永遠の繰り返しが、今や最高の善となったのである。「この世界において、いや、一般にこの世界のそとにおいてさえ、無制限に善とみなされうるものはただ善意志以外には考えられない」とカントは言った。武士道が肯定するのはこれと同じ理想である。完全には実現しえず、またつねに「幻滅」に運命づけられている無限の善意志は、つねに自己の努力を新たにしなければならない。(p22)

 仏教的解脱に対しての、「「幻滅」に運命づけられている無限の善意志」の無際限の探求、没入という日本的「道徳的理想主義」(=武士道)への案内。

 

Ⅱ 日本芸術における「無限」の表現 (1928.08.17)

無限と永遠は心の中、思考の中にしか存在しない。造形芸術においてであれ、詩歌においてであれ、音楽においてであれ、「内的芸術」は無限と永遠を客体化する。(p57)

 「日本芸術の支配的傾向とその本質的関心事、すなわち幽玄を介して無限を表現するということが示されるのは技法そのもの」(p34)であるとして、技術的側面から案内される日本芸術(日本の絵画、詩歌、音楽が案内されている)。

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九鬼周造
1888 - 1941
小浜善信
1947 -