古代歌謡を通して民族の問題を思考する一冊。おそれ多く繋がりづらいもろもろの神霊をコントロールするために、祈り、卜い、文字化して永続化させる、という原初への考察がとても印象深い。
文字が作られた契機のうち、もっとも重要なことは、ことばのもつ呪的な機能を、そこに定着し永久化するということであった。ことばとしての呪言は、時間のなかにあることもできず、また空間を支配することもできない。しかしそれを文字に表記し、書きとどめておくことによって、その呪能は断絶することなく、また所在の空間を支配することができる。そしてこれを神木に著けて、神の前に掲げておけば、神はいやおうなく、その祈りに注意していなければならない。それが告である。(第3章「言霊の思想」p84)
内容:
第一章 民俗学の方法
1 わが国の民俗学
2 中国の民俗学
3 古代文字と民俗学
第二章 古代歌謡と民俗
1 万葉集と民俗学
2 詩経と民俗学
3 発想の問題
第三章 言霊の思想
1 祈りについて
2 興的発想の展開
3 巫祝と文学
第四章 詩経民俗学
1 草摘みについて
2 祝頌の詩
3 恋愛詩の諸相
第五章 ト辞の世界
1 自然のいぶき
2 人間のありかた
3 社会の生活
第六章 語部と巡遊者
1 語部の文学
2 桑摘みの女
3 巡遊者の文学
第七章 月令と歳時記
1 月令の組織
2 農事暦と歳時記
3 通過儀礼について
白川静
1910 -2006