読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

中村真一郎 『ビジュアル版 日本の古典に親しむ 12 伊勢物語』(2007)

中村真一郎による現代語訳と解説で主だった伊勢物語の段を読める入門書。以下引用は「東下り」の段の解説。

こうした貴人が都を離れて地方へ流浪するという話は、民族学の方では「貴種流離譚」と名付けられていて、古代には類話が多いわけです。
そしてその場合、貴人が流浪する原因となるのは、大概、「たわや女のまどひ」つまり恋愛の過失です。光源氏が須磨明石に流浪したのも同じような原因でした。
そこで業平伝説を育てた人々は、その原因となった女性をとかく風評のあった「二条の后」だと決めたわけです。そして業平伝説の場合も、光源氏の場合も、いずれも恋愛事件の奥に、政治的契機―つまり、王権と藤原氏との権力争い―が匿されている、というのが特徴です。

(中略)
ところで、貴種流離譚において、貴人が田舎へ困難な旅をするのは、自分の犯した罪をつぐなうためである、とされています。
一方、そうした貴人を都から迎える田舎の人々からすれば、その貴人は遠い幸福の国からの、神のごとき訪問者、つまり「まれびと」と言うことになります。
(p40-41)

この貴種流離譚についての言及を読んで、かぐや姫も罪人として流されていたということが思い浮かんだ。竹取物語の中にはどんな罪を犯したのかは書かれていないが、月の世界での政争に巻き込まれたんだなという想像も湧いてきた。

伊勢物語・中村真一郎 (著) - 世界文化社|書籍・ムック

中村真一郎
1918 - 1997