読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

尹学準(訳詩・田中明)『朝鮮の詩ごころ 「時調」の世界』(1978, 1992)

「時調(ジジョ)」は高麗王朝末期に生まれた約800年の歴史を持つ朝鮮個有の定型詩。基本形態は三章六句からなる四十三音から四十七音程度の短い歌。ハングルをベースに詠われ、民族の心を一番よく汲み上げている詩形と考えられる。

ハングルと日本語訳が両方載っているので、読める人にはより味わい深いものになっていると思うが、田中明による日本語だけでもよく雰囲気が伝わってくる。

こころよ 汝(なれ)はなど つねに若きや
わが老ゆるとき 汝もまた老ゆべきに
汝を追いてさまよわば 世の笑いをば買わむかし
(徐敬徳 p40)

 

白鷺よ 烏の黒きを 笑わざれ
よしやうわべの黒くとも 心もさりと誰(た)がいわん
沢山(さわ)なるは 汝(なれ)がごと そと白く うち黒きもの
(李稷 p95)

 

汨羅(べきら)の淵の漁師ども 釣りし魚をば烹(に)るなかれ
屈原の 忠義の魂(たま)の その腹にあるやも知れず
いかに 烹るとも 変ること あると思うな
(李明漢 p211)

 

一気に歌い上げるのに適した音数。政治色が強くでているのも特徴か。

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尹学準(ユン ハクジュン)
1933 - 2003
田中明
1926 - 2010