読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

玉蟲敏子 『もっと知りたい酒井抱一 生涯と作品』(2008)東京美術

琳派三人目、酒井抱一(ほういつ)。尾形光琳を見た後だと、色が淡いと感じる。その色彩感としなやかな描線から霊的な遥けさのようなものもかんじさせる。代表作「夏秋草図屏風」にも見られる銀地の表現に特色があり、静けさを湛えた非日常感を演出している。

茫洋とした空間に浮かび上がる大らかな宗達の蓮華に比して、抱一画は花びらの輪郭に沿ってほどこされた外隈が明快で、凛とした雰囲気を漂わせている。大きな葉に滲む葉脈線や、その下から覗く蕾に加えられた薄い緑色にも、繊細で行き届いた配慮が認められる。(p23)

玉蟲敏子による宗達の「蓮池水禽図」と抱一の「白蓮図」を並べての解説文。抱一の繊細さは浮世から出てしまうほどの画面を作り上げているようだ。

(『老子』)巻二十二は無為自然を説き、負けて勝つ柔軟な生き方を本旨とする老子の思想の根幹をなす章で、「是を以て聖人、一を抱えて天下の式と為る」と述べる文がある。要するに、「抱一」とは、あらゆる矛盾を呑み込む成人の身の処し方のことであり、隠居し、表舞台から遠ざかる人生を選んだ抱一であればこそ、この語を画号に選んだことが意味を持ってくる。(「抱一の雅号の意味」p26)

 風流人側の生き方に傾いて酒井家から見切りをつけられたため「表舞台から遠ざかる人生を選んだ抱一」だが、芸が身を助け、琳派のメインストリームとして認識されることとなった。


 東京美術 玉蟲敏子『もっと知りたい酒井抱一 生涯と作品』

 

玉蟲敏子
1955 -
酒井抱一
1761 - 1829