トロツキーとスターリンの対比、資本主義と共産主義の対比、宗教と唯物論の対比などが縦横に語られる第六章「スターリンとスターリン主義」は特に読みごたえがあった。
なるほどソヴェト共産主義は基本的人権を蹂躙しているであろう。しかしそれでは西欧民主主義の世界では基本的人権が真に擁護されているであろうか? (中略)私は、西欧民主主義の虚偽に対する批判としてのソヴェト共産主義の意義を強調したいと思う。ソヴェト共産主義は幾多の欠陥を持っているが、西欧民主主義に対する負のエレメントとしての価値は、絶対に否定しえない。最近西欧民主主義社会、特にその中核たるキリスト教の陣営において、ソヴェト共産主義を媒介とする深刻な自己反省の機運が見られるのは、このさい最も注目すべきであろう。キリスト教と民主主義とは、自己の対立物を批判する前に、なによりもまず自己批判を遂げなければなるまい。徹底的な自己批判と完全なる脱皮の後においてはじめて、西欧民主主義はソヴェト共産主義の問題を真に解決しうるのである。(p310 太字は実際は傍点)
「ソヴェト共産主義」崩壊後も色褪せない指摘。では、いま「徹底的な自己批判と完全なる脱皮」をする知力と体力と時間と気力があるかというと、かなりこころもとない。地味に調整するくらいしかできないのかもしれない。
目次:
第一章 マルクス主義思想
第二章 フォイエルバッハと死の思想
第三章 ラッサールの生涯と思想
第四章 レーニンとレーニン主義
第五章 トロツキーとトロツキズム
第六章 スターリンとスターリン主義
第七章 チトーとチトー主義
第八章 フルシチョフとスターリン
第九章 マルクスの革命理論とアジアの社会主義思想
第十章 非毛沢東化と非スターリン化
第十一章 現代の共産主義
猪木正道
1914 - 2012