読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

揖斐高訳注『頼山陽詩選』(2012)岩波文庫

江戸後期の代表的漢詩人、頼山陽の120篇の詩。歴史を題材にとった作品が多いが、それよりも生活をうたった作品の方に興味を持った。幕末を用意した時代の貧乏儒学者の生活の雰囲気がなんとなく伝わってくる。

読書八首(其三)

今朝(こんちょう)風日(ふうじつ)佳(か)なり
北窓(ほくそう)新雨(しんう)過(す)ぐ
客を謝して我が帙(ちつ)を開けば
山妻(さんさい)来りて叙(じょ)する有り
「禄無くして衆眷(しゅうけん)に須(ま)つ
八口(はちこう)豈に独処(どくしょ)せんや
輪鞅(りんおう)門に到らず
饑寒(きかん)恐らくは自(みずか)ら取らん
願はくは少しく其の鋭を退け
応接(おうせつ)媚嫵(びぶ)を雑(まじ)へよ」と
吾が病 誰か砭箴(へんしん)せん
吾が骨は天の賦予
然らずんば父母(ふぼ)の国
何ぞ必ずしも珪組(けいそ)を解かん
今にして勉めて齷齪(あくさく)するは
乃ち君父(くんぷ)を欺むくこと無からんや
去れ 我を聒(かまびす)しくする勿れ
方(まさ)に古人と語らん

 頼山陽四十九歳、今更性格をまげて腰を低くして人付き合いするのはかなわない。性分なんだから放っておいてくれ、俺は本を読む、といったところだが、すこしは反省した方がいいんじゃないかと思う。八つの口の内訳は頼山陽夫婦と子供二人に同居の書生、下男、下女ということだが、主人頼みの七人は堪ったものではないだろう。学問で世の中を変えたいと思うのもいいけど、生活も考えてくださいと、奥さんならずとも言ってあげたくなる。

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頼山陽
1780 - 1832
揖斐高
1946 -