読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

八木雄二『神を哲学した中世 ヨーロッパ精神の源流』(2012)

無信仰の研究者が説く中世神学案内。聖から俗まで語りの幅が広く、一般読者にも開かれた書物となっている。

中世の神学者は神をめぐる抽象的な議論にだけ没頭していたのではない。遺産相続、商業利益、所有や貸借や利子など、これまでに紹介したスコトゥスの経済論は、神学者が地上の現実にも目を向け、具体的で詳細な考察をめぐらせていたことをよく示している。(p136)

 

ところで、キリスト教の伝統のうちには、ある基本戦略がある。それは敵方の持っているものであっても、キリスト教にとって有為なものは役立てるべきだという認識である。(中略)異教徒がもつ知恵は本来神に由来する知恵であるから、異教徒がもっていたことが不正なのであって、キリスト教徒がもつことによって正しいものになる。この考え方によって、キリスト教は初期のうちにギリシア哲学その他の精神的財産を取り入れてきた。さらに中世に至ってイスラムを経由してアリストテレス哲学が見出されたときも、その内容がキリスト教の役に立つように摂取されて「神学」が形成された。(p254)

 

近代ヨーロッパ精神の根っこの部分を中世神学を介して紹介してくれている。かなり世俗的てご都合主義的でもある発想も書かれているため、馴染みやすい中世紹介にもなっている。

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目次:
第一章 中世神学に近づくために
第二章 キリスト教神学の誕生 ― アンセルムスの世界
第三章 地上の世界をいかに語るか ― トマス・アクィナス 『神学大全
第四章 神学者が経済を論じるとき ― ドゥンス・スコトゥス 『オルディナチオ』
第五章 中世神学のベールを剥ぐ
第六章 信仰の心情と神の学問
第七章 中世神学の精髄 ― ヨハニス・オリヴィの学問論・受肉


八木雄二
1952 -