読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

中野京子『「怖い絵」で人間を読む』(2010)

各王室の内側が絵画作品を通して語られる章が読みごたえがあった。

運命の章:スペイン・ハプスブルグ家
呪縛の章:オーストリア・ハプスブルグ家
憎悪の章:ブルボン朝
憤怒の章:ロマノフ朝

絵から歴史を読み解いていくというのは贅沢な感じだ。学生のころに気づいていればよかった。オーストリア・ハプスブルグ家の最後の皇帝となってしまったフランツ・ヨーゼフ一世についての記述など、かなり印象深い。

人生で何より義務を最優先させ、自分の楽しみやしあわせは後回しにしてきた男性の、老いて血を流しているような、見ていて切なくなるような、でもしみじみと味わい深い顔。
この絵を見ると、彼がなぜエリザベートにあれほど惹かれたかが、少し理解できそうな気がしてきます。それは決して美貌だけではなかった。空を飛ぶ鳥のように自由奔放なシシィに、フランツ・ヨーゼフは自分の見果てぬ夢を見たのではないでしょうか。自分はこのまま母の良い子であり、皇帝としての義務を果たすつもりでいるけれど、しかしせめてそばには、自由を求める妻がいて欲しいという無意識の、でも切実な夢が・・・。(p71-72)

モデルの心の痛みまで伝わってくるような踏み込んだ解釈。


内容:
運命の章
 ディエゴ・ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』(1659)
 フランシスコ・プラディーリャ『狂女フアナ』(1877)
 ディエゴ・ベラスケスラス・メニーナス』(1656)
 ファン・カレーニョ・デ・ミランダ『カルロス二世』(1675)
呪縛の章
 フランツ・クサーヴァー・ヴィンターハルター『エリザベート皇后』(1865)
 ヨーゼフ・シュティーラー『フランツ・ヨーゼフを抱くゾフィ大公妃』(1832)
 トーマス・ローレンス『ローマ王(ライヒシュタット公)』(1818-19)
 ミハーイ・ムンカーチ『ハンガリーの軍服姿の皇帝フランツ・ヨーゼフ一世』(1896)
憎悪の章
 ジャック=ルイ・ダヴィッド『マリー・アントワネット最後の肖像』(1793)
 ジャック=ルイ・ダヴィッド『マラーの死』(1793)
 ジャック=ルイ・ダヴィッド『ナポレオンの戴冠式』(1805-07)
 エリザベート・ヴィジェ=ルブラン『ガリア服を着た王妃マリー・アントワネット』(1783)
 エリザベート・ヴィジェ=ルブラン『マリー・アントワネットと子どもたち』(1787)
狂気の章
 フランシスコ・デ・ゴヤ『我が子を喰らうサトゥルヌス』(1820-24)
 ピーテル・パウルルーベンス『我が子を喰らうサトゥルヌス』(1635-38)
 フランシスコ・デ・ゴヤマドリッド、一八〇八年五月三日』(1814)
 フランシスコ・デ・ゴヤ『運命の女神たち』(1820-23)
 サンドロ・ボッティチェリヴィーナスの誕生』(1485)
喪失の章
 エル・グレコ『トレド眺望』(1595-1610)
 フェルナン・クノップフ『見捨てられた街』(1904)
 アルノルト・ベックリン『死の島』(1880)
憤怒の章
 イリヤ・レーピン『イワン雷帝とその息子』(1885)
 イリヤ・レーピン『ヴォルガの舟曳き』(1870-73)
 イリヤ・レーピン『皇女ソフィア』(1879)
 ウージェーヌ・ドラクロワ『怒れるメディア』(1838)
凌辱の章
 ピーテル・ブリューゲル『死の勝利』(1562)
 ハンス・ホルバイン『大使たち』(1533)
 ハンス・バルドゥング『死と乙女』(1517)
 アントワーヌ・ヴィールツ『麗しのロジーヌ』(1847)
 エゴン・シーレ『死と乙女』(1915)
救済の章
 ピーテル・パウルルーベンス『キリスト昇架』(1610-11)
 ディエゴ・ベラスケス『キリストの磔刑』(1632)
 マティアス・グリューネヴァルト『イーゼンハイムの祭壇画』(1515)