読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

日高敏隆『動物と人間の世界認識 ― イリュージョンなしに世界は見えない』(2003、2007)

著者が翻訳紹介した、ユクスキュル、ローレンツドーキンスの理論をベースに展開される科学エッセイ。知覚の枠の異なる種ごとに世界がイリュージョンとして生み出されている、という主張。ユクスキュルの環世界の考え方が柱になっている。

たとえば、モンシロチョウの場合のように、子孫を残すためにメスを探しているオスであれば、その環世界の中に花は存在していない。しかし、空腹になれば、忽然として花が出現する。しかし、彼らの世界の中に、ラジオ波とかコンピューターとか、電子などというものはまず絶対に出現することはない。人間の場合には、いろいろと探っていくことによって、人間の知覚ではわからないが、人間の知覚の範囲内にものを持ち込んでくるような機械をつくりだしていくことによっていろいろなことを理解し、次つぎにイリュージョンを生み出してきた。その結果として、人間が構築する概念的世界も変わってきた。
われわれが関心をもつのは、この人間の概念的イリュージョンによってつくられた世界である。こういう概念的世界、概念的イリュージョンというものがどうしてできあがってくるのかということがいちばん問題なのである。(第9章「人間の概念的イリュージョン」p152)

知覚の延長としての機械が利用されるようになったのは、生命の歴史の長さから見ればほんの最近のこと。いま知覚できないものが、機械によって観測されるようになる可能性はまだまだ大きい。

 

筑摩書房 動物と人間の世界認識 ─イリュージョンなしに世界は見えない / 日高 敏隆 著

目次:
序 章 イリュージョンとは何か
第1章 ネコたちの認識する世界
第2章 ユクスキュルの環世界
第3章 木の葉と光
第4章 音と動きがつくる世界
第5章 人間の古典におけるイリュージョン
第6章 状況によるイリュージョンのちがい
第7章 科学に裏づけられたイリュージョン
第8章 知覚の枠と世界
第9章 人間の概念的イリュージョン
第10章 輪廻の「思想」
第11章 イリュージョンなしに世界は認識できない
終 章 われわれは何をしているのか

日高敏隆
1930 - 2009