清水書院の「人と思想」シリーズで詩人が対象となる場合、伝記に実作品がふんだんに取り入れられて、優れたアンソロジーを読んだ気分にさせてくれる。本書の場合も漢詩、俳句、和歌の区別なく取り入れられていて、さらには書の図版も多く、良寛の全体像が見通せる優れたつくりになっている。コストパフォーマンスもよく、もっと流通してもよいと思う。
いはむろの 田中に立てる
ひとつ松の木 けふ見れば
時雨のあめに 濡れつつ立てり
ひとつ松 人にありせば
笠貸さましを 蓑着せましを
ひとつ松あはれ
往くさ来さ見れどもあかぬ岩室の 田中に立てるひとつ松の木
時代も人物も境遇も才能も遠く感じることもある良寛だが、その詩歌に寄り添わせてもらい、じんわりと味わう。枯れない折れない純真な弱さ。天真爛漫、ゆるぎない弱さ。