原題は『能に就いて考える十二帖』(1995)。古典の知識が豊富で教わるところが多い一冊。
「物狂い」は「演技者・芸能者」の謂いであって、単純に言えば「大道芸人・放浪芸人」というに近い。(中略)そう見ると、この「面白う狂うて見せ候へ」という科白が自然に納得されるに違いない。要は、なにか芸能してみよ、ということである。(第一帖 p14)
ものまねの芸道はおかしく、そしてどことなく悲しくおそろしい。
さて、本書のもう一つの魅力は森田拾史郎による能舞台の写真だ。一帖につき五・六枚の写真が添付されていて、それが尽く美しい。Eテレなどで能を見たりするとテンポの遅さに付き合いきれない場合が多くあるが、静止している写真は飽きずに見ていられる。いい場面をより良い視点で捉えてくれているからだろう。三代続けてカメラマンの家系ということで、こちらも家の芸としての奥深さがありそうだ。
内容:
第一帖 隅田川の「哀しみ」に就いて考える
第二帖 小町の「醜さ」に就いて考える
第三帖 忠度の「潔さ」に就いて考える
第四帖 業平の「美男」に就いて考える
第五帖 融の「執念」に就いて考える
第六帖 鞍馬天狗の「同性愛」に就いて考える
第七帖 道成寺の「恨み」に就いて考える
第八帖 六条御息所の「苦しみ」に就いて考える
第九帖 田村の「めでたさ」に就いて考える
第十帖 経正の「未練」に就いて考える
第十一帖 砧の「恋慕」に就いて考える
第十二帖 熊野の「焦り」に就いて考える
林望
1949 -
森田拾史郎
1937 -